後程加筆修正があるかも知れませんが、今日の更新はここまで。
なんとかバジュラサンディモニュメント編も終わりました。次回はバリ舞踏編になりますが、資料の量が圧倒的に少ないので、先ずはそれを探すところからのスタートになります。
時間が過ぎるにつれ、仲良し度の上がるシュウマサが愛しいです><
拍手有難うございます!励みにしております!これで次回も頑張れます!
では本文へどうぞ!
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なんとかバジュラサンディモニュメント編も終わりました。次回はバリ舞踏編になりますが、資料の量が圧倒的に少ないので、先ずはそれを探すところからのスタートになります。
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<Lotta Love>
我が王国は白い人々に支配される
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「さっき見て回った住宅地はどの辺になるんだろうな」
「あちらの方角ではありますが、流石にここからでは見渡せないのでは?」
マサキはシュウが指を差した方角に向けてシャッターを切った。
案の定と云うべきか、撮れた画像を拡大して見てみても、どの辺りが先程散策していたエリアに当たるのかはわからなかった。とはいえ、大分スマートフォンの扱いにも慣れてきた。手ブレのない画像。鮮明に映し出されている展望台からの遠景に、これだったら失敗もあるまい――と、マサキはシュウにカメラを向けた。
「私を撮るのですか?」
「観光写真っていったらこれだろ」
「それだったらあなたも一緒でないと」
シュウに手を引かれたマサキは首を振るも、その程度で引く男でもない。仕方なしにその隣に立てば、人気がないのをいいことに肩を引き寄せてくる。おい。と声を上げるも、マサキの言葉を聞く気はないようだ。
「せめて笑ってはいただけませんか、マサキ」
展望台からの形式を|背景《バック》にカメラを構えたシュウに、けれどもマサキはどういった表情をすればいいのかわからない。自分でも硬い表情をしていると思いながら、どうにか口元に笑みを作り込む。スマートフォンの画面に映し出される顔は、鏡で見るよりも逞しさが増しているように映る。そのままマサキはシュウとの写真に納まった。
「我ながら酷え顔だな」
「そう思うのでしたら、次はきちんと笑うのですね」
「お前、まだ撮るつもりなのかよ」
「折角のバカンスの記録がこの一枚で終わってしまうのも勿体ないですしね。後でバジュラサンディモニュメントがきちんと映り込む場所でも撮ることにしましょう」
顔を顰めつつも、そう時間のある観光でもない。シュウに文句を云うのを諦めたマサキは、展望台内を移動しつつ続けてシャッターを切った。
デンパサルの街、遠く浮く山々、展望台内部に螺旋階段……それをシュウに見せてみれば、彼は彼で感ずるところがあったようだ。面白い構図ですね。感心した様子を見せると、スマートフォンの時計を見遣った。
「時間が過ぎるのはあっという間ですね。もう16時を回っている。残り時間で全てを見るのは無理そうですし、あなたが見たいところに付き合いますよ。下にある展示物を見ますか? それともバジュラサンディモニュメントの外周を回ってみますか?」
「30分で展示物を見きれるなら、滅多にない機会だし見たいけどな」
「下にあるジオラマの中にはバリの戦いの歴史を再現したものもあるそうですよ。ジオラマの数は33にも上るとか」
展示物の分量的に閉館時間に見終わるか難しいところだからだろう。マサキの言葉の全てを待つでもなく螺旋階段を下り始めたシュウに、マサキも足を速めてついて行く。
来る最中でもちらと見かけたジオラマは、実際に目の当たりにすると、かなり精巧に当時の情景を再現しているように映った。
「何処の国にも手先が器用なヤツっているんだな。細かい所まできちんと作り込まれてる」
「場所が場所ですからね。手を抜ける作品ではないでしょう」
マサキは雄大な自然を模したジオラマをガラス越しに眺めた。各ジオラマにはタイトルと説明文がインドネシア語と英語で記されているが、ブロークンな英語知識しかないマサキにその全てを解するのは難しい。さりとて、残り時間が時間だ。こういった時に頼りにはなるシュウを、追い立てるようにして扱き使うのも忍びない。
マサキは解説を読むのを諦めて、ジオラマ世界に注目した。
「バリの生活史でもあるようですね。かつての人々の暮らしも再現されている」
この辺りのジオラマは、バリの平和な時代を記録したものであるのだろうか? 穏やかに過ぎてゆく日々の暮らしを再現したように感じられるジオラマの数々。家を作る人々、船を作る人々、寺院を建てる人々……マサキはじっくりとひとつひとつジオラマを眺めて歩いた。
