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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(17)
今回はほのぼの回です。繰り返します。今回はほのぼの回です。

らぶらぶシュウマサを書きながら微妙な距離感のシュウマサを書くのって難しいですね!白河が昔と比べるとマサキを好きになり過ぎていて、自分が書いている話しながら解釈違いェ……ってなっています。



<wandering destiny>

 木のぬくもりに溢れた店内は、黒とオークルを基調とした和のテイストに満ちる落ち着いた空間だった。テーブル席ではあるものの、グラスや皿がきちんとセッティングされている格調高き純和食店。暖簾を潜った先に広がっていた世界に、「ドバイだよな?」とマサキが声を放つ。
「流石は世界有数のリゾート地ですね。日本食の店のレベルも高い」
「そういう店を選んだんじゃないのか」
「まさか。口コミぐらいは参考にしましたが、近い店を選んだだけですよ」
 テーブルに通されたシュウはマサキとともにメニューブックに目を通した。
 驚くのはそのレベルの高さだ。寿司や巻物は勿論のこと、丼物に焼きおにぎりまで揃っている。更には、海外ではあまり見ることのない兜煮付けやカマの塩焼き、生牡蠣のおろしポン酢などもある。「これは豊作だ」余程、日本食に飢えていたのか。笑みを浮かべたマサキが、身を乗り出してくる。
「今までの食事はどうしていたのですか」
「その国のもんを食べてたに決まってるだろ」
 それではさぞ日本食が恋しかったことだろう。シュウはどれを食べるか悩み始めたマサキにメニューブックを譲って、テーブルに届けられた茶を飲むことにした。予想以上に味に拘る店であるようだ。小さな湯呑に注がれた緑茶は芳醇な味わいがする。
「決まった。今日はがっつり食う」
 昨日の夕食が報復攻撃で駄目になってしまってからというもの、まともな食事を取れていない。朝食にとマーケットで購入した地元の冷凍食品は、アラブ圏だけあってスパイスの利いた味だった。だから口に優しい味が恋しいのだ。マサキからメニューブックを受け取ったシュウは、自身もまたメニューを選んでいった。
「最後に食った日本食は、浅草での寿司だったな」
 注文を終えたマサキがおしぼりで手を拭きながらしみじみと呟く。
 そういえば。シュウは思い出した。
 ドバイに来てからというもの、息を吐く暇もない展開が続いているからだ。マサキと日常的な会話をする時間もなかった。寿司屋の大将に頼まれたお釣りの件をすっかり忘れてしまっていたシュウは、今しかないとコートの内ポケットから財布を取り出した。
「その寿司屋なら行きましたよ」
「何でわかったんだよ」
「ヤンロンが浅草であなたを見かけたと云っていたからですよ」
「見かけたっていうなら、声ぐらいかけろよ」
 そうは云えど、テロ発生の報道がされた直後のことである。他人が見てひと目で様子がおかしいと感じるような状態であったマサキに、ヤンロンと話をする余裕があったかどうか。思いがけず短気なマサキのことである。怒鳴りつけていてもおかしくはない。
「てか、それで何で寿司屋だってわかったんだ?」
 シュウはこれまでの経緯をざっくばらんに説明した。
 テュッティが覚えていた「刺身をたらふく食う」というマサキの言葉。浅草でマサキを見かけたというヤンロンの証言。ミオが目にした同時多発テロのニュース。ついでと自身の推理を付け食わえたシュウに対して、自身の行動を見事に云い当てられたことに驚いたのだろう。「お前、そこまでいくと逆に気持ち悪いぞ」呆れた様子でマサキが吐き出す。
「あなたが単純過ぎるのですよ」
「だからってだな」
 まだ何か云いたげなマサキを遮って、シュウは財布から寿司屋の大将に預かった札を取り出した。
「その寿司屋の大将から、あなたに釣りを渡してくれと頼まれています。受け取ってもらえますか」
「んだよ。そんなん気にするなよな。全部チップでいいのによ……」 
 どうやら釣りを貰うことを放棄したのは、急いでいたからだけではなかったようだ。意図的にチップを渡したと知れる台詞を吐いたマサキが、受け取った札を財布に仕舞い込む。
「あの寿司、旨かったんだよな。脂は乗ってるし、酢飯も締まってるしよ」
「そういう台詞をあなたの口から聞くと、矢張り日本人なのだなと感じますね」
 温暖な気候が常なラングランには生食文化はない。文明の発展とともに食料の保存技術も向上したが、それでも基本は加熱調理だ。つまり、マサキがラングランで刺身を食べようと思ったら、自分で魚を捌くしか道がないのだが、シュウがそれを示唆してみたところ、彼にはそうしたくない理由があるらしい。
