後少しで終わる。後少しで終わると云いながら、中々終わらないものですね!
今回はパサール・クンバサリ到着までになります。
今週は初っ端施設外でかなり疲れていて、文章がぐだぐだではあるのですが、シュウマサは日々の癒し!書かないという選択肢はないのです。
拍手有難うございます。励みになります。
のんびりとではありますが、確実に終わりに近付いておりますので、続きも宜しくどうぞ!
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今回はパサール・クンバサリ到着までになります。
今週は初っ端施設外でかなり疲れていて、文章がぐだぐだではあるのですが、シュウマサは日々の癒し!書かないという選択肢はないのです。
拍手有難うございます。励みになります。
のんびりとではありますが、確実に終わりに近付いておりますので、続きも宜しくどうぞ!
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<Lotta Love>
「しかし、バカンスで発作的にバリに行こうって思い立つ辺り、お前も大概行き当たりばったりだよな」
「あなたには負けますよ」
今日は西、明日は東と、暇と見做すや否やつれづれなるがままに風の魔装機神《サイバスター》を走らせるマサキに、シュウはシュウで思うところがあるようだ。含み笑いを洩らした彼に、その道程で顔を合わせる機会も多いだけに、マサキとしては迂闊に否定の言葉も重ねられず。愉しいじゃねえか。呟くに留める。
「その通りですよ。行き当たりばったりな旅は愉しいでしょう、マサキ。きちんと目的を定めて、充分な下調べをしてからの旅も愉しいですが、全てが未知数な旅の成功と比べればね。愉しさの度合いが全く異なる」
「あちこち回っててさ、何が愉しいかって、何が出てくるかわからないのが愉しいんだよな。いきなり遺跡が出てきたりさ、でっけえ湖にぶつかったりさ、山だってそうさ。思ってもいなかった場所に道があったり、神殿があったりな」
「そういった意味ではこの旅行は大当たりでしたね」
「そうかあ? お前、何だかんだで下調べちゃんとしてるだろ」
そこでタイミング良く、テーブルにミーアヤムが届けられる。麺の上に炒めた鶏肉と少量の野菜が乗っているだけのシンプルなものだが、昨日の失敗が尾を引いているマサキとしては、このぐらいシンプルな方が腹に溜まり過ぎずに済むだろうと思える。
麺が伸びないようにだろう。スープが別に添えられている。マサキは早速、器に汁を注いだ。香り立つ鶏の香り。ラーメンや蕎麦とは明らかに異なるタイプの麺だが、食欲をそそる香りなのは間違いない。シュウ曰く、地元民たちはここに卓上にあるソース類を加えて食べるのだそうだ。
マサキはひと口スープを啜ってみた。鶏の脂が染み出たスープはあっさりとした味わいで、特に手を加えなくとも充分に美味しく食べられそうだ。
「このままでも充分に美味しいけどな」
「甘辛いのが好きなお国柄ですからね」
周囲を見回してみれば、サンバルやケチャップマニスをかけて食べている観光客の姿もそれなりにある。その土地に来たからにはその土地の味を味わおうとしているのだろうか。とはいえ彼らの真似をするには、朝に食べたミーゴレンの味が邪魔をする。マサキはミーアヤムを食べ進めながら、どうするかを考えた。
中華麺に似た歯触りのちぢれ麺にはスープが良く絡む。まあいいか。マサキはそのまま食べ進めることにした。トッピングの鶏肉だけでも充分に辛さは味わえそうだ。恐らくケチャップマニスで味付けされているのだろう。混ぜて啜ればふわりと香るスパイスの風味。面白いな。マサキは呟いた。
「何にでもサンバル、何にでもケチャップマニスって、日本で云ったら塩胡椒だよな」
麺を啜るのも静かな男は、マサキと同じく特に味を付けずに食べ進めるつもりらしい。そうですね。と、頷いたシュウは、口に含んだ麺を咀嚼した後に、「これは胃が落ち着く感じがしますよ」
「辛い物に飽きてるんじゃねえか」
ふと洩れ出たシュウの本音に、マサキは笑わずにいられなかった。
マサキよりも長い期間バリに滞在しているシュウは、当然のことながら、その間もインドネシア料理を口にしてきている。バトラーが作る料理にしてもそうだったし、観光ついでの食事にしてもそうだっただろう。何せ方々の寺院を巡っているのだ。その土地その土地でわざわざ彼が他所の国の料理を味わったとは考え難い。
マサキは初日にシュウが振舞ってくれた冷製パスタを思い出した。トマトとバジルのソース。考えてみれば、あれは彼がそろそろインドネシア料理以外の食事を口にしたいと思ったからではないだろうか?
