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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(37)
くるっぷにパブリック24っていうマストドンでいうローカルTLが出来たんですよ。
これが異様に居心地がいいの。
皆様創作系だからか、創作の色んな話が出来る。誰かが今日は原稿を何ページ頑張るとか云っているのを見ると、私も頑張らねば!という気持ちになるし、かといってがちがちに繋がり合ってるわけでもないので、ゆるーくいられるのが有難い。

お陰で今朝は頑張りましたよ!本日の目標は7000字なんですけど、半分クリアしました。
午前中はここまで。次は午後、頑張ります。

拍手、有難うございます。励みにしております!後半戦、頑張りますよー!
と、いったところで、本文へどうぞ!
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<Lotta Love>

(6)せめぎ合う想い、暮れなずむ空

 今日をゆっくりと過ごすと決めたからか。8時を過ぎてもベッドの中から動くことのないシュウの背中に乗り上がって、プールだ。マサキは云った。枕を胸の下に引き込んで読書に余念のない彼の手が、マサキの頭に回される。そのまま、髪を撫でるだけに留まったその手を取って、プール。マサキは重ねて云った。
「もう少し寝ていては如何ですか? 昨夜も遅かったですし」
「もう充分寝た」
 長い性行為《セックス》を終えて、マサキが眠りに就けたのは2時半。プールに観光と盛り沢山の予定を楽しみにしていたからか、それとも非日常的な生活のスケジュールに慣れてきたのか。目が覚めたのは7時半。もしかすると昨日移動の合間に仮眠を繰り返したからかも知れない。すっきりとした目覚めに意気揚々と、今日の予定を消化しようとシュウに声を掛けること五度。相変わらずベッドから梃子でも動く気配のない男に、そろそろマサキの我慢も限界だ。
「大体、そろそろバトラーが朝食の支度をしに来るんじゃないのか?」
「今日は少し遅めに来るように頼んでありますよ」
 抜け目のない男の、抜け目のない発言に、いつの間に――と、マサキは言葉に一瞬詰まったものの、それで昨日から抱き続けた水遊びへの欲求が潰える筈もない。いいから起きろよ。シュウの手を引いてベッドから抜け出れば、彼もそれでようやくベッドを出る決心が付いたようだ。仕方がないですねと云いながら起き上がった。
「そんなにプールが楽しみなのですか」
「これだけ思うがままに水に浸かれる機会もないだろ」
「なら、シャワーを浴びてきますよ。あなたは?」
「お前が本を読んでいる間に浴びた」
 読書にのめり込むと周囲が見えなくなるのは相変わらずなようだ。マサキがシャワーを浴び終えているのにも気づいていなかったらしいシュウにそう云えば、いつの間にと彼は自身の注意力に自信を持っているからだろう。微かに瞠目してみせると、肩を竦めつつバスルームへと姿を消した。
 ひとりベッドルームに残されたマサキは、シャワーの音を聞きながら着替えに取りかかった。どうせバトラーがいる間だけのことと水着の上から服を着る。長閑でゆったりとしたバリの空気ではあったけれども、シュウのように長期の滞在には無理がある身。一分一秒でも無駄にはしたくない。着替えを終えたマサキは、即座に昨日シュウに買ってもらったフロートマットやウォーターガンをリビングに運び込んだ。
 そして籐椅子に座ってシュウがシャワーから出てくるのを待つ。
 プールを終えたらショッピングだ。今、この瞬間にもゼオルートの館でマサキの帰宅を待っているに違いない義妹に、彼女が喜んでくれそうな土産を買って帰る。何処に買い物に行き、何を買うべきか。シュウはオーガニックコスメを勧めてきたが、マサキにとってはいつまでも稚い義妹だ。とうに成人しているのだと頭では理解出来ているものの、彼女が化粧を日常とする現実には気持ちが追い付いてこない。何を買って帰れば彼女は喜んでくれるだろう? 実際に街に出て品を見てから決めればいいと自分でもわかってはいるものの、滅多にない機会だ。気が逸らずにいられない。
 バッグ、靴、リゾート服、アクセサリー、コスメ……女性用の民族衣装であるクバヤを買って帰ることも考えたが、地元色の強い衣装とあっては、いつ着る機会に恵まれたものか。そう考えると、買えるものは限られる気がする。
「――何を考えているの?」
 ぼんやりとプールを眺めているように映ったのだろう。リビングに姿を現わしたシュウが、目の前に立つなり身を屈めてマサキの顔を覗き込んでくる。買い物。マサキは答えて、顎を上げた。触れた口唇に、どことなく気恥ずかしさを感じながらも、気が向いた時に触れ合える距離にいる彼の存在に得も言われぬ満足感を覚える。
「スミニャックにするか、デンパサルにするか悩んでさ。プレシア向きなのはどっちなんだろうな、って」
 これまでの付き合いでは素っ気なくもあった彼は、今回のバカンスで大いに心変わりをした様子だ。マサキを構わないという選択肢がないのではないかという勢いで、長椅子へと招いてくる彼に従ってマサキは隣に腰掛けた。肩に回された手が自らへとマサキの身体を引き寄せてくる。
