観光させると云っておいて何ですが、今回でこの話、連載七回目じゃないですか。何とまだ観光に出発してないんですよ。何してるんですかね、私? どこに着地するつもりなのか!
次回こそ観光です。真面目に観光です。
時々べたべたしながら、とにかく観光です。あとプール。
しかしうちのふたりは、どうかするととうが立った夫婦モードに入りますね。やぱ22日の夫婦の日に何か書くんだった……! そう思うくらいには何かもう夫婦。新鮮さがないんだよなー。笑
そうそう、昨日書いた「こないだ書いたやつのこと」に反応有難うございます。正直、「需要ないだろ」と思いながら書いたので、驚くやら嬉しいやら。読んでいただけただけでも有難いのに、反応までいただけて。わたくし、本当に果報者だと思うことしきりです。
その他拍手や感想も有難うございます。本当に励みになります。
ではでは、本文へどうぞ!
次回こそ観光です。真面目に観光です。
時々べたべたしながら、とにかく観光です。あとプール。
しかしうちのふたりは、どうかするととうが立った夫婦モードに入りますね。やぱ22日の夫婦の日に何か書くんだった……! そう思うくらいには何かもう夫婦。新鮮さがないんだよなー。笑
そうそう、昨日書いた「こないだ書いたやつのこと」に反応有難うございます。正直、「需要ないだろ」と思いながら書いたので、驚くやら嬉しいやら。読んでいただけただけでも有難いのに、反応までいただけて。わたくし、本当に果報者だと思うことしきりです。
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<Lotta Love>
そこから、二本のワインのボトルが空になるまで、一時間半ほど時間をかけて飲んだ。
片付けが終わる頃には雨も止み、空には満天の星が色とりどりに瞬くまでになっていた。酔いの回ったマサキはシュウに促されるがままベッドルームへ。それしか空いている部屋がなかったとはいえ、おあつらえ向きなダブルサイズのベッド。バスに向かったシュウに先に休んでいていいと云われたものの、酔いに任せてこのまま眠ってしまうのも勿体なく感じられたマサキは、クローゼットの中にあったローブに着替えると、ベッド脇の灯火器《ランプ》台の上にに置かれていた本を手に取った。読みかけらしく、栞が挟まれたままになっている。それが抜けてしまわないように気を遣いながら、ベッドの上。横になって最初から目を通し始める。
専門用語ばかりが並ぶ本文に、マサキが意味を解するにはかなりの時間がかかったものだったが、聞き馴染みのある単語や見慣れた図版からして、どうやらロボット工学の本であるようだ。それなら自分でも少しは内容の把握が出来るのではないだろうかと、バススペースから響いてくる水音に耳を傾けながら、少しずつ読み耽る。そうして、いつの間にか止んでいた水音に気付くこともないほどに、真新しい知識の数々に熱中していたマサキが、ベッドの端に重みを感じて顔を上げると、ひっそりとシュウがベッドに潜り込んでくるところだった。
「何だよ。そんな気を遣うような真似をするなんて」
「日頃、難しいとばかり口にするあなたが愉しそうに本を読んでいたのでね。邪魔をしたくなかったのですよ。面白いですか、マサキ」
「理解出来ないところもあるけれど、面白いな。今の地上のロボット開発の技術がどうなっているのかわかる」
「科学技術の進歩は一朝一夕ですからね。少し目を離すと、あっという間に新しい技術に取って代わられてしまう。日々情報を収集しておかなければ、私の機体も時代遅れになりかねない。あなたの機体もね。何でしたらそのまま読んでいてくださって結構ですよ。私はもう休みますが」
「まだ早いだろ」
マサキは本を伏せ、灯火器《ランプ》の下に置いてあるスマートフォンに目をやった。
