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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

我欲、或いは欲望のバレンタイン(3)
次回はバレンタイン当日編ですよ!
 
私は基本的に頭の中の妄想がそのまま形にならない人なので、この時点で話が想定したものとずれ始めていたりするのですが、次回は大丈夫!らぶらぶさせます!ほら、タイトルがタイトルだし!これでらぶらぶしなかったらタイトル詐欺ですし!
ということで、明日のバレンタインを皆様にとっていい日にする為に、わたくしこれから最終回を書き上げます。一緒に甘いバレンタインを過ごせますように!では本文へどうぞ!(*´∀`*)
<我欲、或いは欲望のバレンタイン>
 
 同時に通信機の|呼び出し音《コール》が鳴り響く。
 このタイミングで姿を現した以上、シュウも某かの形でこの件に関わっているのは明らかだ。さっさと決着を付けてバレンタインの準備に戻りたいマサキとしては応じるしかないところだが、現在極秘生産中のプレゼントを謹呈する相手の登場である。なんとはなしに顔を合わせるのに気まずさがある。
 それにもし、ややこしい話になっていたら……マサキは折角のバレンタインが流れる結果になりはしないかと、不安を感じながら通信回線を開いた。
「ヴォルクルスは無事に倒せたようですね、お二方」
 シュウは二機の魔装機神の目の前でグランゾンを停止させると、いつもと変わらずモニター画面の向こう側。自らのけたたましい使い魔を肩に乗せた姿で、一歩間違えば鼻にしかつかない微笑を浮かべながら、マサキとミオに話し掛けてきた。
「お前は何をしてたんだよ。まさか俺たちが戦っていたのを、ただ眺めていただけじゃないだろうな」
「小煩い蠅を払いにきたら、あなた方がヴォルクルスと戦っている場に出たのですよ。恐らく、近くに私がまだ把握出来ていない神殿があるのではないかと探索してみたら案の定。そこに棄てられた神殿を見付けたものですから」
「それであの有様? あなただったら壊すよりも利用する方を選ぶと思うんだけど」
「あまり数が有り過ぎても、対処が面倒でしょう。時間があればちゃんと相手をして差し上げても良かったのですが、下層の神官相手にあまり長引かせたところで、思ったような情報が入手できるとは限りませんしね。無駄は極限まで省くに限ります。と、いうことで、きちんと祭壇を使えないように処理しましたので、この周辺の脅威は取り除かれたと見てくださって結構ですよ」
 ああだこうだと理屈を付けて話をややこしくしているものの、つまりはそこまで彼らの相手をするほど暇ではないのだということだ。マサキはほっと胸を撫で下ろす。どうやら、教団とのいざこざを長引かせたくないのはマサキだけはなかったようだ。
 そんなシュウの詭弁に真実を知っているからこそ当て擦りたくなったのだろう。こっちも我欲っぽい――と、ミオが聞えよがしに呟く。それを「聖人君子でもないですしね。我欲なくして戦いは出来ないでしょう」シュウはさらりと受け流して、ふふ……と含み笑いを洩らした。
 翌日にバレンタインを控えているのはお互い様。そうとでも云いたげなシュウの態度に、マサキは気恥ずかしさを隠し切れない。モニター画面からそっと視線を外し、一見、平穏を取り戻したかに見える平原を見渡した。
「んじゃ、あとはヴォルクルスの後始末だけ――……」
 始まった。マサキは身体を襲った倦怠感に言葉を詰まらせた。共鳴《ボーナスタイム》の終わりはいつだって突然だ。あっという間に操縦席に身体を沈めているのですら辛く感じられるようになったかと思うと、目の前がブラックアウトする。
「共鳴《ポゼッション》を起こしていたのですね。風の精霊サイフィスも、もう少しマサキの身体を労わってあげればいいものを」
 口から心臓が飛び出してきそうなまでに不規則に跳ね上がる鼓動。息苦しさに身動きがままならない。「マサキ! 大丈夫かニャ!?」マサキは二匹の使い魔の呼び声を聞きながら、操縦席から這い出るとコントロールルームの床の上に伸びた。
 時折、風に吹かれた灯火が消えるように、すうっと意識が途切れる。「あー……ここで倒れてたまるかってんだよ……」ミオの家のキッチンに放置したままのクッキー生地。ラッピングだってこれからなバレンタインのプレゼント。明日を有意義に使う為にも今日中に完成させなければ……マサキは執念で床に爪を立てた。
 そのまま、操縦席に這い上がろうとするも上手く行かない。
 どさっ、と盛大な音を立てて再び床に倒れ込んだマサキの耳に、「まあ、こうなるのはわかってたけどね……」困り果てたミオの声が届いた。
