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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(38)
おはようございます。
健康的なあさー!

今日も元気に推し活です。だらだらふたりが会話をしているのを書くの楽しいですね。エロやせめぎあい。らぶらぶべたべたいちゃこらも最高ですが、何気ない日常の会話ってやつも充分心に染みます。
基本公式の彼らって何か起きている時に顔を合わせているような印象が強いので、何気ない会話の部分がとても知りたくあったりします。(でも、シュウマサって人目がないと割と落ち着いて会話しているなって思いません?←多分幻覚)

今週は六連勤な関係で後半に行けば行くほど失速する可能性があるのですが、幸い業務が全日PC作業となっておりますので、出来る限り頑張ろうと思います。

と、いったところで本文へどうぞ!
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<Lotta Love>

「今日は何を作ってくれるって?」
「ミーゴレンですよ」
 カウンターの向こう側からふたり並んでキッチンを覗き込む。タンタンタンと小気味よく響く包丁の音。変わらずに手際よく材料の処理を進めてゆくバトラーに見惚れているのだろうか。凝《じ》っと彼の手元に注がれる眼差し。それきり口を閉ざしたシュウの脇腹をマサキは小突いた。
「お前、俺がわかるんじゃないかって期待して、説明を端折るの止めろよ」
「これは失礼」ふっと口元に浮かぶ笑み。「インドネシア語でナシが米を意味するのは昨日教えた通りです。では、ゴレンは? となると、これは『炒める』或いは『揚げる』という意味になります。ナシゴレンはインドネシア風炒飯ですね。ミーは『麺』を指すので、ミーゴレンはインドネシア風焼きそばという意味になります」
「へえ。そう云われると覚えやすいな。ってことは、チャンプルはもしかして『混ぜる』なのか?」
「わかってきたようですね。言葉というものは案外単純な法則で成り立っています。そういった意味では推測し易い単語の組み合わせが料理名になっているインドネシア料理は有難いですね。法則さえわかればどういった料理であるかが即座に理解出来る。インドネシア語を学ぶのであれば料理名から入るのがいいかも知れません」
「発音はいいけど、読むのがな……」
「表記がアルファベットですからね。読む分にもそこまでは困りませんよ。意味と繋げるのは少々難しいですがね」
「それが難しいんだろ。お前、時々凄く難しいことを、他人も普通に出来るだろぐらいの勢いで云うよな」
 麺を茹でる為だろう。湯を沸かしながら豊富な野菜をカットし続けているバトラーが、シュウと何事か会話を始めた。サンバルという単語が聞こえたということは、恐らく、辛さをどのくらいにするか尋ねているのだ。そう見当を付けたマサキは、「あんまり辛いのは嫌だぞ」ふたりが短い会話を終えたところで、そうシュウに告げた。
「言葉がわかるようになってきたようですね。大丈夫ですよ。あまり辛くしないように伝えてありますから」
 その間にも進んでゆく調理。バトラーが下ごしらえの済んだ野菜を炒めながら、麺を茹でている。
 香り立つ大蒜の匂いにマサキの腹が鳴った。夜にビンタンビールで腹を膨れさせたとはいえ、昨日の食事を二食で済ませてしまっている。腹が減ったな。呟けば、確かに。あまり食が太くない男も珍しくそう口にする。それもその筈だ。ほぼ半日に渡ってバリの観光に励み、夜は夜で遅くまでベッドの中で睦み合っていたのだ。これで腹が空かない方がむしろどうかしているのではないだろうか。
「ところで、あれは何だ? 醤油みたいに見えるんだが」
 マサキが良く知る焼きそばはウスターソースで味付けするものだが、どうやらバリ――と、いうより、インドネシア料理では事情が異なるようだ。キッチンカウンターに用意されている調味料にソースはない。代わりに醤油のような色合いの液体が詰まった瓶が乗っている。
「スイートソイソースと書いてありますね。甘口の醤油か何かでしょうか。訊いてみましょう」
 早速とバトラーに話しかけたシュウが説明してくれるに、その調味料はケチャップマニスと呼ばれる醤油であるようだ。日本に明るくないバトラーからそれ以上の情報を得るのは難しかったが、甘くまろやかな味が特徴であるらしい。成程。マサキは茹で上がった麺を、具材と混ぜ合わせて炒め始めたバトラーの手元から立ち上ってくる香りを嗅いで納得した。甘みの強い匂い。日本の醤油ではこういった匂いにはならない。
