前置きが長くてすみません。早くマサキと白河を出会わせたい気持ちもありますが、出だしは大事なのでじっくり時間をかけて書いていこうと思っています。
しかし、何度も繰り返し云いますが、白河視点で話を書くのはホント疲れますね……
相変わらず独自解釈で好き勝手やっている作品です。生温かく見守っていただけますと幸いです。
励ましの拍手も大募集!@kyoさんが頑張り切れるように応援よろしくお願いします。
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<wandering destiny>
地上での任務を与えたのだそうだ。
不定期に起こるゲートの誤作動でラ・ギアスに召喚され、その後に地上へと送還された地上人たち。彼らが地底世界の重要機密を洩らしているようなことはないか。或いは、地底世界の品を地上に持ち帰っているようなことはないか。その調査を分担して行うように魔装機神の操者たちに、セニアは命じたのだという。
――ちょっと見ておかしなことがなければ終わりにしていいって云っておいたのよ。だから深追いしてるなんてことはないと思うんだけど。
そもそも、迷い込んで数日で送還される彼らが入手出来るラ・ギアスの情報など僅かなものでしかなかった。精々、太陽が常に中央にあるといった生活に関わるものぐらいか。何せ保護された彼らを待っているのは神殿での隔離生活だ。送還システムの準備が終わるまで、彼らは限られた空間で、神殿関係者といった限られた人間に囲まれて生活をするしかない。
勿論、彼らが望めば外に出してもやるが、案内役という名の監視役を付けるのは必須だった。
それもこれも、彼らをラ・ギアスの貴人や要人と接触させぬ為。彼らにその気がなくとも、彼らを利用しようとする輩は存在する。何も知らぬ彼らが無為にラ・ギアス世界の陰謀に消費されてはならない。だからこそ、ラ・ギアス世界は細心の注意を払って彼らの保護に努めているのだ。
故に、彼らがラ・ギアス社会を揺るがすような重要機密を入手することはない。
稀に、そう稀にルビッカ=ハッキネンのような重罪人が、己の欲を果たす為に保護施設からの逃亡を図るようなこともあるが、例え異なる世界の住人であろうとも、ラ・ギアス世界は自らの世界の理を乱すような輩を野放しにはしてこなかった。悪漢にはそれ相応の裁きを――秩序を重んじるラ・ギアス世界は、その為であれば地上人保護という道理を曲げもする。
それだけ厳格に地上人を保護している以上、情報は元より、ラ・ギアス製の品の流出も起こり得なかった。
それに、送還時にはボディチェックもある。ラ・ギアスの次元は四+一次元。地上世界よりも一次元上位に位置しているラ・ギアスでは、地上世界では理論の存在にしか過ぎない超対称性粒子も実用化レベルで確認されている。だからこそ、地上で航空機を利用する際に行われるチェックよりも精度の高いラ・ギアスのチェックシステムは、僅かな品の持ち出しさえも見逃しはしなかった。故に、彼らが地上に持ち帰れる品などないに等しかったし、もし仮にあったとしても、身体に付着した土や草、或いはポケットに入り込んだ小石といった許容物に限られていた。
――あたしとしては、ひとりの人間として過ごせる環境で骨休みをして欲しかったのよね。
確立されたリスク管理システムは、魔装機計画に関わる部分以外では有効に機能していた。そうである以上、無事に地上に送還された彼らのその後の調査など、元来する必要さえもないものだ。それを敢えてセニアが指示したのは、彼女が長い戦いに区切りがついたことを自覚したからに他ならなかった。
ひとつの戦いが終わるごとに、アンティラス隊隊員たち――わけても魔装機神操者たちの名声は高まっていった。特にラングラン国内においては、彼らの本拠地がラングランにあるという事実も手伝って、好感度が青天井な上昇曲線を描き続けている。
何処に行っても、知らぬ者がいない戦神。彼らがゆっくりと休暇を過ごすには、彼らの名声が届かぬ場所に彼らを送り込むしかない。セニアがそう考えてしまうのも無理がないほどに、彼らは世界的な英雄としてラ・ギアス世界に認知されてしまっていた。
――召喚されてかなりの年月が経ったし、もう地上世界に対する拘りも大分収まったことでしょう。それに、故郷で過ごせなんて云ってないしね。さっさと任務を終わらせて、ゆっくり休める場所で、残りの時間を過ごして欲しかったのよ。
だからセニアは、今回の任務には彼らのパートナーを連れて行かせなかったのだそうだ。
