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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

RISKY GAME(7)【追記アリ】
いつもぱちぱち、感想ありがとうございます! この場を借りてお礼を申し上げます!

もう準備をしないといけない時間なのであまり多くは前書きをいたしませんが、他のキャラもそうなんですけど、白河を書く時は単語を選ぶのに結構気を遣っています。そのキャラの雰囲気に合った単語ってあると思うんですよね。だから同じ意味の言葉でも、キャラが変われば違う単語を使ったりして、文章から受けるイメージがよりキャラに近くなるようにしているつもりです。

そういった部分が伝わると嬉しいですね。と、いうお話でした。
では、本文へどうぞ!
<RISKY GAME>

「シュウの云う通りかもね。慣れるまではカリビアンスタッドでプレーして、そこからファイブカードドローに行くといいんじゃないかしら」
 朝の食事の席。サラダにポーチドエッグ、厚く切られたベーコンがふた切れ乗ったプレートに、軽くローストしたマフィンが二つ並んだテーブルに着いたマサキは、早速とばかりにテュッティにポーカーの種類について尋ねた。
「不安があるならビデオポーカーで役の確認をするという手もあるわよ」
 割ったマフィンにポーチドエッグとベーコンを挟むテュッティを真似て、マサキもマフィンにサラダとポーチドエッグを挟んだ。ベーコンはもうひとつのマフィン用に残しておく。
 三日目ともなれば、食事量の少なさにも慣れる。マサキはテュッティの話を聞きながら、彼女に倣って、ひとつ目のマフィンにナイフを入れた。
 五口もあれば食べきられる量。それをわざわざフォークとナイフを使って食べるもどかしさ。そうした日頃の食習慣と異なる世界にもまあまあ慣れた。食べられるだけ有難いとはいえ、初日の昼食の量を見た瞬間の絶望感は忘れられない。酒のつまみかと見紛うほどの量。綺麗にセットされたカトラリーがまた、絶望感を煽ったものだ。ちまちまと食事を済ませなければならないストレスと、普段の食事より量が遥かに少ないという飢餓感からか、その日のマサキはベッドに入っても中々寝付けなかった。
「ディーラーと競うのがカリビアンスタッドで、プレイヤー同士で競うのがファイブカードドローだったっけか。そこまでは覚えてるんだがな。他のポーカーの種類がいまいち……」
 無事に帰れたら、腹いっぱいになるまでジャンクフードを食べよう。そんなことを考えながら、ひとつ目のマフィンを完食する。手を休めることなく、残ったサラダとベーコンをふたつ目のマフィンに挟みながらテュッティの返事を待てば、
「マサキ、あなたずっとルールに拘っているみたいだけど、マナーは大丈夫なの?」
 思いがけずマナーに話が及んだものだから、マサキとしてはどうしたものか反応に困る。
 他のプレイヤーに対するアクションやカードの扱い方、チップの賭け方など、たかがポーカーとは云えぬほどに、そこには細かいマナーが存在していた。勿論それらは不正行為《イカサマ》を防ぐ為のものでもあったが、それ以上に|賭け事《ギャンブル》とは云えど紳士のスポーツ。プレイはスポーツマンシップに則って行われるものでなければならないという基本原則《考え方》があるからこそ。
 そうである以上、マナーと云えども準規則的なもの。それを遵守出来ないということは、どういった批判に晒されても文句は云えないということだ。だからこそテュッティはマナーについて触れたのだろうが、細かいルールですら覚えきれていないマサキに何を期待しているのか。
「マナーねえ。余計なことを口にしたりしないってことや、カードを迂闊に他人に見せないってことぐらいは覚えてるが」
 その返答に不安を覚えたらしい。テュッティは小さく溜息を洩らすと、
「ビデオポーカーで満足したら? 今日は武器の調達もするのでしょう」
「いきなりホールから姿を消すのもな。少しはゲームに興じる姿を見せておいた方がいいんじゃないかって」
「余程、スロットマシンに懲りたのね」
 その言葉にマサキは肩を竦めてみせた。
