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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

2022X'mas「X'masMarket(2)」
広報です。昨今の表現規制に物思う所がある@kyoさんは、エロを書くことそのものに悩みを抱えている状態です。その悩みの深さたるや、今回のクリスマスもエロなしで進めようかと思う程!

そこで、皆様の意見をお聞きしたくアンケを設置しております。
https://bluemoon.pazru.com/hoge/EditEntry/1141/
この結果によって、今年のクリスマスネタにエロが入るか決まります。
宜しくお願いします。

では、本文へどうぞ!
<X'masMarket>

 クリスマスのアイテムで華やかにデコレーションされた街に降り立ったマサキは、方々から流れてくるクリスマスソングに耳を傾けながら駅へと向かった。目指すは駅前にある大型のショッピングモール。全国展開をしているチェーンの雑貨屋も数多く入っているショッピングモールであれば、クリスマスのオーナメントも種類様々に取り揃えられていることだろう。そう考えてのことだった。
 勿論、ふらりと立ち寄った雑貨屋などでオーナメントを買うのも趣きがあると思ったし、どちらかと云えばシュウはそちらの方を好みそうではあったが、足りない品をどうするかと考えた時に、それらを探すのに時間がかかってしまうこの方法は、方向音痴のマサキでは難しいと結論付けるより他なかった。時間にも限りがある。クリスマス二日前とはいえ、イブの明日にはふたりでディナーと洒落込む予定だ。クリスマス料理、そして手作りする予定の料理の分の食材の買い出しはラングランでするつもりでいるマサキとしては、地上での買い物は効率良く進めたい。それだったら一度で大抵の物が揃ってしまう大型のショッピングモールを先にした方が、移動距離も探す手間も僅かで済むだろう。記憶の中にあるショッピングモールが今でも存在していることを願いながら、マサキはホームに滑り込んできた電車に乗り込んだ。
 イブの前日からニューイヤーである元旦まで、十日間の休暇を取ったマサキは直前まで働き詰めだった。待てと云われて待つならず者はいないのだ。今日は北へ、明日は南へ。東端から西端まで、ラングランの方々へと遠征した一年間。そこに不満を持たせない為の人付き合いも重なれば、かなりのハードスケジュールとなったものだけれども、その日の為に頑張るのも生き甲斐のひとつ。ましてや自らが演出を担当するクリスマスでもあるのだ。これがどうして楽しみにならなかったものか!
 クリスマスからニューイヤーまでの長い休暇を、誰かの為に使うなどかつてのマサキでは考えもしなかった。それをシュウはマサキに望ませた。小さな勇気が気紛れな邂逅を必然に変えた去年のクリスマス。自らの願いが叶ったマサキは、どれだけその日の為に頑張ったことだろう。
 それが報われる日が今年もやってくる。
 彼の側で、彼とともに過ごす二度目のクリスマス。
 あれも飾ろう、これも飾ろう。あれを買おう。これを作ろう……考えている内に一年が過ぎてしまった。マサキはポケットの中に収めたメモの存在を確認するように指を這わせた。大事な買い物リストを失ってしまっては元も子もない。指に心地よく感じられるメモ。ここに今年のクリスマスの全てが詰まっている。その大事なメモをポケットの底に押し込んで、マサキは車内を見渡した。
 仕事納めも近くなった電車は人もまばらだった。楽に座席を得られたマサキは、走り出した電車の快い振動に身を委ねながら、向かいの車窓へと目を向けた。いつの間にか広さを増している車窓。心なしか座席も広くなったように感じられる。時の移り変わりを肌に感じながら、一路ショッピングモールのある駅へと。再開発が進んでいるのだろう。窓の向こうに流れる景色も記憶とは大分違ってしまっていたが、幸いなことに何処だかわかる程度には面影を残している。これなら方向音痴のマサキでも、迷うことなく目的の駅で降りられそうだ。
 問題はショッピングモールが今でも営業しているかだったが、次第に乗車客を増してゆく車内とその会話にそれが杞憂であったことが知れた。
