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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

愛しい君へ(6)
@kyoさん20周年おめでとう記念祭

今回のリクエスト内容は「ゼオルート×マサキで『一夜の過ち』的な話」となっております。

一夜の過ちってこんなノリでしたっけ!?
違くない?ねえねえ@kyoさん違くない???
そんな内容になってしまいつつあります。わたくしやっぱりそのエロは日和っちゃうんですね。ダメダメ人間です。あー、自分でやると云っておきながら何をしてるんだと思いつつ、ここまで書いてしまったので、このノリで最後まで駆け抜けます。と、いうことで本文へどうぞ!
<愛しい君へ(6)>

 その手を振り払って降りようにも、酷く酔いが回ってしまっているマサキの身体は、全くといっていいほど云うことを聞かなかった。
「昔はよくリビングで眠ってしまったプレシアをこうして運んだものですよ」
 懐かしさから来るものなのだろう。ゼオルートは目を細めて、大人しく運ばれるしかないマサキを愛でるように見下ろしていた。放っておくと昔語りを始めそうな雰囲気。ゼオルートの長い話に付き合う気力は、流石に今のマサキにはない。「あーはいはい……その話の続きは今度な」云うと、彼は笑いながら肩を竦めてみせた。
 そして、部屋の中に入ったゼオルートは、こじんまりとしたベッドの上にマサキの身体を横たえた。
 窓から差し込む光が障ると思ったのだろう。厚いカーテンを閉め、薄暗い部屋の中。それから暫くゼオルートは黙ってマサキを見下ろしていた。今更、飲ませ過ぎたとでも思っているのだろうか。おもむろに彼は上体を屈めると、マサキの様子を窺うかのように額にかかっている髪を払う。
「……何だよ、おっさん。何か気になることでもあるのか」
「云ったでしょう。昔はよくこうしてプレシアを部屋に運んだとね」
 その次の瞬間、ゼオルートはそれが当然とばかりに、マサキの額に口唇を落としてきた。「な……っ……」マサキはベッドから飛び起きようとして、激しい眩暈に再び身体を沈める。
「ああ、ほら。急に身体を起こすからですよ、マサキ」
「な、何をしやがるんだよ、あんた……っ」
「食べたくなるんですよ。安心しきって眠っているプレシアを見ていると」
「それとこれに何の関係があるんだよ。俺はプレシアじゃないぞ」
 そのまま、マサキの手首を取ったゼオルートがベッドに乗り上がってくる。彼はマサキの手をマットレスに押さえ付けると、突然の出来事に途惑っているマサキの身体を組み敷く。そして、何が起こっているのか理解出来ずにいるマサキの額に、眦《まなじり》に、頬に、首筋に。まるで降るかのように口付けてきた。
「やだ……やめろって。やめろって、おっさん」
 抵抗しようにも酔いの回り切った身体はマサキの思う通りには動かない。起き上がろうとすれば眩暈が襲い、もがけば倦怠感が襲いかかってくる。仕方なしにいやいやと首を振れば、その顎を掴んで口付けられる。
 マサキは目を閉じた。
 自らの身に起こっている現実を直視したくなかった。養父として自分を世話してくれている男の突然の豹変に、理解が追いつかない。これが女だったら、まだあり得る展開としてマサキは受け入れられただろう。けれども自分は男なのだ。
 何を考えてゼオルートが自分に口付けてくるのか、マサキにはわからないまま。その理由を問うのも恐ろしいことになりそうな気がして、口を閉ざして暫く。どのくらいの時間が経過しただろう。やがて、ゼオルートの口唇がマサキの口唇を捉え、固く閉ざしていたマサキの口唇を舌先で開かせたかと思うと、そのまま――……。
 口腔内へと押し入ってきたゼオルートの舌の肉厚な感触。知識として知ってはいても経験するのは初めてだ。マサキは目を見開いた。鉛のようにベッドに沈んだ身体はぴくりとも動かない。
 深く合わせられた口唇の下で蠢くゼオルートの舌がマサキの舌を掬い上げる。口腔内に浮いたマサキの舌を、彼はそうしてじっくりと味わった。時に自らの舌と絡ませ合い、時に軽く吸い上げ、そして。
「何で、何でなんだよ。あんた、酔ってるんだろ。なあ、おっさん」
「この程度の酒で酔うほど、私の肝臓は弱くはありませんよ」
「じゃあ、何で。何を考えてこんなこと」
 その瞬間のゼオルートの表情が、マサキにはどうしようもなく寂しそうに映ったのだ。
 微笑みながらも顰められた眉。眼鏡の奥の細まった瞳が、揺らめきながら何度も瞬いている。何かあったのは間違いなかった。けれどもそれが何であるのかなど、マサキにわかる筈もない。
 養父としてマサキを庇護する存在であるゼオルートは、自身の子供たちの目の前で弱音を吐くような真似はしないのだ。況《いわん》や、自身の身に起こっているトラブルなど、彼からすればまだまだ幼いマサキ相手に、どうして語って聞かせたものか!
 だが、この時、彼は口を開いたのだ。
「親族が見合いをしろと煩いんですよ。プレシアは未だ母親が必要な年齢だろうとね」
「それとこれとに何の関係が」
「忘れたくなければ薄れさせたくもないんですよ、私は。そうでなくとも歳月が経つに従って、彼女の面影や声、その温もりが、記憶から薄れていってしまっている。これ以上、私から彼女を奪わないで欲しいのに、親族はいつまでも男親がひとり娘の世話をするのも、と云ってきかない。再婚する気がないのであれば、せめて親族にプレシアを預けてはどうかとまで云ってくる」
 そして絞り出すような声で、マサキの身体の上。顔を伏せてゼオルートは云ったのだ。
「あの子だって彼女の子だ。手放せる筈がない。それなのに……」
 自身が抱えてしまっている苦悩を吐き出すゼオルートの姿は、泣いているようにマサキには映った。決して実際に涙を流すような真似を彼はしなかったけれども、だからこそ余計に、マサキには爆発しそうになる感情を抑え込んでいる彼が泣いているように見えて仕方がなかった。


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