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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(2)
区切りがいいので、今回は短めです。

実のところ、まだ本編の展開をどうするか悩んでいる部分があったりするのですが、それはきっと書いている内にどうにかなると信じています!まあ、行き当たりばったりなのはいつものことなので、最後にはちゃんと収まるべきところに収まるでしょ!

何せ、今回の目的もマサキを嫁に出す!ですからね!!!!

といったところで本編にどうぞ!ヽ(´ー`)ノ



<wandering destiny>

 今日の彼女はどういった態度を自分に見せてくれることか。
 決して一筋縄ではいかない女傑は、シュウに似て、大上段に構えた物云いをすることも多い。鏡写しのような従妹の態度を、けれどもシュウは不快に感じることはなかった。
 ともに困難に立ち向かった日々。昔と比べると、彼女とシュウの心の距離はかなり近くなった。信頼を寄せる従妹、セニア=グラニア=ビルセイア。彼女の振る舞いに、シュウはかつて自分がいた場所の残り香を嗅ぐのだ。
「入りますよ、セニア」
 扉を開きながら声を発すれば、待ちくたびれたわ。との返事。シュウは広々とした執務室に目を遣った。
 硬質的な白色の金属プレートで設えられた壁に、透かし見える剥き出しの配線がインテリアと化しているガラス製の床。発光ダイオードが七色の線を描く部屋の中央で、セニアは自身を取り囲むように展開するホログラフィックディスプレイを操作していた。
「ちょっと待ってて。五分で終わるわ」
 どうやら日々のルーティンをこなしている最中なようだ。光の膜を右に左にスライドさせ、素早く目を走らせてはまた次と、部屋に溢れる情報を処理し続けるセニアに、シュウは「わかりました。では、終わるまで待たせてもらうことにしましょう」と、壁に凭れてその様子を見守ることにした。
 ――まるで波間に漂う海月《クラゲ》だ。
 小柄で華奢なイメージは付き纏うが、ホログラフィックディスプレイが発するシアンカラーの光に包まれたセニアのボディラインは、過ぎた歳月の分だけ成長を遂げ、今ではすっかり曲線が際立つようになっている。そう、彼女はもうじゃじゃ馬でもなければお転婆でもない。少女を脱却したセニアの立ち姿は、春の盛りを迎えて咲き誇る花々のように艶やかだ。
「あなたは戦場に立つより、ここにいる方が似合っているように思えますね」
 思いがけず口を吐いて出た言葉に、けれどもセニアは冷ややかだった。冗談云わないで。と、ちらともシュウに視線を向けずに真顔で云い放った彼女は、そこで業務に区切りを付けるつもりであるらしかった。即時にホログラフィックディスプレイを消失させると、その投影機であるセンタプレートから降り、奥にある執務机に陣取る。
「こんなせせこましい場所に閉じ込められるような生活が似合うなんて云われたくないわ」
「あなたほど飛躍論理演算機《デュカキス》を使いこなせる人もいないでしょうに」
 シュウは壁から背を離した。
「何それ、嫌味?」
「素直に褒めているのですよ」
 ゆっくりとセニアの許に向かい、執務机を挟んで向き合う。
 セニアには卓越したシステムの操作能力がある。
 何十ものホログラフィックディスプレイに描かれた情報を選別してみせる能力もそうだったし、飛躍論理演算機《デュカキス》に精度の高い演算結果を出力させる能力もそうだ。彼女が超魔装機を作り出せたのは、そうした経験が、より深い練金学のシステムの理解を可能としたからに他ならない。
 魔力の無さ故に凡人と扱われた王女は、だからこそ伸びやかに生きることを許され、結果として魔装機時代に足跡を残す非凡な能力を開花させるに至った。口さがない者たちは、それでも尚セニアを王族としては凡人と評したものだが、所詮は地位より他に能力を持たない者のやっかみだ。王族の中で一番の知名度と人気を誇るセニアは、戦うことを恐れぬ理知的な王女と市井の人々に呼ばれていると聞く。
「総合科学者《メタ・ネクシャリスト》に褒められてもねえ」
「その様子では、私の褒め言葉はお墨付きにはならないようですね」
 シュウとしては、だからこその褒め言葉のつもりだったが、王宮時代から仲良くとはいかなかった仲だけはあり、セニアはその言葉を額面通りに受け取るつもりはないようだ。呆れた風に肩を竦めてみせると、妙に達観した口振りで、「アリとキリギリスが同じだけの努力をしたら、アリの方が負けるじゃないのよ」
「観念的なことを」
「事実でしょ」
 どうもセニア=グラニア=ビルセイアという女性は、魔力の無さ故に王族内で一段低く扱われることが多かったからか。自身に向けられる賞賛を素直に受け入れられない面があるようだ。
 だが、それも已む無し。
 彼女がどう扱われてきたかを目の当たりにしてきたシュウとしては、彼女の素直になれない感情も納得がゆく。ならば、深掘りはすまい。シュウはセニアへの機嫌伺いの会話をそこで切り上げることにした。
「それで、私を呼び立てた理由は。ゲートを使わせたぐらいです。余程の用件なのでしょう」
 瞬間、セニアの顔が悩ましさに彩られる。それなのよね――と、言葉を濁した彼女は、余程の難題をシュウに吹っ掛けるつもりでいるのだろうか。そのまま黙り込むこと十数秒。ようやく決心を付けた様子で、毅然と顔を上げた。
「地上に行って欲しいのよ」
 シュウの従妹だけあって、彼女もまた、余程の事態でも起こり得ない限りは余裕に満ちた態度を崩すことがない。それがどうだ。真正面からシュウを見据えているセニアの顔は生真面目そのものだった。
 シュウは微かに瞠目した。それは、それ相応の事態が起こってしまったということだ。
「これはまた唐突な。何故に私に」
「マサキが行方不明になったからよ」
 続く彼女の言葉に、言葉が詰まる。シュウは愁眉を寄せずにいられなかった。





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