第七回となりました。
いつもぱちぱち有難うございます。
こちらの拍手もあちらの拍手も押していただけて、本当に有難いことです。
知らない方の為に、もう一度説明しておきますが、blogとサイトでは使っているお礼SSが別のものになっています。サイトは一種類、blogは六種類です。どちらも当面は変える予定がありません。
その点お含みおきいただけますよう。と、いうことで本文へどうぞ!
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<Night End>
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「ご無沙汰ですね、マサキさん」
部屋にチカを招き入れたマサキは窓を閉め、互いの声が外に洩れ出ないように扉の隙間に枕を置いた。この館は見た目と違って安普請なのか、室内の声が廊下に洩れ易い。部屋で飲んで機嫌が良くなったらしい者の鼻歌や、就寝までの束の間、仲間同士で部屋で語らう声。いびきだって聞こえたものだ。
聞こえていい話にならないのは、予めわかっている。応急処置にしかならないものの、枕は多少の声を吸収してくれるだろう。
「お前か、モニカの本当の話し相手は。通りでどっしり構えてる筈だ」
「そりゃあまあ」マサキの肩を定位置と決めたらしい。チカはふわりとマサキの肩に舞い降りた。
「不測の事態でしたらとっくに潰してますよ、こんな組織」
そして普段のけたたましさはどこにやら、マサキの耳元でひっそりと言葉を吐く。
「知ってます? 地下のあの部屋には通気口があるんですよ。空気穴とも云いますけど」
「お前なら通れるってことか」
「そういうことです。だから以前からちょいちょい連絡は取りあってたんですけどね。さっき窺ったら、ここにマサキさんが居るって話じゃないですか。だったらご挨拶ついでに、どんな用件でこんなところに潜り込んでいるのか聞こうかなあと」
どの道、情報交換をしたいと思っていたのだ。
圧倒的な情報不足。それを少しでも補いたいマサキは、チカに目的を教えるのも吝かではない。だからといって、彼らの目的を聞き出す前にそれを話してしまっては、チカのことだ。そのまま逃げられる恐れがある。
彼らの普段の活動からして、目的が被ることはないだろう。だが、共同戦線を張りたいマサキとしては、今後の為にもここで彼らの目的を知っておきたいところだ。
「お前がここに居るってことは、シュウの奴も一枚絡んでるってことだよな」
「そりゃあ、あたくしご主人様の使い魔ですから」
「なら、お前らの目的と交換だな」えー、と不満そうな声を上げるチカに、「安心しろよ。目的がかち合うことはねえ」
「本当ですか?」
「っていうか、お前らのことだ。どうせ教団絡みなんだろ」
そう云って、チカを肩に乗せたまま。マサキはベッドに腰を下ろした。
会話が心地良い。こうして素のままの自分で話が出来るのは、ここに来て初めてのことだった。それだけ見知った相手との会話は、マサキを寛がせた。昼間のモニカと違い、過敏に人目を気にする必要もない。たった二日ばかりのことであったものの、それだけここでのマサキは神経を張り詰めていたのだろう。
気負うつもりはなかったけれども、気負わずにはいられない事態。自分の目的の為にここに来ている訳ではなかったからこそ、マサキは必要以上に気を張ってしまっていたのだ。
そんな事情はさて知らず。まあ、いいですけど――と、チカは話し始めた。
それによると、どうやら邪神教団は、自ら人身売買組織を運営してはいないものの、そういった組織に繋がるルートは持っているらしい。モニカに限らずだが、今のシュウたちはそのルートの洗い出しを行っている最中なのだそうだ。
元来、運営している孤児院育ちの子どもたちであったり、或いは実働部隊が攫って来た高貴な血筋の子息や子女であったり、或いはもっと真っ当に『良い働き口がある』とスカウトかけて手に入れた容姿端麗な者たちであったりと、彼らは教団に必要な人材の獲得に余念がなかった。その中には、残念ながら教団で使うには能力が足りない者も居る。そういった彼らの始末をどうするか。そう、教団は彼らを”商品“として、人身売買組織に卸すことにしたのだ。
そして巨額の富を得る。
その富の使われる先は云うまでもない。彼らの活動には巨額の資金が必要だ。
「資金源を潰したいって?」
「端的に云えばそういうことですよ」
チカはマサキの耳元で囁き続けるのに飽きたようだ。ふわり、と宙を舞うと、今度は膝の上へ。マサキと向き合う形で羽根を休めると、マサキの顔を見上げながら、片羽根を軽く振ってみせた。
「考えても見てください、マサキさん。切っても切っても切れないトカゲの尻尾は何故生えてくるんだと思います? 本体がしぶといからですよ。じゃあ、その本体がしぶといのは何故ですか。栄養が豊富にあるからですよね。と、いうことはですよ、臭い臭いを元から断つ為にはどうしなければならないかと申しますと」
