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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(14)
ついに三章に突入しました。
マサキが活躍出来る回はまだまだ先です。



(三)

 不幸中の幸いというべきか。ホテルの建物的な被害はロビーとその周辺に留まった。
 人的被害については翌日の警察発表を待たねばならなかったが、夕食時のレストランが巻き込まれる形となっているだけに、楽観的な数値に収まるとは考え難い。何より、あの救急車の数だ。怒涛の勢いで押し寄せる救急車に、次から次へと運び込まれる人々。彼らの変わり果てた姿に、マサキはかつてない険しい表情を晒していた。
 ――絶対にあの連中をぶっ潰す。
 絞り出すように吐き出した言葉こそが、彼の本心であるのだろう。
 それはシュウも同様だった。自分たちの浅はかさで失われた命ではあったが、だからといって腰が引けてしまっては奴らの思う壺だ。愚かなテロリストたちを、完膚なきまでに叩き潰してみせる。静かな決意を胸に、ドバイ警察に証言を済ませたシュウは、客室から荷物を引き取り、マサキとともに新たな拠点を求めて方々を歩き回った。
「ここも駄目なようですね」
「少し離れたホテルを狙うか」
 被害を受けたホテルがそれなりの規模だったからだろう。周辺のホテルは既にどこも満室だ。
 そんな中でようやく見付けた小さなホテル。ドバイの中心地から少し離れたロードサイドに位置する三階建てのホテルは、どちらかというとモーテルといった造りではあったが、疲労を抱えた身では贅沢を云ってもいられない。日付が変わる寸前にツインの客室に潜り込んだシュウは、先にマサキにシャワーを浴びさせ、自身は備え付けのテレビでニュースを見ることにした。
 空港でのテロ未遂と今回のホテル襲撃を、地元テレビがどう報道しているか確認したかったのだ。
 矢張りと云うべきか、トップニュースはどこもホテルの爆破事件を取り上げている。しかし、発生から時間がそこまで経っていないからだろう。事件発生時の状況と身元が判明している被害者を報じるに留まっているようだ。
 対して、空港でのテロ未遂については、かなりの詳細が出ていた。
 どうやらあのビジネスマンは、ドバイの南に位置するアブダビで複数人のアラブ人に拉致され、解放の条件として運び屋をさせられていたようだ。本人は警察の取り調べに素直に応じているそうだが、彼を拉致したアラブ人に関しては足取りが追えていないようである。
「何だ、ニュースを見てるのか」
 幾つかのチャンネルを跨いで情報を追うこと暫く。マサキがシャワーから上がってきた。
「どこまで捜査が進んでいるかを確認するのは大事ですからね」
 まだ髪を乾かすつもりはないようだ。濡れた髪もそのままに、壁掛けテレビの正面に陣取っていたシュウの隣に腰を下ろしてくる。
「ところであなたはどこからあのビジネスマンを尾けていたのですか」
「ドバイの中心地からだよ」
「中心地とは?」
「空港の南に川があっただろ。そこを挟んだ南のエリアだ」
「想像していたよりドバイ空港に近いのですね」
 更に詳しい話を訊き出してみれば、マサキはその前日にドバイの南西に広がっているアブダビ首長国の西端、サウジアラビアとの国境近くにいたのだという。そこで現地ガイドから中東極右派《マウシム》と目される集団がいるという情報を入手し、その集団の構成員を追ってドバイに戻ってきたのそうだ。そして、例のビジネスマンが解放される瞬間を目撃した――らしい。
「ドバイ警察にその情報は」
「提供したぜ。奴らが移動に使った白いバンのナンバーも含めてな。ただ、捕まってないってことは、多分もうUAEからは脱出してるんじゃないか?」
「どうでしょうね」シュウはシャワーを浴びるべく、ベッドから立ちあがった。「日本より狭いとはいえ、UAEも北海道ぐらいの広さはありますよ。もう一度行ってみる価値はあるかも知れません」
 そうしてバスルームに入ったシュウは、シャワーを浴びながらこれから取るべき行動を考えた。
 戦闘能力の高いマサキがいるのだ。中東極右派《マウシム》の拠点さえわかれば、叩き潰すのは容易いだろう。その為には、連中を表舞台に引き摺り出す必要がある。とはいえ、今回の空港テロの手口を見る限り、中東極右派《マウシム》は自らの手を汚さない手段を好むようだ。しかも犯行声明を出さないときている。それは彼らが自分たちのセクトに繋がる情報を制限していることを意味していた。
 それでも突破口はある。
 現にマサキは足で稼いで情報を入手している。当然だ。シュウは頭からシャワーを被った。
