記念すべき第50回です!!!!
こんなに長くやる予定ではなかった……
先ずはお詫びをば。今回最後に訪れているマーケットはなんと!8月に閉店してしまったようで、現在は存在しないお店になります。観光を主産業とするバリはかなりのダメージをコロナ禍で受けたようで、その煽りをもろに食らってしまったようです。よって店名は出しません。悪しからずご了承ください。
そんな感じで残すところあと二回となりました。果たしてこの話は無事に終わるのか!
では、本文へどうぞ!
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こんなに長くやる予定ではなかった……
先ずはお詫びをば。今回最後に訪れているマーケットはなんと!8月に閉店してしまったようで、現在は存在しないお店になります。観光を主産業とするバリはかなりのダメージをコロナ禍で受けたようで、その煽りをもろに食らってしまったようです。よって店名は出しません。悪しからずご了承ください。
そんな感じで残すところあと二回となりました。果たしてこの話は無事に終わるのか!
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<Lotta Love>
「しかし、年頃の女の子にプレゼントするには、少々……」
値切りをシュウに任せて無事に満数買い上げることに成功したマサキは、店を出るなり何か云いたげに、けれども濁して明瞭りとは口にしないシュウに、何だよ。と、彼の顔を見上げた。
「いえ、特には何も」
「明瞭り云えよ。プレシアにプレゼントするには何だって?」
マサキはシュウのシャツの裾を掴んで、強く引いた。どうやら生地が伸びては堪らないと感じたようだ。慌てた様子で即座にマサキの手を取り上げたシュウが、「色気がないと云いたかったのですよ」
「って、云ってもな。ここにはコスメは置いてないだろ。アクセサリーは綺麗だったけど、ラングランのファッションには不釣り合いなものしかなかったしなあ。だからって服を買うにもここの服は如何にもバリって感じのものか、普段着には向かない観光土産仕様のTシャツぐらいしかなかったし。まさかお前、木彫りの置物を買えとか云わないよな」
「冗談で云っていますよね、マサキ」
彼からすれば、マサキの美的感覚《センス》は余程信用がおけないものであるようだ。微塵も顔を歪ませることのないシュウに、当たり前だろ。マサキはムキになって言葉を継いだ。
「流石に俺だって木彫りの置物だの、ペナントだのが、ひと昔前の観光土産だってことぐらい知ってる」
なら結構。そう口にしたシュウがスマートフォンの時計に目を遣る。横から覗き込んでみれば、時刻は3時半を回った辺りだった。結構、歩き回ったんだな。パサール・クンバサリの門を潜ったのが何時のことかマサキはチェックしていなかったが、昼食に丁度いい時間にデンパサルに到着したことだけは覚えている。食事と移動で一時間ほど。そう考えてみると、二時間以上はクンバサリの市場とマーケットを歩き回ったことになる。
「まだ時間がありますね。ジンバランに行く道すがら、寄れる店がないか運転手に尋ねてみましょう」
そう云って、マサキの手から荷物を取り上げたシュウが、一直線に建物の出口がある方へと歩いてゆく。
おい、シュウ。マサキは慌てて彼の後を追った。僅かな隙を見付けては盛大に迷うマサキを置いて行こうとするとはいい度胸である。先程までの気に掛け具合が嘘のように先を急ぐシュウに、追い付いたマサキをはその手を掴まずにいられなかった。
「俺を置いて行くなよ。ここで迷ったら帰れねえ」
「流石に階段まで一本道ですよ。ここで迷えたら、あなたの周りだけ次元が違うとしか思えませんね」
けれども、そう云われては放っておけないと思ったのだろう。苦笑しきりなシュウはマサキの手を握ってきた。
マサキは彼に手を引かれながら、まばらな観光客の間を抜けて階段を下り、マーケットの出口を抜けた。建物脇に何台も並んでいる小型トラックは、これから市場に露店を構えるつもりであるのか。積んだ荷物を下ろすのに励んでいる者が多い。
「クンバサリの市場は朝と夜が一番賑わうのだそうですよ」
「へえ。夜の市場もいいな。機会があった見てみてえ」
「そうですね。ですが今日は無理ですよ。ジンバランのレストランを予約してありますし」
