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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

SweetDreams(後)
ということで後編です(*´∀`*)なんとか終わったよー。
 
ぱちぱち有難うございます。やっぱりリアクションがあってこその創作活動ですので、とても嬉しく、また励みに感じております。残り二十三話(笑)頑張ります!!
<SweetDreams>
 
「良く眠れましたか。震えていたようですが」
 ラ・ギアスを後にして追い掛けた日々。その果てにようやく仕留めたと思っていた敵。シュウ=シラカワは、月での戦い以降、雰囲気が変わったようにマサキには感じられたものだった。
 以前のような冷ややかさはもうない。尊大な態度は相変わらずだったものの、それは恐らく彼が元来持っていた気質なのだろう。そう、彼は格段に穏やかさを増した。今のシュウ=シラカワはただそこに自然に在るもののように存在している。
「それでかよ。確かにちょっと寒かったけどな」
「眠れたのなら何よりですよ。うなされていたようでもありましたし」
「寝心地のいい場所じゃなかったしな」
 うなされていたと聞かされて、妙に納得している自分がいる。繰り返し見ているに夢にしても、実際の出来事をベースとした夢。初めての殺人。それは思い出す度に、マサキの心に澱を積もらせた。
 そう、それは今も。
 己の気持ちが晴れやかでないからといって、わざわざ夢見の悪さを口にするものでもない。ましてや相手はこの男。マサキは適当にはぐらかすと、ここに来るまでの間、ずっと気になっていた単純な疑問を口にした。
「それにしても、何で非常階段なんかを使ってるんだ」
「トレーニングついでですよ。この生活は思った以上に身体を動かさなくなりますからね。こうして歩数を稼がないと身体が硬くなって仕方がない」
「他にも効果的なトレーニング方法があるだろうに、物好きな」
「人気がないのがいいのですよ。様々に物を考えるのに適している」
「そういうもんかね。まあ、いい。服、返したからな」
 理解の及ばない男だ。そう思いながらマサキは階段を上がるべく足を踏み出した。マサキの用は終わったのだ。そもそも、無駄話に時間を費やせる相手でもなく。いつ敵になるかわからない男と馴れ合う趣味はマサキにはなかった。
 とはいえ、今からまた船渠に戻ったところで、すべきこともない。どこに行こう……考えながらマサキがシュウの脇を通り抜けた瞬間だった。マサキ、と名前を呼ばれると同時に、やんわりとその手首が掴まれた。
 ――だからこいつと二人きりになるのは嫌なんだ。
 振り返らなければいいだけなのに、振り返ってしまう己が恨めしい。マサキは手摺を背にシュウに向き合った。仰がされた顔を覗き込むようにシュウの顔が近付いてくる。間近にしたシュウの顔から目を背けられずに、マサキはゆっくりと瞼を伏せると、その口唇を自らの口唇で受け止めた。
 冷えた肌の温もりが、口唇を通じて伝わってくる。体温の低い男。温度差が心地よい。与えられた口付けを貪りながら、マサキは次なる誘惑に身を焦がされる思いでいた。
 自らが奪った命を乗り越えて生きているつもりでも、鬱積した何かが胸の奥に燻っていた。それは無常感であったかも知れなかったし、無力感であったかも知れなかった。その鬱屈した感情は、長い戦いに身を投じるマサキをゆっくりと蝕んでいった。こうして人の温もりに甘えずにいられなくなってしまうまでに。
 縋るものを求めているだけなのだ。
 そんなことはわかっている。わかっているからこそ、マサキは時にこうして気紛れに仕掛けられるシュウの愛撫に従順であることを選んだ。何を考えて自分に肌を重ねてくるのか判然としない男。不自然な行為に身を委ねることの危うさを、マサキは理解しているつもりでいたけれども、理解しているからといって抑えられるとは限らない。
