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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Night End(10)
昨日の夜と今朝にお休みをいただいた分、頑張りました。

もう直ぐこの話も終わりですね。
いつもそこそこの長さの話で終盤に近付くと、安心感と寂しさを感じるものですが、今回はまだ気が抜けない状態にいます。それだけ私が何も決めずに、筆の進むままに書いているということなのですが、この終盤に来て、未だに考えているエンディングに無事着地するかどうかわからないってどうよ!?笑

いつもぱちぱち有難うございます。お陰様でここまで来れました!
と、いうことで本文へどうぞ!
<Night End(10)>

 オークションの会場は、夜になると活気付く歓楽街の中央にあった。
 天蓋で覆われた空の下、燦然と猥雑なネオンを輝かせる巨大なストリップ劇場。掲げられたビルボードに、あられもない姿の女たちが描かれている。ピンクを基調としたけばけばしい建物に面する広場には、オークションへの参加者たちが乗って来た高級車がずらりと並んでいた。
 ショー要素の強いストリップショーを展開している劇場内では、普段は色の強い照明や舞台装置が使われているようだったが、こと今日に至ってはオークションに備えてだろう。どこぞの会館かと見間違うほどに、すっきりと整えられている。
 モニカを他の番人たちに任せたマサキは、例の男とふたりで物見遊座と、会場の後方から今日のオークションに参加する客たちを眺めていた。
「こんなことをしていていいのかね」
「まあ、見るだけ見とけ。新入りのお前にはいい経験になる」
 高額商品が出品されるとだけあって、三百もの観客席は満員御礼。誰も彼もオークションの開始を今か今かと待ち侘びているようだ。
 きらびやかな衣装に身を包んだ彼らの中には、他国から足を運んだと見られる客の姿もちらほらと見受けられた。
 静かな熱気に包まれた会場内を観客席の後方から見下ろしながら、マサキはシュウを探した。
 中央より前列。右端にそれらしい黒髪が窺える。隣に居るのはテリウスだろう。髪を黒く染め、オールバックに撫で付けている。相変わらずなぼんやりとした顔立ちながらも、物珍しい場所にいる好奇心を抑えきれないのか。今日の出品物が印刷されたパンフレットを片手に、少々興奮気味といった様子で、何事かシュウに話しかけている。
 どちらも下手な変装だとマサキは胸の内で呟く。
 髪と眼の色を変えただけの簡素な変装。そこに衣装の変化を加えただけで、人はこうも騙されるものなのだ――。黒を基調とした正装に身を包んでいるふたりの畏まった姿に、思わず緩んでしまいそうになる口元を引き締めつつ、マサキは他の参加客を顔ぶれを確認しようとして、ようやく鳴り響いたオークション開始の合図であるアラーム音に、ステージ上へと顔を向けた。
 予定開始時刻から三十分遅れ。ステージ上に護衛を連れて姿を現したのは、マサキの雇い主だ。
 ――本日はこのような場にお集まり頂き誠に有難うございます。本日のオークションを主宰させて頂きます……。
 内容ばかりは真っ当な前口上。内容に見合わぬ手堅さで纏め上げられたスピーチの内容は、特筆すべきものはないほどだ。今日を無事に迎えられた礼に、組織としてのオークションへの関わり方、参加者の個人情報の保護、商品の引き渡しに関する手順など……必要な事柄に絞ってのスピーチはは、五分ほどで終わった。
「それではオークションを開始します!」
 入れ違いに、司会進行役の男がステージ上に姿を現す。見覚えのある顔。裏社会の人脈は及ばぬところに及んでいるものだ。主にテレビで活躍している司会業の男は、堂に入った司会者ぶりでオークションを仕切り始めた。
 間を置かずに、ステージ上にひとり目の商品が姿を現す。十歳に満たない男児。きっと正常な精神状態であれば愛くるしい顔立ちだっただろう。鎖に繋がれたままステー上に連れ出された男児は、自分の身に何が起こっているのか理解しきれていないに違いない。不安そうな表情で辺りを窺っている。
 将来性のある子どもや少年少女は買い手が付き易いのだそうだ。そのお陰だろう。消極的な態度でありながらも、思いがけない値が付いた。
 それが終われば次の商品の登場だ。ずっとネイルアートを自分の爪に施していた女性。マサキたちにもどうかと声を掛けてくれたこともある彼女は、売られて行くには少々歳の行った年齢ではあったが、見目麗しい容姿が幸いしたのだろう。こちらも無事に買い手が付いた。