恐らくはこれからの時間の市場を目的としているのだろう。人の入りの多い門を抜け、幹線道路に出る。辺りに姿が見えない辺り、どうやらタクシーは離れたところで待っているらしかった。もしかすると遅い昼食にしていたのかも知れない。スマートフォンで運転手と連絡を取ったシュウが、十分ほどかかるらしいですよ。と、マサキに告げてくる。
「ジンバランで夕陽を見るって、何処で見るんだ?」
「ジンバランビーチですよ。夕暮れ時になると、海辺に海鮮バーベキューの店が大量に並ぶ場所です」
「海辺に店が並ぶ?」
「それぞれのレストランがビーチにテーブルと椅子を出してくるのですよ。レストランによってはバリ舞踏のステージを用意しているところもあるのだとか」
「賑やかそうだな。もっとしんみりと夕陽を眺めるのかと思ったが」
「とはいえ、夕陽が美しい絶景スポットとして有名な場所には違いないでしょう。だからこそ、レストランもこぞって店を出すのでしょうしね。果たして、どういった夕焼けが見られるのか愉しみですよ」
そこまでシュウが言葉を吐いた瞬間だった。短く鳴り響くクラクション。少し離れた場所に停まったタクシーから運転手が顔を覗かせて手を振っている。
上客ということもあるのだろうが、親しみを感じさせる仕草。連日に渡って付き合いを重ねて来たからだろうか? けれども、彼が人懐っこい性格であるのは間違いないようだ。シュウとマサキがタクシーに近付くと、わざわざ運転席から降りてドアを開いてくる。
バリの人間は基本的に陽気で人の好い性格をしているのやも知れない。
恐らくは、道中で寄る店の相談をしているのだろう。早速と立ち話に興じ始めたシュウと運転手を置いて、先にタクシーに乗り込んだマサキは、今しがた出て来たばかりのパサール・クンバサリの建物を見上げた。
様々な雑貨が所狭しと並べられていた不思議な空間。細い通路の両脇に店が並ぶゾーンなどは、まるで日本のガード下商店街のようだった。
面白かったな。マサキは呟いた。旅先の思い出は、過ぎてみれば総じて満足のゆく記憶に変わる。次はどういった思い出が作られるのだろうか。行き先が気になったマサキが運転手との話を終えてタクシーに乗り込んできたシュウに尋ねれば、ここから車でジンバラン方面に30分ほど行ったデンパサルの西端に、観光客が土産用のコスメを買い集めるマーケットがあるのだそうだ。
「あれもこれもって、俺じゃなくお前が土産を買いたいみたいだな」
「あなたを長く拘束してしまっていますし、このぐらいは」
どうやらシュウはシュウなりに、マサキを断りなく連れ回していることに罪悪感を感じていたようだ。
尊大な男の思いがけないひと言に、気にするなよ。マサキは言葉を継いだ。
単機での任務も多いサイバスターの操者であるマサキは、プレシアを置いて家を空けることも多かった。勿論、大半数日から長くとも一、二週間といったところだったが、時にはひと月以上もの長い月日を彼女と離れて生活することになったりもしたものだ。けれどもそれについてプレシアが文句を云うことはない。偉大な義兄を持つ以上は仕方のないことであると、偉大な父を持っていた彼女は理解《わか》っているのだろう。
ただ、彼女も魔装機操者。自身の出番を欲しがるという意味では、マサキと行動をともにしたがることもある。
今回の件は、サフィーネとモニカがマサキに持ち込んできた話だった。そういった話の流れも手伝って、あまり自分がでしゃばるのも――と、プレシアは思ったようである。勿論、地上に出なければならない以上、彼女はひとりでは動けない。そういった意味で諦めは早かった方だ。
「家族は大切にするものですよ」シュウは窓の外、遠くの景色に目を遣りながら呟いた。
「まあ、お前の云う通り、ランチョンマットにコースターじゃな。確かに色気はないな。何かあいつが喜びそうなコスメがあればいいんだが」
「ジンバランで夕陽を見る為にも、一時間ぐらいで土産を決めなければなりません。向こうに着いてからあれこれ悩むより、先に何を買うか、大まかな品名だけでも決めておくといいでしょうね」
「って、云っても、どういったコスメが土産になるのか俺はさっぱり」
「バリで有名なコスメのメーカーと云えば、エリップスなのだそうですよ」
どうやらスマートフォンで調べたようだ。手元を眺めながら言葉を吐くシュウに何を扱っているメーカーなのかを尋ねてみれば、ヘアオイルで有名なメーカーらしい。見せられた画面にはカラフルなヘアオイルが種類も様々に並んでいる。
「へえ。いいじゃないか、ヘアオイル。化粧品だと好みが色々あるみたいだしな」
