マサキもシュウも寝ました。笑
いやしかし、この話は本当に難産ですね。気が抜けないので手癖で文章が書けないです。
拍手有難うございます。励みにしております。
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<wandering destiny>
「寝ないことには疲れも取れませんよ。あなたも万全の状態で中東極右派《マウシム》と戦いたいでしょう」
ああ。とは口にするものの、生返事であるようだ。動く気配のないマサキに、シュウはベッドの中で苦笑を浮かべた。
きちんと休息を取るのも戦士の務めだ。
たかが疲れと侮る者も多いが、疲労とは人間に対するダメージソースだ。蓄積されればその分だけパフォーマンスが落ち、最悪の場合には死に至る。それは優れた能力の持ち主であるシュウやマサキであろうと同等だ。
まだ若いマサキはその辺りを上手く飲み込めていないのではなかろうか。
シュウが起こしても反応しなかったほどに疲れ切っていたマサキ。彼はとにかく動き回れば事態が進展すると思い込んでいる節がある。そうでなければ、大した手がかりもない内から、どうしてドバイにまで足を運べたものか。彼は計画を練ってから動くシュウとは異なり、考えるよりも先ず動けの精神性を有する人間であるのだ。
だからこそ、すべきことがなくなると自分を持て余してしまう。
高揚する精神を身体を動かすことでしか発散出来ないマサキは、自分に与えられる役が何もない状態の経験が少ない。何せ、風の魔装機神サイバスターが操者にして、地底世界ラ・ギアスの英雄だ。どういった規模の災厄であろうとも、立ち向かうことを強制される唯一無二の立場。セニアがマサキを休ませる為に、サイバスターと使い魔を取り上げた上で地上に向かわせたのも納得だ。
「私は信用がないようですね」
シュウはベッドから出た。
一向に埋まる気配のないもうひとつのベッドが気になって仕方がない。シュウはマサキを追いやるべく、壁面にあるスイッチを押した。暗がりの中に浮かび上がるテレビの画面が、いつの間にか砂嵐を映し出している。
「ほら、マサキ。寝ましょう」
マサキに声をかけたシュウは、リモコンを操作してテレビを消した。カーテン越しに差し込む街明かりが、ベッドの輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。綺麗に整ったブランケットに伸びるマサキの青い影。返事のなさに溜息を吐きたくなる想いに囚われるものの、怒涛の展開に疲れ切っているシュウとしてはあまり長くも構ってはいられない。自身の体調管理も、マサキの悲願の達成には必要な要素だ。そう割り切って、再度ベッドに入る。
「寝るのか」
「ええ」
「少しは相手をしろよ」
明かりが消えたことで心細さを感じたのだろうか。不意に明瞭《はっき》りとした声が響いてきたかと思うと、ブランケット越しにマサキの身体が覆い被さってきた。
マサキ。と、呼びかけるも返事はない。
間近にあるマサキの顔からは、喜びや、悲しみ、苦しみに、怒りと、凡そ全ての感情が取り去られてしまっている。これは――、嫌な予感にシュウは身構えた。そして、続けて重ねられた口唇に眉を顰めた。
それは、マサキが本能的な意味でシュウを求めていないことを、シュウ自身が理解してしまったからでもあった。
感情の起伏が激しいマサキには、ネガティブな感情に引き摺られ易いという欠点がある。そう、記憶を失ったあの時のように。
自分が何者であるのかという最大の同一性《アイデンティティ》を失ったマサキは、産まれたばかりの雛のようにシュウに纏わりついてきては、マサキからのスキンシップに不慣れなシュウを動揺させた。それを好意だとマサキは思い込んでいたようだったが、シュウの見解は異なっていた。本当のところ、彼は不測の事態で奪われてしまった自己に対する悲しみや怒りを、人の温もりで癒したかっただけだったのではないか?
