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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Night End(了)
終わりました!有難うございます!

もしかしたらその内、短い番外編を書くかもしれませんが、今回はこれまで。
前編通じて産みの苦しみはあれど、とても楽しく書き上げることが出来ました。

これもひとえに温かく見守ってくださった皆様のお陰です。
これで一旦、30の物語の更新はお休みを頂きます。

明日からはバレンタインネタの更新に励みます。どちらもよろしければお楽しみください。
では本文へどうぞ!
<Night End>

 王都に近い空港にマサキが降り立った時、その姿は様変わりしていた。
 栗色に染め上げられて分け目を変えた前髪に、世界が曇って見えるほどに質の悪い伊達眼鏡。緩く身体を覆うラングランの平服姿で、無駄な手荷物を持たずに空港を出たマサキは、鉄道を使うべく駅に向かった。
 我ながら笑いを堪えるのに苦労するほどの変装をマサキに施したのは、当然ながらシュウだ。
 ――この恰好は流石に巫山戯てないか。
 一夜を過ごしたホテルで自分の姿を鏡に映してみたマサキは、余りにも珍妙な己の変装姿を目の当たりにして、それを満足げに眺めているシュウに、思わずそう云わずにはいられなかったものだ。
 空港でオークションの参加者の目に留まらぬようにとさせられた変装。こうして無事にラングラン州に入れた以上、直ぐに解いても問題はなかったものの、どうせだったらセニアの反応を見てみたい。そう思ってしまったマサキは、その恰好のまま列車に乗った。
 きっとシュウもそれを期待して、マサキにこういった恰好をさせたのだろう。
 そこそこ人が溢れている車内。平日だけあって、指定席は空いたものだ。直前に取った指定席に向かったマサキは、その座席シートに深く腰を埋めた。高級ホテルに泊まりながらも殆ど眠らずな夜を過ごしたマサキは、番人生活にあった日々よりも疲れを感じていた。
 ――かけた金額の分は愉しませていただかないとね。
 あの男にホテルに連れていかれて、ただで済む筈がないのだ。
 首に掛かった鎖を室内に繋げられ、ひたすらに弄ばれた快楽の一夜。行動制限魔法で動きを限られているマサキの術を解くこともせず、にシュウは何度もその身体を抱いた。顔を合わせることすらままならなかったこの半月余りの不足を埋めるように。
 髪に、肌に、未だその温もりが残っているような気さえする。
 やがて王都に向けて、ホームから列車が旅立つ。極限まで振動を押さえられた車内は快適だ。三時間程度の列車の旅では、疲れが癒えるほどの睡眠は取れそうになかったけれども、次は奴隷生活を送る商品たちの奪還戦だ。直ぐに忙しくなることがわかっている以上、少しの暇《いとま》も無駄には出来ない。
 目を閉じて、僅かに身体に感じる振動に身を任せる。
 リストの入った大事な荷物を庇うように抱える振りをして、マサキは自分を身体を抱き締めた。思い出さないようにしても、思い出されてしまう昨夜の情交。鮮やかに蘇る男の愉悦に満ちた表情の数々に、そして身体に残る行為の感触の数々に、気が高ぶってしまって眠れそうにない。
 ――お前、あの男に何を云ったんだ。
 ――こんな時にそれを尋ねるなんて、情緒の無い人だ。
 不意に思い出された残されし謎をシュウにぶつけたのは、何度目の行為の最中だっただろう。延々と繋げられたままの身体を軽く突き上げられて、再び息が上がり始めた矢先のことだった。
 ――モニカとあなたを絡ませると云ったのですよ。
 そんなマサキにシュウは苦笑しきりながらも、あっさりと答えを口にしたものだった。そして、それ以上は無駄口を叩かせないとばかりにマサキの身体を抱き寄せて、何度も、何度も――……。
 身体の芯が熱く火照る。それでもマサキは目を開くことはしなかった。
 目を伏せているだけでも、幾許《いくばく》かの疲労は抜けてゆくものなのだ。マサキは目を閉じ続けた。そしてゆっくりと自分がこれから戻ってゆく日常を思い浮かべた。セニアに会い、プレシアの元に戻り、暫く離れていた仲間にこれからの助力を乞う。そしてテュッティへの報告を済ませて、次の戦いの地へと旅立つ……。
 眠れぬ戦場で身に付けた疲労回復術をこんな形で生かすことになろうとは思わなかったものの、今はそれが有難い。マサキの騒ぐ胸は、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
 そして突然に訪れる無音の世界。
 次に目を開いた時には、在るべき日常の世界が、マサキの眼前に広がっていることだろう。脳裏を過ぎる一夜の思い出に、幾度か目を覚まさせられながらも、やがてはマサキは音のない世界に誘われるかのように、深い眠りに落ちていった。


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