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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(10)【加筆修正アリ】
まだまだ話は動かない。
というか、この話、現在絶賛シュウマサどこ行った?な話になってるんですが、誰が居場所を知りませんか?



<wandering destiny>

 拘束は三日に及んだ。
 特にドバイ警察の疑惑を招いたのは、ターミナルが吹き飛ぶ量の火薬を搭載した爆発物をシュウがどうやって処理したかであった。実行犯がビジネスマンであることについては、多くの空港利用客から証言が取れていたものの、シュウの行動については、爆発物の前に立っていただけとの証言しか出てこない。解体の痕跡がないどころか、起動してしまっている爆発物を前にして、ただ立っているだけでどうして被害が防げたものか。ドバイ警察の追及は尤もである。
 シュウは再び連邦軍の力を借りることにした。
 地上世界での魔法はオカルティズムに属するものだ。無論、過去には科学で立証しようとした動きもあるにはあったが、否定的なデータしか集まらなかったという経緯がある。それは地上の歴史における魔法が、往々にして物理的なトリックで為されたものが多かったからではあるが、そうしたある種のイカサマ的な認知をされている現象名を持ち出して、その力で爆発の被害を防いだのだと証言したところで、ドバイ警察がどういった反応をしたものか。逆に痛くもない腹を探られるだけである。
 それならば、連邦軍の極秘技術と偽った方が話が早い。
 連邦軍への照会を求めたシュウに対してドバイ警察は面食らったようではあったし、シュウの度重なる問題行動に連邦軍の幹部も頭を悩ませているようではあったが、売った恩義がそれなりの成果を発揮したからだろう。ターミナル爆破未遂事件から四日目にして、シュウとマサキはドバイ警察からの行動制限を解かれることとなった。
 とはいえ、安穏とはしていられなかった。
 ドバイの被害は防がれたものの、他の地域には多大な被害が出た。北京に東京、ベルリン、キャンベルと、主要都市を抑えた攻撃。二度目の同時多発テロの犠牲者が数千人に及んでいることをドバイ警察で知ったシュウは、解放後、あからさまに落ち込んだ様子をみせているマサキの精神を案じずにいられなかった。
 煌びやかなドバイの街を往き、一度ホテルをチェックアウトする。何にせよ、マサキと行動をともにしないことには話が始まらない。マサキが拠点としているホテルに新たに部屋を取ったシュウは、彼から詳しい話を訊くべく、彼の部屋を訪れた。
「何だよ。まだ帰らねえぞ」
 ドバイ警察での取り調べの間に、マサキには地上に出てきた理由を告げてある。
 だからだろう。反抗的な表情を晒しながらシュウを部屋に迎え入れたマサキに、シュウはどう対処すべきか頭を悩ませた。日本で一日、ドバイへの移動で一日、そうしてドバイで三日間の拘束と、地上に上がってから、既に五日が経過してしまっている。明後日に日本に出現する予定のゲートに入る為には、明日にはドバイを立たねばならないのだ。
「そうは云われましてもね」
 シュウは窓際に置かれている一人掛けのソファに腰掛けた。テーブルを挟んだ対面にマサキが座る。
「あなたひとりでどうにか出来る段階はもう過ぎてしまっているのですよ、マサキ。そうである以上、この同時多発テロ問題の解決は連邦軍に任せるのが筋――」
「お前に何がわかるってんだ!」
 いきり立ったマサキがソファを蹴倒しそうな勢いで立ち上がる。
 究極の二択だ。
 シュウはラングラン議会を恐れてはいなかったし、彼らに忖度する気もなかったが、連帯責任で謹慎処分となっている魔装機神操者たちの存在には心を動かされている。彼らはラングラン議会の人質のようなものだ。ラ・ギアスに平定を齎した英雄を、ラングランに繋ぎ取る為の。
 かといって、テロリストに心を奪われている今のマサキが素直にラングランに帰還するとも思えない。
 シュウは静かに溜息を洩らした。魔法を使えばマサキを拘束することは容易いし、その状態で移送すれば、彼をラングランに帰還させることも可能だが、その場合、シュウは一生マサキに恨まれることになるだろう。
 そこまでして、ラングラン議会に従順である証明をしなければならないのだろうか?
 長い戦いを経て、ある程度の改善をみせたマサキとの関係値。それをマイナスに戻すような真似をシュウはしたくなかった。何より、これだけの混乱にある地上世界を放置して帰還することを許せない。とはいえ、同時多発テロを二度もやってのけるだけの体力がある巨大なセクトを、己の肉体だけでどうにか出来たものか――シュウが悩ましさを感じているのはだからだった。
 一度ラングランに帰還し、武装を整えた上で地上に出た方がいいのではないか?
 けれどもそれはラングラン議会が許さないのだろう。彼らは自国の面子を守るのに必死だ。約束の時間までに戻らなかったマサキの理由を知った彼らは、いつもの方向音痴といった理由ではないからこそ、マサキの自由をも奪おうとするだろう。地上世界の問題は、地上世界の人間が決着を付けるのが筋。建前上、地上世界に不干渉の立場を取っているラングランとしては、そう動くより他ないからこそ。
 だからシュウは自身に問うのだ。マサキとふたりで地獄への片道切符を手にする覚悟はあるのか――と。
 シュウ自身はそれでもいい。だが、マサキは?
 それを確かめないことは、シュウは未来を決められないのだ。
