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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

RISKY GAME(6)
今日もわたくし、頑張りました。
残りあと4回ぐらいでしょうか。折り返しを超えたので、大分楽になりました。

ただ、ラブラブは達成出来てませんけどッ!

くっそー。絶対に達成してみせる。
と、いったところで、本文へどうぞ!
<RISKY GAME>

 快い疲労感に身を任せてベッドの上。暫くの間、マサキはシュウの重みを感じていた。
 行為の終わりは突然だ。
 快感に押し流されるようにして果てたマサキの中に注ぎ込まれた体液。忙しなく息を吐くマサキの髪を惜しむように梳いていたシュウが、そろそろ頃合いと身体を起こしてベッドを離れる。そして、床の上に乱雑に積もっている衣服。その中から上着を拾い上げると、内ポケットの中から一枚の紙片を取り出した。
 ベッドに腰を下ろして、その紙片に書かれている文章を読んだシュウは、まだベッドに身体を伏せたままのマサキにそれを差し出して来た。
「何だよ。少しぐらいゆっくりさせろって……」云いながら紙片を受け取る。
 女手によるものだとひと目でわかる文字。小さく書き込まれたそれを目で追っていくと、どうやらこの豪華客船の操舵室《ブリッジ》の下に位置する特等室がオーナーの部屋となっているらしい。そこの書斎の金庫にカジノの金の流れが記された帳簿が収められている――恐らく、サフィーネが調べ上げた情報だろう。マサキは身体を起こすと、既に身支度を始めているシュウに紙片を渡した。
「こういう話は先にしろよ」
「とはいえ、そこに正確な情報が記されている保証もないのですがね」
「だからって」マサキはベッドを離れ、床の上から衣服を拾い上げる。「まさかこのまま放置しておくなんてことはないよな? 調査しに行くんだろ。それだったら俺も付き合わせろ。明日もひたすらスロットマシンと睨めっこなんて御免だ」
「オーナーが不在の時を狙わなければならないのですよ。どちらかはVIPルームに入る必要がある」
「って、ことは。片方はそこでオーナーの足止めをしなきゃならない、か……」
 はあ、とマサキは溜息を洩らした。明日もあのつまらないスロットマシンを回し続けるのだと考えただけでげんなりする。負けなければいけないのはわかっていても、もう少し頭を使ったゲームがしたい。やっぱりテュッティにカードゲームのルールを教わるべきかと思ったところで、マサキの表情が余程滑稽に映ったのだろう。シュウは低く声を殺して笑った。
「まるで明日で世界が終わるような表情をしている」
「スロットマシンと睨めっこはもう飽きた」
「無理に負けようとしなくとも大丈夫ですよ。サフィーネの助けもあって、私は今日も順調に負けを重ねられましたしね。この調子ならこちらの方が先にVIPルームに辿り着けるでしょう。もし、そうなったとしたら帳簿の調査はあなた方に任せますよ」
 それだけ云うと、ドアに手をかける。もう部屋を出るつもりなのか。すべきことを済ませたら用は終わりとは、つれないにも限度がある。何か用事でもあるのだろうか。マサキはその背中に声をかけた。
「早いな。もう休むのか」
「まさか。オーナーの部屋の様子を窺いに行くのですよ。表の警備がどのくらいかは確認しておかないと。何もせずにあなた方にお任せします、ではね。私の面目が立たない」
「俺も行く」マサキはシュウに続いて、ドアを潜った。
「あまり一緒に居るところを見られたくはないのですけれども」
「今更だろ。それを云うんだったら、最初から話しかけてくるなよ。こっちは一応気を遣ってやってたんだぜ」
 船は下層から上層に向けて、客室の等級《ランク》が上がるようになっている。最下層の四等客室から始まって、三等、二等。マサキがいる二等客室の上の階が一等客室のフロアとなり、四等客室のフロアからはひとつの階段で繋がっている。そこから階段を変えて、上の階層にあるのが特等室が並ぶフロアだ。
「なあ、テキサスホールデムってどんなゲームなんだ」
 上層階に向けて階段を上る間、マサキはついでと、他のゲームについてシュウに尋ねてみることにした。
 スロットの合間にテーブルを覗いてみはしたものの、ルールが全く把握できなかったゲーム。場に出ているカードの枚数が、ディーラー側とプレイヤー側で異なるからか、何をどう組み合わせて手役を作っているのかわからない。
