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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

2022X'mas「X'masMarket(4)」
メリークリストフ!

延長戦が確定しているのはわかっていたので、のんびりと進めようと思ってはいたのですが、「あらまあ、このペースで@kyoさん大丈夫?まだ本題にも入ってないけど?」案件になってしまいました。本日の更新はここまで。明日から三連勤すると冬休みです。そこで取り戻すつもりで頑張ります。

拍手有難うございます。励みになります。
では、本文へどうぞ!
<X'masMarket>

 鼻腔を擽《くすぐ》る夕餉の匂いが辺りから漂ってくるようになった街角で、マサキは途方に暮れて立ち尽くしていた。その足元には二匹の使い魔。彼らは困惑する主人を見上げながら、ついに現れた悪癖に笑うべきなのか、それとも真面目な表情をすべきなのか悩んでいる様子だ。
「ニャンんで肝心な時に迷うのよ」
「流石はマサキニャんだニャ」
 サイバスターを情報局の格納庫に収め、ひとりと二匹で城下に繰り出したマサキは、今日一番馴染んだ道を迷うことなく進んでいた――筈だった。それが十分も経たぬ内にこの有様である。夜を迎えたからといって世界が闇に包まれないラ・ギアス社会では、夜営業の食料品店も珍しくはなかったものの、そこに辿り着く前にこれでは始まる話も始まらない。
 とにかく、どうにかして事態を打開しなければ。十字路の中央に陣取ったマサキは、来し方に戻るか、それとも三方のいずれかを行く末とするか思案した結果、二匹の使い魔の戻るべきだという意見を無視して、ええいままよと右手側へと足を進めようとした。
「何してんの、マサキ」
 それは果たして救いの女神の登場であったのか。
 聞き間違えようのない声。ややこしいことになるのはご免だと顔を顰めたマサキが振り返るより早く、素早い身のこなしでマサキの前へと回り込んできたリューネは、いや、まあ、ちょっとな……と、まさかシュウとのクリスマスディナーの買い出しに来て迷ったとも云えずに言葉を濁すマサキに、いつもの事らしいと事情を把握してくれたようだった。
「また、迷ったの? 何で城下町《ここ》で迷えるかなあ。あたしよりマサキの方が地底世界《ラ・ギアス》にいる年月は長い筈なのに」
「煩《うるせ》えな。迷いたくて迷ってる訳じゃねえよ」
「しかも長期休暇はどうしたの? あたしたちとのパーティを欠席するぐらいなんだから、どこか遠くに旅行にでも行くつもりなんだと思ってたんだけど」
「それはこれからだっつうの。その為の準備に来たっていうか……」
 そこでちょんちょんとシロが前足でマサキの脚を突いてきた。この際、リューネに聞いてみるんだニャ。その隣でうんうんと深く頷くクロ。二匹の使い魔としては、このままリューネを遣り過ごした結果、マサキが目的地に辿り着けなくなる事態だけは避けたいらしい。
「早くしニャさいよ。予定に間に合わなくニャってもいいの?」
「そうニャ、そうニャ。それでおいらたちが責められるのはご免ニャんだニャ」
 流石にクリスマスイブまで残り数時間となった今となっては、無駄足を踏んでいい状況ではないことぐらいマサキにもわかっている。ただ、相手がリューネである。彼女と友情を育んでいるウエンディたろうとも、よもや激情家たる彼女に、昨年の出来事を打ち明けたとは考え難い。
 リューネは自らの恋心が絡む事態となると、猪突猛進にマサキに迫ってくるのが常だ。そうしてやいのやいのとマサキを責め立ててくる。そんな彼女がヤンロン同様にふたりの関係を知って口を慎めたものか。無理に決まっている。即座にその可能性を打ち消したマサキは、だからこそリューネにどう話を付けたものか考え込んでしまった。
「なあに? 何かあたしに聞きたいことがあるの、マサキ」
「その、あれだ。ここはどこだ」
「城下に決まってるじゃない。何を云ってるの、マサキ」
「そうじゃねえよ! 何か目印になりそうな店が近くにないかって聞いてるんだよ!」
「それを知った所でマサキが目的地に辿り着けるとは思わないけどなあ。ジャック&カロッツオってステーキハウスがあそこに見えるのわかる? あの通りを左に真っ直ぐ行けば中央広場に出れるけど」
 ニャるほど。シロが足元で頷く。
 だからといって目的地に辿り着けるとは限らニャいのね。クロが不安そうに溜息を洩らす。
「一体、何処に向かおうとしてるの? 何だったら案内しようか。あたしたちのパーティは明日だし、今日はまだ余裕があるからさ」
「お前、買い出しに来てるんじゃねえのかよ」
「そうなんだけどね。去年に続いて今年もでしょ。だからマサキがこの長期休暇で何をするつもりなのか、知りたいなあって」
「ひとりでのんびり羽根を休めたいから休暇を取ってるんだぞ。そうホイホイ行き先をバラしてたまるか」
 疑いの眼差し。リューネとしては、ラングランの方々に顔の利くマサキがひとりで休暇を過ごすとは思えないのだろう。ホント? と、マサキの顔をわざわざ覗き込んでくる。気まずいこと他ない。それを努めて表情に出さないようにして、リューネと視線を交わすこと暫く。どうやら彼女はマサキの行き先を知るのは諦めたようだった。
「まあ、いっか。でもお土産ぐらいは買って帰って来てよね」
 そう云って寂し気に微笑んだリューネに少しばかりマサキの胸は痛んだものの、彼女に想いを返せない以上は余計な同情は禁物だ。それに、中央広場まで出られれば、目的とする食料品店は直ぐそこだ。これ以上の助力はマサキが旅行に出ると思っているリューネには仰げないだろう。
 わかったよ、覚えてたらな。マサキはリューネに土産を約束すると、ほら、お前ら行くぞ。と、二匹の使い魔を促してその場を離れた。
「いずれはリューネにも云わニャきゃニャらニャい日が来るのかニャ」
 遠ざかるリューネの姿を振り返りながら、シロが呟く。どうやら彼女はしつこくもマサキの行き先を探ろうとしているのか。いつまでもその場に留まっているようだ。多分な。マサキは敢えて振り返らずにそう答えた。大変ニャのね。マサキとリューネの間に日常的に起こる騒動を思い出した様子でクロが俯く。
「でも、いつかは明瞭《はっき》りさせないとならないことだしな」
 迷いなく言葉を継いだマサキに二匹の使い魔は驚きを隠せないようだった。もっと尻込みするかと思ったのね。クロが目を丸くしながらマサキを見上げてくる。そうだニャ。似たような表情を浮かべてシロもまたマサキを見上げてくる。それにマサキはただ微笑んでみせた。
 ―――いつまでも同じ場所に留まってはいられないのだ。
 日増しに心を満たすようになった想い。昨日より今日、今日より明日、明日より明後日……シュウと過ごした日々の分だけ、そして年に一度のイベントの為に努力を重ねた分だけ、マサキの心に積み重なってゆく恋心。その気持ちをマサキは裏切れない。
 好きなんだもんなあ。何とはなしに呟いた言葉が胸に響く。
 ヤンロンと話して脳裏に思い描いた未来を、マサキは実現したいと望んでいる。その為には、ウエンディやヤンロンだけでなく、他の操者たちやセニアにもシュウとの関係を打ち明けなければならなくなる時が来るだろう。けれどもきっと、その日のマサキは世界中の誰よりも胸を張って、彼らにシュウへの気持ちを打ち明けてみせるに違いない。
「あそこの看板がそうニャのね」
「『ジャック&カロッツオ』って書いてあるんだニャ」
 近付いて来るステーキハウスの看板。二匹の使い魔の声に意識を引き戻されたマサキは、右だったよな。曲がる方向を今一度確認すると、力強く、中央広場へ続く大通りを歩き始めた。

