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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

我欲、或いは欲望のバレンタイン(4)
スミマセン。昨日、久々の地震で眠れてなくて、今日はあんまり進みませんでした。
明日明後日は仕事なものですから、一気に終わりまで更新するのは難しそうです。

残り多分二回ぐらいになると思います。延長戦とか申し訳ございません汗
<我欲、或いは欲望のバレンタイン>
 
 クッキーを焼き上げ町へ向かい、買い出しとミオへの礼を済ませたマサキは、午後いっぱいをかけてチョコレート菓子を作り上げ、一旦、ゼオルートの館に戻った。
 北へ南へ。気紛れに放浪するマサキの不在が長いのはいつものこと。半日以上館を空けたことについて取り立てて詮索されることもなく、翌日。再びミオの家を訪れたマサキは、冷蔵庫に寝かせていたチョコレートケーキの処理を済ませ、彼女のレクチャーを受けながらラッピング。出来上がったプレゼントを片手にサイバスターを駆り、シュウの住む独り家に向かった。
「シュウ、いるのか?」
 プレゼントの中身が滅茶苦茶にならないように気を遣いながら合鍵を使って家に上がり、「あらあらマサキさん。手土産持参とは珍しい」けたたましい声を上げながら玄関に姿を現したチカに家主の動向を聞いてみれば、いつも通りにリビングで読書に勤しんでいるという。
 時刻は丁度、昼。
 クッキー、ムース、チョコレートケーキにブランデー入りのトリュフ。四種類のチョコレート菓子をそれぞれ透明な袋に包んで、白いオーガンジーのラッピングバックに収めたバレンタインのプレゼント。ソファの上で書物を広げているシュウに、赤と黒のリボンで口を結んだラッピングバックを手提げ袋ごと手渡したマサキは、シュウからのギフトボックスを受け取ると、「昼飯はどうする? 何か作るか?」と、冷蔵庫の中身を確認しにキッチンに向かった。
「どちらかは外に食べに出ようと考えていたのですが」
「だったら夜かな」
 シュウからのギフトボックスは、大きさからして、きっと去年同様にチョコレートなのだろう。なら、食後の楽しみでいい。マサキはキッチンテーブルの上にそれを置いて、冷蔵庫の扉を開く。
 食材よりも調味料の方が多い冷蔵庫の中身に溜息を吐きながら、それでも作れそうなメニューを考える。卵をふんだんに使ったオムレツにポテトサラダ、玉葱とベーコンのスープ……冷蔵庫の中身は空になりそうだが、どうせ後で食事をしに出るのだ。ついでに市場《マーケット》に寄ろう。メニューを決めたマサキは、必要な食材をキッチンテーブルの上に並べ始めた。
 牛乳に卵。キュウリ、ニンジン、ジャガイモ。玉葱にベーコン。先ずは野菜の下ごしらえとシンクに向かったところで、背後から伸びてきた手がマサキの身体を絡め取った。「あれはあなたが作ったの、マサキ?」耳元に寄せられた口唇が囁くように言葉を吐く。
 どうやらラッピングバックの中身を見たようだ。心なしか弾んでいるようにも聞こえる声に、マサキは頬を紅潮させつつ頷いた。
「今直ぐあなたを滅茶苦茶にしたいぐらいだ」
「夜まで待てよ」
「夜になったら好きにさせてくれるの?」
 シュウの舌が耳朶を舐《ねぶ》る。びく、と身体を震わせながら、「夜になったらな……」その愛撫に身を委ねつつマサキが云えば、「なら、食後に紅茶を用意してくれますか。ティータイムのお供にしましょう」首筋を這い出していた口唇がきつくひと吸い。うっすらと肌に浮かぶ紅斑に、ようやく気持ちが収まったのだろう。シュウはマサキから手を離した。
 そうして、キッチンのテーブルの片隅に解かれずに置きっ放しになっている自らのプレゼントを摘まみ上げる。
「まだ開けるつもりはない?」
「食後に食べようと思ってたんだけど」
「開けてみてください、マサキ」
 そっと握らされたギフトボックスのリボンをマサキは解く。ふふ……と悪戯めいた笑い声。蓋を開ける。「これって……」マサキは震える指でギフトボックスの中に収まっている透明なケースを取り上げた。
 中には指輪がひとつ。
 それを落とさないように慎重にケースの中から取り出して、人差し指から順繰りにそれぞれの指に合わせてみる。計ったようなジャスト・サイズ。スムーズに左手の薬指に嵌った白金《プラチナ》の指輪《リング》に、「……いつ調べたんだよ」驚いたマサキがシュウに訊ねてみれば、
「あなたが泊まったときに、ですよ」
「全然気付かなかった」
「気に入っていただけましたか」
 余計な装飾の一切ないプレーンな指輪。そのシンプルさが指に心地いい。マサキは指輪の嵌った自らの手をしげしげと眺めた。眩い光。他の誰からでもないプレゼントは、この世のどんな宝石が束になっても敵わないくらいに輝いている。
 これを気に入らないなどと云ったら罰が当たる。
 深く頷いたマサキに、シュウは自分の左手を翳してみせた。薬指に嵌るプレーンな|白金の指輪《プラチナリング》。「お揃いですよ」シュウはそうとだけ云うと、思わず呆けた表情になったマサキの目の前でジャガイモを取り上げ「茹でればいい?」と聞いてきた。
 
 
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