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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

アカイイト(2)
@kyoさん20周年おめでとう記念祭

今回のリクエスト内容は「シュウマサ前提のテリウス×マサキ」となっております。

すっかりいつものノリで書いてしまっているんですけど、このテンションで私はどうやって「テリウス×マサキ」に持ってゆくつもりなんでしょう。笑 誰か教えて欲しいものです。笑
しかしやっぱりテリウスもアルザールの子。王族のミドルネームを持っていますし、本質的にはお坊ちゃんだと思うんですよね。あと、わんこ。笑 ザッシュは「遊んで遊んで遊んで」系のわんこですが、こちらは「遊んで……?」系のわんこと云えば伝わり申すか!

そんな感じで、では本文へどうぞ!

<アカイイト(2)>

 城下を出て街道を外れ、平原へと。ラングランの緑豊かな大地で、マサキはテリウスと向かい合うようにして立つ。
 空は雲一つない好天。清涼な風が平原を駆け抜けている。こんな日でなければ、魔装機を駆ってピクニック気分と洒落込みたいぐらいの爽やかな陽気。腰までの高さの草むらが、囁くようにさわさわと音を立てている。
「先ずは軽く打ち込んでみな」マサキは腰に下げていた剣を片手で構えた。
「大丈夫かな」
「俺を誰だと思ってやがるんだ。お前の剣ごときでどうにかなるような相手じゃねえよ」
「いや、僕がだよ。人を相手にはしてきてないからね」
「それを見てやるって話なんだから遠慮すんなよ、ほら」
 テリウス相手に両手は必要ない。そのマサキの読みは当たっていた。
 決して悪くはない動きではあるものの、圧倒的に実践不足。練習で人を相手にしたことがないと云っていただけあって、動きがぎこちない。
 先ほどの邪神教団からの刺客を綺麗に避けてみせた動きとは雲泥の差だ。恐らくあれが日常であるからこそ、テリウスはそういった動きには長けるようになったのだろう。流石はガディフォールの操者だけはある。
 そのテリウスが打ち込んでくる剣を構えた大剣で右に左に受けきったマサキは、早くも肩で息を吐いているテリウスに笑ってみせた。
「やっぱり君は凄いね、マサキ」
「当たり前だ。どれだけやってきたと思ってるんだよ。俺の剣は付け焼刃じゃないんだぜ。何にしてもそうだが、剣の道もまた一日にして成らずってな」
 どうやらテリウスは対人相手で剣を振るう際の距離感が上手く掴めていないようだ。決して小さくはないマサキという的に、届かずして剣を振りきってしまうことが多々あった。
 初めて剣を手にした時のマサキもそうだった。筋がいい、とゼオルートに云われはしたものの、標的を捉えたのは一度きり。残りは辛うじて剣先が標的を掠めたか、空振りに終わったかのいずれかだった。その体たらくに、手足のように動かせる魔装機での剣術と生身の身体での剣術はこんなにも使う筋肉が異なるもなのかと、マサキは振っても振っても思うように振り切れない剣に疲れ果てた身体を地面に投げ出して、空を仰ぎながら思ったものだった。
 マサキがテリウスにその距離感のなさを指摘してみせると、「実はそうなんだ」テリウスはうっすらと額に浮かんだ汗を拭いながら頷いた。「的を相手に練習した方がいいのかな。素振りばかり繰り返しているからか、どのくらいまで距離を詰めれば君に届くのかがよくわからないんだよ」
「基礎は大事だけどな、基礎ばかりじゃあな」
 魔装機の操縦が出来る以上、それ以上を求めさせるのは酷だとは思えど、本人が望んでいる以上は叶えてやりたくもある。何より面白さを知る前に手を引かせてしまうのは勿体ない……マサキはテリウスをどう指導をするか考えた。初めは興味本位で手を出した剣術に、マサキはそれだけ愛着を持つようになっていたのだ。
「まあいい。今日は俺が的になってやるよ。先ずは距離感を掴めるようにならないとな。それが出来るようにならないことには、折角の基礎練習も生きてこないだろ」
 マサキが云えば、不安そうながらもテリウスは頷いてみせた。
 それから一時間ほど、マサキはテリウスが打ち込んでくる剣を受け続けた。動きは悪くないと感じただけあって、そこそこ筋はいいようだ。三十分もすれば空振りは稀になり、一時間が経過する頃にはマサキが多少動いても剣を交わせるようになってきた。
「基礎をしっかりやってきた甲斐があったな。俺より成長が早いくらいだ」
「流石に君ほどではないよ」
