もう夜も更けてしまいましたので、余計な御託は脇に置くとして、アンケートにご協力有難うございました。お陰様で自信を持ってエロを書けそうです!
拍手有難うございます。では、早速本文へどうぞ!
拍手有難うございます。では、早速本文へどうぞ!
<X'masMarket>
.
ベーコンを焼いているらしい匂いで目が覚めた。
当然ながらベッドにシュウの姿は既になかった。僅かに窪みを残しているベッド。起き抜けのぼんやりした頭でサイドチェストの上に乗っている時計に目を遣れば、朝も大分時間が経ってしまっている。
―――今日のディナーの準備をしなければ。
マサキは慌ててベッドから飛び起きた。惰眠を貪っている暇などない。やるべきことは山積みだ。パジャマを脱ぎ捨てるようにして服を着替えたマサキは、バタバタと足音を立てながらキッチンに飛び込んだ。コンロに向かう長躯。キッチンでは今まさにシュウが朝食の準備を終えようとしている所だった。
厚切りのベーコンにスクランブルエッグ、マッシュポテトにサラダ。そしてオニオンスープ。無精な彼にしては手の込んだメニュー。二人掛けのダイニングテーブルに並べられた料理に、悪いなと手伝えなかった詫びをマサキが口にすれば、構いませんよと微笑みながらシュウがテーブルに着くように促してくる。
「今年はあなたに準備を任せきりですからね。これぐらいは」
「料理の準備があるんだよ。ツリーも出して飾り付けをしないと。それにガーランドやキャンドルもあるんだ。ディナーまでにそれを片付けなきゃってなると、ゆっくりしている暇が――」
気が急いているマサキの言葉をやんわりと押し留めるように、マサキ、とシュウがその名を呼んだ。
「私もいるのですよ」
「それはそうなんだけどさ」
「先ずはゆっくり朝食を食べながら、今日のスケジュールについて話をしましょう。あれだけの荷物を抱えて来たのです。昨日はまともな食事も取れていないのではありませんか」
確かに昨日のマサキは朝食もそこそこにゼオルートの館を飛び出し、昼こそフードコートでラーメンを食べてはいたものの、夕食は使い魔を連れていたこともあって、サイバスターの中で買ってきた二切ればかりのサンドイッチを口にしただけだった。
腹が減っていないと云えば嘘になる。
まだ壮年には足らない年齢のマサキは食べ盛りの時期にあると云っても過言ではない。ましてや日々任務に従事し、体力勝負の戦いを繰り広げている身である。摂取カロリーも多ければ、消費カロリーも多い。
けれどもどうせ今日のディナーでは、食べきれない程の量の料理がテーブルに並ぶのだ。むしろ腹を空かせていた方が、無駄に料理を余らせずに済むことだろう。そんなことをマサキが口にしてみれば、本当に口の減らない――と、声を上げてシュウが嗤った。
「ディナーの料理は日持ちするものも多いのでしょう。時間をかけてニューイヤーまで食べてゆけばいいだけのこと。そう、クリスマスの余韻に浸りながらね。それに、そもそもカトリックでは25日から年明け7日までがクリスマスですよ。そう考えると、今日一日だけのこととして終わらせてしまうのも、勿体ない気がしませんか」
「休暇の取り方を間違えたな。だったら来年の7日まで取るんだった」
「いずれあなたがもう少し自由を得られるようになったら、そうしてみてもいいかも知れませんね」
キリスト教徒ではないシュウとマサキのクリスマスは、雑多にも様々な国の料理を取り入れたディナーに、好きなだけオーナメントを飾り付けた室内と、宗教的な縛りを感じさせないものである。それならば、イベント期間も自分たちに都合良く取り入れてもいいのかも知れなかった。
そもそもマサキが仲間と過ごすクリスマスも、そのままニューイヤーパーティに雪崩れ込むぐらいに長く続いていたのだ。シュウと過ごすクリスマスがそれ以上に長くなったところで、何の不都合があったものだろう。来年はもう少し長めの休暇を取ろう。マサキが決心すると同時に、それで? とシュウが朝食に手を付けながら尋ねてきた。
