やっと次回で終わります!!!
これで明日からのバレンタインも無事に始められますよ!
読み返すと記述が足りないところや整合性が合わないところがあったりして、こうして連載することの難しさを痛感している@kyoさんですが、ちょこちょこと直しを入れていますので、その内こちらの記事にもそれを反映させようと思います。気になる方は時間を置いて読んでいただけると有難いです。
いつもぱちぱち有難うございます!
お陰様でどうにかバレンタインネタが間に合いそうです。感謝の極みです。有難うございます。
と、いうことで本文へどうぞ!
これで明日からのバレンタインも無事に始められますよ!
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<Night End>
彼らが一時的に身を寄せているらしい屋敷は、天蓋に覆われた繁華街のあった巨大都市を抜け、州をまたいだ先にあった。モニュメント風に刈り込まれた木々や生垣に、ローズガーデン。手入れの行き届いた庭園を従えたそこそこの大きさの屋敷は、見た感じ二十ほどの部屋数がありそうだ。
二時間ほど掛けて辿り着いたそこでモニカとテリウスを降ろし、マサキを自分を隣へと乗せ換えたシュウは、サウスウィンストンホテルへ――と、次の行き先を運転手に告げた。
「俺の首輪と鎖はいつ外してくれるんだ」
降り際にモニカの首輪と鎖の鍵をテリウスに渡したシュウに、マサキが尋ねると、「あとできちんと外して差し上げますよ」との返事。「人身売買組織が幅をきかせている地域ですからね。奴隷を連れて入れる宿泊施設も多い」
「今から行くホテルがそうだって?」シュウの話はいつも突然に切り替わる。
彼はそこに至るまでの説明を先にするのは時間の無駄とばかりに、結論を先に口にすることが多かった。恐らく、気忙しい性格をしているからなのだろう。何を云われているか理解が及ばない相手に対してのみ、ゆっくりと時間を掛けて説明する。
短くはない付き合いだ。そんなシュウの論理展開にも大分慣れたつもりではあったが、それでも稀には理解が追いつかなくなることもある。それがマサキの表情に出ていたのだろう。だからなんだと云いたくて堪らないマサキに、
「これから行くのはオークション会場から一番近い空港の近くにあるホテルです。それは空路で来たオークションの参加者と、鉢合わせする可能性があるということでもあります。ですから出入りの時ぐらいはそれを嵌めていて貰わないと」
「あいつらと鉢合わせするのは勘弁して欲しいもんだ」
「念の為、ですよ。それとも……」そこでシュウはそっとマサキの耳元に口唇を寄せると、「趣味と云って欲しかったですか」
囁きかけられた言葉と濡れた舌の感触に、咄嗟にマサキは身体を引いていた。そして、うっすらと笑みを浮かべているシュウを睨み付け、「巫山戯たことを……」自身の身体にかかっているシュウの手を弾く。
どういった繋がりかはわからなかったが、運転手という他人の目のある車内。恐らく、運転手は相当に口が堅いのだ。でなければ、どうしてこうもシュウが本性を露わにしてみせたものだろう。それに、彼に対して気を許しているらしい振る舞いをしてみせたテリウスやモニカのあの態度。余程の信用が置ける相手でなければ、彼らはそんな真似をしない。
だからといって、見られたい関係ではない。
シートに置いた手にシュウの手が重なる。指を絡められて、マサキはびく、と身体を震わせた。
「そうでしょうかね。私が彼に云った言葉の内容を誤解して想像してる辺り、どうもあなたは何かを期待しているようだ」
「ないって云ってんだろ。お前、いい加減に」
ふふ、とシュウが嗤う。変わらぬ人を食った笑みに、揶揄《からか》われていただけだったのだとマサキは気付くも、一瞬のこと。彼は次の瞬間には何事もなかったかのように表情を戻すと、マサキから手を離して、運転席のシートポケットの中に収めていた個人用端末を取り出した。そして画面を開くと、システムを起動させる。
「知っている顔も幾つかありましたし、それなりの数の参加者と名刺交換もしましたよ。今日の参加者の人数は二百七十人ほどだったようですが、ほぼ全ての参加者の個人情報《パーソナルデータ》を入手したと云っても過言ではないでしょう。偽名を使っている可能性もなきにしもあらずですし、その辺りはきちんと裏付けを取る必要がありますが、簡易的なリストでよければホテルに着くまでに作成しておきましょう」
「ああ……そうだな。そうして貰えると有難い。裏取りは情報局の連中と手分けしてやるさ」
「なら、少しだけ手伝っていただけますか。この名刺の向きを揃えて欲しいのですが」
そう云って、シュウが自らの衣装の内ポケットから名刺の束を取り出す。分厚くも成果が窺える量。それをマサキは受け取って、尽きることのない太陽の光が薄く差し込む中、上下を揃え始めた。
「横向きの名刺はどうすればいいんだ」
「左側が上になるようにしていただけると有難いですね」
流石に手が早い。次から次へと名刺に書かれている情報を素早く打ち込んでいくシュウを、のんびり眺めている暇はなさそうだ。
「そういや、例のテュッティの知り合いの情報局員は」