「美味しくはあるのですが、何を食べてもサンバルかケチャップマニスの味がしてくるのでは」
「それは日本食が何を食べても醤油の味がしてくるのと一緒だろ」
瞬間、シュウの目が微かに見開かれる。確かに。頷いた彼は、しみじみと、「調味料というものはその土地を表す味でもあるのでしょうね」
「調味料が一緒でもその量の比率とか、素材の違いで充分に味は変わるからな。まあ、確かに辛過ぎるのは良くないけどよ」
「そう考えるとつくづく食は故郷の味であるのだと思い知ります。ラングラン料理が少し懐かしくなりましたよ」
確かに、大蒜や醤油の風味が際立つミーアヤムは、旅の食事に疲れていた胃を癒すのにはもってこいだった。中華麺ほどくどくなく、味を噛み締めなくともさらっと胃に落ちてゆく。マサキは空になった丼に目を落とした。日本食に近い味わいのミーアヤムは、久しく口にしていなかった故郷の味に対する郷愁の念を呼び起こす。シュウに限らず日本食が恋しくなったマサキは、寿司が食いてえ。ぽつりと呟いた。
「今日のディナーはシーフードですが、そこに米食があるかはわかりませんね」
「今日はそれでいいさ。旅の間はその土地の料理を食い尽くす。当たり前だろ。終わったら久しぶりに食いに行こうかなって話だよ。きっと滅茶苦茶美味く感じるんだろうな」
グラスに僅かに残ったコカ・コーラを飲み干して、マサキは席を立った。午前中をヴィラでゆっくりと過ごした身体は、そろそろ外での活動を求めている。マサキは次いで席を立ったシュウの手を引いた。会計を済ませて外に出る。
眩いばかりに降り注ぐ、バリの陽光。陽を高くした太陽が、頭上に輝いていた。
マサキは道端にて待機していたタクシーに乗り込んだ。運転手の話では、パサール・クンバサリはここから車で10分ほどの距離にあるようだ。歩いて行けそうじゃないか。食後の運動を求めるマサキに、徒歩だと20分ぐらいですね。地図を調べたらしいシュウが答えてくる。
「とはいえあなたが一緒ですしね。タクシーを使っておいて問題はないでしょう」
「お前の手を握ってりゃ大丈夫だろ」
「それでも迷えるのがあなただと、私は知っているつもりですが」
「どうやって迷うんだよ」マサキはシュウの肩を小突いた。「幾ら俺でもその状態では迷えないぞ」
「隊での移動中でも気付けばひとりで何処かに消えているあなたですよ。手を握ったぐらいではとてもとても」
「お前な……」マサキはシュウを睨み付けた。
それを涼しい顔をして受け流すシュウの余裕に満ちた態度! 揶揄うにしても限度がある。
そもそもマサキとしては迷いたくて迷っているのではないのだ。マサキは盛大に頬を膨らませた。シュウに云わせれば「目印にしているアイテムが悪い」とのことだが、知らない道に入る時は、きちんと周囲の風景を覚えてから入るようにもしている。他人と歩いている時は、可能な限り、彼らから離れないようにも努めている。
なのに迷うのだ。
こっちに進めば戻れるだろうと見当を付けた道が悉く異なっているものだから、だったら逆だと逆方向に向かうも何故か泥沼に嵌まる。行けば行くほど目的地は遠ざかり、わかっているのに近付けない。このままだと一生目的地に辿り着くことはないのではないだろうかと思ったところで、幸いにして知り合いをと顔を合わせて事なきを得るのがマサキの迷子のパターンだ。
勿論、救いの手が差し伸べられないことも往々にしてある。サイバスターに乗っている時は特にそうだ。気付けば他国を通り過ぎ、再びラングランに戻って来ていたという状況を、マサキは何度経験したことか!
「そう拗ねないで、マサキ」
「拗ねてねえよ」
「これは重症だ」笑いながらシュウがマサキの手を握ってくる。「もう着くのですから機嫌を直しませんか。ほら、あの建物がパサール・クンバサリですよ」
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