と、いうことで、そろそろ終わりが見えてきました。残り一万字ほどで終わると思いますので、最後までお付き合い頂けたらと思います。
前回の潜入捜査のマサキは白河にお株を奪われっぱなしでしたので、今回はきちんと活躍させようと思ったのですが、マサキの実力って飛びぬけているじゃないですか。それを加味しながら書くと、その辺の敵ではマサキの相手にはならない。もうちょっと歯応えのある敵を用意しないと駄目ですね。次回以降の課題にします。
では、本文へどうぞ!
前回の潜入捜査のマサキは白河にお株を奪われっぱなしでしたので、今回はきちんと活躍させようと思ったのですが、マサキの実力って飛びぬけているじゃないですか。それを加味しながら書くと、その辺の敵ではマサキの相手にはならない。もうちょっと歯応えのある敵を用意しないと駄目ですね。次回以降の課題にします。
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<RISKY GAME>
ベッドの隙間に短刀と一緒にバールも押し込み、その上からシーツで蓋をしたマサキは、テュッティに成果の報告をする為にカジノのホールに向かった。
ホールに足を踏み入れたマサキは違和感に目を見張った。あれだけ注目を集めていたルーレットの卓。そこにあった黒山の人だかりがなくなっている。変化はそれだけに留まらない。ディーラーを務めていたサフィーネの姿さえも消えている。
見知らぬ男性ディーラーがウィールを回すルーレットの卓にはテュッティの姿。マサキを待ち侘びていたのだろうか。彼女はホールに姿を現したマサキにちらと視線を向けた。
丁度ゲームが始まったところらしい。「|プレイスユアベット《賭けを始めてください》!」と、ディーラーが声を上げた。視線をレイアウトに戻したテュッティは、もう賭ける先を決めているようだ。白く細い腕がペッティングエリアに伸びる。マサキがレイアウトを覗き込めば、|オッド《奇数》に積まれたチップ。堅実に勝ちを拾いに行く賭け方はテュッティらしい。
「|スピニングアップ《ボールを投げます》!」
回り出すウィール。ディーラーの指先から放られたボールが、円を描いてウィール内を回る。程なくして、「|ノーモアベット《賭けを締め切ります》!」の声。ペッティングエリアに置かれたチップには、プレイヤーの特徴が出る。アウトサイドベットが三人、インサイドベットが二人。インサイドベットのひとりは、|スプリット《二数字賭け》だ。
マサキはボールの行く末を見守った。
不規則にウィール内で跳ね回るボール。まるで独楽のように忙しなく動き回るボールとは裏腹に、徐々にウィールはその回転を緩やかにしていった。次第に勢いを失うボール。回転を止めたウィールの中で暫く転がっていたボールは、そうしてついにポケットに収まった。
「赤《ルージュ》の25!」
配当を得たテュッティはゆったりと席を立つ。「飲み物でも貰いましょう、マサキ」シュウのみならずサフィーネまでもが不在になっている理由が聞けるのだろうか。マサキはテュッティの後に続き、ボーイからシャンパンを受け取ると壁際へと向かった。
豪奢なシャンデリアが煌々と照らしているホールを見渡しながら、壁にもたれるようにしてシャンパンを飲む。今日も今日とてホールは盛況だ。めいめいに|賭け事《ギャンブル》に励む上流階級の人間たちは、その賭け金がどこに流れているかは知らないに違いない。
――金持ちの道楽で教団の懐が潤うなんて、皮肉なものだ。
マサキは隣に立つテュッティに話を促す。「で、あの女狐とシュウはどうしたんだ?」それにテュッティは答えず、一枚の紙片をそっとマサキの手に握らせてきた。人目に付かぬように読めということらしい。マサキは手の内に紙片を隠したまま、前髪を弄る振りをしながらさりげなく手を目の前に翳す。
昨晩、シュウがマサキに渡してきた紙片と同じ紙質の紙片には、やはり同じ女手による小さな文字が書き付けられている。
