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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(11)
このシリーズ、いつもリード文に何を書くか悩むんですが、ようやくちょっとだけ話が動きそうです。とはいえ想定とは違った方向に向かっているのがナンダカナア……ではあるのですが……。

今回のシュウとマサキもホテルにいます!



<wandering destiny>

「そうして力を削がれたセクトが、時間が経ったことで再び力を取り戻したと」
「話の辻褄は合うだろ」
「それならば、どうしてあなたはパリやロンドンを回ったのですか。直ぐにこちらを回れば良かったのでは?」
「続くテロが発生するんじゃねえかと読んでたんだよ」
 話がテロに戻ってきたことで、気持ちが落ち着いてきたようだ。表情を戻したマサキが淡々と事情を述べる。
「だが、それはなかった。例の同時多発テロを思い出した人間は俺だけじゃなかったんだろうな。どこの国も厳戒態勢を敷いていて、俺がテロリストだったら作戦実行は難しいと感じるぐらいだった」
「だからアラブに来た」
「正規の方法で他に安全に入国出来るルートがなくてな……」
 そうしてアラブ各地を回ったマサキは、危ない目にも相当合ったようだが、どうにかセクトの末端構成員と思われる人物を発見するに至ったのだという。その人物が接触していたのが例のビジネスマンであったらしい。ボストンバックの受け渡し現場を目にして、即座に爆発物であると勘を働かせたマサキはドバイ空港に姿を現し、今に至る。
「しかし良く、末端構成員にまで辿り着けましたね」
「地元ガイドってのは俺たちが思っているより多くの情報を持ってるもんさ」
 マサキ曰く、東洋人は舐められ易いが故に地元の不審人物が寄ってき易いらしいのだが、とはいえ、地の利のない土地である。しかも言語的ハンディキャップをも負っているのだ。そこで正攻法で突破してみせる辺り、流石の英雄である。伊達に数多くの修羅場を潜り抜けてきてはない。
「ジャーナリストという外見でもないのですがね」
「俺がか? そりゃあ、そうだろ。偽れる身分や外見でもねえし、個人的な因縁で人を探してるって普通に話したぜ。お涙頂戴仇討ち話は、どこの国でも普遍的に好まれるストーリーだからな」
「危険な真似をする」
「命を懸けて戦うのは、今に始まったことじゃねえ」乾いた笑いを上げたマサキが頭の後ろで手を組む。「そんなことに怯えてたら、何も成せないだろ」
 シュウは静かに頷いた。
 成したいことの為に自らの命を賭してきたのはマサキに限らない。シュウもまたそうだ。破壊神信仰――邪神教団の殲滅に一生を捧げると誓ったシュウは、文字通り、幾度も命の危機に瀕しながら戦いを続けてきた。その根底には母や自身の尊厳が踏み躙られたことに対する怒りがある。今のマサキにしてもそうだ。彼は無慈悲に奪われた両親の命に対して底知れぬ怒りを抱いている。
 その怒りと恨みを昇華する為であれば、命など惜しくない。
 かといって、刺し違える覚悟をしているのとはまた違う。彼もシュウも生き残ることを前提に戦っている。それは、自分が生き抜く為に目の前の脅威を排除する必要性があるからだ。安っぽいヒロイズムで命を捨てるほど、マサキもシュウも幼くはない。そう、感情的に生きているかに思えるマサキは、そういった意味でクレバーだ。
「なら、先ずは過去の同時多発テロの情報を集めることにしましょう」
 シュウはコートの内ポケットから|小型携帯端末《ハンドブック》を取り出した。
 中東極右派《マウシム》の末端構成員の存在は気掛かりではあるが、彼らがマサキの仇であると確定した訳ではない。ならば、対象の特定が先だろう。シュウは連邦軍のデータベースにアクセスする権限を得る為に、連邦軍幹部にホットラインを繋げることにした。今回の同時多発テロと過去の同一多発テロが同一のセクト――|中東極右派《マウシム》によって行われたものであるのだとしたら、情報を集めることで共通点が浮き彫りになる筈である。
「いいんだぜ、俺に無理に付き合わなくとも」
