今回はわたくし、珍しく資料と睨めっこしながら書いていることもあって、非常に時間がかかっております。ですので、GWぐらいまでに終わればいいかな、などと思いながら進めることにしたのですが、なんと早くも一万字! たかがバカンスにどれだけの文章量を使うつもりなのか!
そんな先行き不安な今回の話。ただただだらだら続く男ふたりのバカンスも、ようやくそのスタート地点に立てました。シュウマサと一緒に観光しようずwwwそんな裏テーマの話ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
いつもぱちぱち有難うございます。
反応があるということは、有難いこと。本当に励みになります。では本文へどうぞ!
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<Lotta Love>
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「それで、あなたはどういった目的でこちらに? 会える、と口にしたということは、どうやら目的は私にあったようですが」
流石に上着は脱いでいるものの、相も変わらずなハイネックのシャツ。この暑さでも自らのスタイルを変えない辺り、余程その恰好に拘りがあるのだろう。どうやら買い物帰りらしい。片手に食料品の入ったビニール袋を手にしているということは、バカンスはバカンスでも、自炊、或いは自炊に準ずる生活を送っているようだ。
「お前のお仲間がお前を探して欲しいって来たんだよ。連絡も入れずに何処に行ったのかって。バカンスでも何でもいいけど、連絡ぐらいは入れてやれよ。お陰でこっちまでとばっちりだ」
「そういうことですか」短い溜息がその口唇から洩れる。「やるべきことをそれなりに置いてきたというのに、あなたを動かすほど騒ぎ立てるとは」
「って、云ってもな。お前にも非があるだろ。ちょっと連絡すればいいだけじゃねえか。チカに至っては、一週間も海の上に置き去りだって? そりゃあどいつもこいつもお前を探してくれって云うさ」
「億劫なのですよ。誰かの許可を得なければひとりになれない生活に、何の面白味があったものか」
「お前の云い分もわかるんだけどよ――」
そこでシュウはふと自分たちが通行人の邪魔になっていることに気付いたようだ。マサキ、と袖を引いて、道の端に寄る。「ここで立ち話をするのも迷惑でしょうし、場所を変えませんか」
云うなり、シュウはマサキの返事も待たずに歩き始めた。
地面より立ち上る熱気が身体に纏わり付くような陽気。不快になるほどの湿気は感じないものの、慣れない内は身体に堪えそうだ。そんなバリの陽気にも馴染んだのか、慣れた足取りで、シュウは人いきれを北へと抜けていく。ここではぐれる訳には行かない。土地勘のないマサキは慌ててシュウの後を追い、少しの時間でどうにかその身体に追い縋った。
「お前、俺が方向音痴だってこと忘れてないか」
「これは失礼」歩みを緩めたシュウに、ようやく肩が並ぶ。
「どこに行くんだ」
「私が身体を落ち着けている場所《ヴィラ》ですよ」
ヴィラ、とマサキが繰り返すと、意味がわかっていないことに気付いたのだろう。貸別荘ですよ、と思いがけない答えが返ってきた。通りで食料の買い出しを必要とする筈だと納得するマサキに、思った以上に本格的なバカンスを過ごしているらしいシュウは、「ここからだと車で十分ほどかかりますが、プライバシーが確保された落ち着ける場所です」しらと云ってのけた。
「だったら、そのついでに、外貨を交換出来る場所に連れて行って欲しいんだが」
「おや、観光でもするつもりですか」
「折角来たしな。少しぐらいは」
思えば自らの足で地上を散策するなど、そうそうないことだった。
いつもマサキは地上の世界を、|風の魔装機神《サイバスター》の操縦席から見下ろすだけで済ませてしまっていた。必要あってサイバスターを降りたとしても、用事を済ませればとんぼ返り。かつて自分が生きた世界にしても、そのせせこましい世界にすら立ち寄らなかった自分は、余程この世界に未練を感じていないのだとマサキは自分のことながら思わずにいられない。
きっと異国の地だからでもあるのだ。
