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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

すれ違いのSt.Valentine.(8)
ようやく旅行編ですね!

書いていて、「あれもしかしたらこれ白河が自分が云ったことを忘れている可能性が微レ存?」と思っていたので、無事に行かせられてよかったです。
とはいっても、あまり長くなってもだらけるだけなので、さっぱりと済ませたいと思っています。

では本文へどうぞ!
<すれ違いのSt.Valentine.>

 ハプニング続きのバレンタイン前日。それもシュウの元に辿り着けば終わりと油断していたのが良くなかった。「待っていましたよ、マサキ。さあ、行きましょうか」シュウが仮住まいとしている今の家に辿り着くなり、旅行への出発が今日であることを告げられたマサキは、荷物を下ろす暇もないまま駅へと向かうことになった。
 どうやら自分は出発する日を勘違いしていたらしい。
 マサキがその事実に気付いたのは駅への行きがけのバスの中。慌ただしい一日に手帳を見返すこともせず、ただ思い込みで明日だとばかり思っていたマサキは、突然の出発を予定の前倒しぐらいにしか捉えていなかった。それは呑気にもシュウに尋ねられるがままに、来訪が遅れた理由が任務にあることを話して聞かせたものだ。
「恐らく、そういった理由だと思っていましたよ。長めに宿を押さえておいて良かった。きっとそうなるだろうと思ってのことでしたが、それが思惑通りに役に立つとはね」
 三泊四日の旅行の予定。その内の二日はマサキの急な予定に対応出来るようにと、シュウが余裕を持たせた結果なのだそうだ。
 その発言を聞いて、ようやくマサキは出発の日にちを勘違いをしている可能性に思い至った。もしかして、と手帳を開いてみれば、確かに自分の字で今日が出発日であることが書き込まれている。きっと、バレンタインに気を向けている内に、バレンタインと出発日を混同してしまったのだろう。
「悪い。俺、日にちを勘違いしてたみたいだ」
 思い切ってシュウにそう打ち明けてみせると、シュウは既に予測していたからか、「大丈夫ですよ。そうなることは織り込み済みです。今からだと夜行列車になりますが、それはそれで趣がある」と、機嫌の良さを感じさせる調子で云ってくれたものだ。
 去年のバレンタインのプレゼントは、それだけ今年のシュウに期待させているようだ。
 マサキとしては気が気ではない。
 一年をかけたのだ。喜ばせる自信はあった。けれども滅多に感情を露わにしない男の露骨な期待に応えられる品かと聞かれると、やはり不安は残る。
 やがて駅に着くバス。人もまばらな車内から出てターミナルを往き、駅の構内へふたりで向かう。
 当日であっても一等席ともなれば、それなりに空きがあるようだ。当然のように、シュウは一番早い夜行列車の一等席の二人用客室を買い求める。マサキはチケットを受け取りながらいつ今年のプレゼントを渡すか考えて、少し早いけれども客室に落ち着いてからにしようと決めた。
 どうせ本の虫たるシュウのことだ。そう時間も経たない内に、家から持ち出した本を開くに違いない。
 本数の少ない夜行列車は到着まで一時間ほどの時間があった。待ち時間を駅構内にある喫茶店で『リューネを中心とした魔装機操者たちの恋愛事情』という愚にも付かない話をしながら潰し、ホームへ。滑り込んできた華美な装飾の施された夜行列車に乗り込んで客室に向かえば、思ったよりも室内は広く、ベッドが二つに、荷物を置く用のクローゼット。壁には小型の薄型テレビモニターが掛けられ、小さいながらも書き物が出来る程度には、幅のあるテーブルも備え付けられている。
「折角ですから、ラウンジに行ってみますか? 食事も出来ますよ」
 喫茶店で軽めの食事を済ませていたとはいえ、まだまだ食べ盛りな年頃だ。物足りなさを覚えていたマサキはシュウの誘いに頷いた。
 荷物をクローゼットに収めて通路に出る。人がひとりずつすれ違える程度の幅しかないせせこましい通路には、同じような目的でだろう。まばらに人が居る。その中を、マサキはシュウの後に続いてラウンジに向かった。
 眺望のいい二階席からは流れる景色が良く見えたものだ。乗り入れ線の多い巨大な駅のホームを出発した列車は、ゆっくりと遠ざかって行く街並みを背後に、平原から巨大な森の中へと入っていった。
「好きな物をどうぞ」
 そう口にするということは、会計はシュウが持つつもりなのだろう。「偶には払わせろ」と云ってはみたものの、シュウは聞くつもりはないようだ。何も答えずに微笑んでいる。
 仕方なしにマサキは渡されたメニューブックを開いた。
 少し遅めの夕食を何にしようか悩んだものの、昼にはステーキを。そして小腹を満たすのにサンドイッチを食べている。だったら軽めでいいだろうと、マサキは夕食をシチューとバケットで済ませることに決めた。
 目的の駅への到着予定は十一時間後。
 腐るほどある車内での時間に慌ただしく動く必要のなくなったマサキは、シュウを真向かいに。座席に届けられた食事をゆっくりと味わった。思えば朝から忙《せわ》しなかった。起き抜けに情報局に呼び出され、西のナブロへと。人質救出を片付けて、町でザッシュの恋愛相談に乗り、そしてミオの家でチョコレートを作った。普通に考えて、半日で片付けられるスケジュールではない。
 無茶な任務を押し込まれてもどうにかなったのは、魔装機神という移動手段があったからこそ。セニアが聞けば、そんな目的で正魔装機を使うなとも云われそうではあったが、乗らずにいれば腕が錆びる。
「どうかしましたか、マサキ」
「いや、今日は忙しい一日だったなって思っただけだ」
 ようやくひと心地付いたマサキは、シュウの手元に視線を這わせた。寝酒のつもりなのだろう。グラスワインを頼んだシュウは、本を読みながら、少しずつそれを口に含んでいる。
「しかし、あなたにとっては日常とはいえ、突発的な任務というのも困り物ですね」
「拒否権があるって云う割には、そんなに拒否も出来ないしな。っていうか、セニアは拒否させないタイプだろ。しかも急に難度の高い任務を平気で通達してきやがる。恐らく、断れるレベルの任務は全部軍部に回してるんだろうな」
「彼女らしい辣腕ぶりだ」シュウは声を潜めて嗤った。「今年は多少の遅れで済んだけれども、この調子だといつか取り返しの付かないことになりそうだ」
 年に一度のこの日だからこそ起こってはならないハプニングに、シュウはシュウで思うところがあるようだ。「来年は迎えに行きますよ。今日のように予約を無駄にしてしまうのも勿体ないですしね」云って、またひと口とワインを口に含む。
「そういや、宿はどうしたんだ?」
「遅れると伝えてありますよ。今更キャンセルもないでしょう」
「そっか。俺の勘違いの所為で悪いことを」
「あなたの所為ではないでしょう。人質救出ぐらい軍に任せておけばいいのですよ。セニアにはセニアの考えがあるのでしょうが、本来門外漢なことにまであなたたちを担ぎ出すのは甘えでしかない」
 情報局の虎とも女傑とも評されるセニアを一刀両断に切って捨ててみせたシュウは、そこで給仕が皿やグラスを片付けに来たのを契機と本を閉じた。どうやら客室に戻るつもりのようだ。本を片手に腰を浮かせながら、
「今度、城下に用がある時にでも彼女を訪ねることにしましょう。少し釘を刺しておく必要がありそうだ」


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