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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(29)
いつも拍手をありがとうございます!
お陰様で観光二日目もここまで進みました。そして無事に三日目の日程も決まりました。
後は努力と根性で完結に向かうのみ!

但し、それが滅茶苦茶長いんですが……

とはいえ、三日目は二日目ほど長くはならない予定です。
8月の半ばぐらいには終わるといいな。と、思いつつ、では本文へどうぞ!
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<Lotta Love>

 ………………。
 …………。
 ……暫くの闇の後、ふと気付いたらゼオルートの館にいた。三日も留守にした義兄を目の前に微笑んでいるプレシアに、マサキは土産を渡そうとしてそれらしい品を何も持っていないことに気付いた。シュウと過ごした三日間。密度の濃い経験をしておきながら、土産として残せる品が写真ぐらいしかない現実。はっとなったマサキが目を開くと、タクシーの座席が目に飛び込んできた。
 そこでようやく自分が寝ていたことを思い出したマサキは、枕にしていたシュウの膝から頭を起こした。今、何時だ? 窓の外に向けていた視線をマサキに戻したシュウに尋ねれば、18時20分。タクシーが丁度、ウブド市内に入ったところだという。
「夢を見た」
「どんな夢を?」
「プレシアがいるのを見て土産を渡そうとしたら、何も持ってなかったって夢だよ」
 明るくも優しく逞しいマサキの義妹は、任務で遠征となった時など、マサキが土産を用意していなかったとしても、決して文句を口にすることがない。そういった時、彼女はただ土産話を聞かせてくれればそれでいいと笑うのだ。それがわかっているからこそ、プレシアへの手土産ひとつも用意していない現状に、マサキは遣る瀬無くも申し訳ない気持ちに囚われた。
 シュウを探しに地上に出て三日。どれだけマサキの行動パターンを把握しているプレシアにせよ、よもや探しに出た相手とバリで観光三昧の生活を送っているとは思っていないだろう。それどころか、帰りの遅いマサキに不安を感じ始めている可能性もある。大人しく家で待っている性格ではないプレシアは、どうかすると魔装機神の操者たちを巻き込んで地上へと出て来かねない。
 そろそろ帰り時だよなあ。マサキは改めて呟くも、シュウはそういったつもりはないようだ。
「明日の午後は買い物にしましょうか。スミニャックで買い物でもいいですし、他の街に出でもいいですよ。あなたをいつラ・ギアスに帰すかは今後考えるとして、彼女らへの土産を用意しておいて損はないでしょう」
 自らのバカンスに気紛れでマサキを付き合わせている男は、帰すタイミングも自らの気持ちひとつで決めるつもりらしかった。
 ラ・ギアスに逼迫している国際情勢のない今、マサキに与えられる任務はラングラン国内の治安維持に関わるものが主だ。それも賊の退治といった軽微なものばかり。セニアとしては定期的に任務を与えて、マサキたちの技術やスタミナの維持を図っているつもりなのだろう。
 波の立たない平穏な日々にあっては、むしろバカンスに興じていた方が、気力を満たすという意味では有効だ。
 だからといって、シュウの気の向くがままに延々バリに滞在している訳にもいかない。平穏な日常はある日突然に壊されるものだ。そう、奇禍はいつだって突然に巡ってくる。それをマサキは嫌というほど思い知っているからこそ、あんま長くするなよ。シュウにそう釘を刺して、話の続きを促した。
「街ごとで扱ってる土産が違ったりするのか?」
「スミニャックはバリの若者の流行発信地と呼ばれているだけあって、若者向けのアイテムが多いようです。それと比べると、ウブドやデンパサルはポピュラーなアイテムが多いようですね。まあ、何を買うかによりますが、一般的な土産でしたらどこの街も変わりはないかと」
