忍者ブログ

あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(16)
シュウが頑張る回です。マサキは寝たり起きたり。



<wandering destiny>

 翌日のシュウは忙しかった。
 先ずは、久しく使用していなかった情報網《ネットワーク》の情報の刷新だ。衛星ネットワークを使用し、インターネット通信回線を確立したシュウは、高性能小型携帯端末《ハンドブック》に収めてあったリストを総当たりして、生きている情報網《ネットワーク》の探索を行った。
 当然のことながら、大半の情報網《ネットワーク》は使い物にならなくなってしまっている。
 ダークウェブ化している情報網《ネットワーク》は頻繁にアドレスを変えた。クリティカルな情報を扱っている情報網《ネットワーク》ともなれば尚更だ。とはいえ、情報網《ネットワーク》同士が横の繋がりを持っていることもある。BOTを使用して生きている情報網《ネットワーク》を選別したシュウは、そこから人力でひとつひとつの情報網《ネットワーク》を洗っていった。
 マサキは暇を持て余しているようだ。テレビを少し見ては、退屈だ。と、声を上げている。
 常に使い魔と行動をともにしていた彼は、本当の意味で独りになることがなかったからだろう。相手にならないシュウを間近にして、どう時間を潰せばいいのかがわからないようだ。
 だからシュウはマサキにトレーニングを勧めた。
 いずれ訪れる中東極右派《マウシム》との決戦時に、身体が鈍ってしまっていたでは笑い話にもならない。両親の仇を討つという本懐を遂げてもらう為にも、彼にはその暴力的なまでに圧倒的な力を遺憾なく発揮してもらわねばならないのだ。それに、身体を動かしていれば余計なことを考える余裕がなくなる。どうかするとネガティブな思考が性欲の形を取って自己虐待《セルフネグレクト》化するマサキにとって、トレーニングに時間を費やすのは、ただベッドの上で時間を潰すよりは遥かに建設的な暇潰しだ。
「一日中、トレーニングをしろってか。お前も随分とスパルタなことを云うな」
「それが出来ない人間に中東極右派《マウシム》が殲滅出来るとでも?」
「云ったな」
 その名を出されては引き下がれないと感じたのだろう。煽りを真に受けたマサキが、メニューを寄越せとシュウに詰め寄ってくる。
 どうぞ。と、シュウは自身がこなしている日課のトレーニングメニュー渡した。真面目にやれば二時間は潰れるメニューにマサキの顔が歪むも、暇を持て余すよりはマシだとでも思ったのではなかろうか。引っ手繰るようにメニューを奪うと、部屋の空いているスペースでトレーニングに励み始めた。
 魔装機を使った戦いでは、気《プラーナ》の使い方が鍵を握るが、肉体を使った戦いでは、身体機能も重要な因子《ファクター》となる。だからこそ、優れた身体能力を有するマサキは一流の戦士足り得るのだが、その才能を十全に発揮出来ているかというと決してそうではない。長時間に及ぶ実戦では、努力の差が戦果に直結する。努力しない天才であるマサキは、体力面に不安要素を抱えているのだ。
 暴力的なまでの才能。他者を圧倒する能力に恵まれているからこそ、彼の戦い方は短期決戦的だ。人海戦術を取られると打つ手が尽きてゆくのはだからでもある。長時間の戦いで彼の能力を生かすには、基準点《ベース》を保った戦い方を実行してもらう必要がある。それ即ち、肉体と体力の強化である。
「お前、これ実際にやってるのかよ」
「勿論ですよ。自分がこなせないメニューを他人に勧めたりもしないでしょう」
 幾度か行動をともにしたマサキは、ストイックに鍛錬に励むシュウからすれば、トレーニングらしいトレーニングをしていないように思えた。軽いランニングにストレッチ。そして、短時間の筋トレ。やっているのを見かけてもその程度だった。
「結構、きついな」
「体幹トレーニングも兼ねていますので、負荷はかなりありますよ」
「合理主義なお前らしいメニューだな。これ、バランスを取らないと身体が動かせないぞ」
「そういうメニューですからね」
 それでも流石の身体能力である。常人では十分も持たないメニューをきちんとこなせている。
 身体的能力に優れているマサキは、どういったスポーツであろうとも、教わったその日の内に頭角を現してしまうようだ。遊び甲斐がないのよ。とは、いつぞやのミオの台詞だ。だから、かも知れない。マサキ自身、何かの為にわざわざトレーニングをする必要性を感じないのだろう。遣り慣れないことにぼやきながらメニューをこなし続けている。
 シュウは適度にマサキの相手をしながら、情報網《ネットワーク》内の情報を浚っていった。
