@kyoさん20周年おめでとう記念祭
今回のリクエスト内容は「ゼオルート×マサキで『一夜の過ち』的な話」となっております。
今回も10000字では終わらないことがほぼ確定してしまったんですけど、この話いつになったらエロい展開になるんでしょうったら!!!もー、早くことを始めてくれよー、などという下品なことを思いながら、ひたすら書き続けた一日でした。本日の更新はこれにて終了にございます。
と、いうことで、本文へどうぞ!
今回のリクエスト内容は「ゼオルート×マサキで『一夜の過ち』的な話」となっております。
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<愛しい君へ(4)>
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今となってみれば、ゼオルートのその言葉はある意味で真理を突いていたのだ。
マサキは自分を好きだと公言して憚らない女性たちの顔を思い浮かべた。彼女らは今頃、どこで何をしていることだろうか。久しく顔を合わせていない彼女らの顔が思い浮かぶ。
マサキは頭を振った。戦火の激しい情勢にあっても、愛だ恋だと騒々しい仲間たち。全く、気楽なものだ――と。単身、地上に渡り、長き大戦を戦い抜いたマサキは、その経験の分だけ皮相的に世の中を眺めるようになってしまったのかも知れなかった。
それだけマサキが見てきた光景は凄惨なものであったのだ。
しかし……マサキは思う。拭えない不安は未だ胸の中に渦巻いている。一体、何を自分は恐れているのだろう……なかなか簡単には思い浮かばないその先の記憶に、マサキは少し考え込みながら、いつの間にか目の前にそそり立つに至った墓地に続く巨大な門を見上げた。身の丈、ゆうに5メートルを軽く超える鉄柵製の大門。墓所を守るに相応しい漆黒の鉄柵が重苦しい音を立てて開かれる。マサキはプレシアとともに門を潜った。
整地された土地。区画ごとに建てられた墓標の間を抜け、奥へと進む。
――似ているんですよ、マサキ。あなたは……。
突然、脳裏に響き渡ったゼオルートの声と紡がれる台詞に、マサキは目を見開いた。聞き覚えのある台詞。だが、いつ聞いたのかが思い出せない。マサキは必死になって記憶を探った。
思い出せない記憶を無理に思い出そうとするのは良くないことなのだと、いつか兵士たちとの世間話で話題に上ったことがある。忘れているからこそ生きていける記憶が彼らには多いからだろう。誰も彼も納得した様子で、とある兵士が開陳したその説に聞き入っていたものだった。
けれども、人間とは忘れているようで、案外、多くの記憶を脳に仕舞い込んでいる生き物でもあるのだ。
身体の奥から何かがゆっくりと浮かび上がってくる。マサキは暗がりに沈んでいる正体不明のそれを引き上げようと意識に手を伸ばした。不安はますますその度合いを増し、嫌な汗を額に掻き始めるほどだった。
それでも、マサキはそれを掴むことを止められなかった。
――私の、妻にね。
バンッ! と身体の中で、何かが弾け飛んだ。
――私の、妻にね。
バンッ! と身体の中で、何かが弾け飛んだ。
それと同時に意識の外側に流れ出てくる記憶! それはマサキを飲み込んで、尚留まることを知らずに迸《ほとばし》っている。嗚呼、そうだ。マサキは口唇を震わせた。
濡れそぼる空。雨は変わらずに冷たく辺りに降り注いでいる。だのに吐き出す息の熱さといったら。
マサキは口唇を結んだ。隣に悲しみに暮れるプレシアが居る。彼女の前で心乱れる自分を見せてはならない。記憶の奔流に攫われて擦り切れそうになる自制心。それでもマサキは努めて何事もない様子で墓地の最奥へと続く道を往く。
「興味が出ませんか?」
「興味が出ませんか?」
ゼオルートは相当に酔いが回っているようだった。思わず声を荒らげたマサキの様子が可笑しくて堪らないといった様子で笑っている。
「出てこねえよ。そういうのは……その、自分で経験して覚えていくもんだろ。教えられてはいそうですかって身に付くもんじゃねえ」
