忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Lotta Love(49)
いよいよ50回目前!ショッピング編にございます。

残すところ(予定では)今回を含めて四回となりました。感慨深い思いもありますが、油断は禁物。きちんとエンドマークを付けるまでは頑張ります。

拍手有難うございます。励みとしております。

思えば「シュウマサでバカンス」というたったそれだけのネタに、一年以上も付き合ってくださって本当に有難うございます。彼らの時間はじきに終わりを迎えますが、30の物語はまだ一作品を残しています。どうか最後までお付き合いのほどを宜しくお願いいたします。

では、本文へどうぞ!
.


<Lotta Love>

 マサキは隣に並んだシュウを見上げて、種々様々な菓子を指差した。本当に、あなたという人は。まるで危機感のないマサキに呆れているのだろう。シュウは眉を顰めながら、口元を微かに歪めてみせた。「迷っても知りませんよ」
「このぐらいの距離では流石に迷わねえよ」
「どうでしょうかね」シュウが溜息を洩らす。「で、どれにするか決めたのですか」
 どう足掻いても迷う時には盛大に迷うマサキを相手に、いつまでも心配を続けても仕方がないとでも思ったのか。気を取り直した様子で尋ねてくるシュウに、マサキは改めて屋台に目を遣った。まるで大人の為の駄菓子屋のようだ。これだけの菓子類が並ぶ店はそうない。
「どれもこれも美味そうで悩むな。基本の材料は米粉なんだよな、これ」
「そうですよ。加えて無添加食品であるのだとか。ですから土産にするのは難しいでしょうね」
「こんなにカラフルなのにか。どうやって色を付けてるんだ」
「着色料に頼らずとも、食品に色を付けることが可能な食材はありますよ。例えば果物の汁や、野菜の汁など」
 マサキはどれを食べるか考えた。これだけの種類があると、目移りしてしまって仕方がない。
 あそこにあるちまきのような菓子にしようか。それとも目の前にあるフリッターのような揚げ菓子にしようか。悩みに悩んだ末、マサキはドーナッツとカラフルな色合いの蒸しケーキ、それと揚げ煎餅を食べることにした。
 ひとつひとつが手頃な大きさをしているジャジャナンパサールは、値段も驚くほど手頃だ。駄菓子を買うような金額に驚きながらも、バリはそもそも物価が安い国だ。むしろバリの物価からすれば適正価格であるのだろう。
 マサキはシュウとともに屋台前の人垣を抜けた。何もかもを彼に任せきりにしている旅だが、ここにきてようやく自分で選んだ菓子を口に出来ると思うと、訳もなく胸が湧き立った。
 市場をそぞろ歩きながら、早速一口サイズのドーナッツを口に含んでみる。鼻腔に潜り込んでくるココナッツの香り。ほろほろとした食感はまさしくドーナッツだが、甘さが一段階ほど強く感じる。
 続けて蒸しケーキ。こちらは仄甘いが、米粉を使用しているからだろう。もっちりとした食感だ。
 噛み応えのある蒸しケーキを食べ終えたら、最後は揚げ煎餅だ。バリでは一般的なえび煎餅は、ナシゴレンだったりミーゴレンだったりとあらゆる料理に添えられるものであるらしい。パリパリとした食感と塩気のある味わいは、マサキが良く知るえび煎餅のもので、マサキとしては日本食がまた懐かしくなるものだった。
「どうでしたか、ジャジャナンパサールは」
「美味しかったよ。それぞれ味がまた違ってさ。てか、お前は食わないのな」
「夜にシーフードが控えてますからね。今、お腹を満たしてしまうと、そちらが食べられなくなりそうな気がしたのですよ」
 決して量を多く食べることのない男は、そう云ってマサキの手を取った。微かに匂いを嗅いだ彼が、ココナッツの香りがしますね。云って笑う。バリらしい匂いだ。続けてしみじみとそう呟いた彼は、マサキに自身の服の袖を掴ませると、人波を掻い潜るようにして先を往った。
「何だか緊張してきた」
「何故?」
「値切るって、そんなにやったことないしな」
「大丈夫ですよ。いざとなったらHAWAIだけで済ませればいいですし」
「ここまで来てか? それはちょっと巫山戯てないか」
「こういうのは雰囲気を味わうものですよ」
 そういうもんかねえ。首を傾げながらも、シュウの後について市場を折り返したマサキは、彼と様々に談笑をしながらいよいよ建物の中にあるマーケットに足を踏み入れた。
 思ったよりも閑散としている建物の入り口。人気を感じさせない通路が続いている。これが通常営業であるのだろうか? バイヤーが買い付けに来るほどのマーケットともなれば、殆ど問屋のようなものである。もしかするとローカル客向けのスポットであるのかも知れない。
 それとも活気ある市場の方に客が流れてしまっているのだろうか。物怖じせず先を往くシュウに続いて通路を歩く。