 長い付き合いだけあって、マサキの気性を良くわかっている。気短《きみじか》で、飽きっぽく、そのくせ熱中し出すと他のことはどうでも良くなる。テュッティ曰く、ムラっ気の強い性格がマサキであるらしい。そうやって、常に仲間としてマサキの行動を間近にしてきたテュッティ。彼女が非対人戦ゲームを勧めるくらいなのだ。きっと自分にカジノのルールやマナーは守り切れるものではないのだろう。
 シュウの動き次第にはなるが、明後日の昼頃には寄港予定の船。差し迫るタイムリミットは、マサキたちに一定の成果を求めていた。マサキたちがこの豪華客船に乗り込んでいるのは|賭け事《ギャンブル》の為ではない。出来ないゲームに拘って、襤褸を出すなどあってはならないことだ。マサキはマフィンを齧りながら、自分を納得させた。
「まあ、今日はビデオポーカーに励むことにするさ。適当な頃合いを見計らって、ホールを出るつもりでいるけど、テュッティはどうするんだ? 一緒に船を探索するのか?」
「VIPルームにどうやって招かれるのかわからない以上、シュウの動きを見ておかないといけないでしょう。私はホールに残るわ。武器は必要だけれど、その時が来たら、なるべく直ぐに行動を開始出来るようにしておかないとね。あなたも無理はしないで頂戴」
 それにわかったと頷いて、ひと足先に食事を終えたマサキは、モーニングティーに口を付ける。テュッティの皿には、丁度半分になったサラダが残るのみ。それを彼女が片付けるのを待って、マサキはテーブルから立ち上がった。
 そのままカジノのホールに向かうらしいテュッティに続いてホールに入れば、朝から黒山の人だかりなルーレットの卓。人の輪の外側からそっと様子を窺ってみれば、シュウが掛け金を増やして勝負に挑んでいた。
 負けを繰り返していれば嫌でも目に付くものなのか。今となっては観客の関心はサフィーネよりもシュウに移っているようだ。彼がベットを繰り返す度にどよめきが起こる。そのベット先が|ストレートアップ《一数字賭け》であることを確認したマサキは、忍び笑いを洩らしているテュッティを残して卓を離れ、ビデオポーカーの席に向かった。
「じゃあ、マサキ。終わったら戻って来てね」
「ああ、なるべく早く戻る」
 午前中をビデオポーカーに費やしたマサキは、昼食を終えると船内へ。物見遊山《ものみゆさん》な客の振りをしながら、船の最下層から順番に探索を開始した。
 壊滅的な方向音痴のマサキではあったが、船の構造は単純《シンプル》だ。道の入り組む街中と異なり、ほぼほぼ一本道。最下層から甲板《デッキ》まではひとつの階段で繋がっていたし、最下層から最上階までの各フロアには曲がり角もない。
 直線に伸びるフロアの両脇に配された階段。その脇に掲げられている船内マップを頼りに、マサキは客室以外の施設を見て回った。
 メインがカジノホールであるからか、娯楽施設と呼べるものは殆どない。甲板《デッキ》にプール、上層階にラウンジバー。その少ない娯楽施設を覗いた結果、プールで手のひらサイズのゴムボールを入手はしたものの用途が限定的。口に押し込んで呼吸をし難くさせるゴムボールは、尋問には使えても武器としては使えない。とはいえ、いつ必要になるとも限らない。
 念の為にポケットに二個ほど確保して、今度は上層から下層を目指す。
 武器の持ち込みを禁じ、魔術の発動を封じている豪華客船。トラブル対策が万全だとわかってはいても、ここまで使えそうなアイテムが発見できないとは。マサキは迷った振りをして、機関室や倉庫といった関係者以外立ち入り禁止な区域にも足を踏み入れてみることにした。
 そこそこの長さのバール。掃除用具入れの中に一本だけあったそのバールは、マサキが普段使用している剣と比べれば大分丈の足りない長さではあったものの、剣技を繰り出すのには事足りそうだ。周囲を窺い人目がないことを確認したマサキは、バールを上着の内側に隠し、人目を避けながら自らの客室に戻る。
 室内で検めてみれば、赤錆びてはいるものの頑丈なバール。軽く振ってみると小気味よい音がする。これなら特等室のあるフロアにいる護衛を、剣技の衝撃波で吹き飛ばすくらい造作もないだろう。

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