――魔装機に使い魔。それらを置いて、たったひとりの地上人として、懐かしい世界で、誰にも邪魔されぬ時間を過ごしてきて欲しかったのよ。
神殿のゲートを使って彼らを地上世界に送り込み、期日に集合場所に集まった彼らを再稼働したゲートでまとめてラ・ギアスに帰還させる。遣り方としては酷く原始的だ。けれどもそういった方法に頼ってでも、セニアとしては、彼らに気兼ねなく地上で過ごして欲しかったようだ。
――そうじゃないとあの子たち、ゆっくり休めないでしょ。
セニアの希《のぞ》みを聞いたシュウは、最大限の配慮と譲歩をしてみせた彼女の人格的な成長を感じながらも、果たしてそれが彼ら魔装機神操者にとって最適解な休暇の過ごさせ方であったのかと思わずにいられなかった。
彼らが抱えている事情を殆ど何も知らないシュウではあったが、彼らが自分たちの故国に少なからず心理的な抵抗を感じているらしいことには気付いていた。テュッティがいい例だ。彼女が家族を殺された記憶が残る故国に戻りたいと思うことはないようだ。ルビッカが死してかなりの歳月が経ったにも関わらず、彼女が懐かし気に過去を語るのをシュウは聞いたことがない。恐らくは、マサキやヤンロンにしてもそういった蟠りが故国に対してあるのだ。出身国に対するアイデンティティまでは捨ててはいないようではあったが、積極的に過去を語ることがない彼らは、地上時代に自分が置かれていた環境に物思うところがあるようである。
とはいえ、それこそが若さであるという意見もあることだろう。
その点についてシュウは考察を重ねた。重ねた結果、ひとつの確信を得るに至っていた。
確かに彼らは過去を振り返るほど歳を取ってはいなかったし、まだまだ輝ける未来を信じていられる年齢でもあったが、アンティラス隊が異なる文化や環境で生きてきた者たちの集合体である以上、そうした話題は避けられるものでもなかっただろう。異文化の寄り集まりは衝突が常だ。それは自己の開陳でしか解決しないことも往々にしてある。
けれども彼らは、ラ・ギアスに召喚されてからのお互いしか知らぬように振舞う。それは彼ら自身が、仲間のバックボーンを知らずに行動をともにし続けているからに他ならないのではないか? マサキ=アンドーという青年に強い執着心を抱いているシュウは、彼を構成する凡そ全ての事柄を知りたいと望んでいるからこそ、彼らの関係の重きがどこに置かれているかをつぶさに観察し続けてきたという自負がある。
だからシュウは、セニアの説明を聞いた瞬間、マサキが行方をくらましてしまった事実に納得をしてしまったのだ。
マサキ=アンドーは責任感の強い青年だ。長い戦いを放り出すことなく、戦い抜いてみせるだけの気概のある。以前、シュウが記憶を失った時の彼にしてもそうだ。ただ日常生活の面倒を見ればいいというテリウスの要求に対して、彼がどれだけの手間をかけてくれたかをシュウは忘れていない。その彼が、休暇とセットだったとはいえ、任務の報告も済ませずに行方をくらますようなことがあるだろうか。
――まあ、あの子のことだから、何処かで迷っている可能性もあるんだけどね……。
けれどもその意見にシュウは賛成しかねた。
マサキ=アンドーという人間は酷い方向感覚の持ち主だ。
それは動かしようのない事実である。だが、長い付き合いで彼を高く評価するに至ったシュウは、そこにある種の法則性を見出していた。それは彼が方向音痴の才能を発揮するのは、主に日常に限られるということだ。
最終決戦の場に彼が間に合わなかったなどということが、かつてあったか?
アンティラス隊を牽引する実質的なリーダーでもある彼は、ここ一番で過ちを犯すような人間では決してない。英雄は遅れてやってくるなどといった巫山戯たキャッチコピーもあるにはあったが、戦場の原理はそういった戯れを許すようには出来ていない。そう、遅れてきた英雄は、それだけの後悔をする羽目に陥るのだ。
だからシュウは、マサキの行方不明の理由をこう考えた。
もしかすると、マサキは地上世界で休暇を得たことで、日常に忙殺されていて忘れていた過去を思い出してしまったのではないか?
そして、恐らくはセニアもその可能性に思い至っているからこそ、わざわざシュウを呼び立ててまで、その捜索に当たらせようとしているのだ。そう当たりを付けたシュウは、だからこそセニアにこう答えた。わかりました。私がマサキの捜索に当たりましょう――と。
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