今日もこんな時間になってしまったのでさっくりと。
明日で仕事納めになります。
来年の七日は有給を取得しました。たった一日ばかりですが、あるとないとでは進行状況に違いが出ます。(それまでに終わらせられるのが理想ですが)冬休みは彼らのクリスマスに捧げる予定です。宜しくお願いします。
拍手有難うございます。励みになります。
では、本文へどうぞ。
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<X'masMarket>
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壁に下げられたガーランド。樹木を模った白いクリスマスツリーの頂点には銀のトップスターが輝き、ベルにヒイラギ、ボールにリボンと種々様々な青いオーナメント飾られている。
シュウが作った豆のスープに、マサキが作ったカンネッローニ。サラダもあればローストポテトもある。クグロフやバニレキプルファンに、ブッシュ・ド・ノエル、ジンジャーマンクッキーと、食べきれないほどに料理を並べたディナーテーブルの中央を飾るのは、玉葱やマッシュルームをスタッフィングされたローストターキー。わざわざ注文してまで手に入れた七面鳥は、ナイフを入れるのが勿体ないと感じるくらいに出来が良かった。
「メリークリスマス、シュウ」
「メリークリスマス、マサキ」
どうせクリスマス当日もふたりのパーティは続くと見越しているらしい。雰囲気を味わうのはその時でいいと考えているのだろう。気を利かせた三匹の使い魔たちが自ら外へと出て行った後に、カーテンを閉じて薄暗くなったリビングの各所に置いたキャンドルに火を灯して、どことなく厳かな雰囲気の中でシュウはグリューワインを、マサキはエッグノックを飲みながら、今年のクリスマスディナーを味わうこととした。
酒が進んでいるとは思っていたのだ。
マサキがセッティングしたクリスマスディナーの雰囲気がよっぽど気に入ったのか。甘さに騙されて飲み続けると痛い目に合うことは去年のマサキで学習済みだっただろうに、自身の肝臓に自信があるらしいシュウは、マサキがデキャンタに用意したグリューワインを、上機嫌で次から次へとグラスに注いでいった。全てを飲み干した後にはスパークリングワイン。その次には所蔵しているワインボトルを空けてと、シュウの飲酒には限りがない。日頃、マサキに煩く云われるがままに嗜好品を節制していることもあるのだろう。今日ぐらいは、と口にしながら、さして料理に手も付けずに酒を煽り続けたものだから、ついに酔いが回ったらしかった。
―――ねえ、マサキ。
ディナーの席に着いて一時間も経たず内に理性を失ったらしい彼は、マサキの身体を膝の上に乗せると、食べさせてと甘い声で囁きかけてきた。仕方ねえな。マサキはシュウに云われるがままに、料理を取っては口に運んでやった。切り分けたローストターキー、厚切りのハム、ローストポテトにミモザサラダ。カンネッローニ……ひと通り口にしたことで満足したらしい。残りはまた後で食べますよ。そんなことを云いながら、腰に回した手でマサキの身体を弄《まさぐ》ってくる。
「……そういうのは後にしろって」
「つれないことを云いますね。去年は自らベッドに連れて行けと煩かったのに」
自分が忘れて欲しいことほど他人の記憶に残り易いとはよく云ったもので、シュウは昨年のマサキが晒した醜態を忘れていなかったらしかった。
「そういうことばかり覚えてやがるのな」
マサキは身体に絡み付くシュウの手をやんわりと剥がした。
そもそもこうしてクリスマスをともに過ごそうという話になったのも、顔を合わせては気忙しく性行為《セックス》に及ぶのをマサキが嫌がったからだった。それが結局、いつも通りになしくずしに性行為《セックス》に及ぶことになってしまったのは、休暇の為に慣れない人付き合いや任務に励み続けたマサキが、酔いに酔った結果、溜まりに溜まったストレスを発散させる先を、シュウとの性行為《セックス》に求めてしまったからに他ならない。
どうあってもマサキが悪い。
マサキとしてはシュウの為に努力した自分に、褒美が欲しかっただけだった。それが性行為《セックス》になってしまったのは、努力の結果、彼に割ける時間が減ってしまったからなのだろう。
シュウに対する恋しさでどうにかなりそうだった昨年のクリスマス。もしかすると今年のマサキは少しだけ成長をしたのかも知れなかった。これを逃せば次はいつ会えたものか、或いは、いつか飽きられて捨てられるのではないか。マサキを突き動かしていたその手の焦燥感はもうない。年に一度だけのこととはいえ、クリスマスというイベントの夜を、誰に邪魔されることもなくふたりきりで過ごす。シュウとの約束という保証を得たマサキは、その貴重な時間を、先ずは雰囲気を愉しみながら他愛なく会話を重ねることに使いたいと、心から望めるようになった。