 ―――次は、※※※……次は、※※※……
 目的の駅が近いことを告げる車掌のアナウンスに席を立ち、増えた乗客に飲み込まれるようにして駅のホームに降り立つ。人の流れに沿うようにして改札を出れば、目の前に広がるショッピングモール。看板や壁面に少しばかり年季が感じられたものだったが、訪れる人の活気がそれを打ち消した。
 ―――御来店、有難うございます。クリスマスもいよいよ明後日となりました。準備はもうお済みになりましたでしょうか。一階、特設ブースではクリスマス雑貨の展示販売を行っております……
 人が流れ込むショッピングモールの入り口。途切れなく流れてくる館内放送を聴きながら、壁に掲げられている案内板で雑貨を扱う店の場所を確認したマサキは、早速それぞれの店を見て回ることにした。
 温かな光に包まれた去年のクリスマスも良かったが、元はと云えば聖なる夜。キリストの降誕祭でもあるクリスマスの夜をそれに相応しく静謐に飾り付けたくもあった。厳かにイブの夜を過ごすのもいい。何よりその方がシュウに似合うように感じられるではないか。マサキは自分がセッティングするクリスマスを、シュウに相応しいものとしたかったのだ。
 それでも店に並ぶオーナメントの数々を目にすれば、心が逸る。
 部屋を照らすキャンドル、窓に貼り付けるステンドグラス風のフィルムシート、室内を飾るガーランドにクリスマスツリーオーナメント。スノードームやクリスマスにちなんだ形をしたライト類、クリスマスカラーのカップやディッシュ、コスプレ用の帽子に髭、服、そしてプレゼントを入れる靴下とクリスマスアイテムには限りがない。実際に目にすれば、気紛れなマサキはあれもこれも欲しくなったものだけれども、クリスマスも間近となってから自らの計画を大幅に変えるのは勇気が要る。結局、当初の予定通りに青と銀と白を基調とした色合いのクリスマスオーナメントを買い揃えることとしたマサキは、大量の荷物をカートに、続いてシュウへのクリスマスプレゼントを選ぶ為にショッピングモールを端から歩き始めることにした。
 昨年のクリスマスはディナーのことばかり考えていて、肝心のプレゼントをどうするかまで気を回せなかった。どうせクリスマスイブからニューイヤーまでシュウの家で過ごすのだ。クリスマスの朝にソックスに入ったプレゼントを枕元に置いておくのも悪くない。何よりあの余裕綽々といった表情。いつでも薄く口元に笑みを湛えている男が、その瞬間にどういった表情をするのかを見てみたい。
 人は大人になるにつれサンタクロースの存在を信じなくなったものだったし、サンタクロースもプレゼントをくれなくなったものだったけれども、むしろ大人の方こそサンタクロースとプレゼントを必要としているのではないだろうか。歳を取ればままならないことが増える。心の中に描いた夢も実現が難しくなってゆく。そういった年齢になってようやく、かつて子どもだった大人たちはサンタクロースからのプレゼントの意味と、それが自分に与えてくれた勇気や希望に気付くのだ。
 だからこそのプレゼント。きっと、幼少期を王室で過ごしたシュウのことだ。サンタクロースの存在を知ってはいても、実際にプレゼントを貰ったことはなかったのではなかろうか。マサキからのプレゼントにはにかむような笑みを浮かべてみせた九歳のクリストフ。その奇跡が導いた出会いを口数多く語り続けた去年のシュウ。
 マサキはシュウが喜ぶ姿を見たかった。
 既にクリスマスカラーの巨大ソックスは手に入れている。後はそれに入るサイズのプレゼントを見付けるだけだ。
 本、財布、靴下、時計、手帳、万年筆……足が棒になるほどあちらの店、こちらの店と歩き回った。こういった時にシロとクロがいれば、適切かはさておき、ある程度のアドバイスが得られたものだったけれども、大切な日に大切な相手に贈るプレゼント。自分で選んだものの方が喜ばれるに決まっていたし、シュウもきっとマサキが選んだプレゼントを欲しているに違いない。
 通路に溢れるのではないかと思うほどに所狭しと並ぶアイテムの中には、シュウの好みそうな品も多く、移り気なマサキは相当に頭を悩まされたものだった。ハイセンスでラグジュアリーなアイテム。口にすればたったこれだけの言葉で済むアイテムを、この数多き店舗の中から選び出すのは至難の業。悩みに悩んだマサキは、ショッピングモールを三往復ほどした結果、シュウならば上手く付けこなしてくれるだろうと、銀製の細身の三連ブレスレットをプレゼントとすることに決めた。
