マサキは寝ました。笑
そんな今回です。まだ先は長いですね。
そんな今回です。まだ先は長いですね。
<wandering destiny>
位相をずらした同一軸上に存在している地上世界と地底世界。それと知らず影響を及ぼし合ってきたふたつの世界は、いつの日か公に互いの存在を認識する日が来る。それは総合科学技術者たるシュウだからこそ導き出せた未来だった。何せ地上世界の技術発展スピードは凄まじく、ラ・ギアスの千年の進化を数百年で達成するに至っている。それはやがて練金学的技術が、地上世界に生み出されることを意味していた。
そうである以上、現在の地上世界の覇者である連邦政府や軍を敵に回すやり方は得策ではない。
だからシュウはこう回答した。
「私に私が望む資料をくだされば、|中東極右派《マウシム》を解体してみせますよ」
大きく出たな。と、ホットライン回線の向こう側から溜息混じりの声が発される。
「そのぐらいの手土産は必要でしょう」
険しい表情を浮かべているマサキを窺えば、士気は充分なようだ。力強く頷く。
どの道、今回の同時多発テロへの関与が明確である|中東極右派《マウシム》には、何某の処置が必要だ。とはいえ、政治的な局面もある。連邦軍が大規模作戦を展開するのは難しくもあるだろう。ならば、地上世界にしがらみの少ないシュウとマサキで対処してしまった方が話が早い。
――わかった。資料を送付しよう。
もしかすると、こうした流れを連邦軍は期待していたのかも知れなかった。即座に携帯小型端末に送信されてくるデータにシュウは苦笑を禁じ得なかったが、一方的な依存よりは利用して利用される関係の方が健全だ。その点については特に言及もせずにホットラインを終える。
「拠点まで掴んでいてくれると楽なんだがな」
「希望的観測ですね」
送られてきた資料は、流石は連邦軍所有のデータだけあって、携帯用の小型端末で読み込むのには膨大過ぎる量だ。
シュウは電源コードを|小型携帯端末に繋いだ。同時に起動する幾層ものホログラフィックディスプレイ。分割した資料をそれぞれ画面上に展開し、対面のマサキに目を遣る。
「私は資料の読み込みをしますが、あなたはどうしますか。一緒に読みますか」
「俺は後でゆっくり読む。お前の読むスピードには勝てそうにないからな」自虐的に言葉を吐いたマサキが目を閉じる。「少し休んでもいいか。流石に三日も警察に通った後だからか、疲れが酷い」
「なら、ベッドにどうぞ。読み終わったら起こしますよ」
「いや、いい。仮眠を取りたいだけだからな」
我慢が限界だったようだ。云い終わるなり眠りに落ちたマサキに、シュウは無言で視線をホログラフィックディスプレイに戻し、静かに画面上に指を滑らせた。
無理もない
東京からパリ、ロンドン、モスクワときて、シンガポールにニューヨーク。そしてアラブ。移動距離だけでも相当なものであるのに、更には同時多発テロの調査だ。幾らマサキであっても疲れない筈がない。だというのに、彼は仮眠だけで自身の休息を済まそうとしている。
恐らくは、東京でのテロが原因だ。
防ぎきれなかった第二の被害に故郷である日本が含まれている。その現実にダメージを受けないマサキではないだろう。現に警察を出たマサキはシュウの目にもわかるほど意気消沈していた。その自責の念は相当なものに違いない。マサキの胸中に思いを馳せたシュウは、先ずはマサキの両親の命を奪ったテロの被害状況と手口についてだ――と、ホログラフィックディスプレイに視線を注いだ。
シュウの記憶の通りに、当時のテロは第一波が空港を塞ぐ形で発生していた。そして、足止めされた民衆が都市部で夜を明かしている間に都市中心部で第二波が発生。世界規模での時間差テロであったらしく、被害を受けた地域は、東京、上海、ワシントン、ベルリン、ウラジオストク、ロンドン、パリと七都市に及んでいる。
死傷者は七都市で四万五千人ほど。地上世界では歴史に残る大規模テロとなっているが、幸いなことに、ロンドンとパリでは都市中心部に仕掛けられた爆発物の発見及び解体に成功。テロに使用された爆発物が、中東産の|赤い蜃気楼《ミラージュ・アハマ》とであることが判明している。
対して、今回の同時多発テロだ。
第一波はパリ、ロンドン、モスクワ、シンガポール、ニューヨーク。狙われたのは各都市の主要な国際空港であったが、それに続くテロはなし。代わりに日を置いて、東京、北京、ベルリン、キャンベル、ドバイの国際空港が狙われている。
死傷者は十都市で七万人ほど。残留物から、爆発物に中東産の部品が使用されていることが判明しているが、全ての爆発物が起爆してしまっていることから型式までは絞り込めずにいるようだ。とはいえ、マサキの証言もある。今回の同時多発テロに対する|中東極右派《マウシム》の関与はほぼ間違いないと見てよさそうだ。
最後は|中東極右派《マウシム》についてだ。
連邦政府発足と時期を同じくして設立された中東極右派《マウシム》は、優生思想及び封建主義に塗れたセクトだ。アラブ民族の解放を謳ってはいるものの、本質的には男尊女卑で、特に女性の社会進出には否定的だ。また民主主義を人間の階層化と批判し、人間も含めた全ての資源の共有財産化を訴えている。
初代の指導者はアキール。彼が暗殺された後に就いた現在の指導者はハムザ。拠点はイラクにあると云われてはいるが、巨大な情報網を構築している連邦軍であっても正確な場所は突き止められずにいるようだ。本拠地の所在地は不明となっている。
成程。全ての資料に目を落とし終えたシュウは腕時計に目を落とした。
ドバイ警察から解放されたのが朝の早い時刻だったからだろう。これだけの資料を読み込んだにも関わらず、時刻は昼を少し過ぎたぐらいだ。シュウはついでに昼食にしようと視線を前に向けた。深い眠りに落ちたようだ。目の前には今にもソファからずり落ちそうなまでに姿勢を崩してしまっているマサキの姿がある。
マサキ――と、名を呼ぶも返事はない。
シュウはソファから立ち上がった。
テーブルを回り、マサキの身体に腕を通す。抱き上げてみれば、想像以上に軽い。きっと、それだけハードなスケジュールをこなしてきたのだ。シュウは眉を顰めつつも、そのままマサキの身体をベッドに運び込んだ。そして、ヘッドボードに埋め込まれている目覚まし時計をセットした。
夕方になれば流石に目を覚ますだろう。そう思いながら部屋を出る。
大半のホテル客は観光に出ているのだろう。しんと静まり返った通路にはシュウの姿しかない。何を食べようか。シュウはエレベーターホールに向かった。そうして、一階にあるレストランに向かうべく、エレベーターを呼び寄せた。
PR
コメント