 ひとつ終われば、次の情報網《ネットワーク》に。情報化社会におけるインターネットの世界は、果てが見えないほどに広大だ。無数にひしめく情報網《ネットワーク》。その大半はパス制で、身分証、若しくはソサエティに参加するに足りる知識を提示する必要がある。
 無論、こういった時の為の偽造身分証は用意済みだ。肝心の知識にしたところで、総合科学技術者《メタ・ネクシャリスト》の称号に与っているシュウからすれば、提示は容易いもの。早速、十数に上る情報網《ネットワーク》への参加件を得たシュウは、複層に及ぶホログラフィックディスプレイを展開して、無数の情報を目の前に表示した。
 裏社会に通じる情報網《ネットワーク》だからといって、情報の精度や純度が高いとは限らない。中には|紛い物《フェイク》も混じっている。参加の敷居が低い情報網《ネットワーク》ほど、その量は多い。シュウはセキュリティに気を付けながら、膨大な情報を要不要に応じて選り分けつつ、更なる情報網《ネットワーク》への道を探した。こういった工程を繰り返さなければ、より|深い《ディープ》な情報網《ネットワーク》には潜り込めない。ダークウェブでの情報収集とは、砂の中から砂金を探すのに等しい根気が求められるものであるのだ。
「あー、疲れた」
 途中から無言になったマサキが、メニューを消化し終えたところでベッドに身体を投げ出す。
 いい傾向だ。シュウは身体を休めているマサキを横目に情報収集を続けた。流石に疲労が体力を上まったようだ。程なくして、軽い寝息を立て始めたマサキに安堵する。
 今日、シュウがしているのは、本格的な情報収集の前の事前準備に近い。参加した情報網《ネットワーク》はコミュニティの側面を持っている。それ即ち、シュウにもまた有益な情報を提供する義務があるということである。シュウは自らが有している知識を駆使して、情報網《ネットワーク》での信頼構築に努めた。目を付けられれば開く扉がある。そこから下層の情報網《ネットワーク》を目指していけば、深層に辿り着ける。
 そこにこそ、シュウが欲している情報がある筈だ。
 そもそも、一日で目的とする情報に辿り着けるほど、ダークウェブの世界は甘くない。例えば、不正ログインに使用するアカウント情報。例えば、住所や電話番号といった個人情報。簡単に潜り込める場所に転がっている情報は、それ相応のものばかりだ。犯行声明を出さないテロ組織の情報がそんな表層に転がっている筈がない。彼らはかなり厳格な情報統制を敷いているのに違いないのだから。
 だからこそ、計画的な情報収集が必要になるのだ。
 シュウの目算では、必要な情報に到達するのに一週間はかかると見込んでいる。その間、マサキにはどうにかして待機を続けてもらう必要があった。短気な上に気が急いている彼を抑え込むのは、並大抵の餌では駄目だ。それでも、数日は中東極右派《マウシム》対策のトレーニングでどうにかなりそうだ。手足を投げ出して眠りに落ちているマサキを眺めて、そう思う。
 そこからの時間の流れはあっという間だった。
 暗くなり始めた視界に腕時計を確認すれば、いつの間にか夕方を迎えてしまっている。昼食を抜いた分、夜はしっかり取らせなければ。今日の情報収集を終えたシュウは、まだ寝息を立てているマサキを起こした。
「なんだ。もう夜か。することがないとこうなるのが嫌なんだよ」
「けれども疲れは取れたでしょう?」
「まあ、大分な」
 シュウはマサキと連れ立ってロビーに出た。このモーテルには食事のサービスがない為、どこかで食事を調達する必要があった。
 とはいえ、普段から食事に積極的ではないシュウである。ましてや今日はデスクワークばかりで、体力を消費する行動を全く取っていない。栄養が足りていればそれでいいとなりがちなシュウには、食べたいと思うものが全く思い浮かばなかった。
「何か食べたいものはありますか」
「カップうどんが食いてえ」
 どうやら日本の味が恋しくなっているようだ。マサキの味気ない返答に、「朝もコンビニ食だったのですから」シュウは苦笑を浮かべながら、高性能小型携帯端末《ハンドブック》を開いた。周辺の飲食店情報を調べれば、車で十分ほどの場所に日本食を扱っているレストランがある。
「せめて日本食レストランにしませんか」
「あるのか」
「ありますよ。少し離れた場所ですが」
「なら、そこでいい」
 シュウは受付スタッフに頼んでタクシーを呼んでもらうことにした。
 タクシーを待つ為にモーテルの前に出ると、道路を挟んだ海側に煌めく光を放つビルがひしめき合っている。「いつかは観光で訪れたいものですね」隣に立つマサキに何の気なしに話を振ってみれば、俺はもうちょっと自然が溢れる場所がいいよ。と、苦笑いを浮かべたマサキが返してきた。






PR

コメント