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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

Night End(9)
残り、あと二、三回というところまで来ました。今回はひたすら地の文が続く回です。
ある意味予想された展開でもないでしょうか。

と、いったところで、
ぱちぱち&感想有難うございます!

いやいやもう本当に有難い限りです。皆様のお陰で、より一層、頑張ろうという気になれます!

公式でも白河たちが暗躍している様子の描写はありますが、取り立てて深く掘り下げられてはいない様子でしたので、それだったら私が書くね! となりがちな@kyoさん。今回もそんな彼らのある意味下衆な活動っぷりを書けたので、私としてはとても満足です。更に次回以降はようやくシュウマサでもあります。今から書くのが楽しみで仕方がありません。

お陰様でリストの方は20を超えました。早くこれを埋めきって、消化する方に回れればと思っております。本当に好き勝手に書き散らかしているだけのこの企画に、お付き合い頂けて嬉しい限りです。残りも頑張りますので、良ければお暇な時に覗きに来て下さいませ。

と、いったところで本文へどうぞ!
<Night End>

 シュウの後に買い物を済ませたマサキは、迷いに迷いながら酒場へと辿り着いた。それでも、土地勘のない場所にしては、目的地に早く辿り着けた方だろう。昼下がりの酒場に居たのはあの男を含めてふたりだけになっていたけれども、彼らはマサキが手にしている荷物を見ると、ある程度時間がかかるのも仕方ないことと納得しているようだった。
 酒を飲みながら彼らに話を聞くと、男たちは既に一戦を済ませた後だとか。姿の見えないひとりも、今まさに引っ掛けた女と安宿《モーテル》にしけこんでいる最中。「お前もどうだ。ここはちょっと値が張るが、いい女が揃ってる」とは云われたものの、マサキにその気はない。
「それよりもマッサージを受けたい気分だ。あちこちが張って仕方がない」
 そうマサキが云うと、男たちは仕方がないと云った様子で笑った。彼らとくだけた付き合いをしているように見えても、マサキはまだまだ新入りとしか呼べないようなキャリアしかないのだ。仕事の疲れが彼らよりも多く出るのは当然のこと。それが男たちを安心させているようだった。
 酒場を出たのは夕刻だった。
 ジャケットを二着、インナーシャツを五着、ボトムを三本、そして細々とした下着類。結構な量になってしまった荷物を荷台に乗せて、自らもその隣に腰を落ち着ける。街道から轍残る横道へ。寂れた町に入れば後は早い。十分ほどの道のりで辿り着いた洋館に、少々気が重くなりもしたものの、ようやくひとりで身体を休められる安心感にマサキはほっと息を吐いた。
 短くも長い休日は、こうして終わりを告げた。
 例の男は組織の事情にある程度通じている筈だったが、シュウの云っていたオークションについての情報は、開催されるということも含めて聞けずじまいだった。まだ情報が入っていないのか、それとも休みの日に仕事の話を持ち込まない主義なだけなのか、マサキにはわからなかったけれども、ここから出られるかも知れないという希望はマサキの気持ちを大分楽にしてくれたものだ。その日の夜は、自分でも信じられないくらいに深い眠りを得た。
 結局、男からオークションの話が聞けたのは、翌日の番に向かう通りがけだった。
 ついにモニカが売られることが決まったと、男は些か興奮気味に捲し立てたものだ。それもその筈。売れた金額の如何によらず、この館に詰めている者たち全員に、臨時の報奨金《ボーナス》が出ることが決まったのだ。
「纏まった金になるようなら、そろそろ配置を変えて貰うことも考えている。ここはあんまり長く居る場所でもないしな。太陽の光が恋しくなって仕方がない。辛気臭い商品の相手をするのも疲れるし、キャバレーの用心棒に戻ろうかと考えているところだ」
 男にとってはモニカの去就よりも、報奨金がどれだけの額になるかの方が大事なようだ。
 そのついでに聞かされたところに依《よ》ると、現在房に入れられている商品たちも、全員がオークションに出されることが決まったそうだ。野心家の男としては、彼らを前座に、そしてモニカを目玉商品に置くことで、双方の値の釣り上げを期待しているらしい。
 どこまでも強欲な、とマサキは思いもしたが、裏社会ではそのぐらいの気概がなければのし上れないのだろう。オークションで得た資金で裏社会での影響力を強めたい思惑らしいとは、男の弁だ。
 何にせよ、商品の消息を追い易い展開になったのは、マサキに取っても有難い話だ。
 出来れば彼らぐらいは、この醜悪な世界から救い出してやりたい。それはマサキがここに来た時から望んでいたことでもあった。何より、世話を続けていれば情が湧く。ひとりひとりの顔を思い浮かべながら、彼らの為にもと堪え続けた日々。短い期間ではあったが、その忍耐が報われる結果になるようにとマサキは祈らずにいられなかった。
 そうして迎えたオークションの日。
 朝から地下は騒がしかった。オークションの開催は夕刻から。それまでに、彼らに出品される商品に相応しい飾り付けをした上で、会場に運び込まなければならない。館の人間を総動員する勢いで、暴れたり泣き喚いたりする彼らを身綺麗にし、衣装で飾り立てては、搬送用の護送車に乗せてゆく。
 朝も早くから始まった作業は昼下がりまで続いた。
 モニカを除く全ての商品が洋館から護送車で搬出されて行ったのが、オークション開始の二時間前。男に聞いたところに依《よ》ると、会場までは片道一時間半ほどかかる予定だと云う。僅かな余裕しかないスケジュールに、マサキはただただオークションが無事に開催されることを願った。
 彼ら商品たちの為にも、彼らには一旦、外の世界に出て貰わなければならない。そう、今回はいつもとは救出方法が逆なのだ。組織を潰さずに彼らを救い出す為には、彼らが買われるのが絶対条件になる。
 いつまでも陰気な地下室に籠られていては、助けられるものも助けられなくなってしまう。とにかく、彼らが無事に買われて行くことを願うしかない。マサキは祈るような気持ちで彼らを見送った。
 最後に残されたモニカは――、マサキたちを前にごねていた。
 飾り立てられることには抵抗しなかったモニカだが、搬出されるのは嫌とみえて、支度が終わった昼から延々嫌だ嫌だと駄々を捏ね続けてくれたものだ。
 高額商品だけあって、手荒な真似が出来ない。そもそもモニカにだけは乱暴を働くなと、組織の上層部から通達が出ている。迂闊に傷を付けようものならどうなったものか。マサキの前任の番人のような目に合うのは、誰だって嫌に決まっている。
 睡眠薬で寝かせて搬出する手もあったが、例の男が上層部に指示を仰いだところ、より高い値を付けさせる為にも動ける状態で連れて来て欲しいとのことだった。そうである以上、他に取れる手段などない。マサキたちは辛抱強くモニカの説得を続けた。
「皆様が一緒に来て下さるのであれば、考えますわ。ずっとわたくしの面倒を見ていただいたのですもの。最後ぐらい見届けてくださいますわよね」
 ようやくモニカの口から譲歩する台詞が出たのが、オークション開始の一時間半前。かれこれ三時間半ほどごねた末に提示された妥協案に、マサキの雇い主は一も二もなく飛び付いたという。
 かくて本来であれば、次の商品の入荷に備えて館に残る予定だった地下の番人たちは、モニカの護送団としてオークション会場に入ることになったのだ。


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