「今日で全てを済ませるのでなければ、両方行くことも出来ますよ。そう云えば、ジャジャナンパサールを食べたいと云っていませんでしたか? でしたらデンパサルまで出た方がより豊富な種類のジャジャナンパサールを愉しめるかと。スミニャックは買い物や食の街ですからね。寺院の数も多いデンパサルと比べると、お供え物でもあるジャジャナンパサールの種類には限りがあるかも知れません」
「なら、今日は昨日に引き続いてデンパサルに行くかな。観光は勿論だけど、その土地の食べ物を愉しむのも旅の醍醐味だしさ」
「そういうことでしたら、タクシーを手配しておきますよ」
 マサキはシュウの肩に頭を預けながら、正面で水面を揺らがせているプールに目をやった。
 ひとつのヴィラにひとつのプール。その在り方がまるで温泉のようにもかんじられる。温泉旅館みたいだな。マサキがぽつりと呟くと、言葉の真意を測りかねたようだ。温泉旅館? 怪訝そうな表情でシュウが尋ねてくる。
「温泉旅館には部屋別に温泉が備え付けになってるところもあるだろ。ひとつのヴィラにひとつのプールって、俺からしたら凄い贅沢な造りに感じられるんだけど、そういう目で見てみたら、こっちでのプール付き宿泊施設って実はそんなに贅沢でもないのかなって」
「私にとって、温泉旅館は温泉旅館でまた贅沢な造りに感じられるものですが、その土地の人間からすればそれは当たり前の造りでもあるのですね。そう考えると、確かに。バリではプール付き宿泊施設は珍しくないですね。コテージのような分離型の宿泊施設では当然のサービスといった空気がある」
「だろ? でも、それを有難がるのが外からの観光客なんだけどさ」
 シュウに尋ねてみたところ、朝食の支度を頼んだバトラーがヴィラに来るのは9時になるようだ。彼はそれまで読書に精を出すつもりであるらしかった。思えば昨日、一昨日とマサキとの観光に時間を費やしているのだ。本の虫たる彼は、そろそろ我慢が利かなくなりつつあるのだろう。マサキは彼が膝の上に広げた書物を眺めた。
 相変わらず内容が欠片も理解出来ない専門用語が並ぶ頁に苦笑しつつも、それでも彼がそういった難解な言い回しをこの上なく楽しんでいるのだと感じられるだけで、胸が幸福に満たされる。これまでの彼と過ごした時間に不足を感じている訳ではなかったけれども、バリに来てからのマサキは満たされていると感じる機会が増えた。それはきっと、彼が自分の温もりを感じる機会を増やしているからでもあるのだろう。
「幸せ過ぎてどうにかなりそうだ」
 不意に口を衝く本音。これまでであれば些かならず躊躇いを感じた台詞が素直に口元から滑り出てくる。自分のことでありながら驚きを感じたマサキが、シュウの表情を窺えば、彼は満ち足りた笑みを浮かべながらマサキへと視線を向けている。
「帰りたくなくなった?」
「まさか。帰るに決まってるだろ。待ってる奴らがいるんだし……」
 残念。どこまで本気か測りかねる呟きを残して、シュウが再び書物へと目を滑らせてゆく。
 つくづく住む世界の違う男。それが何故自分にこうも執着してみせるのか、マサキにはその理由が思い当たらなかった。地上で一般人として生きてきたマサキに、地底世界で王族として生きてきたシュウ。魔装機神の操者に選ばれたマサキに、グランゾンという力を自ら獲得してみせたシュウ。身体を動かすことに愉しみを見出すマサキに、知識を働かせることに愉しみを見出すシュウ。ふたりの世界はそう簡単には交わらない。けれども、彼に執着している自分を振り返ると、マサキは少しばかり答えが見付けられそうな気分になったものだ。
 人は立場や趣味嗜好だけで全てが決まるのではない。その下に隠されている本質こそがその人間を形作っている。昨晩、マサキはシュウに自分を本当に必要としているのがシュウだけだと云ったが、それは裏を返せば、シュウを本当に必要としているのはマサキだけであるということでもあった。そう、マサキ=アンドー、或いは安藤正樹という人間は、シュウ=シラカワ、或いは白河愁という人間を必要としている。それは直感でもあった。磁石のN極とS極のように対極にある立場に趣味嗜好でありながら、自分たちは本質的には近しい人間であると――本質を同一とするからこそ、惹かれ合わずにいられない。それともこれは流石にマサキの思い上がりであるのだろうか? 多くを語らぬ男は、どちらかというと雄弁な性質ではあったが、自身の感情となると途端に無骨なまでに口を閉ざす。まあ、いいか。全てを識《し》ることが正しい結果を生み出すとは限らない。これだけの年月、関係を持ち続けたことが答えでもあるのだ。彼の肩に頭を預けているマサキはその温もりを感じながら、そう思った。
 暫く凝《じ》っと、彼の手元を眺めながら、穏やかな時間に身を委ねていた。
 数十分もした頃、ヴィラに鳴り響くチャイムの音。どうやらバトラーが朝食の支度をしに訪れたようだ。手元の本を畳んでシュウが立ち上がる。マサキも後を追って玄関へと出た。昨日と同じ顔。陽気なバトラーはシュウとマサキににこやかに来訪の挨拶を告げると、キッチンへと上がり込んで、早速朝食の支度に取り掛かり始めた。


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