「三日ほど前に救出を終えて、今は先ほどの屋敷で薬を抜いている最中です。薬を打たれていたのは短い間だったようですが、濃度が濃かったのでしょうね。離脱症状が激しい。激しく暴れるので、迂闊に他人とは会わせられない状態です。経過観察は私が、日常的な世話はサフィーネが行っていますが、彼女も私もこの有様ですよ」
シュウが腕を捲ってみせた下には、指の痕のくっきりとした痣がいくつかと、蚯蚓《みみず》腫《ば》れとなった無数の引っ掻き傷があった。
「そうか……迷惑をかけるな」
「本当に」シュウは腕を隠した。「モニカの代金の内、一億はセニアのポケットマネーですが、あなたに支払った一千万は私の個人資産ですしね。割に合わないくらいに今回は金を使いましたよ」
だのにどこか愉し気に映る横顔。
どうもマサキがちらとシュウに聞いた話によると、彼はその類稀なき知能で、様々な手段を用いて資産を増やしているらしい。例えば特許、例えば投機、例えば不動産……その方法は上げれば枚挙に暇がないほどだ。勿論、それは自分たちの活動資金にする為であるのだが、見目と異なり好奇心の強い彼のこと。様々な方法を試している内にマネーゲームが面白くなってしまったようだ。
その結果、気付いたらとんでもない額の資産を形成してしまっていたらしい。自分たちが保有する戦闘用|人型汎用機《ロボット》を改修しても、尚残る巨額の富。方々に寄付を繰り返しても減らない資産を、どう使い切ったものかと、彼は珍しくも悩んでいる様子だった。
それを一部ではあるものの、思い切って使えたことが面白くて堪らないのだろう。しかも使い先はマサキである。これで愉しくない筈がない。
「幾ら使い切れないほどの資産を持っているとはいえ、これからもっと金がかかることをするのですから、少しは私を労って欲しいものですよ。ねえ、マサキ」
そんなことを軽々しく口にしてみせるのも、今のシュウが上機嫌だからだ。
「肩ぐらいなら揉んでやるよ」
「上手い返しを思い付いたものですね」シュウは可笑しくて堪らないといった様子で笑った。「ではホテルに着いたら、存分にマッサージをして頂くことにしましょう」
車窓に流れゆくのどかな街並み。暫く、シュウがキーを叩くだけの音が車内に響く。
沈黙が矢鱈と居心地悪く感じるのは、きっと、先ほどまでの車内が賑やかだった所為だ。若しくは、慣れない生活を続けていて里心が付いてしまったか……マサキは揃え終えた名刺をシュウに渡し、暫く黙って窓の外を眺めていた。
――自分にはこういった仕事は合わない。
テュッティには任せられないと反射的に潜入することを決めてしまったマサキだったが、それがひと段落着いた今となっては、それは無謀な試みであったと思わざるを得なかった。今回の自分の行動を振り返ってみれば、あまりにも不甲斐ない立ち回り。人には向き不向きがあるのだとはいえ、マサキにとっては目的を自分で果たせなかったことが悔やまれたものだ。
だからといって、今後、同じような状況に陥らないとも限らない。モニカのように堂々と振舞えるだけのスキルを身に付けなければ。マサキは気持ちを新たにして、シュウを振り返った。
黙々と入力作業を続けている男は、マサキに気を配っている余裕はないのだろうか。それとも、彼は彼で何か考えたいことでもあるのだろうか。ふと訪れてしまった沈黙に、マサキは惑っていた。
――そういや、資金源を断つって簡単に云ってやがったが、どうやってやるつもりなんだ。
沈黙に耐え兼ねたマサキがシュウに聞いてみたところによると、思ったより素直に答えが聞けた。そろそろ入力が終わりそうだというのも、シュウの口を軽くしている原因なのだろう。どうやら危害を加えるといった直接的な手段は一部に留めて、大半は間接的な手段――彼らが保持する資産を減らす方向で、計画を進めているとのこと。
「ただ彼らの息の根を止めるだけでは、直ぐに足が付くでしょう。それに、私たちの目的は彼らが自由に使える資産を減らすことであって、命ではない。なあに、大したことではありませんよ。彼らが保持している資産が減るように、少しばかり市場操作をするだけです」
「何でてめえはそうやって話をでかくするかな……」
深く溜息を洩らして、マサキは頭を振った。
趣味と実益を兼ねたマネーゲーム。市場操作ということは先物か、それとも株か。いずれにせよ、シュウは使い切れない資産に相当の鬱屈を感じていたようだ。マサキの批判めいた言葉もなんのその。「教団の力を削ぐには、そのくらいの規模で動かなければならないということですよ」しれと云ってのけた。
窓の外に流れる景色が徐々にその賑やかさを増したかと思うと、空を舞う飛行機のエンジン音が近く響くようになる。
そろそろ空港が近いようだ。
遠景にあった背の高い建物の群れが、ゆっくりと近付いてくる。空を舞う機影が近く降りては昇ってゆく。まるで不夜城のように聳《そび》え立つ高層ビル群の谷間を縫うように走る道路を往けば、目的地のホテルに着いたらしい。やがて、ふたりの乗る高級車は、その中のひとつの建物の正面玄関前に滑り込んだ。
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