書いていて思ったんですけど、古書市ってもしやコ〇ケのようなもの……
そんな不埒なことを考えたりもしながら書いた第二話です。
思うんですけど、白河ってどういうスケジュールで、日々を過ごしているんでしょうね。剣術の稽古だってあるでしょう。研究だってしないといけないでしょう。教団を相手にしないといけないでしょう。日々のルーティンになりそうなものが、一日に収まる気が微塵もしないのですが……
必要に迫られるまでは自ら動かないタイプなのかも知れませんね。でも嫌だなあ。そんな8月31日に宿題を済ませるような白河。笑 と、いうことで、本文へどうぞ!
そんな不埒なことを考えたりもしながら書いた第二話です。
思うんですけど、白河ってどういうスケジュールで、日々を過ごしているんでしょうね。剣術の稽古だってあるでしょう。研究だってしないといけないでしょう。教団を相手にしないといけないでしょう。日々のルーティンになりそうなものが、一日に収まる気が微塵もしないのですが……
必要に迫られるまでは自ら動かないタイプなのかも知れませんね。でも嫌だなあ。そんな8月31日に宿題を済ませるような白河。笑 と、いうことで、本文へどうぞ!
<So What?>
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嫌な予感というのは、得てして外れないものだ。
悪足掻きのように雨を願った当日の天気は晴れ。抜けるような青空の下、マサキが想像していた規模の十倍はある巨大古書市は、往来に人いきれが出来るほどに千客万来といった賑わいをみせていた。
年に一度しか立たない市だけあって、参加者はラングラン州に留まらない。ウエンディの話では、国内各州どころか、バゴニアやシュテドニアスからの参加者もいるらしい。
出店者の数はおおよそ千。それだけの数の出店者ともなれば、ふらりと見て回る程度では、辿り着けない店が出る。巨大なマーケットでどうやって目当ての本を探すのかと思いきや、彼らが出品する予定の膨大な商品は事前にカタログ化されているのだとか。「今年は二十くらいかしらね。本当は百ぐらい回りたいのだけど、予算の関係もあるものだから」ウエンディはそう云って、はにかみがちに笑った。
何が楽しいのかさっぱりわからない古書市。「マサキもちょっと見てみたら」とは云われたものの、日常的な読書の習慣のないマサキが読める本は限られている。下手をするとウエンディが目的を達するよりも、そちらを手に入れる方が難しいのではないだろうか。
難しすぎず、優しすぎない。けれども適度に硬い文体で書かれたエンターテイメント気質な本。マサキが好きな本とはそういった性質のものだ。とはいえ、主人公たちが悩んでは付いて離れてを繰り返す恋愛小説や、他人の日常と云うどうでもいい情報に溢れているエッセイは苦手とする最たるもの。読むのに頭を使う推理小説や、登場人物が多岐に渡る歴史小説なども苦手な方だ。展開が起伏に富んだ冒険小説や、破茶滅茶な展開が続くギャグ小説は好きだったが、最後まで読み切れることは稀だ……マサキは試しに一山いくらで売られている小説を手にしてみた。立ち読み歓迎な店主に勧められるがままに頁を捲ってみるものの、時代を表すように文体が古めかしいものだから、そうでなくとも理解に時間がかかる内容が、余計に頭に入ってこない。
「駄目だ。俺にはさっぱり理解出来ない。古書の何が面白いんだ?」
「目的がないと面白さは半減するかも知れないわね。私は研究に必要な部分もあるから、どの分野の本が必要なのかははっきりしているけど、そうでなくこういった世界を楽しむのであれば、相当に読書が好きでないと難しいかも」
「古い知識を集めているようなもんだよな。研究に必要っていうなら、新しい知識の方がより必要だと思うんだが」
「新しい知識は古い知識の積み重ねで出来ているのよ。それを知らずに研究を続けるのは非効率的でもあるわね。だからこうして古い知識を求めて足を運んでいるのだけど」
「非効率的?」
「どの方向性がどれだけ研究されてきたのかを知っていれば、余計な回り道を防げるでしょう? 例えば魔装機の開発でこういったコンセプトの魔装機にしようと方向性を決めたとするわよね。そこで技術を一から手探りで探して理論を組み立てていったら、どれだけの時間がかかると思う? だけど先行研究があったら、それを参考に時代に合わせた技術を組み込むだけで済むのよ。
魔装機神をいきなり短期間で作れは無理だけど、下位の正魔装機のデータがあれば話は別。その下位の正魔装機にしても、いきなり作られた訳ではないわよね。ノルスだったりガディフォールだったりのデータが用いられている。全ての研究はこうした積み重ねなのよ」
「今の研究を進める為に、それまでのデータを知るってことか」
だからあの男も方々を巡っては古書集めに余念がないのかと、マサキは納得をした。
表紙に書かれている題名《タイトル》の難解さだけで、内容について知るのを諦めてしまっていた書物の数々。ただの物好きなだけだと思っていたそれらの書物の意味を知ったマサキは、日々そうやって知識と向き合い続けている彼らの苦労を思った。膨大な量の書物の中から、必要とする知識を探す……それはきっと、大量の砂の中から一粒の砂金を探すような作業であるのだ。練金学士協会《アカデミー》という組織に属し、組織や同業者からの支援《バックアップ》が受けられるウエンディはさておき、在野の研究者であり、支援や助力を受けられる範囲が限られている男にとっては、古書から得られる知識はウエンディが語ってみせた以上の意味を持つものであるだろう。
そこまでマサキが考えたところで、ウエンディと彼女の名前を呼ぶ聞き慣れた声が、ふたりの背後から飛んできた。
予想はしていた展開だったものの、気まずさは隠しきれない。「あら、クリストフ。あなたも?」振り返ったウエンディの邪気の無い声を聞きながら、マサキは彼が今しているだろう表情を思い浮かべる。苦虫を嚙み潰したような渋い表情だろうか? それとも冷静さを欠くまいとしたときにみせる涼やかな表情だろうか? いや、きっといつものように、面白味のない取り澄ました表情をしているに違いない……覚悟を決めたマサキは、ウエンディの後ろから彼を振り返った。
「ここにアラン=バルゴーの対物性論全集があると聞いて、足を運んだのですが」
想像した中では、一番面白味のない取り澄ました表情。マサキが気にしているほど、彼はウエンディとマサキの仲を気にはしていないのか。そっとウエンディの胸元に視線を落とした。
確りと胸に抱かれた五冊の全集。そう、ウエンディもまた、その全集を求めてこの出店者の元へ足を運んでいたのだ。
「必要なときになったら云って頂戴。いつでも貸すわよ」
「そうさせて頂きますよ。ところで、ここでのあなたの目的は、この全集だけですか?」
「あなたは他にもあるの?」
「シュナイダーの祈りと精霊もあると聞いたのですが――……」
どうやら彼は、ウエンディに同行しているマサキの存在を揶揄する余裕もないようだ。そのまま情報交換を始めたふたりに、マサキは安堵しながらも、一抹の寂しさを感じもしたものだった――……。
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