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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

愛しい君へ(3)
@kyoさん20周年おめでとう記念祭

今回のリクエスト内容は「ゼオルート×マサキで『一夜の過ち』的な話」となっております。

若いマサキはおっさんおっさん云ってましたけど、ゼオルートって若いんじゃないですかね?違います?プレシアの年齢からして、下手するとシュウとそんなに変わらない可能性だってあると私は思ってるんですけど、その辺りお詳しい方がおられたらお教えくださいませ。

個人的にはプレシアの年齢的に三十半ばくらいかなー……と思ってたんですが。

わたくし、今年年女なんですけど、この年齢になると思うんですよね。三十代って滅茶苦茶若いですよね!身体が何もしなくとも全然自分の思い通りに動く年齢!これが四十路になると、ある日突然がくっと来ますからね!……と、思わず自分自身のことまで語ってしまったところで、中々エロに突入しなくてごめんなさい!では本文へどうぞ!笑

<愛しい君へ(3)>

 ふたりで庭に出て、長く剣を打ち合った。それは昼食の時間を過ぎても尚続いた。
 振り上げた剣を打ち下ろしては弾かれ、攻め込まれては間隙を縫って反撃する。遠慮も容赦も情けもないゼオルートが仕掛けてくる剣戟は、流石は剣聖の名を欲しいがままにするだけはあって、天然のセンスだけでは迎え撃つのにも苦労する有様だ。
 自己鍛錬が苦手なマサキは、努力不足だろう。ゼオルートの猛攻に何度も地を這った。
 ティータイムを迎えようという頃になって、ようやくゼオルートはマサキに満足出来る成果を見出せたようだ。「今日はここまでにしましょう」と云って、立っているのもようやくなマサキを置いて、意気揚々と館に引き上げていった。
 暫く庭で大の字に伸びてへばっていたマサキも、そこは若さからか。十分もすれば立ち上がれるだけの体力を取り戻していた。
「これだけ時間を掛けて稽古をされれば、どこに行く気力もねえな」
 戻らぬマサキの様子を窺いに来ない辺り、剣の師匠としては厳しいところを垣間見せるゼオルートらしい。服や髪に付いた土を払いながら、マサキは館の窓を見渡した。やはり、彼の姿はない。
 そういった彼の構い過ぎない性格が、きっとマサキをこの館に留めているのだ。これがもしプレシアとふたりきりだったら、早々に根を上げて遁走していたに違いない。マサキは世話を焼かれることが嫌いではないが、焼かれ過ぎるのは嫌なのだ。
 そうしてマサキは館へと足を踏み入れる。たったひとりの少女がいないだけで、館はまるで火が消えてしまったかのようだ。静まり返った邸内。自らの足音が響く廊下を行き、リビングのソファの上。マサキは再び身体を投げ出す。
「まあいい。今日はプレシアもいねえし、おっさんひとりだったらそう煩いことにはならねえだろ。のんびり過ごすとするか」
 稽古で掻いた汗を洗い流しているのか、遠くからシャワーの流れる音が小さく聴こえてくる。マサキはその音を聴きながら、直ぐに眠りに落ちてしまったようだ。そう時間が経たない内に、タオルを首から掛けて小ざっぱりとしたゼオルートに、シャワーを浴びるようにと促される。

