私、今更思ったんですけど、うちの白河は実にワガママ王子様ですよねえ。どこがこう、と詳しく指摘はしませんけど、「やることは置いておくから、それをやりながら大人しく待ってろ」って自分は地上にバカンスに向かうって相当ですよ。サフィーネたちは怒っていい。笑
ところで今回で、ようやくふたりが観光へと旅立ってくれたんですよ。ここまでの文字数、実に30000字超え! まさか承前にこれだけの文字数を費やすとは思ってもみませんでしたけど、とにもかくにもこれでやっとスタートライン。シュウマサと一緒にバリに詳しくなろうぜ! といった辺りで本文に入ろうと思います。
感想、拍手有難うございます! 気軽に投げていただけますと、私の「ふたりをべたべたさせる気」がかなりアップします。お陰様で、一回の更新で一度は引っ付かせるという目標を、今回も無事にクリアすることができました。笑 次回も頑張ります。
では、本文へどうぞ!
ところで今回で、ようやくふたりが観光へと旅立ってくれたんですよ。ここまでの文字数、実に30000字超え! まさか承前にこれだけの文字数を費やすとは思ってもみませんでしたけど、とにもかくにもこれでやっとスタートライン。シュウマサと一緒にバリに詳しくなろうぜ! といった辺りで本文に入ろうと思います。
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<Lotta Love>
時刻はいつの間にか8時に迫っている。
どうやらシュウはタクシーを借り出して観光に臨むつもりらしかった。流暢な英語で内線電話からフロントにタクシーの手配を頼むと、「酔い止めを飲んでおいた方がいいですよ」と、現地語で薬剤名が書かれたパッケージ化された錠剤を渡してくる。
「伊達に魔装機の操縦をしてる訳じゃないぜ。大丈夫だろ」
「相当に曲がりくねった道を往くらしいですからね。飲んでおいて損はないと思いますが」
「あんまり」マサキはシュウにパッケージを返す。「薬は好きじゃない」
健康優良児なマサキは、滅多に薬に頼るような事態に陥らないからか。いざ必要な機会に恵まれようものなら、一度の服用で症状の大半が消失するぐらいに覿面《てきめん》に効いたものだ。
ところがだ。その効き過ぎてしまう身体の過敏性が良くないらしい。副作用もまた覿面《てきめん》に出た。眠気を感じる薬では、寝ずにいられないほどの睡魔を感じたものだったし、寝ずに済んだとしても酷い眩暈に襲われる。しかもそれは一時的に留まらない。軽くても一時間ほど、どうかすると薬の効果が薄れる数時間後まで続いてしまう。
だからこそ、マサキは出来れば薬の類は口にせずに済ませたかった。
それをシュウは知ってか知らずか、まあいいでしょうと済ませ、それでも念の為に持ってゆくつもりなのだろう。小振りのトートバッグの中に、何本かのミネラルウォーターのボトルと共に仕舞い込む。
「俺にはバッグはないぜ」
「あなたの分のタオルやミネラルウォーターも入っていますから、心配は要りませんよ。貴重品はスマートフォンと財布だけでしょう。それだったら身に付けておけばいい。それとも他に何かあったりしますか」
「財布はウォレットチェーンがあるからいいとして、スマホがな。ネックストラップがあれば、落としたり失くしたり盗まれたりする心配もないんだが」
地上世界を転々と。世界各国を股にかけて戦ったこともあるマサキは、海外の治安が日本と比べて格段に悪いことぐらいは身をもって知っている。
そもそもラングランからして、治安の悪い地域はどうしようもなく悪いのだ。日雇い労働者が日々の糊口を凌ぐ為に僅かな仕事を奪い合うドヤ街もあれば、貧じて生まれた者たちが普通の暮らしに這い上がることさえ諦めて生きている貧民窟《スラム》だってある。警戒せずに足を踏み入れれば、三歩で財産を失えるギャングストリートだってあるぐらいだ。バッグを持ち歩かないマサキとって、ウォレットチェーンは必需品だ。
「なら、適当な店で買うことにしましょう。どうせタクシーでの移動ですしね」