時刻は22時を少し回った頃。いつもならシュウもマサキもまだ起きている時間だった。幾ら酒が入っていると云えど早過ぎる。怠惰に日々を過ごすこともバカンスの醍醐味であるとはいえ、二ヶ月ぶりのふたりきりの空間。眠る前のくつろぎの時間を、簡単に眠りに割いてしまうシュウにマサキが不満を覚えない筈がなく。
「おい、シュウ」
迷うことなく瞼を伏せたシュウの顔を覗き込んで、マサキはその名を呼ぶ。
「明日は観光をするのでしょう」
「何もしないで寝るつもりかよ、お前」
「今日はお酒も入っていますからね。それに今日明日で終わる旅でもなし」
ほら、とシュウが腕を開く。マサキは仕方なしに本を灯火器《ランプ》台の上に置いた。そのまま灯火器《ランプ》の明かりを絞って、ブランケットの中に潜り込む。そして招かれるがまま、シュウの腕の中に身体を収めた。
胸に顔を寄せ、ローブ越しに伝わってくる規則正しい心音を聴く。いつもであれば心地良く耳を満たしてくれる心音は、酔っているからだろう。心なしか早い。
「飲み過ぎなんだよ、お前。後のことを考えろって……」
そう愚痴たマサキの髪を宥めるように梳くシュウの手が、毛先を指先で弄び始める。
「私は思った以上に、ひとりに退屈していたのですよ、きっと」
「それで飲み過ぎたって?」
「他人のいる酒席がこんなに楽しいものだとはね。それでつい酒が進んでしまった。まあ、明日はきちんとあなたの為に時間を使いますよ。それでは駄目?」
我ながら子どもじみていると思いながら、絶対だぞ、とマサキは呟いて目を閉じた。ええ、と頷いたシュウの手が柔らかくマサキの頭を引き寄せる。
真新しいファブリックの匂いに、いつもとは異なる糊の効いたシーツの感触。そして馴染み深いシュウの温もりに包まれながら、嗚呼、ここは旅先なのだ。マサキは思って、そういった目的で訪れることのなかった地上の世界という現実に逸る心をどう鎮めたものか迷った。
気持ちが浮かれ騒いで、簡単には眠れそうにない。
地底世界でさえ、こんな風にふたりで旅に出ることすら稀。互いに自由になる手足を得てしまっている割に、マサキがシュウとふたりでいる時の行動範囲は狭いものだ。近場の街に出れば上出来。大半はその場で用を済ませてしまうか、だらけて過ごすばかり。ましてやそれぞれの機体に頼らずに移動をして観光をするなど、いつ以来ぶりのイベントだろう!
けれども、きっとマサキを腕に抱いているマイペースな男は、マサキのようにその現実に心を乱されたりはしないのだ。
心音は早けれど、それは酒に酔った所為。口元は穏やかな呼吸を刻んでいる。間違いなく、そう遠くない内にシュウは眠りに落ちてしまうことだろう。「おやすみなさい、マサキ」囁くような声は、睡魔が彼を猛烈に蝕んでいることを表していた。
マサキの為に言葉を吐くことすら、今のシュウにとっては大儀なのだ。
マサキの為に言葉を吐くことすら、今のシュウにとっては大儀なのだ。
マサキは返事をすることなく、はあ、と溜息を吐いた。ただ過ぎていく夜が勿体なく感じられて仕方がない……そんなマサキの物惜し気な態度が余程可笑しかったのか、シュウは不意に声を上げると、つい口を吐いて出そうになる笑い声を押し殺している様子で、「明日ですよ、明日。今日はあなたも来たばかり。明日からバカンスの本番としましょう」
そしてシュウはひと呼吸置くと、マサキの返事を待たずに、今度こそとばかりに就寝の挨拶を口にした。
「おやすみなさい、マサキ。|いい夢を《sweet dreams.》」
ベッドが振動する感触で目が覚めた。薄暗い中を動き回る影。先に起きたシュウが服を着替えているところらしいと気付いたマサキは、寝惚け眼を擦りながら、灯火器《ランプ》台の上に置いてあるスマートフォンに手を伸ばした。
ベッドが振動する感触で目が覚めた。薄暗い中を動き回る影。先に起きたシュウが服を着替えているところらしいと気付いたマサキは、寝惚け眼を擦りながら、灯火器《ランプ》台の上に置いてあるスマートフォンに手を伸ばした。
