恐らく次回で最終回になるのではないかと思われるところまで漕ぎ着けました。毎回毎回産みの苦しみを味わいながら書いてるんですけど、今回はいつにも増して苦しんでいるような気がしてなりません。それもこれもマサキを活躍させたいという欲の所為!
自分が納得いくような活躍はさせられなかったので、この潜入捜査シリーズはまだまだ続きます。笑 もっと派手に暴れさせたいのよー。
と、いったところで本文へどうぞ!
自分が納得いくような活躍はさせられなかったので、この潜入捜査シリーズはまだまだ続きます。笑 もっと派手に暴れさせたいのよー。
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<RISKY GAME>
剣圧の塊が鈍い音を立てて護衛の鳩尾にヒットする。呻き声を上げる間もなく倒れた護衛を扉の前から引き摺り出し、バールで鍵を壊して室内へ。眩いばかりに豪華な調度品。重厚な中にも華やかさが窺える室内はカジノホール並みに豪奢なものであったが、じっくり眺めている暇はない。
急所を狙ったとはいえ、なるべく怪我を負わせないように手加減して剣技を放っている。一時的なショック状態で気絶しただけの護衛たちは、そう遠くない未来に目を覚ますだろう。マサキとテュッティは扉の向こう側に広がっていたリビングから繋がっている部屋をひとつひとつ検めて行った。
キッチン、寝室、バスルーム、カジノルームにシアタールーム。特別室と謳われるだけあって、半端な広さではない。それでも彼らのような富裕層が所持しているだろう館に比べれば限りある広さ。リビング続きになっているダイニングの先に書斎を見付けたマサキは、その部屋の片隅にて重苦しい存在感を放っている金庫を発見した。
「テュッティ、短刀を」
「荒っぽいわね」柳眉を顰めてテュッティが云う。
「四の五の云ってる暇なんてあるもんか。ちまちま開錠してたら、あいつらを助け出せないだろ。全員で生きて船を出られれば、後はなんとでもなる。その為にも先ずは帳簿を入手しなきゃな」
金庫の前にしゃがんだマサキはテュッティから短刀を受け取った。オリハルコン製の短刀はレアメタル以外の金属であれば、どんな金属であろうとしなやかに切ってみせる。マサキは躊躇うことなく刃先を金庫の扉に向けた。砂を掻くように金庫に吸い込まれてゆく刃先。マサキの手の動きに応じて扉を切り裂いてゆく。
ごとんと鈍い音を立てて、金庫の扉が剥がれた。
金庫の中には紙束が整然と積まれていた。証券類や権利書といったそれらの紙束を素早く除けながら帳簿を探す。ここを根城にしているだけあって、結構な量の書類の束。ふたりがかりでそれらを掻き出しては次、また次と繰り返していると、底に埋もれるように隠されていた帳簿の姿が露わになった。
「テュッティ、中身の確認を」
「見た感じは普通の帳簿っぽいわね……」
テュッティが帳簿の中身を検めている間、マサキは金庫の分解に取り掛かることにした。この船のオーナーが教団に資金を流しているのが事実だとしたら、他にも帳簿が隠されている可能性がある。手っ取り早いのは金庫内に隠しスペースを作って、そこに隠しておくことだ。
短刀を使って慎重に分解を進めてゆく。内装を剥がし、底板を剥がし、その隙間に何もないことを確認する。あっという間に無残さを増した金庫。残された可能性は仕切りしかない。マサキはその合わせ目に剣先を滑り込ませ、手首を手前に捻る。
手応えを感じさせずに上板が開いた。そっと上板を手で取り除く。その下には何枚かの書類とデータディスク、そして帳簿と思しき帳面が隠されていた。
「あったの?」
「多分な」マサキはテュッティに帳面を渡す。
その中身にざっと目を通したテュッティは、マサキを見て頷いた。どうやら帳簿であるのは間違いなさそうだ。
「これだけの収穫があれば、なにがしかの証拠は手に入りそうね」
「教団が絡んでるかはさておき、後ろ暗いことに手を染めてるのは間違いなさそうだな」
全ては危険を省みず、情報収集に努めたサフィーネのお陰だ。
その彼女は今、どうしているのか。窮地に陥っていないことを願いながら、マサキは短刀の刃先を検めた。
