@kyoさん20周年おめでとう記念祭
今回のリクエスト内容は「シュウマサ前提のテリウス×マサキ」となっております。
ということで、テリウス×マサキ編です。ここいらで(箸休め的な意味で)自分のリクを投入しようかとも思ったのですが、お待たせしている以上、リク全てをきちんと完結させるのが先。前2つのリクエストのトーンが結構暗めでしたので、今回は明るくを目標にしたいと思います。
テリウスもどこかできちんと書いてあげたかったキャラクターなので、いい機会を頂けたと思って頑張ろうと思う次第です。とはいえ、流石に疲れが溜まってきているので、今回はのんびり進めますね。
では、本文へどうぞ!
今回のリクエスト内容は「シュウマサ前提のテリウス×マサキ」となっております。
ということで、テリウス×マサキ編です。ここいらで(箸休め的な意味で)自分のリクを投入しようかとも思ったのですが、お待たせしている以上、リク全てをきちんと完結させるのが先。前2つのリクエストのトーンが結構暗めでしたので、今回は明るくを目標にしたいと思います。
テリウスもどこかできちんと書いてあげたかったキャラクターなので、いい機会を頂けたと思って頑張ろうと思う次第です。とはいえ、流石に疲れが溜まってきているので、今回はのんびり進めますね。
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<アカイイト(1)>
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太陽は眩く中天に輝き、爽快な天気でもって辺りを照らしていた。
常春の涼やかな風が吹き抜ける城下街の一角。人出も好調な街角で、マサキは店の軒先の品を眺めながら、束の間の平和を噛み締めていた。
子どもが菓子をねだり、少女がデザートを片手に闊歩する。少年はおもちゃを片手に駆け抜け、品の良い婦人が日傘を片手に淑やかに。軒の下に椅子を出して新聞を読み耽る老人も居れば、掲示板の前で行き先を確認する若者の群れだって在る。動乱に壊滅的な状況に陥った過去を微塵も感じさせないのどやかな風景に、マサキの口元はつい緩む。
守りたかった世界がここにある。
ラングランより遠く遥かな彼方には、未だマサキの知らない国々が存在している。その中には、かつてのラングランのように、戦禍に苦しんでいる国もあると聞く。いつかは足を運ぶことになるだろうその国々に想いを馳せて、けれども自分にとっての原点はここだとマサキは思った。
ラングラン城下街。
人が行き交う道の上から大空へと羽ばたく一羽の鳥に、やがて追い掛けるように別の一羽の鳥も羽ばたいてゆく。二羽の鳥は白い羽をひらめかせながら大空を舞った。
――あれは何て名前の鳥だったか……。
マサキは額に手を翳《かざ》して、太陽が発する眩しい光に目を細めながら、東へ過ぎ去って行く二羽を見送り、そして次の店へと向かうべく、雑踏の中に足を踏み出した。
久しぶりの休暇にすることは山積みだ。
すっかり駄目になってしまっていた冷蔵庫の中身を補充しなければ食事もままならなかったし、戦闘で痛んだ服の代わりだって用意しなければ着るものだってままならない。積もりに積もった部屋の埃を払わなければ寝るところだってままならなかったし、それはバスルームも同様だった。黴《かび》てくすんだ壁とバスを掃除しなければ、風呂だってままならない。
日々大事に追い立てられる正魔装機の操者たちは、今日は北、明日は南と、ひとところに腰を落ち着けている暇はないのだ。久しぶりの休暇でありながらも、マサキが追い立てられるように城下街で買い物にいそしんでいるのも、だからだ。
買い物すべき品はメモに書いてきた。マサキはジーンズのポケットから紙片を取り出して、そこに書かれている自らの決して綺麗とは云えない字に顔を顰める。そして、次の店に足を向けた、その時だった。
見覚えのある人影が、視界の隅を過《よ》ぎった。
けれども、それは決して快い感情をマサキに齎《もたら》してはくれなかった。面倒事が葱を背負ってやって来やがった……うんざりとした表情で、マサキは距離を保ちながら、その人物の後を付け始める。
テリウス=グラン=ビルセイア。先帝アルザールが庶子だった彼は、太陽の下。素顔を晒してひといきれの中に居た。
城下でありながら堂々としたもの。どうも彼ら一派は、自分たちが指名手配犯《おたずねもの》であるという自覚に乏しいらしい。平気であちらこちらに姿を現してみせるのだから、マサキとしては悩ましいばかりだ。
――正魔装機の操者として、見て見ぬふりをして背を向ける訳にはいかない……。