「ヤンロンは後学の為に聞く、と言っていましたよ」
「あの堅物が?」マサキは目を丸くして、まじまじとゼオルートを凝視《みつ》めた。
女性が好みそうな端正な顔付きをしている割には、難物とも称されるまでに扱い難い性格をしているからか。浮いた噂ひとつない男の日頃の言動を思い返して、それはない、とマサキは顔を顰める。
「私たちは魔装機という機密を扱う立場ですからね」
グラスにワインを注いで、まるで水を飲むかの如く喉の奥に流し込んでいくゼオルート。マサキの杯は止まったままだというのに、もうボトルを一本空ける勢いだ。口煩い少女の不在は、どうやらゼオルートの理性を緩ませてしまったらしい。どこか適当なところで止めてやる必要があるとマサキは感じながらも、魔装機の機密という言葉が気になる。マサキはゼオルートの台詞の続きを待った。
「諜報の世界の常識ですよ。男には女、女には男をあてがう……そして相手の懐に入り込んだところで、油断した相手から情報を盗みとる……実際はもっと原始的な方法が主流ですけどね」
「原始的な方法?」
「飲みに誘うんですよ。で、自分たちの主義主張を、それが自分たちのものだと知らせずにどう考えているかを聞くんです。そして討論を繰り返す。相手がこちらの主張に傾き始めればしめたものです。そこで初めて自分の立場を打ち明ける。転向とはそうして行われるものであるのですよ」
「そんな簡単に上手く行くかね」
「上手く行くんですよ、これが。酔っている時の判断力なんて大したものではないですからね。だから私はこうしてあなたたちに酒を覚えさせるんですよ、マサキ。酒は飲んでも飲まれるな。自分の適量をきちんと覚えてもらう為に、酒席に慣れるのは必要なことです」
「でも今日のあんたは飲み過ぎだと思うけどな」
それに対してゼオルートははっきりとは答えなかった。「そうでしょうかね……」曖昧な微笑みで言葉を濁してみせると、またも煽るようにワインを口にする。
何かがおかしいと、マサキは気付き始めていたのだ。
けれども自分より年嵩の、ましてや一家を構える男のすること。若さしか取り柄のない自分が簡単に口を挟んでいい話でもない。だからマサキはそれ以上ゼオルートを咎めることが出来なかった。
後から振り返れば、その判断こそが分岐点《ターニング・ポイント》だったのに。
「……それでも自分たちになびかない者に対して、色仕掛けが行われます。もっと単純に金で縛り付けることもあるようですが、懐を痛ませる選択は彼らも余りしたくはないようですね。まあ、人ひとり味方に引き入れるのにお金を使うぐらいなら、そのお金で武器のひとつでも買った方がいいという判断なのでしょう。それはさておき……」
「なんか話が大幅にずれてる気がするんだが、ヤンロンはどうなったんだ?」
「ヤンロンはね、マサキ。そういった時に相手を油断させる手段を持っていて悪い結果にはならない、と言ったんですよ」
「あの野郎が云いそうなことだ」マサキはグラスに口を付けた。
温くなったワインは残り数口ほど。それをひと思いに流し込んだマサキは、悪酔いしないように料理を口に運んだ。
ふたり揃ってリビングで酔い潰れた挙句、帰宅したプレシアに怒鳴られるのだけは避けたい。プレシアは一度怒らせたが最後。しつこく絡む性格をしているのだ。
だのに、ゼオルートはそんなマサキの気遣いを知ってか知らずか……マサキのグラスが空になるとみるや否や、またもワインを並々と注いでくる。そして慎むことを知らない酒量に呆れているマサキを真正面に見据えて、こう話を続けた。
「そうでしょう? ですが、必要な意識です。私たちはただ魔装機に乗って戦っているだけではない。ラングランの威信を背負って戦っている。無様な結果を、それが例え戦闘以外の出来事であっても、残す訳にはいかないんですよ」
いつでも穏やかに微笑んで、世界の全てに寛容なゼオルート。けれども彼は紛れもなくラングランの国民であり、その利益に与する者であるのだ。
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