明日からは冬休みです!!!!!
これでもう少しリクエストの消化スピードを上げられると思いますので、お付き合いの程を宜しくお願いします。いつも拍手を有難うございます。励みにして頑張っております。
では、早速ですが、本文へどうぞ!
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<X'masMarket>
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「でも、今直ぐって話じゃないぜ。いつかでいいんだ。直ぐにどうこう出来るって話だなんて、俺は思っちゃいないからさ」
決してシュウやマサキがそうしてくれと頼んだ訳ではなかったものの、彼女らは自らの恋心を叶えたいが為に大きなものを捨ててしまっていた。それは身位であったり、故郷であったり、組織であったりと様々な種類に及んでいたものの、彼女らの属性に関わるものであったのには違いなかった。
共同体《コミュニティ》から去るということは、そこで得ていた属性を捨て、何も持たない個人になるということだ。王室を去ったモニカ、教団と袂を分かったサフィーネ、地上世界の柵を捨てたリューネ……今の彼女らに後ろ盾といったものは存在しない。そう、肉親との絆さえも捨てて恋に懸けた彼女らにとって、その対象であるシュウやマサキは世界の全てであるのだ。
そういった彼女らに悲恋を味合わせるということは、彼女らから全てを奪うということでもある。
その現実に彼女らは耐えられるだろうか?
シュウやマサキに彼女らが強い執着心をみせるのは、捨ててしまったコミュニティに対する未練が含まれているからかも知れないのだ。勿論、彼女らに聞いてみたところで、それは純粋な恋愛感情の発露であると答えたことだろうし、それ以外の可能性などはなから認めたりもしないことだろう。けれども、ラ・ギアスで戦うことを決めた筈のマサキが、或る日ふと気が付いたら日本に辿り着いてしまっていたように、自己認識と現実の行動には乖離が生じるものだ。もし、マサキの考えが的を得た指摘であったとしたら。シュウとマサキが自分たちの関係を公にするのは、彼女らの執着を却って強めることになることにもなりかねない。
「女性という生き物はしたたかな生き物なのですよ、マサキ」
そういったマサキの考えを、シュウはマサキが口にするより先に見通していたようだ。詮索することなくあっさりと云ってのけると、そうだったらいいんだけどな――と、不安を露わにするマサキの身体を慰めるように撫でてきながら、
「大丈夫ですよ。あなたが思っているほど、彼女らは弱くない。そもそも恋を叶えるのに代償など必要ないものでしょう。誰に求められた訳でも、誰に強いられた訳でもないにも関わらず、彼女らはそれをしてみせたのですよ。これで彼女らの精神が脆弱だなどとどうして思えたものか。彼女らは私たちが思っている以上に逞しい精神の持ち主です」
「そうはお前は云うけどな、拠り所を失うんだぞ。俺だったら立ち直れそうにない」
「あなたは随分と彼女から向けられている気持ちに自信を持っているようだ」
「そういうつもりじゃねえよ」
本当でしょうかね。シュウはクック……と忍び笑いを洩らしてみせた。
「もしそうだったとしても、それはあなたの問題ではないでしょう。彼女が自分で決着を付けなければならない問題です」
それとも、とシュウの口唇がマサキの耳に押し当てられた。あなたはその程度の気持ちで私と一緒にいるの? 揶揄《からか》うように吐きかけられた言葉に、マサキは即座に首を振った。
失いたくなければ、手放したくもない。
それなのに――。マサキは未練がましくも彼女らと過ごしてきた日々を振り返ってしまった。陽だまりの中にいるかのような温かさ。彼女らの優しさは心地いい。けれどもそれはマサキに対する恋慕の情があるからこそ。
だからこそシュウの言葉は、マサキの心を揺さぶったのだ。
シュウと彼女らのどちらをマサキが欲しているのか。その答えは明白だ。二兎を追うものは一兎を得ず。何もかもを手に入れられるような栄華に満ちた人生など、一握りの人間にも稀にしか訪れない僥倖だ。だのにマサキは恐れてしまった。彼女らに真実を告げることで、これまで培ってきた仲間としての絆が失われるような事態になりはしないか――と。
変わらないことを美徳とする向きもあれば、頑固だとくさす向きもあったものだったが、変わらないでいることで得られるものは案外少なかったりするものだ。現状維持といえば聞こえはいいが、それは逃げ以外の何物でもない。自らの都合で他人に現状維持を強いる。マサキがしていることは、マサキたち自身のみならず、彼女らからも変化の機会を奪ってしまっているのだろう――……。
「ならば、そうした未熟な優しさは捨ててあげなさい。それこそが彼女らへの誠意の表し方ですよ、マサキ。人生は長い。やり直せるチャンスが何度だって訪れるくらいにはね。強かで逞しい彼女らならば、そのチャンスをものにして、何度でも立ち上がってみせることでしょう。あなたが彼女の好意を信じるということは、そういうことです」
そうだな。マサキは頷いた。もう迷い悩むことはないと、力強く。
もし、その道が困難に満ちたものであろうとも、理解を示してくれた者がいる。それを心の支えにして、マサキはシュウとともに前に進んで行く。誰に謗られようと譲れないものを、今ひとつマサキは得たのだ。大丈夫だ。マサキは自らの心に云い聞かせた。必ず夢を叶えてみせる。
「昨日、地上でショッピングモールに行ったんだ」