 夜もすっかり更けてからの来訪となったマサキを、ガウン姿でありながら嫌な顔ひとつせずに迎え入れたシュウは、大量の荷物をマサキとともに室内へと運び込んだ後に、さぞ疲れたことでしょう――と、穏やかな笑みを浮かべながら、どうやら湯を張って待っていたらしい。バスルームに行くように促すと、自身はひと足先に寝室へと向かって行った。
 長く待たせてしまったことに心苦しさを感じながらも、一日の汚れを洗い流したマサキが寝室に入ると、ベッドの端に身体を起こして読書に励んでいるシュウの姿が目に入った。きっとマサキが来るのを、こうしてずっと待っていたのだろう。彼はマサキがベッドに潜り込んでくるのを見届けると、サイドチェストの上で柔らかな光を放っていた灯火器《ランプ》を消した。
「何だよ、素直に寝るつもりか」
 隣に身体を横たえたシュウは、そのまま眠りに就くつもりなようだ。いつもふたりで眠る時と同じようにマサキの身体を抱き寄せると、静かに目を閉じてゆく。それがマサキには物足りなく感じられた。
 肉欲ばかりが全てな関係ではなかったものの、今日一日の苦労を思えば、少しぐらいは褒美を与えてもらいたくもある。マサキはそうっとシュウの顔に手を伸ばした。続けてその固く結ばれた口唇に口付ける。
 幾度か口唇を啄む程度のキス。あっさりと離れた口唇に、頑張ったんだけどな。いじらしくマサキは呟いてみせたものの、それでもシュウはマサキに手を出すつもりはないらしい。
「愉しみは明日に取っておくものですよ、マサキ」
 柔らかくマサキを抱き直したシュウの胸に顔を埋めながら、マサキはシュウの言葉を聞くこととした。
「大切な明日という日にあなたがいる。私にとっては、それこそがクリスマスプレゼントですからね。それともあなたは明日まで待てない?」
 揶揄うように囁きかけながら目尻に口唇を落としてくるシュウにマサキは逡巡したものの、まさかプレゼントを別に用意してあるとも云えない。それにそろそろと眠りが思考を奪いにかかっている。今日一日の疲れは、例え行為に及んだとしても、マサキを最後まで起きさせてはくれなさそうだ。
 いいよ、待つよ。呟いたマサキは、けどと言葉を次いだ。
「クリスマスディナーの準備も明日、ツリーの準備も明日、性行為《セックス》も明日じゃ忙しくて敵わないな」
「別に明後日でも構いませんよ。クリスマスプレゼントですからね」
 そうだな。頷いて、マサキは瞼を閉じた。
 よもやマサキからのプレゼントがあるなどとは微塵も思っていない態度。明後日の朝、枕元に置かれたプレゼントを目にしたら、どういった態度を見せてくれることだろう。なあ、シュウ。徐々に忍び寄ってくる睡魔。浅い眠りに身体を攫われながら、マサキは今日最後の言葉を吐いた。
 ―――サンタクロースはいるんだぜ。
 それにシュウの答えはなかった。ただ、優しくマサキの髪を撫でる手がいつまでも。
 その温もりに誘われるがままに、マサキは長い一日を締め括る眠りへと落ちていった。


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