 それが終われば次、また次と、ひとつの商品につき、五分から十分ほどの時間でオークションは進んでゆく。買われろと望むのも可笑しな話ではあったが、彼らを救い出したいマサキとしては、その自由な未来の為にもそうとしか望めなかった。
 マサキは祈るような気持ちで、ステージ上に上がる彼らの姿を見守った。
 中には豪胆にもポーズを取ってみせる商品もあった。
 自分の運命を受け入れているのだろう。商品であることを割り切れる者の姿を見るのは、どうしようもなく辛く感じられるものである。それは、非日常的な生活に慣れいるマサキであっても胸が痛んだほどだ。しかし、その態度は、好事家たちには大いに受けた。それもあってか、彼女も無事に売れて行った。
「これは報奨金《ボーナス》も、かなりの額が期待出来そうだ」仕事を変えたい男は上機嫌だ。
 今日を迎えた商品の数は、モニカを除いて十五点。貴族階級の子息子女が三点、土地の有力者の子息子女が五点。残りの七点はその容姿の麗しさを買われて拐《かどわ》かされた者たちだ。
 そのどれもが無事に捌け、そのどれにも普段では考えられない値が付いた。
 そして、ついにその瞬間が来た。
 会場の明かりが絞られ、ステージ上にスポットライトが灯る。上手から先導を務める男が手にした鎖を慎重に引きながら姿を現し、続いてモニカがゆっくりと進み出て来る。彼女の気品溢れる姿を目の当たりにした参加者客は、口々におおと声を上げた。
 絹のエンパイアドレスに身を包み、髪をルーズなアップスタイルに結い上げ、身に付けた装飾品も華やかに。可憐にして優雅、繊細ながらも大胆。自らの運命をこの期に及んで諦めていない、精彩に満ちた瞳。気丈夫にステージに立つモニカの磨かれた容姿と所作は、一瞬で会場内の参加客たちの心を掴んだようだ。
 その目にすることすら躊躇われるほどの品格は、まるで、かつての王族が栄華を極めた時代が蘇ったような錯覚すら覚えさせたものだ。それは参加客たちから言葉を奪った。彼らは一様に口を結び、固唾を飲むようにして、彼女がステージ前方に進み出るのを見守った――……。
「本日最後の商品になります。モニカ=ビルセイア。神聖ラングラン帝国が元王族にして、かつての王位継承権第二位の元王女。これ以上の説明は必要ないことでしょう」
 司会の男はそうして観客席を一望すると、より良く通る声で宣言した。
「それでは、オークションをスタートします。スタート金額は五千万クレジットから!」
 六千、七千、八千と矢継ぎ早に声が飛ぶ。九千、一億、と更に金額が上乗せされ、そこから刻む金額が変わった。一億五千万、二億、二億五千万……マサキはシュウの後姿を凝視《みつ》めた。
 まだ動くつもりはないらしい。
 三億五千万で一度場が止まる。「三億五千万! 他、ありませんか!」司会の男がハンマーを構えると、三億八千万! と声が飛び、再び場が動いた。三億九千万、四億と更に値段が上がる。初めに登場した子どもに付いた値が五万クレジットだと考えると、正気の沙汰とは思えない。
 四億を超えて、刻み幅が小さくなった。
 四億百万、四億二百万……どうやら、彼らの中でのモニカの価値のボーダーラインは四億ぐらいにあるらしい。暫く細かく金額が刻まれる。百万から五十万と桁を変えて刻まれ続けた金額が、四億二千万を超えた辺りで、四億五千万! と勝負に出る客が出た。
 これで決まると思った客が多かったのだろう。瞬間、会場が大きくどよめく。
 数秒の間。続く客はどうやらいないようだ。「四億五千万! 他、ありませんか!」司会の男が再びハンマーを構える。
 モニカの前の貴族の子女に付いた値段は、御祝儀価格で五百万クレジット。普段であれば、百万から二百万の間で売れるらしい。と、いうことは、この時点で実に通常の二百二十五倍もの値段が付いたことになる。小さな国なら国家予算にも匹敵する金額だ。
「他、ありませんか! なければこれで」
 司会の声のみが響く会場内に、五億と良く通る低い声が放たれた。
 幾らの資金を用意してきたのかは不明だが、シュウが勝負に出たことだけはマサキにもわかった。金額を大きく釣り上げてみせたのがその証拠。しかし競り相手は退かない。五億一千万、と声が飛ぶ。
「五億五千万」
 隣に居るテリウスが肩を震わせているのは、笑っているのだろう。当たり前だ。この終盤にこれだけの金額で刻むなど、正気を疑うどころでは済まされない。紛れもない狂気の沙汰。シュウは絶対に勝つ為に、相手の気持ちを折る作戦に出たのだ。
「五億五千万! 他、ありませんか!」
 会場から声が上がることはもうない。
「なければ、これでハンマープライス!」司会の男がハンマーを叩く。「モニカ=ビルセイア、五億五千万で落札が決定しました!」

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