「資金源を断たなければならない、か」
トントントンと廊下を往く足音が遠く聞こえてくる。
枕で遮断されているとはいえ、それでも人が廊下を歩く音がこれだけ聞こえてくるのだ。警戒に越したことはない。マサキは瞬間、息を顰めて音が遠ざかるのを待った。
「……それで? それとモニカをここに送り込んだことに、どういう関係があるんだ。売られる側じゃ、必要な情報はそんなに手に入らないだろ」
「そこですよ、問題は。実際のところ、あたくしたちも教団から人身売買組織に繋がるルートは知らないんですよ。そういった話を小耳に挟んだだけなもので。ですから、先ずはそのルートを知らなきゃならないんですが、何せあたくしたち、あちらさんには相当警戒されていますからね。簡単にはあちらさんも情報を掴ませるような真似はしてくれない」
「だろうな。それが簡単にわかるようだったら、情報局が情報を掴んでる筈だ」
「成程、マサキさんの目的はそちら側からの依頼で」
「依頼を受けてはいないんだがな。まあ、それ絡みではある」
ふむうとチカが唸った。主人がシュウだからだろう。使い魔にしては聡明な青い鳥ではあるが、それでもマサキの目的を覚るのは難しいようだ。「まあ、いいでしょう」と話を続けた。
「あたくしたちも流石に教団と裏社会を同時に相手には出来ません。しかも、裏社会のネットワークは利用価値の高いものですからね。それが使えなくなるのは、あたくしたちにとっても都合が悪いって話です。そうである以上、こういった組織を潰すのは最終手段にしたいところな訳ですよ。と、なると、どこを潰すのが一番かって話になるんですが」
「待てよ。その話の流れだとお前らが潰そうとしてるのは」
「高額商品を買い付けられるほどの資金力を誇る好事家たちを、根絶やしにしたらどうなるでしょうね?」
そう云って、チカはふふふ、と笑った。考えるだに愉しくて仕方がないといった様子だ。
「小口の客を残しておけば、裏社会の連中が面子を保てる程度のシノギも残る筈です。ただ、ビッグビジネスのチャンスは減りますけどね。彼らに恨まれる可能性を極力減らして、こちらの目的を達成するには、これはそこそこいい方法じゃないかと思うんですけど」
マサキは唸った。とんでもないことを考えて、実行に移す連中だ――。モニカを餌にして、そこに集いし好事家たちを始末するなど、まともな頭脳では考え付かない奇策。やりきれる自信がなければ、到底手が出せない。
けれどもチカが云う通り。組織を潰さずに資金源を断つには、そこに流れ込む金を絞るしかない。
とてつもない労力が必要なだけでなく、精神力も必要になる。彼らがそんな作戦を実行に移そうと思えるのも、それを立案しているのが、捻れた頭脳とずば抜けた行動力を持つあの男だからに違いない。
「さて、あたくしの話はこれでお終いです。次はそちらの目的とやらを聞かせていただこうじゃないですか」
「大した話じゃねえよ」マサキは腕を組んで宙を睨んだ。「テュッティの知り合いの情報局員が行方不明になった。それだけだ」
「ここに潜入してたってことですか? それは申し訳ないですけど、望み薄じゃ……」
可能性としてそれが一番高いことは、マサキとて承知しているのだ。もしかすると、テュッティとて、口にしないだけで内心はそう思っていたかも知れない。
では、だからといって、可能性だけで決めつけていい話だろうか?
そんなことはないだろう。講じれる手段がある内は、動いてみるべきなのだ。もし仮に命を落としていたとしても、遺体や遺品が入手出来る可能性が生まれるだろうし、仮に生きていれば救出出来る可能性が生まれるだろう。いずれにせよ、最初から諦めてしまっては、何も為すことは出来ないのだ。
「だからって、諦める訳には行かないだろ。万が一の可能性だってある」
「相変わらずお優しいことで」
ふわり。チカはマサキの目的を聞けたことで満足が行ったようだ。しかし、細かいことまでは聞く気はないらしく、もう話すことはないとばかりに窓の桟で羽根を休め出す。どうやら出て行くから窓を開けろということらしい。
マサキは仕方なしに、細く窓を開いてやった。
「でも、マサキさん。あたくしはマサキさんのそういうところ、嫌いじゃないですよ」
そして窓の隙間に小さな身体を通したチカは、飛び立つ直前。マサキを振り返って、
「戻ったら、使えそうなルートがないかご主人様に相談してみますね。ですから、どうかここで問題を起こさないでくださいますようお願いしますよ。モニカさんに手を出そうなんて奇特な組織、ここぐらいしかなかったんですから」
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