「あれだけの食材を購入してきているのです。今年はただ出来合いのメニューを買って終わりではないのでしょう。何を作ってどう部屋を飾るのか。あなたの計画《プラン》を私に教えてはくれませんか。まさかあなたは私を置き物にするつもりではないでしょうね。こういったことはふたりで行うからこそ、楽しさが増すものでもあるのですから」
「作るって云っても大したもんじゃないけどな」
スポンジケーキを焼いてチョコレートクリームで巻いたブッシュ・ド・ノエルに、クッキー生地にジンジャーパウダーを加えて焼くジンジャーマンクッキー。クリスマス定番の菓子メニューは、あった方がクリスマスらしさが出るからこそ、手作りに挑戦してみてもいいとマサキが食材を買い揃えてきたものだ。
「スポンジケーキを焼くのは難しいとも聞きますが」
「お菓子はレシピ通りに作れば問題ないんだよ。素人が余計なアレンジを加えるから失敗するんであってさ」
「よくご存じですね」
「プレシアやテュッティがやる時に手伝わされるんだよ。泡立てとか、生地を捏ねるのとかさ……」
勿論、菓子類だけを作って終わりではない。クリスマス料理のメインディッシュにはイタリア料理のカンネッローニ。巨大な筒状のパスタであるカンネッローニに野菜や肉を詰め込んで焼き、チーズやソースをかけて食べる。作り方はシンプルだが、肉の塊を焼いたものがメインになりがちなクリスマス料理の中では、パスタ料理は物珍しく映る。それだけにクリスマスの食卓に並べば、さぞ目を引くひと品となるだろう。
「パスタの国ならではのメインディッシュですね。あまり肉料理が得意ではない私にとっては有難い」
「クリスマス料理って肉がメインだもんな。だからさ、副菜にローストポテトとミモザサラダを作ってさ、お前の得意料理の豆のスープを加えてさ、ちゃんとした食卓にすればいいんじゃないかって思ったんだけど」
「得意料理と云えるほどではありませんが、あなたがそう考えてくださるのであれば、喜んで作りますよ」
マサキが自分の料理を必要としてくれていることに喜びを感じたようだ。柔らかさを増した表情。自信を窺わせるような力強い答えを返してきたシュウに、それから――と、マサキは続けた。
グリューワインで醜態を晒してしまった去年のクリスマス。疲労が溜まっている身体に度数の強い酒を入れてしまったのが良くなかったとはいえ、口当たりのいい酒はまるでジュースのような舌触りで、楽々と飲めてしまったものだった。
マサキとしては、今年はそういった失敗がないようにしたかった。
勿論、アルコールを節制出来ればそれに越したことはなかったものの、酔った人間が取る行動は、得てしてその自制心の壁を取っ払ってしまったものになりがちだ。ましてや調子に乗り易いマサキのすることである。一杯入れば次、二杯入れば次……と、ついつい杯を重ねてしまうのを、マサキに甘いシュウがどうして止めてくれるだろう。
だからこそマサキは考えた、あまり酒が強くないマサキにとって、水と酒しか飲み物のないディナーは、それだけで危険に値するものである。だったらそれ以外の飲み物を用意すればいいだけのこと。さりとて、ただジュースだの、紅茶だの、コーヒーだのといったソフトドリンクを揃えるだけでは面白味がない。普段のパーティの席ならいざ知らず、クリスマスディナーの席なのだ。だったら、それに相応しい飲み物を用意したいではないか。
「成程、それでエッグノックなのですね」
「甘過ぎる気はするけど、そこは気分だしな。俺はそういった飲み物から徐々にアルコールにシフトしていった方がいいんじゃないかって」
「いいと思いますよ。お酒の飲み過ぎが防げそうですしね」
シュウが作った朝食を少しずつ口に含みながら、そうしてマサキは役割分担を決めていった。部屋の飾り付けをするのはシュウ。料理を作るのはマサキ……食事を終えたマサキはテーブルを片付けると、早速とばかりに料理に取りかかった。
家主たるシュウには先ずは部屋の掃除といった雑事を片付けてもらう。どうせ読書や研究に日々を費やしている男のことだ。一見、綺麗に整えられているように見える室内ではあったが、家具の上にうっすらと埃が積もっているのをマサキは見逃さなかった。飾り付けの前に部屋を綺麗にしなきゃな。そうマサキが告げると、自覚はあるのだろう。シュウは肩をそびやかしてみせたものだった――……。
.
PR
コメント