―――性行為《セックス》に及ぶのは、その後でも遅くはない。
ニューイヤーまでの休暇を得ているマサキには、シュウとふたりきりで過ごせる時間が余りある程あるのだ。
「お前に話したいことがあるんだよ」
再びそろそろとマサキの身体を弄《まさぐ》り始めたシュウの手を、取り敢えずは好きにさせておきながら、マサキは昨日の買い出しの最中に起こった出来事を話すべく口を開いた。話したいこと? マサキの耳元で言葉を吐くシュウの呼気はかなりのアルコール臭がしたものだったけれども、完全に理性を失った訳ではなかったようだ。
「昨日、買い出しの途中でヤンロンに会ってさ」
「あなたがパーティに不参加とあっては、彼らも寂しいことでしょうね」
マサキの身体に触れることを止めはしなかったものの、そうっと腹部や腿を撫でるに留まるようになった手。シュウはマサキの話に関心を抱いた様子で、何か云われましたか? と、そのこめかみに口を付けながら尋ねてきた。
「俺がいなくなって自由に使えるパーティの準備要員が減ったからだろ。テュッティに扱き使われて仕方ないって愚痴ってたぜ」
「大人数でのパーティですしね。一昨年のあなたの荷物の量は相当な物だった。あれをあなたがひとりで用意していたことの方が驚きでしたよ。その役割を今度は彼が担うことになったのですね」
「それは仕方ねえだろ。黙ってりゃ料理や酒が勝手に出てくるようなパーティなんて、健全じゃねえよ。参加するならするなりに働いてもらわなきゃな。テュッティたちは料理の準備に忙しいんだしさ」
「とはいえ、その調子だと、普段の付き合いでの集まりでは、結局あなたが準備に奔走することになっていそうですが」
それにマサキは肩をそびやかしてみせた。
今更そういった自分の役回りを替えたいとマサキは思ったことはなかったものの、自分がいるといないとでは、パーティでの役回りにも変化が出る。それに冗談めかして愚痴ってみせる彼らが、本気でそういった役周りに嫌気を感じていないことはわかっていた。出来れば普段より少しはマサキの手伝いを買って出て欲しくはあったりもしたが、それはマサキが彼らとの付き合いにを義務感を感じるようになってしまっているからだ。
そう、マサキは仲間との付き合いを、クリスマス休暇を取る為の奉仕活動の一環だと感じ始めていたのだ。
その矢先にヤンロンに突き付けられた現実。シュウとの関係を知っていると暗に匂わせてきた男は、どうやら自分たちの関係に忌避といった感情を抱いてはいないらしい。ならば――と、マサキは思った。自分はクリスマス休暇の為に、無理を押してまで彼らとの付き合いを重ねる必要はないのではないだろうか。
マサキはそういった自分の心境を素直にシュウに吐露した。それに対してシュウは物を云いたげではあったものの、自分とのクリスマスを過ごす為にマサキがしていることとあっては、迂闊な言葉を差し挟めないと思ったのだろう。ただ黙ってマサキの話に耳を傾け続けている。
「お前に伝えてくれって云われたんだ。俺《・》た《・》ち《・》のクリスマスパーティに参加しに来いって」
瞬間、シュウが息を呑むのが触れ合った肌越しに伝わってきた。
鈍感と評されるマサキですら、その言葉の意味するところを理解出来たのだ。十指に及ぶ博士号。聡明たるシュウにどうしてそれが理解出来ないといったことがあっただろうか。
沈黙が続く。きっと様々に思いを巡らせたに違いない。暫くして、そうですか――とシュウが呟く。感情を押し殺したような声。マサキを案じているのだろう。そうして自らの表情を窺うように覗き込んでくるシュウの不躾な視線に、そうじゃないとばかりにマサキは笑ってみせた。物事を多角的に捉えるシュウは、思いもよらない方向に物事を案じてみせることがままある。それが杞憂でしかないことを、彼には明瞭《はっき》りとわからせる必要があった。
「いつかでいいんだ、シュウ。一緒に俺たちのクリスマスパーティに行こうぜ」
歪《いびつ》な人間関係を長く続けてしまったことを、今更に後悔しても始まらない。だからこそマサキは、ヤンロンの言葉を切欠《きっかけ》に、前に進むことを考えるようになった。
勿論、サフィーネにモニカ、或いはリューネと、シュウとマサキの周りには清算しなければならない人間関係が幾つもあったし、それは一朝一夕に済むほど一筋縄でいくようなものではなかったが、いつまでも影に隠れるように付き合いを続けた所で、どういった実りがマサキたちに齎されることだろう? むしろ卑屈さを増させるだけの結果となりはしないだろうか?