ウォレットチェーンを繋いだ財布とスマートフォンをジーンズのポケットに収め、タクシーが到着するまでの間。マサキは何をするでもなく、籐椅子の上にいた。
シュウはその僅かな時間も惜しいのだろう。すっかり定位置と化した長椅子の上で、マサキが今朝方まで読んでいたロボット工学の本を読み進めている。マサキとしては、よもや観光にまで本を携帯するつもりではないかと気が気ではなかったものの、流石に昨晩マサキの相手をしなかった結果、その機嫌を損ねたことは覚えていたようだ。フロントからタクシーの到着を告げる電話を受けたシュウは、本をテーブルの上に置くと、トートバッグを肩に。マサキと手分けをして戸締りを簡単に済ませると、青空の下。眩い陽光が降り注ぐ敷地内へと足を踏み出して行った。
観光、観光と騒ぎ立てても、方向音痴である事実は変えられない。「あんまり早く歩くなよ」マサキはシュウの後を追った。
途中でフロントに寄って鍵を預け、受付のスタッフに案内されてタクシーへ。先ずは北のウブド地方へ向かうのだという。市街を走るタクシーと比べると明らかに高級な車体。シュウが英語の通じるドライバーを希望しただけあって、意思の疎通はスムーズに行われているようだ。マサキには聞き取れない箇所もあったものの、話が纏まるのは早い。
「忘れ物はありませんか」
「財布とスマホだけだしな。足りない物は買えばいいんだろ」
開いたドアからタクシーに乗り込み、その後部座席にふたりで身体を収めると、やがてゆっくりと走り出したタクシーが、スタッフに見送られながらヴィラを後にする。
いつの間にか手に入れたらしい。トートバックから取り出した観光マップを隣で広げ始めたシュウに、マサキはその手元を覗き込む。現在位置はここですよ、とシュウが指を指したのは、バリ島の南に細く突起状に競り出している土地の西側。海にほど近い場所だった。
「私たちが今向かっているのは、この東西に広がった土地の中央にある世界遺産。ジャティルイという名の棚田ですよ」
「棚田?」
「段々畑は知っているでしょう。あれが畑ではなく水田になったものです。英語ではライステラスと呼びますね」
「そのまんまだな。でもその方がわかり易い」
観光マップに記されている観光スポットを示す印。そこにふられた数字が、マップの端に書かれている説明文にふられた数字と対応しているようだ。
説明文は当然ながら英文。中学英語ぐらいしか記憶にないマサキでは何が書かれているかは殆どわからなかったが、そこは博士号持ち。英語や日本語に限らず、ラテン語や独語などの読み書きも習得しているシュウが、事前に仕入れていたらしい情報と合わせて、ジャティルイの特徴を詳しく説明してくれた。
バトゥ・カウの山の麓《ふもと》にある棚田、ジャティルイ。なだらかな丘陵地帯に広がる水田は、バリに八世紀頃から存在している水利組合《スバック》が行った農耕事業で作られたものなのだそうだ。
水利組合スバックは、部落といった地域集合体からは独立した運営形態を持っていて、凡そ九百ほどの団体が存在しているとか。農地によって水源が異なるからこその細分化は、ひとつの部落にいくつかのスバックが存在していることからも明らかなようだ。
棚田を生かすも殺すも水次第。その管理を一手に引き受けているスバックには、他には宗教的な側面も持ち合わせているらしい。豊穣を祈る祭祀を司るのもスバックの役割のひとつ。スバックはそれぞれが寺院を抱え、稲の女神デウィ・スリや水の神ブタラ・ウィスヌといった農耕に関わる神を祀り、それらに祈りを捧げながら水の管理に励んでいる。
「バリの宗教は、日本と同じく万物に神が宿ると考えるアミニズムと、ヒンドゥー教が結びついたものであるそうです。だからでしょうね。スバックが管理する農耕にもその思想が取り入れられているのだとか。トリ・ヒタ・カルナ、サンスクリット語でトリは3を、ヒタは安全や繁栄、喜びを、そしてカラナは理由を意味するそうです。これはヒンドゥー教哲学で幸福に関わる三つの要素を表したもの。神と人と、人と人と、人と自然の調和を重視する考え方は、寺院で清められた水を棚田に用いているところからも窺えます」