「起きて来たのですか、マサキ。まだ寝ていても大丈夫ですよ」
どうせシュウが起こしてくれるだろうとセットしなかったアラーム。時刻を見てみれば、朝の5時半。カーテンの向こう側がうっすらと明るくなり始めているのを見て取って、そろそろ起き時ではあると思ったマサキは居心地のいいベットから這い出て、その端に腰掛ける。
「じゃあ何でお前は起きてるんだよ」
酒は残っていないものの、それなりに飲んだからだろう。身体の端々に残る疲労感。欠伸をひとつ、口を大きく空けながら伸びと共に吐き出したマサキは、のそりと身体を動かして立ち上がった。
「先に服のクリーニングを済ませておこうと思っただけですよ。あなたの服もね」
「ここには洗濯機はないよな」
「ランドリーが敷地内にあるのですよ。他の利用客と共用なので、時間がかち合うと面倒でね。早い内に済ませておいた方が色々と楽でしょう。今日はすべきことが山積みですし」
「ローブはここに置いておいていいのか」
「日中に部屋のクリーニングが入りますから、そのままでいいですよ」
脱いだローブをクローゼットに掛けて、服を着替える。
昨日着ていた服はどちらも洗濯に回すようだ。マサキはクローゼットに吊るした真新しい衣服の中から、裾の緩い白のTシャツを取り出した。オーバーサイズのシャツを頭から被り、下はジーンズでいいやと引っ掴む。
「朝食はバトラーに頼みましょうか。自炊や外食ばかりではヴィラの雰囲気が味わえないでしょう」
慣れないシステムにマサキの予想は付かない。バトラー、と鸚鵡《おうむ》返しに言葉を吐く。
「食事を作りに来てくれるサービスがあるのですよ」
「貸別荘って割には至れり尽くせりなんだな」
「それなりにお金を払っているのでね」
確かに、ひと通りの家事をこなせるとはいえ、バリ島くんだりまでバカンスに来ているのだ。わざわざ日常の雑事の為に自ら動き回る必要はないのかも知れない。使えるシステムを効率良く使おうとしているシュウに、最小の手間で最大の効率を求めたがるこの男らしいと思いながらも、折角の非日常。そういったシステムがあるのなら、マサキがいちいち細々と動き回る機会もそうないだろう。そう考えると、改めて自分が今居る場所が旅先なのだという思いが込み上げてくる。
ランドリーに向かったシュウを見送ったマサキは、ベッドルームでテレビをひとり見た。
何を話しているのかわからない地元のテレビ番組。この時間ではニュース番組ぐらいしか流れてはいなかったけれども、耳慣れないイントネーションの現地語は、マサキの気持ちを更に煽り立ててくれた。
使い魔さえも身近にいな旅。こんな経験は、地底世界に来てからは初めてのことだ。ましてや、自分たちを知っている人間がこの国にどれだけいたものか――……マサキはシュウが何故地上に安らぎを求めたのか、その理由がわかったような気がした。
きっと彼は、誰も自分を知らない場所に行きたかったのだ。
地底世界にあっては、指名手配犯である以前に元王族。顔と名前が知れ渡ってしまっているシュウは、何処に行っても自分を知っている人間がいるという現実に、とてつもない閉塞感を感じてしまっていたのではないだろうか。でなければ、どうして白河愁という名を名乗り続けたものか。
風の魔装機神の操者として、或いはラングランにおける救国の戦士として、名前と顔が知れ渡ってしまっているマサキには、時に地底世界から逃れてしまいたいと感じてしまう瞬間があった。誰も自分を知らない世界で、たったひとりの安藤正樹に戻って、伸びやかに一日を過ごしてみたいと。
マサキでさえそうなのだ。どうしてシュウがそう感じないと云えるだろう?
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