 男性用のブレスレットにしては繊細な意匠《デザイン》。如何にも男物というアイテムよりは、こういった性別を問わないアイテムの方がシュウには似合う気がした。とはいえ、アクセサリーらしきものと云えばネックレスとタックピンぐらいしか身に付けない男。果たしてブレスレットといったプレゼントを喜んでくれるのか――マサキはかなり長いこと躊躇し続けたものの、結局はそれを身に付けているシュウの姿を見たいという気持ちが勝った。
 シュウの白い衣装の袖から覗く三連ブレスレット。それを目にする度、マサキはどうしようもない満足感に溺れることだろう。
「男性向けの商品となりますが、宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない。ラッピングを頼む」
「では、こちらから包装紙とリボンをお選びください」
 この季節に男物のブレスレットのラッピングを頼むマサキに、店員は妄想を逞しくしたのではないだろうか。少しばかり虚を突かれた表情をしてみせた店員は、けれども多様性《ダイバーシティ》が謳われて久しい地上世界のこと。直ぐに表情を引き締めてみせると、余計なことを口にすることもなく、マサキが選んだ包装紙とリボンをカウンターの下から取り出すと、手慣れた手捌きでラッピングを始めた。
 待つこと暫し。綺麗に包まれたシュウへのプレゼントを手に、店を後にする。そうしてショッピングモールでの全ての買い物を無事に終えたマサキは、遅めの昼食を済ませるべくフードコートに向かった。
 地上世界に懐古の念を抱くことはなかったものの、食には今でも恋しさを感じることが多い。いつの間にか有名チェーン店の増えたフードコートで、あれもこれも食べたく思いながらも、こればかりはラングランの豊富な食材を使ってもひとりでは作れそうにないからとラーメンを食べることにして、先ずは席の確保とマサキはラーメン屋の周囲を見渡した。
 昼時を過ぎても空席を見付けるのが難しいフードコート。流石は冬休み真っ只中のショッピングモールだけはある。家族連れに、学生と思しき少年少女のグループ。席を占める客層に、僅かばかり寂しさを感じながら、人が立ったばかりのテーブルに滑り込むようにして席を得たマサキは、早速と荷物を載せたカートを置いてラーメン屋に並んだ。
 程なくして手にした味噌ラーメン。たっぷりと具材の乗った中太麵に、しっかりとスープが絡んでいる。それを二人掛けのチェアー席でクリスマスソングを聴きながら胃に押し込んで、ふとひと息吐いたその瞬間に――。
 先程感じた僅かな寂しさが、猛烈な恋しさに変わった。
 クリスマスのムードに浮かれ騒ぐ地上のショッピングモール。そこには戦いとは無縁の人生を歩んでいる人々が集っている。誰も彼もが明日の平和を信じて疑わず、ただただ安寧とした笑顔を浮かべる世界……地底世界で生きることを選んだマサキにとっては、それはこれ以上となく贅沢なものに映ったのだ。
 だからこそ、そこにひとりでいることに、物足りなさを感じてしまった。
 ―――来年はシュウとふたりで来よう……
 恋しさばかりがいや募る。
 早く準備を終えてシュウの許に向かわなければ。汁まで飲み干したラーメンの器を洗い場の窓口に返却したマサキは、久しぶりの地上世界の賑わいに後ろ髪を引かれることもなく。山となった荷物をサイバスターにどう積むか考えながら、ショッピングモールを後にした。
「思ったよりは早かったんだニャ」
「迷わニャいニャんてマサキじゃニャいのね」
 カートに積むぐらいの量になった荷物を両手で持ち運ぶのには、かなりの体力とコツが必要になったものだったが、そこは剛健《タフ》さが売りの魔装機神が操者である。往路と同じルートを辿って無事にサイバスターの許に帰り着いたマサキは、せせこましくなったコントロールルームに何とはなしに充足感を覚えながらも、次の準備を果たす為に一路ラ・ギアスへ。サイバスターの転移プログラムを起動させた。


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