「俺はいきなり打ち込めって云われたからなあ。最初は本当に空振りばかりだったんだぜ。振っても振っても当たりゃしなくてさ……今でもあんまり基礎練習が好きじゃないのは、それが影響してるんだろうな」
 まともに剣を交わせるようになってきたからだろう。テリウスは最初のへばり具合はどこへやら。肩で息をするのも忘れたかの如く、むしろ生き生きとした様子でマサキの話に耳を傾けている。
「ところでマサキ、今日はこの後は予定はあるのかい」
 そのマサキの話がひと段落つくと、テリウスは剣を腰に収めながら云った。
「予定ねえ。掃除と洗濯は済ませちまったし、あとは買い物だけだな。何だ、テリウス。お前まだ剣を振り足りないのか?」
「もう少し君を相手に練習したい気持ちもあるけど、今日はこのぐらいにしておくよ。慣れない動きをしたからね。明日に響くと、こっちの都合もあるし」
「相変わらず、碌でもないことに邁進してやがるんだろ」
 どうせシュウのことだ。自分の因縁に決着をつけることに、余念がない日々を送っているに違いない。それに手を貸し続けているのだろう。テリウスはそうだね、とだけ返してきた。
 そうやってテリウスたちはシュウに従い続けるのだ。まるで彼の従者にでもなったかの如き従順さで。
 けれどもそれを、あの独立独歩で道を切り開いてきた男は、奇跡的にも近い寛容さで許している――……。
 シュウはマサキたち魔装機の操者には、容易に自分の因縁に首を突っ込ませはしなかった。それは貸し借りに煩い彼だからこその頑なさでもあっただろうし、自身が指名手配犯であるという負い目からきているものでもあっただろう。いずれにせよ、目的がかち合わない限り、彼はマサキたちと同じ道を往くことはなかった。
 それがマサキの胸を、少しばかり痛ませるのだ。
 勿論、逆の立場になれば、マサキとてシュウと同じように振る舞い、同じように頑なに助力を拒んでみせるだろう。そうだとわかってはいても、決して短くはない付き合いをしてきた仲である。もう少し自分を頼ってくれても、とマサキは思う。
「それで、今日の予定が何だって?」
「付き合って貰ったしね、食事ぐらいどうかな、と思って」
「あー、いい、いい。このぐらいどうってことはねえよ」
「でも、マサキ」
「親切の押し売りはいらねえよ」マサキは自らもまた剣を腰に収め、「俺だってこれでも剣術を修めてる人間だ。学びたいって望む奴を拒否する理由なんてどこにもねえ。当然のことをしたまでだ。だから気持ちだけ有難く受け取っておくさ」
「なら、このお礼は別の形で返すことにするよ」
 その言葉に、マサキは猛烈に嫌な予感がした。
 テリウスが自分で返しに来る分にはまだいい。けれども、もし仮に、そう仮にだ。彼がシュウにその助力を頼んでしまったら? 厄介なことになるのは目に見えている。
 あの男は話を大きくしたがる。
 しかも、嫉妬深いと来たものだ。
 マサキがテリウスの剣の修行に付き合ったことで面子を潰されたと考えるような人間ではないものの、マサキがテリウスの為にそこまで手間をかけたという事実には拘りを見せる人間。シュウはそういった人間だ。マサキが彼にとって過剰と感じられる交流を、彼以外の他人と持たれることに蟠りを感じてしまう傾向がある――。
「それだったら食事で充分だ」
 その結果がどうなるか知っているマサキは、反射的にそう言葉を吐いていた。
「そう? それなら――」テリウスが微笑む。
 庶子とはいえ、彼とて王族だった男。その笑顔はやはりどこか品の良さを感じさせる。
 のんびりとした気性とて、その生活で養われたもの。
 テリウス自身はその恩恵を気にしたことはない様子だったが、こうして時間をともにしていると、思い知らされずにはいられない。彼もまたその血を引いているのだと。
 マサキの胸に懐かしいものが込み上げてくる。かつて、ラングランが栄華を誇っていた日々。そこにはアルザールが居て、フェイルロードが居た。亡き者たちが鮮やかに今を生きていたあの日々に、まるでに帰って来たような――……。
 ゆったりとした足取りでテリウスが街道に向かって歩き始める。「いい店を知ってるんだ。シュウに連れて行って貰った店でね……」無邪気に語って聞かせるテリウスに、僅かにマサキの胸の鼓動は早まったものだったけれども、それも一瞬のこと。
 マサキはテリウスと連れ立って街道を歩き、彼の先導でラングランの城下街へと戻った。


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