「ふうん」マサキは何を買って帰るか考えた。「土産って云ったら食べ物やアクセサリーが定番だけど、他に何があるんだろうな」
「生活雑貨や衣類、化粧品なども有名なようですよ。化粧品といってもオーガニックなスキンケアアイテムがメインですので、プレシアに買い与えても問題はないでしょう」
「オーガニックコスメなら、テュッティな気がするな」
「あなたにとってプレシアはいつまで子どものままなのですか。彼女ももう成人したでしょうに」
 苦笑しつつも窓の外を指差したシュウに、マサキはその肩越しに流れる景色を眺めた。
 そろそろ薄暗くなってきたウブドの街には明かりが灯り始めている。これから街に繰り出して夕食や酒を楽しむ者、観光を終えて宿に帰る者。昨日見たばかりの雑多な街は、この時刻になっても観光に来たと思しき人々で賑わっていた。勿論、その中にはマサキたちと同じくバリ舞踏を観にきた者もいるだろう。
「結構、観光客がいるな」
「ウブドの街は観光地化が進んでいる街ですからね。特にこれからの時間は各所でバリ舞踏が観られるのもあって、人で賑わう時間です。夕食時でもありますしね」
 迫り来るウブド宮殿。決して幅が広くはない通りにはレストランや土産物屋がひしめき合っている。似たような観光客も多いのだろう。路肩に停められている車とバイクの群れ。その隙間を縫うようにして、運転手がタクシーを停める。マサキはウブド宮殿を真正面に、少し離れた歩道の上に降り立った。
「18時40分。丁度いい時間ですね」
 宮殿までは短い道のりを、マサキはシュウのシャツを掴んで歩いた。
 バリも三日目。その間、一度も迷っていない。
 そろそろ派手に迷ってもおかしくはない――ラ・ギアスにはない夜の闇がマサキの感情を悪戯に煽る。その不安が掴む力に表れていたようだ。そんなに強く掴まなくとも。前を往くシュウが笑ってマサキの手を取った。
「あなたが迷うのは使い魔たちの所為もあると思うのですがね」
「何でだよ」
「主人に似て方向音痴だからですよ。一緒に行動させておくと歯止めが利かない」
 ウブド宮殿の入り口前にはパンフレットのような紙束を持った人々が、辺りを往く観光客にしきりと声をかけている。あれは? と、シュウに手を引かれたままのマサキが尋ねれば、シュウ曰く、彼らがバリ舞踏のチケットを売っている売り子なのだそうだ。
「それにしちゃ人数が多いんだが」
「どういう流通ルートになっているかはわかりませんが、全員適正化価格で販売しているのだそうですよ」
「ダフ屋とは違うんだな。ぱっと見それにしか見えなかったが」
 シュウは手近な売り子のひとりに近付いてゆくと、指を二本立ち上げてみせた。こういったところで売り子をしている人々は地元の住民であるらしく、インドネシア語しか通じないとのこと。どうやらチケットはマサキがパンフレットだと思っていた紙束であるらしい。身振り手振りでチケットを購入したシュウからその一枚を受け取ったマサキが確認してみれば、確かにチケットの文字が書かれている。
「中はダンスの解説になっていますね。簡単な英語ですから、あなたでも読めると思いますよ」
「本当かよ」
 少し早い時間ではあったが、迂闊に動き回った結果、開演時間に間に合わなくなってしまったでは意味がない。マサキはシュウに導かれるがまま、入り口のスタッフにチケットを差し出して、バリ舞踏が披露される宮殿前広場に足を踏み入れた。
 中央に設えられているステージを囲むように三方に椅子が並んでいる。椅子の前には絨毯が敷かれていて、どうやら最前列になっているようだ。どちらに座ります? まだ客の姿もまばらな会場内。シュウに問われたマサキは、だったら一番前で見たい。と答えた。
 シュウとともに絨毯の上に胡坐をかく。そして開演の時間まで少しは知識を身に付けておこうと、チケットを兼ねていたパンフレットを開いた。確かにシュウの云う通り、ダンスの解説が簡単な英語で書かれている。



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