個人的にうちの白河は、確率通りになることを確認する為だけに、ギャンブルに手を出す気がします。マサキは口ではなんのと云っても、いざやり始めると熱くなるタイプ。その内、一発大逆転といった浪漫を求め出して、大幅に負け越すタイプですね。
そんな感じで頑張りましたが、まだまだラブラブには程遠いです。どうしたらいいんでしょう。汗
といったところで、本文へどうぞ!
そんな感じで頑張りましたが、まだまだラブラブには程遠いです。どうしたらいいんでしょう。汗
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<RISKY GAME>
初日に予定金額を使い切ったらしいシュウは、二日目も順調に負けたようだ。
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初日に予定金額を使い切ったらしいシュウは、二日目も順調に負けたようだ。
朝からカジノのホールでテーブルを転々とし、昼下がりに一度姿を消したかと思うと、昼食を兼ねたのだろう。一時間ほど経過してから、新たな現金《キャッシュ》を手に姿を現した。一日の予算をどのくらいに設定しているのかマサキはわからなかったけれども、ジェラルミンケースに隙間なく詰まった紙幣を、気前良くも全額換金してみせたものだ。きっと、テュッティが聞いたら卒倒するような予算を組んでいるに違いない。
そのまま夜までルーレットをメインに賭け事に励んだシュウは、無事に今日の予定分の資金を使い切ったらしい。マサキたちよりも先にホールを後にした。
「負けるのって難しいわね」
シュウがホールを去ってから二時間後。二日目の夕食の席に着くなりテュッティは云った。
「勝負を降り続けりゃ嫌でも負けられるだろ。って、そういうもんでもないのか」
「弱い手で強気に賭けるようにしてるんだけど、そういう時に限って勝つのよね」
「怪しいな。ディーラーが何か仕込んでるんじゃねえか」
豪奢な割に量の足りない食事は相変わらずだった。他に菓子類なりの食料を持ち込むべきだったと、マサキは今更ながらに思ったものだったが、途中での寄港予定のない旅。仕方なしにパンで嵩を増しながら、運ばれてくるコース料理をひとつずつ片付けてゆく。
「そういう訳でもなさそうなのよね。一日でみれば少し勝ち越した程度の金額だもの」
「だったら確率じゃねえかよ。あの男がしたり顔をしそうだ」
「テキサスホールデムなんかは戦略性だと思うのだけど」
「その割には昨日あっさりと引いてたよな」
そうね、とテュッティは微笑んだ。甘い物を食べる時とは勢いも量も異なる食事のペース。慎ましやかにひと口、またひと口と少量の料理を口に運んでいる。その合間に箸を休めながら、彼女は話を続ける。
「カードの組み合わせそのものは確率でしかないもの。そこに駆け引きが加わったところで、誤差でしかないぐらいの差しか生じないかも知れないわ。そもそも確率論の始まりがダイスであるのは紛れもない事実だし、戦略性よりも確率と云われてしまえば確かにと思ってしまうわね」
「ダイスが確率論の始まり?」
「そうよ。ふたつのダイスのある合計値の組み合わせが何通りあるのかを示したのが確率論の始まり。ちなみに、何故ダイスの組み合わせが調べられたかって、ギャンブルを有利に進める為なのよ。ダイスロールのギャンブルが無ければ、確率論が興るのはもっと後。クリストフが確率に拘るのは、だからじゃないかしら」
「それは初耳だ。でも実際には振る力の関係だってあるんじゃないのか」
「それで任意に合計値を操作出来れば力も関係あると云えるけれども、でも実際にそれが出来る人間は一握りよね。統計上では誤差の範囲に収まるのではないかしら。そうなると、クリストフが云ったように、最終的には確率に収束するわね」
「ああ、そういうことか。でも人の考えまでは確率には組み込めないだろ。誰がどれだけベッドするかなんてのは、蓋を開けてみなけりゃわからない訳で」
「人間の力が加わったところで、新たな確率が生まれるだけよ。人間には思考のパターンがあるのだもの」
「また訳がわからなくなってきやがった」マサキは目の前に運ばれてきた肉料理に口を付ける。