「肌質に合う、合わないもありますしね」
マサキの脳裏にジャティルイで話をした際のシュウの言葉が蘇った。美容には水が必要ですよ。突然に美容という言葉を使ってみせたシュウは、マサキが魔装機の女性陣に聞かされているように、サフィーネやモニカから美容の心得を聞かされているのだそうだ。恐らくはそういった聞き齧りの知識であるのだろう。
マサキはシュウの顔をまじまじと見詰めた。
それは彼とて、興味のない話を覚えてしまうまで聞かされていれば、バリに逃げ込みたくもなったものだろう。日が経つに連れて感じる解放感。マサキは仲間から離れた異国の地での旅を、心から楽しんでしまっている。
後ろめたくも、久しくなかった安藤正樹としての時間。それが純粋にマサキをひとりの人間としての余暇を愉しませているのだ……そういったマサキの感情を読み取ったのかはわからない。不意にマサキに向けて微笑んでみせたシュウに、マサキもまた彼に向けて笑いかけてみせた。
「お互い苦労は一緒ってな」
「気晴らしに聞くには頭に入らない話題は適切ではあるのですがね」
そうこうしている間に、タクシーがマーケットに到着したようだ。広い駐車場へと入り込んだタクシーが建物の入り口前で停まる。
クリーム色の壁に浮かぶマーケットの文字。きちんとしたショッピングセンターの態を為している近代的な建物は、バリらしさには欠けるものの、明るい雰囲気に満ち満ちている。それは外観に限らない。マサキは広く開口している入り口から内部へと足を踏み入れた。巨大なスーパーマーケットといった趣きの売り場。エスカレーターもあり、建物の規模の割に狭い階段を上がらなければならなかったパサール・クンバサリと比べると、各階の行き来もし易くなっているようだ。
シュウが調べたところによると、どうやら純粋なバリのマーケットではなく、資本はフランスにあるらしい。通りでと納得するシュウを尻目に、マサキは事前に運転手に聞いていたコスメの売り場を目指すこととした。一気に四階に上がり、フロアの奥へと進む。そうして辿り着いたコスメ売り場は、背の高い棚がずらりと並んでいる。
バリのコスメが一堂に会する様は圧巻で、買う物を決めて来たとはいえ、何処にそれがあるのかを見付け出すだけで簡単に時間が過ぎて行きそうだと、マサキは思わずにいられなかった。
「すげえ。こんなに種類があっちゃ、確かにあっという間に時間が過ぎる」
「女性という生き物は大変ですね。この中から、自分に合った一品を見付けださなければならないのですから」
言葉とは裏腹な呆れ返った口振り。それはマサキも同様だった。
商品名が英語でない物も多いだけに、とにかく何がどれなのか把握するだけでも時間がかかる。仮に言葉がわかったとしてもこの物量だ。目当ての商品を見付け出すのは、至難の業。ここは言葉がわかるシュウに任せるしかないと、マサキは彼に続いてフロアの中を行ったり来たりしながら、棚を眺めて回ることにした。
「お前、それは何だよ。それは」
「プレシアだけに土産を渡して終わりという訳にも行かないでしょう。テュッティやミオにも渡しては」
気付けばあれもこれも良さそうだと手に取ってはカゴに詰めてゆくシュウは、どうあってもマサキに仲間たちへの土産を持たせたいようだった。それを呆れ半分で眺めながら、更にシュウについて回ること五分ほど。ようやく目的のエリップスを発見した時には、彼が手にしたカゴは七割方埋まってしまっていた。
「何だかんだで、俺よりお前の方が愉しんでる気がするよ」
「私の気持ちだとでも思ってもらえれば」
「気持ちねえ」会計を待ちながらマサキは呟いた。「サフィーネたちの分もあるんだろうな」
「まあ、少しは」
「あって良かったよ。一番お前が誰に迷惑を掛けてるかって、あいつらだもんな」
会計を済ませて荷物を両手に抱える。店を出て、再びタクシーに乗り込む頃には、時刻は5時近くになっていた。
「陽が傾いてきたな」
「夕暮れまではまだ時間がありますよ」
そろそろ西に傾きかけた太陽が、背の高い影を地面に映し出している。間に合うんだろうな。マサキが訊けば、「今の時期だと6時半頃に日の入りを迎えるようですね」既に調べ上げた後らしい。しらと云ってのけたシュウに、そうでなければわざわざ夕陽を見に行こうなどと誘いかけてくる筈もなしと、マサキは納得してタクシーのシートに深く身体を埋めた。
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