「ラ・ギアスの精霊信仰も、万物に精霊が宿るって考え方だよな」
ご明察、とシュウが微笑む。そのまま彼は、マサキに説明するべく言葉を継いだ。
「破壊、調和、創造といった三つの神によって支えられている三柱神信仰に対する精霊信仰は、万物に霊魂が宿ると考えるアミニズムと同一のものです。但し、地上世界の神や精霊は、ラ・ギアスのようにその姿を現すことはありませんがね」
「破壊、調和、創造といった三つの神によって支えられている三柱神信仰に対する精霊信仰は、万物に霊魂が宿ると考えるアミニズムと同一のものです。但し、地上世界の神や精霊は、ラ・ギアスのようにその姿を現すことはありませんがね」
「地上の神々や精霊も、上位の次元に存在しているのかもな」
「その謎が解き明かされる為には、地上の科学力では、もう暫くの時間が必要になることでしょうね。いずれにせよ、バリがアミニズムを元とした宗教観に支えられているという点には注目すべきですよ。宗教観というものは、景観にも影響を与えるものです。ジャティルイにラ・ギアスのような世界が広がっていてもおかしくはない。そうした共通点を探してみるのも面白いかも知れませんよ」
まだ店が開けきらぬ街を抜けて、北へと。次第に自然が増してゆく景色を車窓に映しながら、タクシーは一路、ジャティルイに向けてひた走った。タクシーの運転手の話では、順調に行けば一時間半ほどでジャティルイに到着するらしい。観光マップではバリ島を半分ほど縦断しているように見えるヴィラからジャティルイへの道のりは、その程度のものでもあるのだ。
観光マップを眺めながら、あれこれ会話をしつつ一時間ほど。バトゥ・カウ山に入ったタクシーは、昏き山の中、車窓の右手に寺院を映しながら、道を左に折れた。ここからの道があまり良くない。つづら折りとまでは行かないものの、右に左にと思い出したように曲がるを繰り返す。暫く真っ直ぐな道を行ったかと思えば、大きく左に曲がったり、左右に細かく折れたりと、とにかくゆっくり車の中で落ち着かせてくれない。そんな道のりを二十分も行けば気持ちも悪くなろうというもの。
「……気持ち悪い」
込み上げてくる胃の不快感。右手前方に目的地たる棚田が見えてくる頃にはすっかり酔いが回り、マサキはシートに身体を折るようにして、吐き気と戦うしかなくなってしまっていた。
「だから云ったでしょう。ほら、マサキ。薬を飲みなさい。酔ってからでも効果はあるそうですから」
渡された薬を、これもまた渡されたミネラルウォーターで流し込む。そのままシートに深く凭れるマサキをシュウの手が引き寄せた。「横になった方がいいでしょう」膝に乗せられる頭。身体を折るようにして、マサキはシュウの膝に頭を預けながら横になる。
マサキの頭の位置からは、シュウの顔と抜けるような青空ぐらいしか見えなかったものの、どうやらタクシーは村の入り口に辿り着いたようだ。タクシーの窓越しに、シュウが観光料金を支払っている。その観光料を徴収している村人は、先ほど話に出ていたスバックの人間らしい。成程、こうした役割も彼らが担っているのか……気持ち悪いながらも、マサキの好奇心は健在だ。時々、頭を起こして外の景色を眺めようとしては、シュウに寝ているようにと頭の位置を元に戻されたりしながらも、やがて駐車場に辿り着いたらしい。ようやく停車したした車に、マサキはほうっと人心地付いた。
少なくともこれで、自らの力ではままならない揺れに悩まされることはなくなる。
「少しは良くなりましたか」
「あー……もう少し」
「少しは良くなりましたか」
「あー……もう少し」
そこから二十分ほど。時折、思い出した風にマサキの髪を撫でるシュウと、マサキの様子を案じているらしいタクシーの運転手の英語で繰り広げられる会話を耳にしつつ、車の中で横になり続けたマサキは、次第に緩和されてゆく胃のむかつきが、動き回るのに充分なところまで和らいだところで身体を起こすことにした。
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