マサキは胸を張ってシュウの隣に立ちたかったのだ。
大手を振って歩きたいとまでは思わなかったものの、限られた他人でいい。恋人として認められたい。その為には、モニカにサフィーネ、リューネといった女性たちに真実を告げる必要があった。
今のマサキはそれを面倒臭いこととはもう思わない。いずれ通らなければならない道なのだ。覚悟はもう出来ている。だからといってシュウという相手がいる以上は、ひとりで勝手に動いていい話でもない。マサキは自らの覚悟に対するシュウの意見を聞きたかった。その上で、今後どういった形でシュウと付き合ってゆくのかを決めたかった。
そうした判断が正しいのか、それとも間違っているのか、世故に長けていないマサキにはわからない。
ただ己の心はそうしたいと欲している。仲間たる彼らに認められた状態で、恋人としてシュウの隣に立ちたいと。
「けれども、マサキ。その為には、片付けなければならない問題が幾つかありますよ」
いつしかマサキの身体を撫でていた手は動きを止め、柔らかに抱き締めるだけとなっていた。だからさ、とマサキはクリスマス一色に染まった広々としたリビングを眺めながら言葉を継いだ。俺がひとりで決めていい話じゃないだろ。
「去年、ウエンディにはお前と一緒にクリスマスを過ごしたことは伝えてあるんだ。ヤンロンはウエンディに話を聞いたんだろうと思う。あの性格だからさ、きっとずっと云いたいことを我慢してたんじゃねえかって思うんだけどさ」
「ウエンディは何て?」
「妬けるわね――だってさ。思ったよりあっさりとしたもんだったぜ」
彼女らしい。そう口にしたシュウの声色は、何処か寂しさを含んでいるようにマサキには感じられるものだった。
恐らくは、彼女の物わかりの良さに憂いを感じずにいられないのだろう。引くことを知ってしまっている人間ほど、無理を重ねている存在もないと思うのですがね。シュウはそう続けて、マサキの言葉を待つように黙り込んだ。
「勿論、リューネがそんな風にあっさりと受け入れてくれるかっていうのはまた別の問題だ。だけど俺は見たいって思っちまった。お前がいて、仲間がいる。そのクリスマスはどれだけ幸せに感じられるものなんだろうな」
「あなたはそれでいいと?」
「思ってなきゃ口にするかよ、こんなこと。でも、お前がそういうのは面倒だっていうならいいぜ。それで俺の気持ちが変わるもんじゃないしさ」
マサキ、とその名を耳元近くで呼んだシュウの腕に力が籠る。誰が面倒なものですか。続けて力強く言葉を紡いだシュウの頭がマサキの肩に埋もれる。
「それであなたの幸福を獲得出来るというのであれば、喜んでそうしますよ」
好意が恋に変わり、そして愛に変わる。そうした恋愛模様の影には、涙を呑む人間が存在している。マサキにとってそれはウエンディであり、リューネであった。そうである以上、それを世の不条理だと嘆くつもりはマサキにはない。恋は狡猾になった者が勝つ。シュウはそれを体現してみせた。先んじてマサキを獲得してみせることで。
そしてマサキはそのシュウの姿を見て学んだ。自らの恋心を叶える為には、形振り構ってなどいられない。時には不都合な現実に目を閉じることも必要であると。そう、ウエンディの物わかりの良さを見て見ぬ振りが出来るようになったぐらいには、マサキは自らの感情に自覚を持てるようになっていたのだ。
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