そのテリウスはマサキの存在に気付いているのが、いないのか。先ほど見かけた若者たちのように掲示板の案内図を見たり、マサキのように店先で様々な品を物色したりと呑気なもの。そんなテリウスのプライベートを過ごしているらしい様子に、無駄な時間を過ごしたくないマサキとしては、このまま後を付け続けるよりも、いっそ声を掛けるべきではないかと思ったりもしなくもない。
今日のマサキはやることが山積みなのだ。
彼らの活動に関わりがあるような行動が見受けられない以上、見逃すことも選択肢のひとつ。マサキがそう考えて、自らの用事を済ますべくテリウスに背中を向けようとした刹那。
その少し後ろを歩いていた女性が、手持ちのハンドバックの中から注射器のようなものを取り出した。暗殺の常套手段を目の当たりにしたマサキは、反射的に駆け出していた。女性が手を振り上げ、テリウスの首元めがけてそれを打ち込もうとする。マサキのスピードでは追い付けない距離だ。わかっていても、走らずにはいられない。人の波を掻き分けながらマサキは走った。
その針先がテリウスにもうあと数センチに迫る――。
テリウスはさっと身体を横に引いた。
勢い付いている女性はその動きを止められずによろけ、地に転がらんとする直前で足を踏ん張ると、首元に手刀を叩きこもうとしているテリウスから逃れ、マサキでも追い付けそうにないスピードで雑踏の中に消えて行く。
「やるじゃねえか」ひゅう、とマサキは口笛を鳴らす。
おっとりとした性格だった王宮時代のテリウスの成長に、素直に感嘆したマサキの心からの称賛。その口笛の音でテリウスはマサキの存在に気付いたようだ。女性を深追いすることはせず、ゆったりとマサキの目の前に歩んで来ると、
「君も人が悪いね、マサキ」
「教団の連中か」
「そう。しつこいよね、本当に。でも仕方がない。これも僕が選んだことだし……」
かつてのテリウスとさして親交のなかったマサキは、テリウスがどのように王宮で過ごしていたかは知らないままだ。けれども相当に鬱憤の溜まる生活を送っていたらしい。何に対してもやる気を見せなかった、とはセニアの弁だ。
そんなテリウスが唯一執着心らしいものを見せたのがシュウだった。同じ王族同士、共鳴《シンパシー》を感じる部分があったのだろう。テリウスは迷わずに王宮を出奔し、指名手配犯という罪業もなんのその。セニアなどはその性格から、モニカと違って直ぐに根を上げるのではないかと思っていたようだったが、その予想を裏切って、テリウスは今もシュウの元にいる。
「ところで君はどうしてここに? 僕は日常物資を買い出しに来るついでに、自分の買い物も済ませようとしてたところだけど」
「お前と同じようなもんだ。こっちに帰って来たのが久しぶりだからな。買わなきゃいけないもんが沢山あってな……」
「ふうん」気の抜けたような声を発するのは相変わらずなようだ。「だったら一緒に買い物しようじゃないか、マサキ」
「何でだよ! お前と一緒じゃ休暇が休暇じゃなくなっちまうじゃねえか!」
「折角ここでこうして会えたし、ついでに剣を教えて貰おうかと思ったんだけど、無理かな」
「シュウに教えて貰えよ、シュウによ」
「先ずは基礎をって教わってから、全然なんだよね。多忙な男だし、基礎は確かに大事だしで、仕方のないことだとは思うけど。あまり手応えを感じてなくてね。誰かに見て欲しいと思ってたところなんだ」
|青い鳥《ローシェン》を模した口煩い使い魔に話を聞いたところによると、死霊騎兵の群れにガディフォールを単身突っ込ませたり、ヴォルクルス相手に何分耐えろと命じてみせたりと、シュウはテリウス相手には大いにスパルタな性格を発揮しているらしい。
何かあればあれこれとやかく口を挟んでくるシュウしか知らないマサキにとっては、にわかには信じ難い話だった。確かに彼は気難しい側面を持ってはいたし、その性格で誤解をされることも多かったものの、正魔装機の面々に対しては、かつての敵とは思えない面倒見の良さを発揮してみせる。
それが何故か、自らの味方であるテリウスたちが相手となると、つれないまでの放任主義と化すのだというのだから驚きだ。
だからこそ、マサキはテリウスが不憫に感じられて仕方がなく、それ故に彼の殊勝な態度に絆《ほだ》されてしまったのだ。「そういう話なら、少しくらいは見てやるぜ」マサキがそう云うと、テリウスの半目がちな瞳がぱっと輝いた。何だかんだでシュウがテリウスを連れ歩いているのは、きっと彼のこういう態度に出るところもあるんじゃないだろうか――。マサキはそう思いながら、テリウスを伴って城下を往く。
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