私、今回やりたいことがあって、それを前回から実行に移しているんですけど、このペースで行くと全部やり終えるまでに五万字くらい必要な気がしてきて、あはは無理でしょそんなクソ長いバカンスとか思い始めてるんですが、よく考えたら今回で15000字を突破してるので余裕っぽいですね。
それはともかく、続きを打とうとして前回の終わりを確認したら、あまりにもナチュラルにふたりがべたべたしてて驚きました。何してんの君ら。
ということで五回目です。
ゆったりとした時間を描写しようとすると、情景描写が増えます。そんな回です。
なんかバカンスというより、ただふたりがいちゃついてるだけの話になりつつありますけど、まあご褒美回ですしね。いいんじゃないですかね、幸せなら。といったところで、本文へどうぞ!
それはともかく、続きを打とうとして前回の終わりを確認したら、あまりにもナチュラルにふたりがべたべたしてて驚きました。何してんの君ら。
ということで五回目です。
ゆったりとした時間を描写しようとすると、情景描写が増えます。そんな回です。
なんかバカンスというより、ただふたりがいちゃついてるだけの話になりつつありますけど、まあご褒美回ですしね。いいんじゃないですかね、幸せなら。といったところで、本文へどうぞ!
<Lotta Love>
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指先を絡め合った手が解かれる。そのまま、髪を、頬を撫でてくる手。太陽と大地と風の香りがする。呟くように云ったシュウに、「何だよ。ホームシックにでもかかってやがるのか」揶揄うようにマサキが応じれば、まさかと嗤いながら、彼はマサキの顎に手を掛けてきた。
「……プールに入りてえ」
端近に寄せられた口唇が、後でねと囁くように言葉を吐く。直後に飲み込まれる口唇。僅かの間、何度もマサキの口唇に啄むような口付けを繰り返していたシュウは、おもむろに舌先を口腔内へと滑り込ませてきた。
香る風の匂い。ラ・ギアスの咽返《むせかえ》るような大地の香りとは異なる風が、水辺から室内へとそよいで来る。そろそろ太陽の盛りが終わる時刻が近いようだ。プールに流れ込む水音だけが耳に降る静けさの中で、求められるがまま。マサキは深く忍んで来るシュウの舌を貪った。
会えば当たり前のように肌を寄せ、口唇を合わせる。飽きるほど繰り返してきた行為だのに、きっと離れている時間の長さもあるのだろう。馴染んだ分だけ、更なる熱中を呼び覚ましたものだ。
だのに、そうっと抜かれる舌。物惜しさに煽られるがまま。つれなくも退いたシュウの舌を追いかけて、マサキはその口唇の奥へと。今度は自ら舌を忍ばせながら、ひたすらに終わりを先延ばしするかのように、口付けを繰り返す。
それに軽く応じてみせては、マサキのしたいがままに任せていたシュウは、やがて剥がれた口唇に「満足しましたか」うっすらと笑みを浮かべながら、囁きかけるように尋ねてきた。恐らくは、彼としてはマサキが求めてくる姿を見たかっただけなのだ。
その思惑通りになってしまったことを口惜しく感じながらも、口唇に残る温もりの残滓。それがどうしようもなく悦ばしい。小さく頷いたマサキに、シュウはマサキの身体を抱えたまま。ゆったりと身体を起こす。
「水着と服を買いに出るついでに、あなたのチェックインも済ませましょうか。ねえ、マサキ」
日差しが弱まり始めたとはいえ、地面から立ち上る熱気はまだ和らぐ気配を見せず。揺らぐ道の果てに逃げ水が広がっている。
シュウに連れられて再びスミニャックのメインストリートに出たマサキは、あれこれと口を挟んでくる彼とともに幾つかの店を渡り歩き、無事に当座の着替えと水着を手に入れた。そのついでに夕食を外で済ませるのかと思いきや、既に一週間の滞在になっているシュウは、そろそろ現地の食事に飽きがきていたようだ。昼に買った食財を無駄にしたくないと、タクシーを掴まえてヴィラへ。
フロントでマサキの分のチェックインの手続きを済ませたシュウは、ヴィラに戻ると今日はもう何処かに出掛けることもないからと、マサキにシャワーを勧めてきた。その間に夕食の支度を済ませるつもりらしい。何もかもをシュウに任せきりにしているような気がしたマサキは手伝いを申し出たものの、「今日ぐらいはね。私の我儘に付き合わせているのですし」と断られて引き下がる。
どうやら自らの振る舞いが、身勝手で我儘なものであることは承知しているようだ。
そういうことならとマサキは寝室の奥にあるバスルームに向かった。寝室から続きになっているバスルームには、どういった理由でかはわからなかったが、扉がなかった。L字コーナーの影にあるバスに湯を張りながら服を脱ぎ、シャワーから流れ出る温水に頭を突っ込む。潮を含んでごわついた髪と汗を含んでべたついた肌を洗い流したマサキは、その間に半分ほど湯が張ったバスに身体を浸す。
日暮れを迎えたバリのバスルームは、寝室から差し込む光でうっすらと赤く染まっていた。早い時間の入浴は最高の贅沢だ。熱い湯が身体に染み入っては、隅々まで行き渡る。何を考えるでもなく、ただぼんやりと。首まで湯が張るのを待ったマサキは、そこから更に十数分ほど。疲れが癒えたと感じるまで、バスの中に身体を沈め続けた。
扉のないバスルームには風が良く通る。しかも陽が翳ってからのバリの陽気は、一気に過ごし易いものへと変わっていた。マサキはバスの縁に腰を下ろし、湯上りの肌を心地良く撫でる風を暫く浴びた。
火照った身体がゆっくりと平温を取り戻してゆく。