 その傍らで別のフライパンを熱し始めたバトラーが、手早く炒め終わった麺を具材をともに器に盛ってゆく。どうやらもうひとつのフライパンで目玉焼きを作るようだ。既視感を覚えながらマサキがバトラーの手さばきを眺めていると、程なくしてミーゴレンの上に乗せられる目玉焼き。更にその脇に揚げた何かが添えられる。バトラーが語るに、それはどうやら乾燥エビを揚げたものであるらしかった。
「ナシゴレンもそうだけど、ミーゴレンにも目玉焼きを乗せるんだな」
「崩して辛さを和らげるのに使うのでしょうね。具材にもエビや鶏肉が使用されていますし、日本の焼きそばと比べると、辛さがある分、あっさりとした風味になるようにしているのでしょうね」
 マサキたちの会話に好奇心を擽られたのだろうか。バトラーが流暢な英語でシュウに何事かを尋ねた。それを契機にと再びバトラーと会話を始めたシュウを尻目に、マサキは出来上がったミーゴレンの皿をリビングのテーブルへと運んで行った。サンバルを控えめにしてもらっているとはいえ、昨日の食事からしてそれなりに辛いことが予想される。水よりも甘い飲み物が欲しい。マサキはキッチンに取って返して、冷蔵庫の中を漁った。水のボトルが並ぶ中に、何本かジュースの瓶が混ざっている。
 取り上げてみれば、どうやら炭酸飲料水であるようだ。飲むか? と会話中のシュウに掲げてみせれば、微笑みながら頷く彼が映る。彼はバトラーと何を話しているのだろう? 昨日の朝の会話のバトラーとの会話を思い出したマサキは、またシュウが彼を揶揄うような台詞を吐いているのではないかと心配にもなったが、どちらも淀みなく英語で発話しているだけあって、マサキでは内容が窺い知れない。
 仕方なしに籐椅子に戻って、彼らの会話が終わるのを待つ。時間にして十分程だろうか。にこやかに別れの挨拶を告げて去ってゆくバトラーに、マサキは軽く手を挙げた。美味しそうな匂いが充満するリビング。そろそろ空腹を誤魔化すのも限界だった。
「何を話してたんだ?」
「大したことではありませんよ。部屋に掃除に入る時間をいつにすればいいか聞きたかったようです。今日の予定を尋ねられたので、午前中はヴィラで過ごすと伝えておきました」
「本当かよ」マサキはフォークを取り上げた。「またお前、変なことを云ったりしたんじゃないだろうな」
「バリでの生活を満喫しているように見えるのでしょうね。それを喜んでくれているようでしたよ。観光地は合う合わないありますしね。ガイドブックとは異なる現実を目の当たりにすることもある。連日観光に出ていることもあるのでしょう。そういった事故に遭っていないかと心配してくれているようでした」
「そっか。それは悪かった。疑っちまって……」
 目玉焼きの表面はすっかり冷めてしまっていたが、それを避けて、麺を掻き混ると湯気が立ち上った。いかにも食欲をそそる大蒜とエビの香り。マサキは早速目玉焼きを崩して、それと混ぜ合わせながらミーゴレンを口に含んだ。甘じょっぱい味。昨日の朝バトラーが作ってくれたナシゴレンの味に似ている。そう口にすると、味付けは同じものであるようですよ。スマーフォンで調べたようだ。即座にシュウが答えてくる。
「そうなのか? 確かに似てるなとは思ったけど、一緒とまでは思わなかった」
「ゴレンの部分が共通である以上は、要は米《ナシ》か麺《ミー》かの違いでしょう。異なるところがあるのだとしたら、具材の部分ですね。似ていると感じるのは、その具材の味の差――」
「そういう意味もあるのか!」
 目から鱗なシュウの指摘に思わず大声が出た。それが彼には面白くて堪らなかったようだ。そんなに感心することですか。と云っては、声を上げて笑い出す。
「いや、だって、日本じゃ炒飯と焼きそばの味付けは別物だろ。それは名前が違うからだって云われたら、ああ、そういう見方もあるのかって思うだろ。その逆で、名前が一緒なら味付けも一緒。成程、確かにって思うさ」
 慌てて言葉を紡げば、彼はマサキに応えなければならないと思ったのだろう。笑いを収めると、つ――と、マサキの顔を流し見してきながら、それがまるでこの世で絶対の心理であるかのように、
「あなたは私を退屈させない」
 云って、まだまだ笑い足りないといった面持ちで、ふふと声を洩らした。


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