と、いうことで二回目です。恐らくは全五回ほどで終わります。
というか、この企画、ひとつの話を元々2000字から5000字でとか云ってたんですよ。既に3000字を超えてしまっているので、あっさりと話を済またとしても10000字くらいはいくかなーと。
この企画は本当にのんびり進めるので、のんびりお付き合いください。
では本文へどうぞ。
というか、この企画、ひとつの話を元々2000字から5000字でとか云ってたんですよ。既に3000字を超えてしまっているので、あっさりと話を済またとしても10000字くらいはいくかなーと。
この企画は本当にのんびり進めるので、のんびりお付き合いください。
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<Night End>
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人数の確認をする機会は直ぐに訪れた。
マサキが監視を始めてから一時間半が経過した。腕時計で確認したところ正午を少し過ぎた頃。遠く正面に立つ例の男に呼ばれて、マサキは食事のトレーの載ったワゴンを二人がかりで地下へと下ろした。
トレーの中身を確認してみれば、パンにスープ、サラダに、量は少ないもののメインディッシュとなる肉料理もある。
ここに囚われている”商品“たちがどういった客層に売られるのかまでは、事前調査ではわかっていなかったが、きちんとした食事を与えられている辺り、どうも彼らはただの奴隷として売られてゆくのではないようだ。
「食事を配るついでに、おかしなことをしていないかの確認もするからな。まあ、今日は初日だ。俺の後を付いてくればいい」
ひとつ目の商品は、金髪碧眼のほっそりとした体躯の少年だった。年の頃は十四、五歳。後付けで付けられたと思しき部屋の隅の鉄柱。そこから伸びる鎖が、足枷に繋げられている。彼はどこかおどおどとした様子で鎖を引き摺りながら、男から手渡しで与えられたトレーを受け取った。
「渡すときは必ず手渡しで行うこと。トレーの返却は扉の下にある排出口からだ。時間になったら回収するから、それまでは何もしなくていい。ちなみに排出口のカバーは、内側からしか開かないようになっているからな。変な気を起こして手を突っ込もうとするんじゃないぞ」
石造りの壁。床には一畳ほどのラグマットが敷かれ、木製のローテーブルが置かれている。多少の娯楽は認めているのか、スケッチブックとクレヨン、色鉛筆が広げられている。少年は簡単にテーブルを片付けると、空いたスペースにトレーを置いた。
壁際にはパイプベッド。そして剥き出しのトイレ。裸電球が煌々と輝いてはいたものの、装飾らしい装飾がないこともあって、寒々しい印象を受ける。敵に囚われた経験が何度かあるマサキからすれば、それでも充分に恵まれていると感じられる環境だ。
最初の部屋を出たマサキは云った。
「随分と自由を与えてるんだな。スケッチブックがあるとは思わなかった」
「大事な商品だからな。売る前に壊れられても困る。だから、少しぐらいは自由にさせてやるんだとさ。ボスのお言葉だ」
「成程、そういうことか。納得した」
二番目の部屋、三番目の部屋……と続けて食事を渡しに入る。
彼らの娯楽は様々だった。ある少女は編み物をしているようだったし、ある少年はは本を読んでいるようだった。ある青年はノートに詩を書き付けているようだったし、ある女性はひたすら自らの爪にネイルアートを施しているようだった。その最中に男が話をしてくれたところによると、今ここで管理している商品の数は全部で九点。少し前に大口の取引があった為に、人数が一時的に減っているとのことだった。
内訳は、男が三人に女が六人。
いくら一時的に商品の数が減っているとはいえ、マサキひとりで救い出すには多い人数だ。
――これは顧客リストを入手する必要があるな……。
人脈がわかれば、彼らが売り飛ばされる先もわかる。消息を絶ったテュッティの知り合いの行方も、そこから掴める可能性がある。マサキは考えながらワゴンを押しつつ、男の後を付いて歩いた。
そうして室内を検めながら、食事を運ぶこと暫く。残されたのはマサキが番を張っていた、あの奥の扉ひとつ。見た目からして頑丈さが違うとわかる扉だけあって、恐らくは余程の商品。食事のトレーにここだけ、食後のデザート用にだろう。小盛りのフルーツが添えられている。
「ここの商品は凄いからな、覚悟しておけ」
男の手によって鍵が差し込まれ、扉が開く。「こいつは凄え」マサキはその瞬間、運命の女神の気紛れな悪戯に口笛を吹かずにいられなかった。
室内が寒々とした印象なのは否めなかったけれども、今までの部屋と比べると賑やかさが窺える。
壁に掛けられた絵画に、テーブルの上に活けられた花……ラグマットひとつ取っても、かなり毛足の長い上質な素材が使われている。その部屋の中央に置かれたロッキングチェアーに座って、優雅に刺繍を嗜んでいた女性は、鳴り響いた口笛にゆっくりと振り返った。どうやら長い放浪の生活で、大分根性を鍛えられたらしい。彼女はマサキを目の当たりにしても顔色一つ変えることなく、「そちらは新しい番人さん?」おっとりとした口調で云ってのけた。
それが、モニカ=ビルセイア。シュウに付いていった筈の彼女が何故ここにいるかはさておき、マサキはこれは自分ひとりで戦わずに済みそうだと、いずれ彼女を救い出しに来るだろう強力な援軍を思って――、少しばかり安堵した。
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