自ら決めて購入したとはいえ、大いにシュウの意見が反映されているような気がする衣装。落ち着いた風合いの藍色のクルーネックのTシャツに、目が覚めるような白色のカーゴパンツ。ゆったりと身体を覆うそれらの衣服に袖を通し、マサキがリビングに戻ってみれば、とうに食事の支度を終えたのだろう。シュウは長椅子に身体を横たえていた。
その瞼が閉ざされている辺り、どうやら眠りに落ちているようだ。
シュウ、とマサキはその名を呼びながら、彼の身体を揺すった。硝子製のローテーブルの上には、トマトとレタスと茹でたエビをバジルソースで和えた冷製パスタが二皿。ソースは市販のものであろうが、家事に対して不精な男にしては上出来な部類だ。とはいえ、よもや料理をしただけで気力が尽きた訳でもあるまい。「おい、シュウ」マサキは再び名前を呼びながら、もう一度その身体を揺する。
うっすらと目を開いたシュウが額に手を当てる。ああ、とその口の端から、短い溜息混じりの声が洩れた。どうにもならない眠気と、そうして少しの間格闘していたシュウは、やがて緩慢な動作で長椅子の上に身体を起こした。
「寝るならベッドに行けよ」
「他人に気を遣わずに済む生活を送っていたからですよ。ふと気が緩むと直ぐに眠くなる」
「疲れてるんじゃないか」
「逆ですよ、逆。あまり外で活動をしなかったですしね」
「どうせまた」マサキは隣の籐椅子に腰掛ける。「日長、本を読んでいやがったんだろ」
ご明察、と謳うように言葉を次いだシュウが入れ違いに立ち上がり、奥のキッチンスペースへと向かう。
白を基調としたシンプルなデザインのキッチンは、人ひとり立てば満員といったぐらいの広さしかなかった。とはいえ設備は確かなもの。二口コンロにシンク、小振りながらも食器棚もある。その隣には、宿泊施設にしては大きめの冷蔵庫。容量は恐らく2リットル。シュウはその冷蔵庫の中からワインボトルを取り出して、「安物ですけどどうです、マサキ」
「付き合う程度なら飲んでやるよ。明日に響くのは御免だ」
「そこまで深酒をさせるつもりはありませんよ。このくらいでどうです?」
グラスに半量。注がれたワインを見たマサキは、それで充分だと答えた。
シュウはそれよりももう少しばかり飲むつもりらしかった。マサキにグラスを差し出し、自分はボトルと空のグラスを手にテーブルに着く。そのグラスに遠慮なくワインを注いだシュウが食事に手を付けるのを待って、マサキもまたフォークを手に取った。
そしておもむろに口を開く。
「観光地くんだりまで来て読書って、それじゃ結局は日常の延長じゃねえか」
「雰囲気が変わるだけで、また違った味わいが感じられるものですよ。それに、少しは観光もしましたしね。ティルタ・エンプル、ゴア・ガジャ、ランプヤン……どれも充分にユニークな造形をした寺院でしたよ。独自性の発展がどういった経緯を辿るのかを目の当たりに出来た気がします」
「寺ばかり見てたのかよ。他に何かこう、もっとさ。異国情緒を味わえる場所っていうか」
例えば日本であれば、古墳であったり、城であったり、神社であったりと、観光名所は寺に限らない。京都や小江戸のような古き良き町並みとて、立派な観光名所だ。
日本に限らず、どの国であろうとも雄大な自然がある。近代化された都市もある。そこにはきっとかつてそこに生きた人々の暮らしが感じられる風景が存在しているだろう。マサキが見たいのは、そういった歴史の息吹が感じられる場所だ。
「なら、のんびり見て回りましょう。あなたの希望に添えそうな場所がないか、探しておきますよ」
その意を汲み取ったのか。シュウはワインを傾けながら、心安い表情をしてみせる。
余程、ひとりが退屈だったのだろうか。明日を待ち侘びる子どものようにも映る笑顔。観光地でようやくそれらしい行動を取れる機会に恵まれたのが嬉しいのやも知れない。それだったらサフィーネたちを呼べばよかったものを、と再びマサキは思いもしたものの、恐らくは自分を求めてのこと。
己を必要とされて嫌な気持ちはしない。
日頃、憎々しいまでに取り澄ました顔ばかりしているこの男が、不意に浮かべてみせる無邪気な表情がマサキは好きなのだ。
少しの間、その面差しがいつも通りの表情を取り戻すまで、マサキは食事をする手を休めてシュウの顔を眺めていた。決して容易く口にはしない思いではあるけれども、こうした時間を幾度も過ごしてきた間柄。ましてや、聡さが利発さに勝る男のこと。きっとそんなマサキの気持ちも見抜いているに違いなかった。
穏やかな眼差しがマサキに向けられる。
「酔った戯言にならなきゃいいけどな」
「大丈夫ですよ。このぐらいの量で酔うほどやわではない」
「どうだか。いつだったか一杯のワインで酷く酔って、俺に延々絡んできたことがあったじゃねえか」
「あの時はとみに疲れていたのですよ。それに、ああいった醜態はそうそう晒すものでもなし。まあ、私が正体を失ったとしても、ガイドを頼むことも出来ますしね。餅は餅屋なのでしょう、マサキ。彼らに案内を任せるのもいいかも知れません」
ほら、とマサキの皿に伸びたシュウのフォークが、底に残るひと口ばかりのパスタを掬い上げる。口元に運ばれるフォークに、「雛じゃねえぞ」そう愚痴めいた言葉を吐きながらも、マサキは口を開いた。ふわりと香るバジルとチーズの匂い。押し込まれたパスタを咀嚼しながら、ふと耳に届いた雨音にプールを見遣れば、水面に幾重にも波紋が浮かんでいる。
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