 真っ当な人間の目を、ああした集団は誤魔化しきれないのだ。隠しても滲み出る異端の痕跡。邪神教団の信者たちにしたところでそうだったではないか。彼らは一般的な社会に溶け込めないからこそ、信者たちで集団《コロニー》を形成していた。それはテロリストたちにしても同様だ。余程の訓練を受けない限り、彼らは一般社会に溶け込めない。そうである以上、情報網《ネットワーク》のどこかには、彼らの拠点に繋がる情報が転がっている筈だ。
 先ずはそれを探さなければ……。
 シャワーを浴び終えたシュウは髪を乾かしてからベッドに戻った。まだ寝ていなかったようだ。ベッドに腰かけたままでいるマサキが、「明日はどうする」と明日の予定を尋ねてくる。
 シュウは迷った。
 自身の行動方針は定まっているものの、マサキの行動方針については決めかねていた。
 これだけの行動力と戦闘能力を有している人間を、ただ待たせている訳にもいくまい。かといって、中東極右派《マウシム》について嗅ぎ回らせてしまっては、第二のホテル襲撃事件が起きかねない。何せマサキは馬鹿正直でナイーブなのだ。彼にこれ以上、自責の念を抱かせない為にも、これからの行動は慎重にしなければならなかった。
「何でもいいぜ。奴らを潰せるならな。どんなことでもやってみせる」
 拳を握り締めて力強く宣言したマサキに、シュウは悩ましさを拭いきれなかった。
 彼にとって両親の仇である中東極右派《マウシム》の殲滅は宿願に等しいのだ。だからこそ彼は、シュウの言葉に全面的に従おうとしている。それこそが、中東極右派《マウシム》を潰す最短ルートだとでも信ずるかのように。
「あなたが持っている情報は、全てドバイ警察に提供したのですよね、マサキ」
「まあな。出さないことには解放してもらえそうにもなかったしな」
「となると、UAEで出来ることはもうないような気もしますね」
「サウジアラビアに渡るか」
 バックパックの中から地図を取り出したマサキが、それをベッドに広げてみせる。
 シュウは地図に視線を落とした。
 中東地域だけが描かれた地図を、マサキは余程読み込んだようだ。切れ目も多くなったボロボロの地図。幾つか付いている印は、中東極右派《マウシム》の拠点と睨んだ地域であるのだろう。アブダビとサウジアラビアの国境付近に集中しているそれらの印に、成程と頷く。
「ドバイの北側の首長国には行ったのですよね」
「ああ」
「そちらでは目立った情報は得られなかった?」
「オマーン側だしな……」
 確かに中東でも治安のいいオマーンに通じている地域とあっては、さしたる情報が出てこないのも頷ける。そもそも、オマーン自体がアラビア海に面した行き詰まりの国だ。空の便がないこともなかったが、国際空港が空軍空港を兼ねている稀有な場所な為、警備はかなり厳しい。そういった意味でも、テロリストといった後ろ暗い連中が出入りするのには適さない国だ。
 対してサウジアラビアは、イエメンにヨルダン、クウェート、イラクと政情不安定な国に続いている。アラビア湾を挟んでイランもあり、中東全域で活動する為の拠点とするのには最適な国だ。しかも身を隠すのにもってこいな広い国土を有している。マサキが次にサウジアラビアを狙うのも納得である。
 だが、何の情報もないに等しいこの状況で、一定の治安が保障されない地域に入っていいものか。
 良くはないだろう。シュウは首を横に振った。
「暫くは拠点をドバイに置きましょう。私は情報網《ネットワーク》を当たります。確定情報がないこの状況で、迂闊に動いてこれ以上の被害を出す訳にはいきません」
「情報網《ネットワーク》を当たってどうにかなるもんかね」
「あなたが正面突破で情報を入手出来たということは、市井にも噂が流れているということですよ。それを情報網《ネットワーク》に流す人間は必ずいます。それに、昨今のテロリストは情報網《ネットワーク》で情報発信をすることも珍しくないですからね」
「確かに」
「暫くは骨休みをなさい」シュウはマサキに寝るように促した。「大丈夫ですよ。必ず拠点に繋がる情報を仕入れてみせます」
 そうしてベッドに先に入る。
 けれどもマサキは落ち着かない様子だ。ベッドの端に腰かけたまま、気難しい顔をして宙を睨んでいる。
 ついさっき悲惨な光景を目の当たりにしたばかりとあっては、神経が興奮状態に陥っても仕方がない。とはいえ、彼の力なくして中東極右派《マウシム》の殲滅は不可能だ。マサキの能力に絶大な信頼を寄せているシュウは、だからこそ、寝なさい。と、マサキに繰り返した。




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