マサキが日常へ帰るターンに入りました。
残すところ、本当にあと二、三回です! 何回云うんだって話ですが、そのぐらい書いても書いても終わらないんですよね。この話。ここに来て、ここ書いておかなきゃ、あそこも書いておかなきゃ、がどんどん出て来て……そうしないと訳のわからない伏線になってしまうので、仕方ないのです。
と、いうことで、本文へどうぞ!
残すところ、本当にあと二、三回です! 何回云うんだって話ですが、そのぐらい書いても書いても終わらないんですよね。この話。ここに来て、ここ書いておかなきゃ、あそこも書いておかなきゃ、がどんどん出て来て……そうしないと訳のわからない伏線になってしまうので、仕方ないのです。
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<Night End>
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「いや、傑作だったね。あのマサキの顔!」
運転手付きの高級車に乗り込むなり、撫で付けた前髪を乱して、テリウスは笑った。運転手の男はマサキには見覚えのない顔だったが、こうして素の状態を曝け出せるということは、彼らの息がかかった人間であるのだろう。
「あれを見れただけでも、この窮屈な恰好を耐えた甲斐があったよ」
「巫山戯ろよ。俺はてめえらの娯楽じゃねえ」
「無事に組織を抜けられて良かったじゃないか。セニア姉さんのルートだと、情報局を挟む分、かなり時間がかかりそうだったしね。腹芸の苦手なマサキにしては、良くやってるとは思ってたけど、いつ襤褸を出すんじゃないかってひやひやしてたよ。そうしたらこっちの計画も台無しだ」
「まだ終わった訳ではありませんよ、テリウス」
「そう? モニカ姉さんも取り戻せたし、連中との繋がりも持てたし、首尾上々だと思うけど」
広々とした車内の最後部座席に、モニカと並んで乗せられたマサキは、後部座席にひとり座っているシュウの後姿を眺めながら。特に自分から話したいこともなしと、彼らの会話に耳を傾けることにした。
どちらに向かわれますか、と静かな運転手の声。屋敷までと運転手にシュウは告げ、続けて、「そこでモニカ、あなたにはテリウスと一緒に、サフィーネと合流して貰います」
「わかりましたわ、シュウ様」
「行動制限魔法の解呪は出来ますね、テリウス」
「ああ。でもモニカ姉さんには効いてないような気がするけど」
「あの程度の魔法でしたら、と云いたいところですけれど、何度も掛けられてしまったのですわ。多少は効果が出ているような気もしますし、お願いしますわね、テリウス」
「わかったよ、姉さん。やれるだけやってみる。ところで、君はどうするの、シュウ」
ゆるやかに発進した車の窓の外。決して同じ道は歩まないけれども、見知らぬ人間よりは遥かに信用出来る男たちの話を耳に。流れ出す雑多なネオンの群れが、マサキの目に眩しく映る。
やっと、あの窮屈な生活から解放されたのだ。街を去る車の中からの見知らぬ景色の数々に、マサキはようやく安堵の息を吐いた。
「マサキに今日の参加者のリストなどを渡さなければなりません。どの道、誰かが送り届けなければならないですし、情報交換のついでに私が行きますよ。行動制限魔法の解除もありますしね」
「俺が渡せる情報なんて、大したもんはないぜ」
マサキはひとつ伸びをした。
情報局に戻ってセニアへの報告を終えたら、今度は商品たちの救出だ。束の間の解放感が長く続くものではないことをわかっているマサキは、それでも今ばかりは――、と長く続いた緊張感で硬くなった身体を揉んだ。
「伝えなければならないこともあるのですよ。あなた方に下手に動かれると、こちらの計画が台無しになる。その辺り、あなたにはきちんとセニアに伝えて頂かないと」
「その計画とやらだが、本気で遂行する気でいやがるのか? 長い時間がかかるだろうに。お前らのやることは、一々スケールがでかくていけねえ」