「忘れている訳ではないでしょうが、あなたを連れ帰るのが私の任務なのですよ。無理なくあなたに帰郷してもらう為にも、あなたの憂いを解消しなければならないでしょう。それ即ち、あなたの過去の清算です」
「つーても、今回のテロが過去のテロと関係しているのかは、まだ確定した訳じゃないだろ。今回のテロで|中東極右派《マウシム》が動いているのは間違いないだろうが、過去のテロに関しての奴らの関与は噂レベルだ」
「極めて確度の高い噂ではあると思っていますがね」シュウは|小型携帯端末《ハンドブック》の操作を始めた。「それに、今回のテロが過去のテロに関係があろうがなかろうが、あなたは今回のテロをそのままにして帰るつもりはないのでしょう。違いますか、マサキ」
「それはそうなんだがな……」
 恐らくは自分ひとりの手で決着をつけたいのだろう。シュウが手を動かすの眺めながら、マサキが気の進まない様子をみせる。
 同時多発テロという世界規模の危機的状況を目の前にして、マサキがシュウが関与することに蟠りを感じているのは、それが過去の自分にとっての最大の因縁であるからだ。それはマサキの心の傷がそれだけ大きいことを表していた。誰にも語ることなく、ひっそりと胸の内に燃やし続けた復讐の炎。彼が背負わされた運命はあまりにも重い。
 それを楽にしてやろうなどとは、シュウは思っていない。
 ドバイ空港でのテロがどうにか防がれたとはいえ、残りの四都市に関しては素通しだ。そうである以上、マサキの働きだけに期待するのは無理がある。マサキにとって第一の故郷が地上世界であるように、シュウにとっても自らの出自《ルーツ》に深く関わる地上世界は故郷だ。このままにしておけないと思う程度には愛着もある。
 けれども、マサキにはそういったシュウの微妙な感情は推し量れないのかも知れない。
「いや、やっぱり、これ以上お前の力を借りるのは」
 やはり受け入れ難く感じたのだろう。躊躇いを振り切るようにして言葉を継いだマサキを、だからこそシュウはぴしゃりと跳ね除けた。
「あなたが何も出来なかった子ども時代から、ここまでの成長をみせるに至ったのは何故ですか。バックアップをしてくれた組織があったからでしょう。その力を借りるのは決して悪いことではない。あなたがどれだけ戦士として成長したとしても、ひとりで出来ることには限りがあるのですから」
「だけど」
「仲間と戦い続けて、少しはその現実を受け入れられるようになったかと思っていましたが」
「頭じゃわかってるんだ。お前の云うことが正しいって」空を仰いだマサキが深く溜息を吐く。「とはいえ、お前と出会う前の過去の話だ。その因縁にお前の力を借りるのが正しいかと訊かれると、俺は答えられない」
「借りられる内に借りておけばいいのですよ、私の力など」
 まだ何か云いたげにしているマサキを横目に、シュウは使えそうな衛星ネットワークを幾つか見繕った。
 宇宙《そら》を経由して、連邦軍へのホットラインに割り込む。暗号化処理を経て通信文を送信すれば、よもや強硬手段を使ってコンタクトを取ってくるとは思っていなかったのだろう。動揺の窺える返信文が連邦軍の幹部から送り返されてきた。
 反応があるならそれに越したことはない。シュウは音声を繋げた。そして堂々と、過去と今回の同時多発テロ及び|中東極右派《マウシム》の資料を要求した。当然ながら幹部は渋るが、その程度で引き下がるシュウではない。交換条件をちらつかせて交渉を進める。
 ――しかしだね、シュウ=シラカワ。関係者とはいえ、軍事作戦上必要な資料を君たちにおいそれと渡す訳には……
 どちらかというと力任せな交渉術を好むマサキにとって、弁が立つ連邦軍の幹部たちは相手にし難いタイプであるからだろう。不安げなマサキの表情が視界の端に映り込む。
 けれどもシュウは怯まない。
 クラッキングの手法にも通じているシュウからすれば、切り札の用意は容易だ。何せ今の地上世界はネットワークへの依存度が高い。その気になればライフラインのハッキングも可能である。無論、連邦軍の監視カメラの操作などはお手の物だ。
 とはいえ、それ自体を交渉の材料にはしない。遺恨を残すような方策をシュウは好まないからだ。






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