「わかるもわからないも、あなたは何も私に教えてくれないでしょうに。教えてくれないものを私にわかれと云われても、私は超能力者ではありませんからね。ましてや、全能の神でもない。事情があるのであれば聞かせなさい。そうすれば少しは力になれることもあるでしょう」
 冷静に言葉を返されたことで、頭が冷えたようだ。う。と、言葉を詰まらせたマサキが、再びソファに身体を埋める。
 そのまま、口を噤んで窓の外に視線を向けたマサキに、シュウは黙って彼が再び言葉を紡ぐのを待つことにした。
 幾何学的な高層ビルの群れ。抜けるような青空から、まばゆい陽射しが降り注いでいる。富める者のリゾート地であるドバイは、アラブの中でも格段に潤っている地域だ。ここを拠点にアラブを駆け回ったマサキ。彼は何を見て、何を感じてきたのか。それをシュウは知りたかった。
「……知ってる手口に似てたんだよ」
 ややあって、口を開いたマサキが忌々しげに吐き出す。
「火薬量の多い爆弾を用意して空港を襲うってな。そうやって国家間の移動を制限して、その上で大都市に更なるテロを仕掛けるっていう手口だった。それでどれだけの人間が死んだかわかりゃしねえ。そんなテロが多発していた時期が地上世界にはあったんだよ」
「それをあなたは覚えていた?」
「忘れるもんか」マサキの両目がシュウを捉えた。「俺の両親はそれで死んだんだ」
 色を失うほどに握り締められたマサキの手が、彼の胸の内を雄弁に物語っている。シュウは虚空を見上げて、ひっそりと悲嘆の溜息を吐いた。
 まだ王族《ロイヤル》であった頃に、幾度か地上に上がったことのあるシュウはその事件をうっすらと覚えていた。二段構えで都市機能を潰すとは地上人にも軍智に長けた者がいるものだと思ったものだったが、その事件でマサキの両親が亡くなっていたとは思わなかった。
 ラングランに召喚された地上人には縁故のない人間も多かったが、そこには悲劇的な出来事が隠されていることが少なくなかった。例えばテュッティだ。彼女はルビッカ=ハッキネンに家族を殺されている。それもルビッカの個人的な快楽を満たす道具としてだ。
 彼女は自身の後遺症に悩まされながらも憎き殺人犯を斃すことに成功しているが、それはルビッカもまた魔装機操者候補としてラングランに召喚されていたからこその幸福な成功例だ。マサキのように地上で因縁を持ってしまった操者は、それを果たす機会に恵まれないまま、悲哀を胸にラ・ギアスで活動を続けているのだ。
 だからこそ、この機会を逃してなるものかというマサキの気持ちは理解出来る。
 恐らくマサキは、自分の因縁だからこそ他人に頼ることを良しと出来なかったのだろう。任務に期限があったことが、彼のそうした態度に拍車をかけたに違いない。とはいえ、要領が悪いのにも限度がある。シュウは続けて溜息を吐きたくなる気持ちを抑えながら、マサキに向き直った。
「だったら一度、地底世界に戻るべきだったでしょうに」
「そうしている間にも次のテロが進行するんだぞ。どうして帰れると思うんだ」
「少なくとも仲間は信用するべきだったでしょう。違いますか」
 激昂し易いマサキのことだ。空港でテロが起こったと聞いて発作的に動いてしまった可能性もある。そう見当を付けて口にしてみれば、どうやら図星であったようだ。不貞腐れた表情でふいとそっぽを向く。
「あなたひとりでどうにかするには荷が勝ち過ぎている」
「わかってるよ!」悲鳴にも似た叫び声がマサキの口を衝いて出る。「それでも俺は動かずにいられなかった!」
 歴戦の覇者とは思えぬ子どもじみた振る舞いに、シュウはどう反応すればいいかわからなくなった。
 マサキ=アンドーは不思議な青年だ。達観した見識を説いてみせたかと思えば、不条理なぐらいに感情的な台詞を吐きもする。それだけではない。脳の回路が混戦しているのかと思うくらいに、理屈を無視した直感的な判断を下したりもする。
 とはいえ、芯を外した行動はしない。彼は誰かの命が無価値に奪われることに敏感だ。守れる力があるのならば守ってみせる。今回に限っては私情が絡むだけに普段通りとはいかないようだが、それでも他人が犠牲になるのを見過ごせないという彼の根幹をなす行動原理は失われてはいない。
 ――ならば、私のすることはひとつであるのだろう。
 覚悟を決めたシュウは口を開いた。
「それであなたは自分の力で敵を討ちたいと」
「悪いかよ」
「いいえ。あなたらしくて何よりですよ」
 マサキのわかりやすい反応に苦笑しつつも、このままでは進む話も進まなくなる。シュウはマサキの機嫌を取り戻すべく、単刀直入に尋ねることにした。「それで、あなたはどこのセクトが実行犯だと考えているのですか」
 これだけ無謀な動きを繰り返しているのだ。マサキ自身にはセクトの目星が付いている筈だ。そう読んでの発言だったが、意外にもマサキは確信を持って行動していた訳ではなかったようだ。「|中東極右派《マウシム》じゃねえかとは思うんだがな」と、曖昧な返答を口にする。
 どうやら件のセクトは犯行声明を出すような目立ちたがりな連中ではないらしい。
 詳しく話を訊けば、過去の同時多発テロの際にそう推測していたメディアが多かったのだそうだ。テロの解決を待たずにラ・ギアスに戻ったシュウは知らなかったが、結果的に未解決のまま、テロは収束していったのだそうだ。内ゲバだの、その騒動で指導者が暗殺されただのと色々あったみたいだからな。とはマサキの弁だ。


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