流石はオリハルコン製だけはある。金庫を骨組みにしても、刃こぼれひとつしていない。その短刀をテュッティに再び渡して、マサキはバールを片手に立ち上がった。目的を果たした以上、ここに長居は無用だ。念の為に隠しスペースから発見された書類やデータディスクも持ち出すことにして、それらを手分けして身体に隠し持ったマサキとテュッティは、そうして今度はカジノのVIPルームに向かうべく書斎を後にした。
警戒を怠ったつもりはなかったが、どこかに慢心があったのだろう。
警戒を怠ったつもりはなかったが、どこかに慢心があったのだろう。
サフィーネだけでなく、マサキとテュッティもいる。自らを縛る法を持たない彼らにとって、自らを縛る鎖となるのはその判断のみ。彼らが強大な力を無闇に揮うことがないのは、そうやって自らに制限をかけているからなのだ。
踏んできた場数が違う。
邪神に自己を委ねた教団の信徒がどれほどのものか。戦場で頼りになるのは何よりも強固な意志である。どれだけ目の前で希望が打ち砕かれようとも、決して折れることのない鋼の心。武力を正しく力に変えるのは、その力だ。長い戦いを幾度も戦い抜いてきた彼らにはそれがある――。
だからこそシュウは敵を卑小に見てしまったのだ。たかだか信徒である、と。それが油断を招いた。サフィーネをディーラーに据えて行われたルーレット。こじんまりとしたホールには、必要最小限の卓しかなかった。けれどもそこに集うプレイヤーの熱気は、階下にある巨大なカジノホールとは比べ物にならなかった。
選りすぐられたプレイヤーたちは、勝負ごとに金を限界まで注ぎ込むことを厭わない者ばかり。無理もない。階下と比べて十倍のレート。誰もが巨額の配当金を得ることを夢見て、せっせとチップを積んでいる。
そこに足を踏み入れたからといって、シュウは勝つつもりはなかった。
あくまで目的は船のオーナー。その顔さえ拝めれば、後は幾らでも遣り様がある。真綿で首を絞めるようにゆっくりと。その資金の流れを止めさえすれば、教団のことだ。容易くオーナーを切り捨てたものだろう。
ルーレットを数ゲーム。変わらずに負けを重ねるシュウに、同席している他のプレイヤーたちが興味を抱き始めたその時だった。オーナーを名乗る男がシュウに話しかけてきたのは。
その顔に、昔日の面影を見出したシュウは、猛烈にこの船への関心が薄れてゆくのを感じた。
中肉中背の小男。薄くなった頭髪を綺麗に撫で付けて上品ぶってはいるものの、肉に埋もれた瞳の奥の昏い輝きは見間違えようもない。陰気な顔立ちは、豪華客船を手に入れても変わるものではないようだ。
――見事な賭けっぷりだと聞いていますよ。
こちらからリアクションを返さずとも、次から次へと。新たな話題を提供してくるオーナーに、シュウはうんざりしている内心を悟られまいと、微笑みながら適度に応じてみせた。
目的を果たした以上、長居は無用。さっさと資金を費やして自由になるに限る。帳簿の中身に期待をしていなかったシュウは、それでもマサキたちを動かした以上はと、そうしてオーナーの長話に付き合い続けた。こじんまりとしたホールの奥にあるオーナーのプライベートバーへの誘いを断らなかったのも、マサキたちの為に時間を稼がなければと思ったからだ。
陽気に言葉を紡ぐ彼に勧められるがまま、シェリー酒をひと口。
知っている味と異なる苦みに、しまったと思っても時既に遅し。少しもすると痺れ出した手足に、襲いくる用心棒をシュウは上手く避けることが出来なかった。
その手足の痺れは既に止んでいる。
ひと口で済ませたからだろう。後遺症を残すような薬ではなかったのが幸いした。しかし――、とシュウは変わらず藻掻いてみせながら、事態の打開策を考え続けた。体勢さえどうにか出来れば彼らを殲滅するのは容易いが、敵もそこは心得ているのだろう。シュウの思うような自由を与えてはくれない。
そんなシュウの無様な姿を、オーナーは愉悦の表情で眺めている。教団を梃子摺《てこず》らせてきた宿縁の敵が掌中にある。その状況に酔っているようだ。だったらその気持ちを利用しない手はない。だからこそシュウは藻掻き続けたのだ。
けれどもそうした時間稼ぎにも限りはある。
もういい、とオーナーが口にする。飽きたのだろう。ついに彼はシュウの命を絶つ決心をしたようだ。
「教団の裏切り者には惨めな死こそが相応しい。ひっそりとここで命を終えよ、クリストフ」
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