「それだけの敵を相手にしているのですよ。そのぐらいの手間を惜しんでは、為すことも為せなくなる」
振り返ることなくシュウが云う。
平坦ながらも、決意の込められた言葉。彼の長い戦いは、そう簡単に決着が着くものではない。邪神教団に身を置き、サーヴァ=ヴォルクルスの精神に囚われたことのあるシュウは、それを誰よりも理解しているからこそ、時間のかかる方法であろうと選択してみせるのだ。
長い歴史を持つからこそ、強固なネットワークを有する邪神教団。それは一筋縄でゆく組織ではないと。
「資金の流入が抑えられれば、あちらも尻尾を出すでしょう。そうしたら作戦を切り替えればいいですし、そうでなければ遂行し続ければいいだけの話。私たちの計画は、臨機応変に変わるものでもありますからね。だからこそ、セニアには迂闊な動きを控えて欲しい。彼女の計画は、時として私の目的を阻むものになりますから」
それ以上、シュウはこの件について語るつもりはないようだ。恐らくは、後にマサキとふたりになった際にでも、話すつもりでいるのだろう。彼が口を噤《つぐ》んだことで途切れた会話に、「そう云えば、先ほどシュウ様はあの方に何を云ったのですの?」とモニカが話題を持ち込む。
「先ほど、ですか?」いつのことを云われているのか、わからない様子だ。
「マサキを買うと云った時ですわ」
それで理解したらしい。ああ、とシュウは納得した様子をみせた後に、何を思ったか、クック、と声を潜めて嗤った。
「止めとけよ。どうせこいつのことだ。碌でもないことを云ったに決まってる」
「でも、マサキ。気になりませんこと? あの方、最初はマサキを売るつもりはなかったようでした。だって、そうですわよね。剣の腕を高く評価していましたもの。だからわたくしは、あの方がマサキのことを組織にとって有益な人材であると思っているのだと感じたのですわ。それがシュウ様のひと言で翻るなんて」
「あなたは知らない方がいいと思いますよ、モニカ」
「ほら、シュウがそう云ってるんだから諦めろよ」
シュウの云いそうなことぐらい、マサキには直ぐに想像が付くのだ。
聞いても聞かなくとも、答えのわかりきっている問題。むしろ、この場合、シュウが答えてしまった方が厄介な事態になりかねない。それを聞いたモニカは過剰に反応してみせることだろう。藪を突いて蛇を出すのは、マサキとしては遠慮したいところだ。
「マサキは知りたくないのですか」だのにこの無邪気さときたら!
マサキは顔を大きく歪めた。そして、何を云う気も起こらないと首を振った。
そもそも、あの場でシュウが磨けば光ると云ってしまった時点で、使い道は大きく限られたようなものだった。今日のオークションにしたところで、あの高値。殆どの商品はそういった目的で買われていったのだろう。それをわからないモニカではない筈だというのに、どうも彼女は――巫山戯たことに、シュウを高潔な精神の持ち主であると思い込んでいるようだ。
どれだけの月日をシュウと彼女がともにしているのか。マサキはその月日を勘定をしようとは思わなかったけれども、時にこうして顔を覗かせる彼の人の悪さぐらい、そろそろモニカも認められるようにならなければならないだろうに。
「あなたの予想は外れていますよ、マサキ」
「はあ? じゃあ、お前、一体何を云って」
収まる話を収まらなくするシュウの台詞が、あまりにも思いがけなかったものだから、マサキは反射的に反応してしまった。それから、しまった――と口を押さえるも、時間は巻き戻らない。
「どういうことですの、マサキ? それにシュウ様も」
きょとんとした表情でモニカが交互にマサキとシュウを見遣る。それに対して、シュウは振り返ることもせず、「マサキが想像しそうなことぐらい、私には直ぐにわかるということですよ」ただ言葉ばかりを愉しげに響かせた。
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