おもむろに話を変えたマサキに、ええ、とシュウが頷く。
「この時期だからさ、連れのある客で溢れ返っててさ。そんな中でひとりで飯を食ったんだけど、そういうのって案外寂しく感じるもんなんだな。お前にいて欲しくて仕方がなかった」
先程までの話がひと段落着いたことで、またぞろ彼が悪戯の虫を騒がせ始めるかと思いきや、理性を求める内容のお陰もあってか、大分正気を取り戻したようだ。相変わらず頬にかかる息はアルコール臭が強かったものの、その手はやんわりとマサキの身体を受け止めるだけに留まっている。
「来年はさ、一緒に地上に行こうぜ。クリスマスに賑わう地上世界でクリスマスを過ごすんだ」
マサキはシュウの顔を振り仰いだ。
酔いが顔に出ることのない男は、涼し気な表情でマサキを見下ろしている。口元にはうっすらとした笑み。恐らくはマサキの他愛ない望みを、微笑ましいものとして受け止めているのだろう。それでも先程までの話が気にかかってはいるようだ。
「ヤンロンの誘いはどうするつもりです?」
ややあって尋ねられたマサキは、膝を手で打ちながら言葉を発した。
「それだよ、それ。お前と一緒に仲間とのクリスマスパーティに参加したい気持ちもあるけどさ、今暫くはふたりでクリスマスを過ごしたいっていうかさ。色んなクリスマスをふたりで過ごしてからにしたいかなって、俺の我儘なんだけど」
「成程。最大のイベントは最後に残しておきたいのですね。なら、暫くはふたりでクリスマスを愉しむこととしましょう。差し当たり来年は地上に行くとして、何をしましょうか。ショッピングモールを歩くだけでは、クリマスらしさを少しぐらいしか味わえないと思いますが」
「イルミネーションでも見て、クリスマスのディナーをレストランでっていうのもいいかなって思ったんだけどな」
「それでしたらクリスマスマーケットを見に行きませんか、マサキ」
「クリスマスマーケット? 何だ、それ」
思いがけないシュウからの提案にマサキが尋ね返してみれば、クリスマスの時期に欧米で行われる伝統的なマーケットであるようだ。グリューワインにエッグノック、肉料理。ガラス工芸品や木工品、キャンドル……街の広場に並んだ屋台で扱われる品はどれもクリスマスにちなんだものばかり。ここでそれらの品を買い求めて、クリスマスの準備に充てる市民も多いのだそうだ。シュウ曰く、屋台で買った飲み物や食べ物を手に、他の屋台を見て回るのが醍醐味なのだとか。
クリスマスのひと月前ほどから行われる催し物。クリスマスマーケットはアドベントカレンダー同様に、その雰囲気を次第に盛り上げてくれるのに一役買うものであるらしい。
「へえ、面白そうだな。クリスマスに特化したマーケットか」
「日本では見られないような工芸品も扱われていたりするので、眺めて回るだけでも愉しめるマーケットだと思いますよ」
本場のマーケットと比べれば小規模ではあるものの、日本でも行われているとのこと。とはいえ、シュウとしては本場のクリスマスマーケットの方が魅力的に映っているらしく、しきりと海外で過ごすクリスマスの良さを伝えてくる。外国語がからっきしなマサキは、言葉の壁がと尻込みしたものの、何とかなりますよ。地上の博士号を有しているが故に語学にも堪能である男は、しれっと云ってのけたものだ。
「あー、わかったよ。行く。行って、本場のクリスマスとやらを堪能してやろうじゃないか。でも、その代わり、お前がちゃんと通訳しろよ。俺、英語だのドイツ語だのフランス語だのは出来ないからな」
勿論。と、自分の意見が通って満足気なシュウが、自信もたっぷりに頷いてみせる。こういう所だよなあ。頼もしく映りもすれば、足元を掬われないかと不安になるシュウの態度に、マサキは半分呆れつつも、知識にない来年のクリスマスが早くも愉しみで仕方がない。
「来年はもう少し早めに休みに入るかな」
「いいと思いますよ。それだけ任務に励んでいるのでしょう」
そこでシュウは今度こそ話にひと段落着いたと思ったようだ。ところで、マサキ――と、その名を呼びながら耳朶を噛んでくる。酔ってるな。ようやく他愛ない話が出来ると思っていたマサキは、拍子抜けすること他ない。
「酔ってますよ。去年のあなたと同じくらいにはね」
「もう、その話はいいって。来年までには忘れろよ。いつまでも覚えられてちゃ堪ったもんじゃねえ」
「どうして? 手放すのが惜しいぐらいに可愛かったというのに」
きっと、昨年のマサキの醜態を思い出したのだろう。そう云っては、眦《まなじり》やらこめかみやら頬らやら耳朶やらに滅多矢鱈と口付けてくるシュウに、次第にマサキは興奮を覚えていくようになった。触れられては身体を震わせ、口付けられては表情を溶かす。そのマサキの態度にシュウは、今度は拒否を受けることもないと確信したようだった。寝室に行きませんか、マサキ。直接的な誘いの言葉をかけられたマサキは、するりとシュウの首周りに腕を回して、その身体にしがみ付いた。
「お前が連れて行けよ」
「私が連れて行くのであれば、行くの?」
「当たり前だろ。じゃなきゃ行かねえ。あと、酔ってるからって途中で寝るなよ。寝たら絶交してやる」
ふふ……と嗤ったシュウが、マサキの身体を抱え上げる。その首筋にマサキはやおら口を付けた。赤い痕がうっすらと浮かび上がる。様々な愉しみを得た今年のクリスマスに、興奮は限りない。ベッドへの道程をシュウに運ばれながら、マサキはどうしようもない幸福の中にいた。
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