「ラングランの魚は淡白だからなあ。身が締まってるのはいいんだが、脂の乗りがいまいちなんだよ。だからオイルに浸して食うんだろうけどな。まあ、あれはあれで旨いんだけどよ、魚本来の脂には負けるっていうか……」
 日本人の血がそうさせるのか。それともそれだけ食に拘りがあるのか。俄然、饒舌になってきたマサキに、シュウは笑みを零さずにいられなかった。
 懐が広いのか。それとも、細かいことに拘らない性質なのか。シュウがドバイにいることを自然に受け入れている様子のマサキではあったが、それ故に、必要以上に何かを尋ねてくることがない。まるでシュウを信頼しきっているかのように、情報収集から戦略まで全てをシュウに任せきりにしているマサキ。如何にラングラン議会からの依頼とはいえ、シュウが自分の足跡を辿ってドバイに到達した事実を恐ろしいとは感じないのだろうか?
「そりゃ怖いに決まってるだろ。でもなあ、お前は俺と違って、使えるものは全部使うってタイプだしな。そういった奴相手に、道理がどうだの常識がどうだの云っても無駄だろ。だったら味方につけた方がマシってな」
 酷い云い草ではあるが、その程度の信頼は寄せてくれているようだ。
 シュウは安堵したような――それでいて物寂しいような気分になった。苛烈なる魂をその身に宿して、がむしゃらにシュウを追いかけていたあの頃のマサキはもういない。今シュウの目の前にいるのは、地底世界ラ・ギアスの歴史に残る争乱を、その比類なき能力で鎮圧してきたひとりの英雄である。
「私が裏切るとは思ってもいないような台詞ですね」
「お前は明瞭《はっき》りしてるからな。自分が気に入らなきゃ敵に回るし、気に入れば味方になる。そういった方が、俺としちゃやりやすい。変な蟠りを抱えて味方でいられ続けるより、よっぽど安心出来る」
「あなたに評価されると不安になりますよ」
「云ったな。俺だって褒める時には褒めるぞ」
 なすの味噌田楽にしいたけの串焼き、茶わん蒸し……徐々に運ばれてくる料理がテーブルを彩る中、シュウはゆっくりとお茶が注がれた茶碗を傾けた。
「てか、凄え高いなこの店。今頭の中でレート換算してびっくりした。うな重、二万以上するじゃねえか」
「金額も考えずに注文していたのですか」
「悪いか。食いたかったんだよ」
 単品のおかずでも二千円を下らないのは、ドバイが富裕層向けのリゾート地であるからだ。それを値段も見ずにぽんぽん注文してしまうのは、戦いで得た報奨金が巨額の資産になってしまったマサキだからだ。
 彼は自身の財布を気にせず注文が出来る富豪であるのだ。
 その割には庶民感覚が抜けないものだから、こういった喜劇が起こる。シュウはテーブルに伏せられている伝票を取り上げた。そして、ふたりで七万円ほどになっている勘定に、まあ、こんなものでしょう。と微笑《わら》った。
「そうか? 俺は肝が冷えたぞ。今朝の冷食と比べたら滅茶苦茶な値段だ」
「ちょっとした小料理屋で食事をしたと思えば、適切な価格であると思えますがね」
「あー、成程。確かにな」
 がっつり食うと云っただけあって、流石の量である。テーブルを埋め尽くす十品ほどの料理。次々と皿に手を付けていくマサキに、故郷の味が食欲に及ぼす威力を知ったシュウは、ようやくテーブルに届けられた自身の注文料理であるおまかせの握り寿司に箸を伸ばした。
 名店の味には及ばないが、下手な寿司屋よりは遥かに旨い。
 今日一日、高性能小型携帯端末《ハンドブック》と睨み合いを続けていたシュウは、もしかすると疲れていたのかも知れなかった。飢えた舌に染み渡る上品な味わい。対面で同時に届けられたうな重を食べているマサキの満ち足りた表情を見ていると、その苦労が全て報われたような気になる。
 まだ情報収集の下地を整えたばかりだというのに。
 シュウはふと不安を覚えた。
 戦いというものはそういうものだ。張り詰めるような緊張感が連続して襲ってくる時もあれば、突然驚くほどの日常に放り出されることもある。そうした日々を、これまでのシュウは当たり前のものとして受け入れてきた。そうでなければ戦い抜けない。わかっていても、寛いだ気分でいる自分が現実感のない存在に思える。それは、昨日の悲劇がやり方次第で防げた事態であったからだ。
 起きてしまった凄惨な悲劇よりも、目の前のマサキの機嫌に左右される自分。一体、自分のこの尽きることを知らない感情は、どこから生み出されているのか。マサキに魅せられ、マサキに支配されているシュウは、自分の心の在り処について考えずにいられなかった。






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