「棚田があるな」
「バリにとって棚田や水利組合《スバック》はなくてはならないシステムですからね」
その中には昨日ジャティルイで見たばかりの棚田が再現されているものもあった。一面に広がる青々とした棚田のジオラマには人の姿はない。きっと農耕の興りを説明しているものであるのだろう。
「これは王国の興りでしょうか。中央にいるのは王ですね」
シュウと並んで覗き込んだジオラマには、簡素な建造物に設えられた台座に鎮座する王と思しき人物の姿がある。それを囲むように大地に座する臣下たち。王国の興りは思ったよりも規模の小さなスタートであったようだ。
そこからは戦いの歴史が続いた。
先ずバリは王国の興りによって国土の統一が図られた。ここから数世紀に渡って一つの王朝による治世が続く。統一国家としての象徴を得た彼らの絆はこの時期に強固になったのだろう。やがて王朝の力が弱まったことにより、バリは八つの王国に分裂する。そこからひとつの王国が滅んだところで、オランダの侵攻が起こる。
果敢にオランダ兵に向かってゆくバリの人民たち。ジオラマに残されている戦いの光景はショッキングなものであった。特筆すべきはバリの人民たちの装備の貧弱さだ。銃剣や大砲を持って攻め入ってくるオランダ兵に対して、バリの人民たちの装備は剣と盾。これでは遠からず全滅するのは目に見えている。
それでも彼らは祖国を守る為に戦い続けた。
先程シュウから話を聞いたばかりのバドゥン王国のププタンと思しきジオラマもそこにはあった。日本兵と思しき兵士たちに立ち向かってゆくバリの人民たちのジオラマもあった。小型の戦闘艇にバリの|伝統的な木製ボート《ジュクン》で迫ってゆくジオラマもあった。
圧倒的な兵力と武力に対して、こうして彼らは独立を諦めずに戦い抜いたのだ。
「独立戦争を起こすに当たって、彼らにとっての懸案は圧倒的な武器の不足だったそうです」
「だろうな。実際、ジオラマの装備も中世対近代ってぐらいに開きがある」
「ですから彼らは旧日本軍から武器を奪って調達しようとしたのですよ。その際にかなりの数の日本兵が犠牲になったようですね。けれども中には義を見てせざるは勇無きなりと、軍の装備を上層部に無断で横流しした日本兵もいたそうです。その武器があったからこそ、インドネシアは独立戦争を戦い抜けたと見る向きもあります」
マサキは第二の故郷であるラ・ギアス世界を思った。マサキたち魔装機操者が魔装機を駆って戦っている間、戦場となったその土地の人間たちは、ただ安穏と日々を送っていた訳ではなかった。時には彼らも自らの手で故郷を守る為にと武器を持ち、人対人の戦いを繰り広げていたと聞く。
その思いを踏み躙ってはならない。マサキは戦いが繰り広げられているジオラマを凝視した。
そのまま身動ぎせずにいたマサキに、だからだろう。流石にシュウもマサキが自らの立場に重ねて彼らの戦いを見ていることに気付いたようだ。それまでのどこか厳格さを感じさせる調子から柔らかい調子へと声を変えてみせると、
「インドネシアには古くから伝わる予言があったそうですよ」
「予言? 何だかラングランみたいな話だな」
「どういったシステムで為された予言かはわかりませんが、ジョヨボヨ王の予言と呼ばれた予言は次のようなものだったそうです」
我が王国は白い人々に支配される
彼らは離れたところから攻撃する魔法の杖を持っている
この白い人々の支配は長く続くが
空から黄色い人々がやって来て
白い人々を駆逐する
この黄色い人々がいるのは
トウモロコシが育つのと同じ期間だ
「それって……」
「インドネシアの人々が日本に対して好意的であるのは、この予言の力もあるのかも知れませんね」
程なくして流れる閉館のアナウンス。30分が過ぎるのはあっという間だ。マサキは最後にププタンのジオラマを目に焼き付けた。誇り高き王国の貴き人々は、独立を経た今のバリの姿を見てどう思うのだろうか。
きっと誇り高き死を遂げた彼らのことだ。バリの人民が本懐を遂げたことをこれ以上となく喜ぶに違いない。
マサキはシュウとともにバジュラサンディモニュメント敷地の外へと出た。どうやら今日の観光客はマサキたちで最後なようだ。直後にはスタッフによって割れ門が閉ざされる。
「いかがでしたか。30分とあっては駆け足にならざるを得ませんでしたが、文章で読むよりは当時の様子が窺えたかと思いますが」
「駆け足にせよ全部見られて良かったよ。いいものが見れた」
「それは何よりです」静かに微笑んだシュウがスマートフォンを手にする。「と、いったところで記念撮影といきましょうか。ねえ、マサキ」
しつこくも展望台での発言を忘れていなかったらしい。シュウの言葉にマサキは露骨に顔を顰めてみせた。夕刻を迎えたとはいえまだ陽は高い。これでは明るさを理由に断るのは無理だ。
そもそもスマートフォンの高い性能では、宵闇の中にあっても鮮明な画像を映すことが可能だ。どうすべきか――マサキは必死になって断る口実を探すも、体のいい文句などそう簡単には浮かんでこない。渋々とシュウの隣に並ぶ。