自分を知らない世界、そして自分が知らない世界が眼前に広がっている。異なる衣装に身を包んだ地元民、聞き慣れない言語、嗅いだことのない風の匂い。それらはマサキの好奇心をどうしようもなく擽《くすぐ》ったものだ。
そういった自らの気持ちに誘われるがまま、きっと物珍し気に周囲の景色を眺めていたのだろう。そう、とだけ頷いたシュウが、「なら、こちらですね」大通りを折れて、観光客向けのホテルが建ち並ぶエリアへと足を踏み入れてゆく。
「少し行ったところに銀行があります。そこで外貨を交換しましょう」
コンクリート製の白い壁に茅葺屋根と、素朴ながらもシンプルな外観の建物がエリアを区切って建ち並んでいる。必要最小限の家具しか置かれていないブース。キッチンにバス、ベッドルームとリビングからなるヴィラ。三方を部屋に囲まれた中央に屋外プールがある。
入りもしないプールが付いたヴィラを選んだシュウの気持ちをマサキは量りかねたものの、水のある景色はそれだけで涼を感じさせてくれたものだ。リビングの籐椅子の上。マサキは正面で青々とした水を湛えている屋外プールを眺める。こじんまりとした造りながらも、泳げるだけの広さはある。誰の目も気にせずに済むこのプールで泳げたら、さぞ気持ちのいいことだろう……つらつらとマサキがそんなことを考えていると、やがてキッチンの冷蔵庫に食料を収め終えたシュウが姿を現す。
その身体が隣の籐の長椅子に収まるのを待ってから、それで、とおもむろにマサキは話を切り出した。
「お前、結局いつまでここに居るつもりなんだ」
「気が済むまでは居るつもりですよ」
「当てのない話にするんじゃねえよ。お前、まさかチカへの連絡も俺に任せようって魂胆じゃねえだろうな」
「放っておけばいいでしょうに。あれでも使い魔です。暫く放置したところで死ぬ生物でもない」
にべもなくそう云ってのけたシュウに、マサキの不審は募った。
ただ自分が無事なことを知らせるだけでいい話を、どうしてその僅かな手間すらも拒むような態度をしてみせたものか。ただ億劫というだけにしては頑なが過ぎる。ましてや最も身近な存在である使い魔にすら、自身の居場所を知られたくないとあっては。
そもそもシュウは他人が自身の精神的な領域内に立ち入ってくることに不寛容な男ではあったが、自らの仲間に対してはそれなりに許容しているようではあったのだ。それだのに。まさかな、と思いながらマサキは口を開く。
「お前、何だ。あいつらとの間に何かあったのか」
依存を許さない男は、それが例え仲間であるサフィーネたちであろうと容赦しない。もしかするとそういた意味で、シュウと彼らの間に何かが起こってしまったのではないか。そう考えたマサキに、そんな考えはお見通しだとばかりにシュウは嗤った。
「まさか。いつも通りですよ。あなたに心配されるようなことは何もない」
「だったら連絡ぐらいしてもいいだろうよ。家族みたいなものなんだろ」
「家族だからでしょう。時にはその支配から逃れたくもなる。あなたとて同様では? プレシアと三百六十五日、同じ空間にいられますか?」
「まあ、そう云われれば」
「そういうことですよ」
自らの心のままに生きている男は、例え己の性質が他人の目に理不尽に映ろうとも、その心を曲げようとは思えないのだろう。肘当てに肘を付き、その手の甲に頬を乗せると、「もう暫く、非日常に身を置いていたいのですよ」そう云って、ぼんやりとした視線を眼前のプールに向けた。
「外界と接触を持ってしまえば、そこは日常の世界。私は日常と非日常を連続したものにしたくないのですよ、マサキ」
「外界と接触を持ってしまえば、そこは日常の世界。私は日常と非日常を連続したものにしたくないのですよ、マサキ」
燦々と降り注ぐ太陽の光を受けて煌めくプールの水面が乱反射して、薄暗い室内に光の波を描く。
プールに続くデッキの上には、南国らしい観葉植物が飾られ、身体を休める為のウッドチェアーがふたつ並びになっている。僅かながらも芝の生えた庭もある。その外側にはプライベートエリアを区切る白塗りの壁。外界から隔絶された非日常的な空間は、シュウの心をどう捉えたのだろう。憧憬の念を抱いているような横顔が、マサキにはどこか物寂しく映る。
「……何が云いたいのかさっぱりわからねえが、とにかく知った顔と連絡を取り合いたくないのだけはわかった。面倒臭えが、チカには俺が伝えておいてやる。サフィーネたちは……適当に誤魔化しておけばいいんだろ」