 ただ、人気はあるらしい。他のカードゲームと比べて観戦客の多いテーブルは、レイズやコールの声が上がる度にどよめきが起こったものだ。その熱気に引き寄せられるように、マサキは何度もそのテーブルを覗いた。今日一日スロットマシンを回しきれたのは、その卓への興味が強かった所為もあるだろう。
「あなたにはまだテキサスホールデムは早い気がしますよ。あれは手役の作り方が特殊なゲームですからね。それよりも普通のファイブカードドローか、カリビアンスタッドポーカーを楽しまれては?」
「そこでポーカーを進めてくるってことは、あれもポーカーなのか」
「そうですね。成立手役はポーカーと一緒ですよ。ただ、その組み合わせ方がターンによって異なりますがね」
 一等客室があるフロアに辿り着く。見るからに質の異なる客が通路を往くフロアを、なるべく目立たぬように抜けて、中央に配置されている特等室のあるフロアに続く階段へと。とはいえ、ラフな格好で出歩いているからか。擦れ違う客の視線は、揃ってマサキに向けられたものだ。
「服を着替えさせるべきでした」
 そういったマサキの恰好に慣れてしまっているからだろう。彼らの視線にマサキが晒されるまで、シュウもマサキの恰好の不自然さには気付かなかったようだ。苦笑しきりで階段を上って行く。
 敵地にあるかも知れないにも関わらず、気を払わずに出てしまった自分。スロットマシンを回し過ぎて、精神的に疲れてしまったのかも知れない。マサキがそう云うと、「明日は無理をする必要はありませんよ。あなた方にはして貰わなければならないことがありますし」声を潜めてシュウはそう返し、階段の影から特等室が並ぶフロアを窺った。
 マサキもその背後から、フロアを窺う。
 流石に最上級の客が使う部屋があるフロアだけはあって、高貴さと物々しさに満ちている。選りすぐられた装飾品の数々は、さしものマサキであっても溜息を吐きたくなるほどに、高価な品であると知れたものばかりだった。
 各々の部屋に続く扉の前には、私的に連れて来たと思しき護衛の姿。ここを通ってオーナーの部屋に潜り込むのには、かなりの度胸と機転が必要だ。機転の利かないマサキは、テュッティの助力に期待するしかないと思いながら、シュウの後を続いて来た道を戻った。
「賭け方がわからないのであれば、ビデオポーカーもありましたよ。ポーカーについてはテュッティの方が詳しそうですし、彼女にルールやマナーを教わるといいでしょう」
 そのまま自分の部屋へ戻るつもりらしいシュウと一等客室のあるフロアで別れて、マサキは階下のフロアへと。帰りがけにテュッティの部屋に寄り、帳簿の件を話す。
「それが入手出来れば、散財をする必要はないわね」
「どうなんだろうな。シュウはあまり帳簿の中身には期待をしてなかったみたいだが」
「正しい情報が書かれているとは限らないってこと? 資金の流れる先に嘘はあっても、金額は正しいものを書いていると思うわよ」
「見てきたように云うな」
「脱税の常套句《セオリー》だもの」
「まあ、いい。俺たちの目標は帳簿の入手だ。多分、シュウの方が先にVIPルームに入るだろうしな」
「今日はどれだけ負けてみせたのかしらね」
「気が滅入りそうだから、聞いてねえよ。どうせ、俺たちより遥かに巨額の資金を用意していやがるんだろ」
 もし本当にシュウがオーナーの足止めをすることになったとしたら、肉弾戦の苦手なテュッティにはマサキの短刀で戦って貰わなければならない。
 肉弾戦もこなせるマサキではあるが、使い慣れた武器の方が戦い易いのは事実。
 出来れば刃物がいいとはいえ、かといって日用品である包丁といった品は、人間の脂に晒されると直ぐに使い物にならなくなる。どういった系統の武器をどう入手するかを考えながら、武器の調達もしなきゃな――そうマサキが呟くと、「明日のギャンブルはほどほどにしておくべきね」そろそろ眠気が起こったようだ。欠伸を噛み殺しながらテュッティが云う。
「眠いのか、テュッティ」
「何? まだ何か用事があるの?」
「ポーカーの種類を教えて欲しかったんだがな」
「それは明日の朝にしましょう。あなたはあまり気にしていないようだけど、私だってレディなのよ」
 今更のように自身が女性であることを訴えてくるテュッティに、「それもそうだな」忘れていた訳ではなかったものの、当たり前のように夜分遅くまで女性の部屋に居座り続けるところだったマサキは、必要なことはもう伝えたのだしとテュッティの部屋を後にすることにした。

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