「どうしてそこまで緊張するのでしょうね」揶揄うように言葉を吐くシュウに、
「煩えよ。これでも俺は真面目に笑おうとして」
云いながらマサキはシュウが構えているスマートフォンを見た。画面に映り込む自身の表情! まるでカメラに初めて撮らているかの如きいかつさ勝る表情に、頑固親父みたいじゃねえかよ。マサキがごちれば、シュウはシュウでマサキの硬い表情をどうすれば和らげられるかと考えていたようだ。突然にマサキの脇腹に手を差し入れてくると、不規則に指先を肌に這わせてくる。
「馬鹿、お前……ちょ……っ」
「その顔ですよ、マサキ」
思いがけないシュウからの攻撃にマサキは笑いを堪えるのが精一杯だ。だのにシュウは真面目にその表情でいいと思っているらしく、マサキをカメラにフレームインさせたままシャッターを立て続けに切ってゆく。
撮れた写真を見てみれば、あからさまに珍妙な表情を晒している自分がいる。
マサキは耐え切れずにもう一枚、と声を上げた。
「ではウォーミングアップが済んだところで、本番といきましょうか」
シュウはマサキのその言葉を待っていたようだ。涼やかに微笑んでみせながらしれと言葉を吐く。憎らしいと思いつつもマサキが自分で口にしたことだ。マサキはシュウの隣に並び、スマートフォンのレンズに顔を向けた。
無理矢理笑わされた後だからか。幾分、表情が和らいだようにも映る。今なら笑える気がする。マサキは口の端を吊り上げた。不敵な笑みに何か違うと思うも、パシャリとシュウがシャッターを切った音が響く。
「何でお前、俺の変顔ばっかり撮るんだよ」
「これも旅のいい記念ですよ」
そんな画像データを持たせておけるものか! 何に使われたものかわかったものではないデータを消そうと、マサキがシュウのスマートフォンに手を伸ばせば、そこは流石にマサキより頭半分は上背が高い男だけはあった。すいと手を掲げてマサキの手からスマートフォンを逃したシュウは、奇異なものを見るような視線をマサキに向けてくる。
「私からスマートフォンを奪ったところで認証機能で躓くだけですよ。これで満足して諦めるか、それとももう一枚チャレンジするか決めた方がいいと思いますがね」
「この……」マサキは言葉を詰まらせた。
ここで妥協すべきか、それとも納得がゆく一枚が出来るまで写真を撮るのに付き合い続けるべきか……頑張ってみたところで必ずしもいい写真が撮れるとは限らない。それでも今の写真が記録として残るのは耐え難い。悩みに悩んだマサキはもう一枚だけシュウと写真を撮るのにチャレンジすることにした。
「今度は上手く笑えるといいですね、マサキ」
「上手く笑えたらさっきの写真を消せよ」
それを笑顔で遣り過ごす男に嫌な予感を覚えつつも、マサキは招かれるがままその隣に並んだ。
気恥ずかしさを堪えてもう一度、普段通りにと思いながら笑ってみる。流石に三度目の正直ともなれば表情筋も緩んできたようだ。思ったよりも顔の筋肉が自由に動く。
決して写真に写るのが嫌な訳ではないのだ。
長い付き合いになる男との思い出の品に乏しいマサキは、たった一枚の写真であっても、その付き合いの深さを記録した画像が欲しかった。思いがけない形で叶った希望に喜べない筈がない。けれども、神経質なきらいはあったものの自他ともに認める美丈夫の隣に立つのだ。これに緊張しないでいられたものか。
シュウに見合うだけの表情を作らなければならない。
マサキが上手く笑顔を作れないのには、写真に写り慣れていないこともあったが、それ以上に隣に立つ男を意識する気持ちが勝っていたからでもあった。
「いい表情ですよ、マサキ。いつものあなたの笑顔に近い表情です」
スマートフォンの画面を見上げれば、かなり穏やかさを増した表情がある。これならシュウの隣にいても、それなりに見られる写真が仕上がりそうだ。あとはこの表情をキープするだけ。マサキがそう思った瞬間、シュウがシャッターを切った。
「今度は大丈夫だろ」
「先程の写真も写真で趣があると思いますが」
「巫山戯ろよ、お前」マサキはシュウに写真を消すように迫った。「あんな不器用な笑顔を残すぐらいならば、半目で映っていた方がまだマシだ」
それでシュウも納得がいったのだろう。仕方がない。そう口にしながらも、マサキの目の前でスマートフォンを操作して、ここで撮った写真の一枚目を削除してみせる。
けれども二枚目は消す気がないようだ。そのままスマートフォンを仕舞うシュウに、マサキとしては納得が行かない思いもあったが、決して笑えていない写真ではない。あの写真を消してもらえただけでも良しとしなければ。そう思いきることにして、シュウと肩を並べながら、次の目的地に向かうべく来た道を戻り始めた。
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