それによると、どうやらサフィーネはディーラーを務める為にVIPルームに向かうことになったようだ。サフィーネがここに潜入してから、どれだけの日にちが経っているかマサキは知らなかったが、あれだの観客を集められるディーラーだ。VIPルームに招かれるのも已む無しとマサキは思ったものだが、サフィーネ自身は突然の配置転換に思うところがあったのだろう。シュウが一時間経ってもカジノホールに戻って来なかった場合には、ホールの上階にあるVIPルームを制圧して欲しいと書き付けられている。
「シュウはどうしたって?」
「VIPルームに招待されたみたいよ。もう上の階に上がってから三十分は経つわね。どうするの、マサキ」
「帳簿の確保が先だろ。証拠を掴んだ上でなら、どんな云い訳も効く。なあに、直ぐ片付けりゃいいんだろ。武器も確保出来たし、後はいつも通りにやるだけだ」
「それなら、ここで油を売っている場合ではないわね」
肉弾戦は苦手とはいえ、テュッティとて魔装機の操者。たおやかな見目に騙されそうになるが、好戦的な性格には違いない。
迫りくる戦いに気分が高揚したのだろう。ふふ、と微かに声を上げて笑ったテュッティは、ボーイを呼び付けるとシャンパンのグラスをトレーに乗せた。マサキもシャンパンを飲み干して、グラスを置く。このホールとも今日でおさらばだ……。マサキはポケットの中に残っていた数枚のチップを、餞別代りにボーイに渡す。彼にとってこうした心付けは日常なのだろう。恭しく一礼すると、マサキたちを振り返ることなく、ホールの奥。人いきれの中へと姿を消した。
それを見届けることなく、マサキとテュッティはホールを後にする。
途中でマサキの客室に寄り、それぞれ武器を装備し、特別室のあるフロアに向かう。フロア手前で階段の影に身を潜めて、最終的な手順を確認する。直接的な戦闘を得意とするマサキは、搦手が苦手だ。護衛が点在するフロア。しかも侵入口はフロアの中央。下手を打てば、自分たちこそ窮地《ピンチ》に追い込まれかねない。
作戦《オペレーション》はテュッティに任せることにして、マサキは引き続き階段の影。様子を窺いながら身を潜める。
そのマサキの隣から、セカンドバッグの後ろに短刀を隠し持ったテュッティがフロアに出る。壁や天井を飾る豪奢な装飾品に負けじとも劣らぬ気品。緋の絨毯の上を優雅に歩んだ彼女は、オーナーのものと思しき部屋の前に立っている護衛に瀟洒《しょうしゃ》に微笑んでみせる。
「ここのオーナーに御挨拶を、と思って寄らせていただいたのだけど」
「残念ながら、オーナーはこちらにはおりません。お引き取りを、マドモアゼル」
「なら、好都合ね」同時に、テュッティの手が空気を裂く。「マサキ!」
護衛の首筋に短刀を突き付けたテュッティに、他の部屋の前に立っていた護衛たちが一斉に動いた。テュッティに向かって迫りゆく彼らの中心にマサキは躍り出る。「動きが遅い!」スローモーションで流れる彼らの動きを封じるのは容易い。一撃、二撃……マサキは立て続けにバールで空を斬った。迸る衝撃波が護衛を薙ぎ倒す。
使い慣れた剣と比べれば射程範囲は狭かったが、どうせ室内戦闘なのだ。狭い範囲を狙い撃つには丁度いい。右に左にバールを振り回しながら、急所に剣圧を当てる。マサキは一歩も動くことなく、自らとテュッティに迫り来る護衛たちを倒していった。
瞬く間に累々と床に積み上がる護衛たち。十人ほどの護衛を数分もかからずに片付けたマサキは、そうしてテュッティを振り返った。最後に残された護衛。テュッティに突き付けられた短刀に身動きが取れずにいた彼は、目の前で容易く腕自慢の猛者たちが倒されたことが少なからず衝撃だったようだ。両手を上げて降参の意を表している。
「少しの間、休んでいて頂戴」
テュッティの言葉を受けて、マサキは最後の一撃を食らわせるべく、赤錆びたバールを振り上げた。
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