「ねえ、シュウも気《プラーナ》の補給できるんでしょ?」
「出来ますよ」
「だったらちゃっちゃっとやってあげてよ」
「ヴォルクルスを撃破した以上、最早、切羽詰まった状況でもないでしょう。数時間もすれば治るものですし、今無理に補給をする必要もないように思えますが」
「ふーん……」つれないシュウの返答に、「明日のお楽しみがひとつ減るかも知れないけどいいの?」
 明け透けに云ってのけたミオに、少しの間が空いた。
「……どういった意味かはわかりかねますが、いいでしょう。シロ、クロ。マサキをサイバスターから降ろせますか? 無理でしたら、私がそちらに伺いますよ」
 そのシュウの言葉を受けて、シロとクロがサイバスターの緊急用の機外への転送装置を起動させる。次の瞬間、マサキの背中から冷たい床の感触が消えたかと思うと、草むらの上。柔らかい日差しが暖かく全身に降り注ぐ。
「マサキ、大丈夫かニャ?」
「もう少しの辛抱ニャのよ」
 少しもしない内に、顔に伸びる影。マサキは薄く目を開いた。グランゾンを降りたシュウがマサキの傍らに膝を付き、顔を覗き込んでいる。あまり心配した様子でないのは、マサキが比較的、風の精霊サイフィスとの共鳴《ポゼッション》を果たし易い性質であることを、シュウも知っているからなのだろう。
「あなたとサイフィスの気が合うのも考えものですね、マサキ。度々こうしたことになってしまうのでは」
 シュウの腕がマサキの上半身を抱えた。立てた自らの膝に背中を預けさせると、空いた手がマサキの髪を撫でる。
「お前、大丈夫なのかよ……俺に気《プラーナ》をくれても」
「明日の楽しみとまで言われてはね。それを見ずに済ませるなど、私に出来る筈がないでしょう。私とて明日が何の日ぐらいかはちゃんとわかっていますよ、マサキ」
 いつものこと。共鳴《ポゼッション》を起こした後はこうなるとわかっていても、意識の消失を伴う倦怠感に、マサキが不安を感じていない筈がない。ようやく楽になれるのだ――。身体に感じるシュウの温もりに安心感を覚えたマサキは長い安堵の息を吐いた。
 節ばった滑らかな手。マサキの好きなその手が、額にかかる前髪をそっと払い、頬に触れる。
「口を開けて、マサキ」
 マサキは促されるがまま、少しばかり遠慮がちに口を開いた。口唇にかかる息。ほら、とシュウの舌がマサキの口唇の奥へと潜り込んでくる。
 触れ合う口唇。シュウの舌がマサキの舌を絡め取る。
 流れ込んでくる気《プラーナ》に、視界が一気にクリアになった。それと同時に全身に気力が漲《みなぎ》ってくる。「ん……」マサキはゆっくりと腕を動かした。「もう、いいって……これで充分だから……」その胸に手を付いて、名残惜しそうに口の端を舐めているシュウから顔をゆっくりと剥がす。
「本当に? 私の明日の楽しみが奪われたりはしない?」
「そこまで楽しみにされると、逆に不安になるじゃないかよ」
「あなたがしてくれることなら、何でも嬉しいですよ」
「本当かよ」
 ふふ……とシュウが笑いながらマサキの手を取った。身体がゆっくりと引き上げられる。「身体の具合は大丈夫ですか」シュウに支えられながら立ち上がったマサキは、手足が問題なく動くことを確認する。
「ああ、問題なさそうだ」
「それは何より。では、私はこれで失礼しますよ、マサキ。あなた方は何かすることがあるようですしね。その結果を楽しみに待つことにしましょう」
 すっかり活力を取り戻した手足に、気《プラーナ》を分け与えたシュウの身体が、マサキには気掛かりに感じられたものだったが、どうせ明日は一緒に過ごすのだ。疲れが残ってしまっていたらそれはそれ。ふたりでのんびりと怠惰に過ごすバレンタインも悪くない……そう思いながら、一足先に平原を後にするグランゾンを見送って、マサキはシロとクロとともにサイバスターの操縦席に戻る。
「流石は特効薬。すっかり元気になっちゃって」
 ザムジードで待っていたらしいミオが、早速とばかりにモニター画面の向こう側。にひひ、と笑った。
「変なけしかけ方をするんじゃねえよ。お陰で助かったけどよ」
「あまーい時間を過ごせた?」
「そういう話じゃねえだろ」
「えー? 結構長いこと下にいたじゃない」
「期待させ過ぎてる気がして、なんかプレッシャーが凄え」
 思えば去年の失態は取り返しの付かないレベルのものだった。それを手作り菓子程度で済ませてしまっていいのだろうか。そうマサキが口にすると、「もう、お惚気ご馳走様って感じ! どんだけマサキ尽くしたがりなのよ!」ミオは盛大な溜息を洩らしながら、そう言い放った。
 
 
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