 自らの中で暴虐に渦巻く理解の及ばない感情。何かわからないそれを、マサキは持て余してしまっていた。
「場所、変えろよ。人が来るだろ……」
 シュウは性急にも非常階段《ここ》でことを済ませる気でいるようだった。さも当然とばかりに耳元や首筋を這い出すシュウの口唇に、息を荒げつつもマサキが云えば、
「大丈夫ですよ。そんな物好きは私ぐらいしかいない」
 それでも服を全て脱がす訳にはいかないと慎むぐらいの理性は残っているようだ。シュウはマサキのジャケットの留め具を外して前をはだけさせると、インナーシャツの内側に手を潜り込ませてきた。こうした中途半端に服が残る格好をマサキ自身は好まなかったものだが、場所が場所だ。我慢するしかないのだろう。そう思いながら、シュウの愛撫に身を委ねる。
 その冷えた指先が探り当てた場所に、マサキの身体がぴくりと震えた。まとわりつくように蠢く指先が乳首を弄んでいる。緩やかな快感の中に、時折、刺すような鋭さ。はあ、と、つい口を吐いて出てしまいそうになる喘ぎ声を、マサキは自らの手で口を塞ぐことで防いだ。
「あんまり、そこを弄るな……」
「嫌なの?」
「服が擦れただけでも変な気分になるんだよ……」
 そう、と呟いたシュウの手が口を塞ぐマサキの手に重なる。止める気はさらさらないようだ。擦られ、抓まれ、撫でられ。そのまま乳首を弄られ続けること暫く。マサキはもう無理、と首を振った。
「達《い》きたくないの、マサキ」
「そこで達《い》くのは、嫌だ……」
「どうされたいの?」
 すっかり慣らされてしまっている身体が欲している|も《・》|の《・》。マサキは手摺を掴んでいたもう片方の手をシュウの股間に伸ばした。身体の奥がこれを求めて疼いてどうしようもない。その欲求に従って、マサキは震える指先でシュウのスラックスのファスナーを下ろした。
 開いた隙間から手を差し入れて、硬さを増す塊を撫でる。欲しいの? と耳に振る声。マサキは欲しいと答えて、口元で重なり合っている手を外した。シュウの首に手を回して、耳元近くで早く、と囁く。
 求める気持ちに限りはない。それでもひとときの充足感の為に、マサキはその先を求めてしまう。
 二度、三度と軽く繰り返された口付けの後に、その腕を解いたシュウがマサキの身体を返す。マサキは手摺を両手で掴んだ。背後から伸びてきたシュウの手が、腰元に纏わり付くジーンズと下着を摺り下ろす。たったそれだけの時間が、マサキにはもうもどかしく感じられて仕方がない。息を詰めてその瞬間を待つ。
 シュウの指が双丘を割った。その奥で口を窄めて待っている蕾に押し当てられる肉の塊。それは次の瞬間、襞《ひだ》を押し広げながら一気にマサキの中に押し入ってきた。
 そうして、求めていたものを得たマサキは、何度かの絶頂の後に、シュウが放った体液を身体の奥で受け止めた――……。
 
 人を初めて殺した日の夢を見た。
 
 血に汚れたこの手を今更綺麗にはできなかったからこそ、マサキは自分よりも凄惨な世界で生きている男に身体を委ねた。傷を舐め合うつもりはなかった。ただ人の温もりが恋しくて堪らなかった。
 性行為の余韻に浸るように口付けを交わし、汚れた床の後始末をして、マサキはシュウと別れた。
 心地よい疲労感に包まれた身体は睡眠を欲し始めていた。今度は安らかに眠れそうだ。そう思いながら非常階段を出たマサキは、自らに与えられている船室《キャビン》へと向かった。そうして、自分よりも遥かに数多く手を汚してきたに違いない男は、果たしてどんな夢を見ているのだろうと思った。その夢が安らかなるものであることを願いながら、船室の中。マサキは深くベッドに潜り込んだ。
 
 
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