 ――そう、何事もなく過ぎて……。

 いつも通りに朝食を摂り、いつも通りに稽古をし、いつも通りにシャワーを浴びた。プレシアが不在であること以外はどこにも誤謬のない記憶。一体、自分はこの記憶の何を恐れているのだろう。
 マサキはその後の記憶を掘り起こす。
 シャワーを浴びて、汗と土を洗い流し、新しい服に着替えてリビングに戻ると、テーブルの上にはプレシアが用意していった料理が所狭しと並べられていた。
 どうやら昼食を摂るのを忘れていたことに、ゼオルートは今になって気付いたらしい。「全部食わなくともいいだろうよ……」昼食用と夕食用の料理を全て出してしまったに違いない量の料理。六人掛けのソファが囲む広いテーブルは、僅かに隙間を残すのみとなってしまっている。
「つまみは多い方がいいでしょう。煩く言ってくる娘もいませんし、どうですか?」
 リビングの向こう側。キッチンの奥、食糧庫から出て来たゼオルートの腕には、決して独りで飲むつもりではない数のワインボトルが抱えられていた。
「あんまり俺に悪さを教えるなよ、おっさん」髪を拭きながら、マサキはソファに腰掛ける。
「息子がいたら教えてあげたいことが沢山あったんですよ」そのワインボトルをテーブルの脇に並べ、ゼオルートはグラスとワインオープナーを取りにキッチンに戻って行く。「剣の扱い方、お酒の飲み方、女性の口説き方……」
 次の子供を諦めた台詞が口から出るということは、もう新しい妻を娶るつもりはないのだろう。「そっか……なら、少しだけ付き合うかな」
「それは有難い」
 渡されたグラスに開けられたボトル。少しだけ、と云ったのにも関わらず、ゼオルートはマサキのグラスに並々とワインを注いだ。それを直ぐには飲まずに、先ずは料理に箸を付ける。長く稽古を続けたお陰で、腹が背中に付きそうな勢いで減っている。
 ――息子になるのは難しいかも知れねえが、出来るだけ希望を叶えられるようにしてやるよ……。
 あれもこれもつまみながら暫く。その時のマサキはそんなことを思ったものだった。
 ゼオルートは折に触れて新しい妻を娶らない趣旨の発言をしたものだった。その理由をマサキは詳しくは知らない。けれども何となく想像は付いた。
 誠実な男のことだ。きっと喪った妻への愛情を捨てきれないのだろう。聞き飽きた、とマサキが思わず云ってしまうほどに、未だに喪った妻の話を頻繁に口にするゼオルート。その愛情はどれだけのものだっただろう? 結婚などまだまだ先の話……未来に様々な可能性を見出せる年頃のマサキには、ひとりの女性を愛するということが未だよくわからない。けれども、ゼオルートが他の女性に目もくれないほどに、今以て尚、一途に妻を想っていることだけは理解できた。
 それに、プレシアのこともある。難しい年頃を迎えている少女に、今から新しい母親を受け入れろというのは酷だ。母親との記憶を大切に胸に抱いているあの少女は、父親のことを思うからこそ、表面上は受け入れたふりをすることだろう。しかし、内面は。
 娘に複雑な思いをさせることを、ゼオルートは良しと出来る性格ではない。娘に甘く、優しい父親である男は、マサキのように短慮に行動したりはしないのだ。恐らくそこまで考えた上で、この先の人生もひとりで居続けることを決めたのだろう――……。
 ひと通り料理に箸を付けたマサキは、グラスに並々と注がれたワインにようやく少しだけ口を付けた。甘くも酸味の効いた味。豊潤な香りが鼻を突く。幾度も飲まされてきた酒の味に、マサキはようやく慣れを感じ始めてきたところだった。
「それにしても……」
「何です、マサキ?」
「剣の扱い方や酒の飲み方はさておき、男親っていうのは、女の口説き方も息子に教えたがるものなのか?」
「要りませんか、マサキ?」
「俺を幾つだと思っていやがる。まだ早いだろうよ。それに、そんなこと親父に教えられたかねえや。嫌じゃねえかよ。自分の女関係を父親に知られるって」
「いずれは正式に交際を認めてもらわなければならない時が来るんですよ。遅かれ早かれ把握されるのであれば、最初から知られていた方がいいと私は思いますけどねえ」
「えー……」グラス半分ほど。一気にワインを喉に流し込んだからか。早くもマサキの身体は火照り始めていた。「やっぱやだ。特にあんたには知られたくない」
 酔いに任せるがままぞんざいに言葉を吐く。
 そんなことになったら、ゼオルートのこと。盛大に父親面をしてみせるに違いない。
 所詮は他人なのだ。
 自分の人生に責任が持てるのは自分だけだ。行く道を選択するのも自分であれば、引き返す道を選択するのだって自分でしかない。他人がとやかく云い立てたところで、本人の意思が変わらなければどうにもならないのが世の常。女性との付き合いだってそうだ。責任を取れるのは自分だけ。
 そう考えるマサキに、ゼオルートは何を思ったか。盛大にグラスを空けながら云った。
「何かよからぬ想像をしていませんか、マサキ。大丈夫ですよ。あなたが選んだ女の子なら、きっといい子に違いないでしょう。ただ……それまでは……」
「何だよ、急に言葉を濁しやがって」
「いや……何というか、君は女性で苦労しそうな相をしてるんですよ、マサキ。だから女性の扱い方だけは教えてあげておいた方がいいような感じがするんですが」
「何てことを言い出すんだよ、おっさん! 女難の相とか物騒過ぎんだろ!」
 そうでなくともひと癖もふた癖もある魔装機操者の女性陣に囲まれているというのに! マサキは絶望的な気分になったものだった。これ以上の厄介事なんて御免だ、と。

 ――ああ、でも、あの言葉は当たらずとも遠からずだったな……。


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