 屋台の主人に聞いたHAWAIは何処にあるのだろう。そもそもHAWAIとは聞いたが、その綴りが英語とは限らない。インドネシア語だとしたら、果たしてマサキたちに店の場所がわかったものか。不安を感じたマサキだったが、どうやらそれは盛大な杞憂だったようだ。一階の入り口階段脇にある陶器屋の隣。まさしく入って直ぐの場所に、「HAWAI ART SHOP」の看板を掲げた店がある。
「へえ。名前は巫山戯てるが、店はちゃんとしてるんだな」
 外から眺めただけでもわかる圧倒的な品揃え。隣の陶器屋と比べても小洒落た食器類が多い。土産って云ったらこういうのだよな。マサキは店先から店内を覗き込んだ。シックな色合いの陶器に、落ち着いたデザインの籐雑貨。竹製のインテリア雑貨もあれば、バリではポピュラーらしい。アタという植物から作られた細やかな織目が美しい雑貨も並んでいる。
「当たりじゃないか?」
「上には掘り出し物もあるようですよ」
「掘り出し物っていうのは」マサキは店内に足を踏み入れながら続けた。「玉石混淆な中にあるもんだろ。つまり大半は石って思った方が」
「あなたは時々悲観的な考えをしますね」笑いながら付いて来たシュウが早速、陶器の花瓶を取り上げる。「こういった雰囲気のある陶器はヴィラなどにも飾られていますし、買ってもいいかも知れませんね」
 取り敢えず相場の確認をしておくつもりなようだ。スマートフォンを取り出して、何やらメモを取り始めたシュウに、お前こんなに抜け目ない奴だったっけ? 不思議に感じたマサキが聞けば、
「郷に入れば郷に従えですよ。こういうのを愉しむのも旅の醍醐味でしょう」
「まあ外国人だって理由でボラれるのは嫌だよな」
「それもありますね」
 ゆっくりと店内を回り、幾つか土産の目星を付けたマサキは、そろそろと値札のチェックに抜け目ないシュウを促して二階へ上がった。雑多に積み上がった雑貨に衣類。籠にこれでもかと放り込まれて床を占拠しているものもあれば、無造作にワゴンに詰め込まれているものもある。
 バイヤーが買い付けに訪れるだけあって、生半可な物量ではない。
 想像していた以上の品数に、これは根気が要りそうだとマサキが覚悟を決めれば、「とはいえあなたの言葉も真実ですよ。大半は石です」シュウは至極あっさりと云ってのけると、マサキがどれにするか悩む傍から、あれこれと商品を差し出してくる。
「これは午後の数時間でする買い物じゃないんじゃないかね」
「あなたは思ったよりも優柔不断な面がありますね」
「そうなんだよ。これから何を食うかとか選択を迫られると、どれも良く見えちまってな……」
「好みの幅が広いのでしょうね。私は逆に狭い方ですから、それほど頭を悩ませることもないですよ」
「選び慣れてないもんを選んでるのもあるんだろうな」マサキは頭を掻いた。
 圧倒的な物量に気圧されたマサキだったが、少しもすると目が慣れてきたのだろうか。如何にも前時代的な土産物の類からは自然と目が外れるようになってきた。テュッティだったらああいうインテリアかな。籐製のランプシェードを指差せば、悪くないですね。シュウは値踏みするような視線を向けながら、「ですが、マサキ。肝心のプレシアへの土産は?」
「全部見終わってから考える」
 成程、と頷いたシュウが、「なら更に上の階に行ってみることにしましょう」
 絵画だったり、木彫りの置物や仮面といった旅行者向けのアイテムもあるにはあったが、絶望的にそういったアイテムを嫌がるプレシアのことを思えば絶対に買っては帰れない。マサキは細々とした雑貨を中心を眺めて歩くこととした。
 南国の香り漂うアクセサリー。アタで作られたキッチン用品。粗悪なものも多かったが、雰囲気のある商品もそれなりにある。悩ましい。マサキは何軒目かもわからなくなった店の前で途方に暮れた。
「見過ぎて何が何だかわからなくなってきた」
「写真を見ますか」
 どうやらただメモを取っていただけではなさそうだ。自身が気に入った品々と、マサキが興味を惹かれた商品を画像にして残していたシュウのスマートフォンを借りる。確かにこれはいいと思ったっけ……さして前のことでもないにも関わらず、すっかり薄れてしまっている記憶に慄きながらもフォルダ内の画像のチェックを終えたマサキは、最終的にアタ雑貨のランチョンマットとコースターを買うことにした。
 細かく織られた編み目が美しいアタ雑貨は、職人が時間をかけて織り上げているだけあって、その出来はピンキリでもある。マサキはシュウとともに店に向かった。なるべく綺麗で美しい商品をと在庫の山を掘り返し、ひとつひとつ細かく織り目をチェックしてゆく。取り敢えず、寄れば茶を一杯、食事を一食と遣り始める魔装機操者たちの分は欲しい。


.
PR

コメント