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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

I must be change my love and love for me.(5)
@kyoさん20周年おめでとう記念祭

今回のテーマは「シュウ&ザッシュ×マサキ」となっております。

流石に六連勤は身体に堪えるようで、疲れが取れないまま週明けを迎えてしまいました。そうでなくともうっかりミスの多いわたくし。誤字脱字衍字など、遠慮なくご指摘いただけると幸いです。
ところで、タイトルの意味は「愛し方や愛され方を変えなければならない」なんですが、あんまり今回タイトルの意味を回収していないような気がしているので、今回こそはちゃんとタイトル回収したいんですけど、果たしてその望み通り、タイトル回収を出来るでしょうか。

いつもぱちぱち有難うございます。こういう時には本当に染みます。

と、いうことで、本文へどうぞ!
<I must be change my love and love for me.(5)>

「この時間からってことは酒場か」
「お酒は付き合わなくていいですよ。僕は少しだけ飲むつもりですけど」
「特に明日の用事もねえし、俺も少しぐらい飲むかな」
 酒を飲んでも飲まれることはないザッシュは、自分の適量を把握しているようだった。どんな酒の席でも正気を保って、時に少しだけはしゃいでみせ、時に穏やかに言葉を紡ぎ、そして時にはしんみりと飲んでみせたりもする。それは将軍カークスの息子、という周囲の視線に晒されることによって培われた精神であるのだろう。
 昼行燈なザッシュの父カークス。それは他人を欺く大いなる仮面だったけれども、ラングランが壊滅的な危機を迎えるまで、やる気のなさでは他者の追随を許さなかった将軍の息子。当然ながら、好意的に迎えられることは稀。ザッシュ自身が己の力で掴み取った魔装機操者という立場がなければ、軍部での彼の地位は悪質な親の七光りと取られたことだろう。
 だからザッシュは、自身を恐ろしいまでの自制心で律することを覚えたのだ。
 優等生的な気質を大いに持っているザッシュは、場の空気を読むのが上手く、基本的に誰とでも親しく付き合える人間だ。マサキを気軽に誘ってみせるように、思ったことを行動に移せるだけの行動力もあれば、こうして他愛ない会話を繰り広げ、そしてそれを途切れさせないだけの話力もある。人の良さ故に損な役回りを引き受けることも多いようだが、その助力を惜しまない献身的な性格は、人好きのする性格も相俟って、多くの人間からの人望を集めたものだ。
 マサキに好意を寄せていること以外は、非の打ちどころのない好青年。
 とはいえ、魔装機操者としての立場がなければ、マサキはザッシュに好き好んで近付くような真似はしなかった。マサキにとって、ザッシュのような折り目正しい人間は、一緒にいるだけで気が詰まるタイプであるのだ。
 それがこうして肩を並べて歩くまでになったのは、ザッシュの忍耐強い性格に寄るところが大きい。
 告白を受けた直後のマサキは、ザッシュからの誘いを大いに警戒したものだった。当然ながら、その誘いを断ったことも一度や二度ではない。
 それでもザッシュは挫けなかった。辛抱強く機会を窺い、何度も何度もマサキを誘い続けた。
 マサキは押しには弱かったけれども、だからといってしつこくされると嫌気が差してしまう人間だ。そんなマサキの性格を見抜いているかのように、間を空けて繰り返されたザッシュからの誘いかけに、ついにマサキが折れて応じたのが告白から一か月後のこと。それからひと月に一回、そして二週間に一回と間隔を短くしてマサキはザッシュの誘いに応えるようになり、半年後の今では週に一度は顔を合わせるまでになった。
 だからなのかも知れない。
 ザッシュが場所を構わずマサキへの好意を表すようになっていったのは。
 嗜めはするものの、それが悪いことだとはマサキは思ってはいなかった。マサキのように良くも悪くも他人の気持ちに鈍感な人間は、こうしてはっきりと口にしてもらわなければ、他人の気持ちを認められない。ザッシュが云う通り、周りの人間は自分が思うほど自分に注目はしていないものだ。衆人の中で突然に口にされるのは、やはり焦ったものだったけれども、誤解や油断を招かない為にも必要な行為。
 そう考えてしまうほどに、マサキはザッシュと過ごす時間に慣らされてしまっていた。
「ここですよ、マサキさん。来たことありますか」
 店を出て五分ほど。ザッシュに促されて建物に目をやってみれば、足を踏み入れたことのない大衆居酒屋。丸木組みの外装はウエスタンハウスやログハウスを思わせたものだ。きっとそうした建物をイメージして造られたのだろう。
「いや、見た覚えもないな。この辺りにしちゃ、珍しい造りの建物だな」
「マサキさん、方向音痴ですしね。見ても覚えてなさそうな」
「言い返せないのがなあ。そうか、こういった建物を目印にすりゃあいいのか……」
「僕、ずっと思ってたんですけど、こういった目立つものを目印にしないんだったら、マサキさんは何を目印に歩いてるんですか?」
 マサキはその台詞に肩を竦めてみせた。
 まさか目印どころか、当てもなく歩いているとは云えない。
「動いているものに目が行っちまうんだよな。さっきプードルが居たとか、日傘を差した女の人が居たとか、そういったことは覚えてるんだけどな……」
「……迷う為に生まれてきたような人ですね」
 木板で作られた足場のような階段を上がって扉を潜り、ホール内を見渡せば四人掛けのテーブルが二十ほど。昼を大分過ぎたとあって、まばらながらも客が付いている。
 店によっては酒の提供は夜になってから、というところもあったが、この店は開いている間中酒を提供しているのだろう。どの席にも酒の注がれたグラスがある。見た限りではビールを飲んでる客が多いようだ。
 ザッシュを先に奥のテーブルにへと。席に腰を落ち着け、それぞれメニューブックを手に取った。
「何飲みます? 僕はレッドアイから行こうかと思ってるんですが」
「お前、何だかんだでビール好きだよな」
 ビールベースのカクテルはアルコール度数が低めな上に、トマトジュースのお陰で健康的な飲み物に仕上がっている。どうやらザッシュは、少しだけと云っただけあって、深く酔うつもりはないらしい。
 マサキはカクテルのメニュー頁をを開く。
 デザートの後、紅茶で口をすすいだとはいえ、ここはさっぱりとした飲み物が欲しいところだ。
「好きってほどでもないですよ。ただ、最初から強いお酒を飲むのは……」
「そうなのか? いつも飲んでるから、てっきり好きなんだとばかり」
 注文を取りに来た店員に、レッドアイとジントニック、そして何点かの料理を頼んでひと心地。
「一気に酔うより、ゆっくり酔う方が好きなんです。思い切り酔ってわーっと騒ぐのも楽しいですけど、僕はどちらかというと会話を楽しみたい性質なので」
「あー、なんかお前らしいな」
 マサキは周囲を見渡した。客層としては、仕事を終えたばかりの労働者が多い。ここでちょっと一杯と酒を引っ掛けて、ほろ酔い加減で家に帰るのだろう。マサキとしては、こういった店の方が小洒落たオープンカフェよりも落ち着ける。
 やっぱり自分には流行り物は合わないのだ――マサキはひとつ大きく伸びをした。


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