あれからかなりの歳月が経ち、人間的成長を重ねた筈のマサキだったが、不安《プレッシャー》に押し潰されそうになる心を慰める方法は知らないままであるようだ。今朝にしてもそうだ。東京にテロの被害が出たことを知ったマサキは、ショックで平常心を失ってしまっていた。
そこにホテルの襲撃事件だ。
目の前で多くの人々が生きたまま焼かれているのを目にしたマサキが、正常な精神状態でいられるとは考え難い。
非合理的な理念を掲げたセクトが奪った大量の命。祈りなど何ら意味を為さないことを知っている彼は、自らの感情を行動エネルギーに変えることで精神の均衡を保っていた。だからこそ彼は、行動に制限がかかったこの状況下で、上手く自分の感情を消化しきれずにいるのだ。
シュウはマサキのしたいようにさせながら、胸の奥で嘆息した。
どういった不幸に見舞われようとも、そのことに酷いショックを受けようとも、不屈の精神で立ち直ってきたマサキ。かといって、それが直ぐに果たされるかというとそうはいかない。ラセツの件を思い出してみるがいい。自らの正義が絶対であると信じていた彼は、シュテドニアス国民からの扱いに酷いショックを受けていたではないか。
人間の感情が一義的ではないことを、彼はそれまで知らなかったのだ。
シュウは遠くに過ぎ去った記憶を掘り起こしながら、現在のマサキの胸中を推し量った。さぞや辛いことだろう。悲しいことだろう。それでも彼は泣かない。いや、泣けないのだ。彼が有する風の魔装機神操者としての自意識は、彼を地上人である安藤正樹であるより先に、救国の英雄であるランドールに引き戻してしまう。だから彼はシュウを求めている。自分をひとりの安藤正樹に戻す為に。
かといって、手っ取り早い消化の方法として自らの欲望を利用されるのは、自尊心《プライド》の塊でもあるシュウには耐え難いことだ。だからシュウはマサキの身体を押し退けた。押し退けて、こう言葉を継いだ。
「私を利用しないで欲しいものですね」
拒否をされるとは思っていなかったのだろう。虚を突かれた様子でシュウから身体を離したマサキが、直後には不貞腐れた表情を浮かべる。
「何だよ、お前。俺の身体に興味がなくなったてか」
「あるなしで云えばありますよ」シュウは真っ直ぐにマサキの顔を見上げた。「ですが、私が興味を抱いているのはあなた自身です。そこを誤解しないでいただきたいものですね」
影に支配されたマサキの黒々とした瞳の中に、シュウの顔が映り込んでいる。その、浅ましさが透けて見えるような表情の曖昧さに、シュウは自分のことながら、思わず笑ってしまいそうになった。
久しく味わうことのなかったマサキの身体に未練がないかと云えば嘘になる。彼が欲しい。身体の奥底から湧き上がってくる感情は、時にシュウの精神を抗えないほどに深く支配した。抱き締めたい。口付けたい。性行為《セックス》がしたい。単純な肉欲が愛情と直結している自らの性に思うところは過分にあったが、それでもシュウにとってのマサキは性的対象であることを含んだ|愛する人《Loved one》だ。
彼はシュウの命であり、光であり、そして救いでもある。
肉体的に手の届く位置に存在していながら、精神的には表裏一対。決して届かぬ位置に存在しているマサキ=アンドーという青年を、シュウはだからこそ抱くのを避けた。本懐を遂げるのは、正しく彼の心を手に入れてから。その為であれば、シュウはマサキに対して正しく献身的であれる。
「寝ましょう、マサキ。あなたは疲れている」
シュウはマサキをベッドの中に招き入れた。
軽く抱き締めてやれば、見た目よりも細い身体がすっぽりと腕の中に納まる。話したいことがあれば話しなさい。シュウはマサキにそう声をかけた。
川底に積もった澱は浚えば綺麗になる。
同様に、胸に積もった苦しみも浚えば綺麗になるのだ。
シュウの態度に少しは心を動かされたのだろうか。そうだな……と、続けてマサキが思案を巡らせる。けれども自らの感情を言葉にするのが苦手な彼にとって、シュウの要求は程度が高いものであったようだ。やっぱやめた。そう口にすると、直後にはシュウの身体に擦り寄ってきた。
「寝る」
「そうなさい」
「あいつらまた来るかね」
「ドバイ警察の検問もあるでしょうし、今日の今日では難しいとは思いますが、気になるというのであれば起きていますよ」
「それはいい」
もそりと動いたマサキが、シュウの胸に顔を埋めてくる。お前も寝ろよ。そう呟いたきり静かになったマサキの身体を抱き締め直して、シュウはゆっくりと瞼を落とした。
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