らしくない表情の横顔に絆《ほだ》されたのかも知れない。
世界に対する脅威とさえならなければ、何処で何をしていようが、それはマサキたち魔装機神の操者たちにとっては関心の対象外だ。そのぐらいには信頼関係を構築した相手でもある。時にはひとり、日常の煩わしさから解放されて、心身を休めたくもあったのだろう。
マサキには考えも及ばない未来を、論理でその目に映している男に見える世界は、きっとマサキが見ている世界の何倍も広大なものであるのだ。圧倒的な情報量。自ら求めることもある知識の数々を常に処理しながら生きている男にとって、生きるということは、何気なく過ごしているように見えても、とてつもないエネルギーを消費するもの。
そう、だからこそシュウは、日常からの逃避を試みたのに違いない。
仲間であるサフィーネたちにとっては、シュウの生死は重大な問題ではあるだろうが、生きていることは確認出来た。適当なポイントをでっちあげて、「発見はしたが撒かれた」とでも報告しておけば、あとは彼らが自ずから片を付けるだろう。
ならば、シュウの希望を叶えてやるのも吝《やぶさ》かではない。
マサキの根は善良に出来ているのだ。
「物わかりのいいことを云ってくれる」ふふ、とシュウが微笑《わら》う。頬杖を付いたまま、斜に。身体を深く籐の長椅子に沈めたシュウは、そのままの姿勢で視線だけをマサキに向けると、「とはいえ、そろそろ独りで居ることに飽きてはいたのですよ」
「何だよ、あいつらを呼ぶ気にもなったか」
「まさか。目の前に、こんなに都合のいい相手がいるというのに」云って、さも愉しげに嗤う。
これでシュウが何を目論んでいるのかわからないほど、マサキの察しは悪くはなかった。
確かに少しばかり観光を楽しんでから帰ろうとは思っていたが、サフィーネたちは元より、チカですら気掛かりとしている相手。ともに安穏とバカンスを洒落込むのには、僅かながらの後ろめたさがある。
「お前、巫山戯たことを云おうとしてないか」
「暇なのでしょう、マサキ」
「暇は暇だけどな、俺はお前みたいに自分の都合で動けるご身分じゃ」
「私が満足するまでの短い期間で結構」
シュウはマサキが自らの誘いに応じると確信しているようだった。籐の長椅子に気だるそうに身体を沈めたまま、片手をマサキに向けて差し出してくる。「あなたの滞在にかかる費用は全て私が持ちますよ」
「当たり前だろ」
マサキは仕方なしに立ち上がった。不安は残れど、関心を惹く提案だ。そろそろマサキも日常の雑事から解放されたくなりつつあるところだった。ひとりが恋しい。恐らくはシュウもこんな気持ちになりながら、安らぎを求めてこの場所に辿り着いたのだろう。
たった数歩の距離。シュウに近付いたマサキは、手間のかかる子どもみたいな男だと思いながら、差し出された手を掴んでゆっくりとその膝の上に乗り上がった。そうしてそうっと、いつもと比べれば軽装なその身体に、自らの身体を凭《もた》れかけさせる。
異国の地。
聞き慣れない言葉に、見慣れない衣装。気候だって風土だってそうだ。何もかもが手探りに等しい土地ながらも、そこは観光地。余所者を寛容に受け入れる雰囲気に満ちている。
窓の外に広がる青空にぽっかりと浮かぶ雲。湿度が低いとはいえ、夏のような陽気だ。だのに衣服越しに触れ合う肌の温もりが心地いい。それでも素直にシュウの云うことを聞くのは癪に障る。その肩に顔を埋めながら、マサキは軽くごちた。
「自分が満足したら帰れって、お前、俺のことを何だと思ってるんだよ」
「なら、気が済むまで居ればいい」
背中に回された手が、きつくマサキの身体を捉えてくる。「後で服を買いに出ましょう」どうやらサイバスターに積んである有事用の着替えを取りに戻らせるつもりはないらしい。不憫なのは使い魔ばかりだ。とはいえ、本当に我儘で身勝手な男だと思いながらも、こうして求められるのに悪い気はしない。
暫くここで過ごすのもいいだろう。
ああ、とマサキは頷いて、自らの髪に残るラ・ギアスの香りを懐かしむように嗅いでいるシュウの温もりに身を任せた。
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