普段だったら三口で終わる量。アルコールの残り香がするヒレ肉を、少しずつ切り分けながら口に放り込む。量が少ないことを除けば文句の付けようのない味。流石は高額な費用を巻き上げているだけはある。
ただ、マサキはもっと庶民的な料理の方が好みだと感じたが。
そんなマサキの反応にあまり話を深く掘り下げるのも、と思ったのやも知れない。「まあ、もうちょっと上手く負けられるように頑張ってみるわ」テュッティは云って、「それよりもあなたはどうだったの?」
成果を窺ってくる台詞に、マサキはどういった表情で答えればいいのかわからない。
負けたくてカジノをする客もそうはいまい。かといって、勝っていい勝負でもない。どうせ負けなければならないのであれば、派手に負け切った姿でも見せたいところだが、セニアの用意した五千万クレジットの予算は、そう簡単に使い切れる額ではなかった。
「順調に負けてるぜ」そうとだけ云う。
チップを突っ込んで回すだけのスロットマシーン。単純作業に眠くなりもしたが、細かいルールを覚えていない他のゲームに金を賭けるよりは襤褸が出難い。マサキはこれも任務と割り切って、ひたすらにスロットマシーンを回した。偶に子役が揃って払い出しがあったりもしたが、ジャックポットなどという奇跡はそう簡単には起こりはしないものだ。結局マサキはチップをひたすら減らしただけで、ホールを後にすることになった。
負けなければならないとはいえ、負けが越すと悔しく感じる。予算からすればはした金。けれども庶民的な感覚を失っていないマサキからすれば、それは一か月の生活費にも等しい金額だった。それを一日で喪ったのだから悔しさもひとしお。
負けず嫌いな性格にも困ったものだ。後でルールを勉強し直そうか。カードゲームだったら退屈せずに済みそうだ。そんなことを考えながらマサキは食事を終えて、テュッティとともにそれぞれ客室に戻る。
テュッティがカジノで粘ったこともあって、昨日よりも遅い時刻の戻りとなったマサキは、今日はもう客室を出ることはないだろうとシャワーを浴び、リラックス出来る服に着替えてベッドの上。明日の立ち回りを考えながら、覚えているゲームのルールを反芻した。
ルーレットのレイアウト。ディーラーから向かって右側のペッティングエリアにあるのが、配当倍率が二倍から三倍のエリア。アウトサイドベットを行うゾーンだ。対して、中央から左側のペッティングエリアにあるのが、配当倍率が六倍から三十六倍のエリア。インサイドベットを行うゾーンだ。グループ単位で賭けるアウトサイドベットと比べると、ひとつの数字から最大六つの数字まで賭けられるインサイドベットは賭け方を知っていないと素人感が丸出しになる。
――テュッティにテキサスホールデムとやらでも教わろうか……。
頭を使わないギャンブルは、時間に比例して作業感が増すだけだ。他に考えることがある人間には向いているだろうが、そこまで物事を深く考えたりしないマサキにとって、スロットマシーンは油を売る作業でしかなかった。ましてやマサキはギャンブルは勝てる勝負ではないと思っている。シュウが口にした通り、客への還元率が十割を切る以上、誰かが必ず割を食うように出来ているのだ。
――そういうのは大抵、初心者が食い物にされるものだ。
退屈で仕方がなかった今日一日を振り返れば振り返っただけ、よりリスクの高い方向に向かいがちになる心。結果に滅入る気持ちを奮い立たせるように、マサキは潜入捜査に楽しみもないと自分を叱咤した。
そう、これは任務なのだ。
遊びに来たのではないのだから、もっと緊張感を持たなければ。そう思った瞬間だった。
ノックされるドア。ベッドから身体を起こして、マサキは暫く様子を窺った。テュッティだったらひと声あるだろうが、その声が聞こえてくる気配はない。マサキはドアを開けるべきか躊躇った。潜入捜査の最中とあっては警戒心も強くなる。情報局が入手してきた情報が正しければ、敵地に乗り込んでいることになるのだ。いつ生命を脅かすような出来事が起こってもおかしくない。
身体に隠してこっそりと持ち込んだ短刀。ベッドの隙間に押し込んで隠していたそれを取り出したマサキは、息を潜めてドアの脇に立つとドアをそっと開いた。直後、素早い動きで室内に滑り込んでくる長躯。その顔を確認するより先にマサキの身体は動いていた。
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