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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

2022X'mas「SilentNight.(1)」
では、早速続いてのリクエストを消化しようと思います。
今回は導入部分になります。出来れば最後までお付き合いのほどを。
<SilentNight.>

「今年のクリスマスの予定はどうなってるの、マサキ」
「何だよ、突然」
 クリスマスまで二ヶ月を切ったある日のこと。任務の谷間、遠征から帰ってきたばかりのミオに買い出しの荷物持ちを頼まれたマサキは、帰り道にその礼にと喫茶店で食事を奢ってもらっていた。
 スパイスがふんだんに練り込まれたハンバーグにミートドリア。よくそんなに食べられるね。と、感心しきりなミオを目の前に、更にはサラダとスープ、そしてソーダフロートまで注文したマサキは、テーブルに次々と届けられるそれらのメニューを、黙々と片付けていた。
 その矢先に彼女が突然尋ねてきたクリスマスの予定。誰も彼も同じことを聞きやがる。マサキは他の魔装機の面々との会話を思い返しながら、どうせミオも同じ理由で自分に予定を尋ねているのだろうと、彼女が次に発するだろう言葉を待った。
「今年もクリスマスパーティには参加しないのかなって」
 案の定な彼女の言葉に、マサキは憮然とした表情になる。
 テュッティやプレシアに始まって、ヤンロンにベッキー、シモーヌ……パーティの準備の大半を受け持つテュッティやプレシア、そして買い出し要員であるヤンロンはまだわかる。彼らにとって、マサキたちの参加・不参加は、準備に影響してくる問題であるからだ。
 しかし他の魔装機操者たちは違う。彼らはただ単純に知りたいだけなのだ。恋愛ごとに疎かったマサキが、いつ自らの恋人であるシュウを連れて、毎年恒例のクリスマスパーティに参加してくれるのかを。
 それならわざわざマサキに尋ねずとも、伝言ゲームでいいものを。
 恐らく、マサキはうんざりしていたのだ。既に予定が決まっている今年のクリスマス。同じことを繰り返し尋ねられても、返事が変わる訳でもなし。マサキはハンバーグにかぶりついた。口の中に溢れる肉汁。美味しい筈のその味が、何だかゴムを噛んでいるかのように感じられた。
「する訳ねえだろ。何の為にわざわざ休暇を取ってると思ってるんだ」
 それもこれもシュウとゆっくり過ごすクリスマスシーズンをに、彼らが水を差してくるからだ。
 マサキがクリスマスシーズンに長期の休暇を取っているのは、決して彼らのクリスマスからニューイヤーに渡るまで続く、パーティという名の乱痴気騒ぎにに参加する為ではない。だのにまるでそれを期待しているかのような口ぶり。そのぐらいのこと、察しのいいミオだ。マサキとしては云わずとも察してくれると思っていたものだが――。
「あー、その云い方良くない! 何よ、もう。皆マサキがシュウを連れて来るの待ってるのに」
「今年はもう予定が立ってるんだよ」
 盛大に頬を膨れさせたミオに、マサキは面倒臭えと思いながらも、何度目の説明を口にした。
 ここに至るまでかかった歳月の分、シュウとふたりきりでクリスマスを過ごしたいと思っていること。今年は雪山のロッジに行く予定であること。それが去年のクリスマスシーズンに立てた計画であること。既にロッジの予約は済んでいる状態であること……マサキにクリスマスの予定を尋ねてきた時点でそうだとは思っていたものの、やはりミオは初耳だったようだ。魔装機操者たちの情報伝達能力には難がある。あっちゃいけねえことだろ。と、マサキは思ったものの、独立独歩の気質が強い集団。それも仕方のないことなのかも知れない。
「雪山のロッジでクリスマスってロマンチックだね。どっちの趣味?」
「俺の筈があるかよ。こういうのを云い出すのはシュウだって」
 そっかあ、と呟いたミオは、続けて寂しいなあと口にした。
「今年はリューネもウエンディと一緒に地上に行く予定らしいし、その上マサキもシュウと地上?」
「いや、俺はラングランでの年越しだぜ。何せセニアの野郎が」
「何、ついにセニアを怒らせたの?」
「怒らせたっていうかな――」
 昨年、マサキの休暇を覗き見る為に英国までやって来たリューネは、どうせサフィーネたちと一緒であったのだから、素直に彼女らの乗機に相乗りさせて貰えば良かったものを、よりによってヴァルシオーネRを使って地上に出てしまったらしかった。
 これにラングラン議会が強く反応した。平和とも呼べる状況が続いている今、彼らはマサキたち地上人の扱いに頭を悩ませている様子だ。無理もない。昨年もそうであったが、今年も国際情勢は小康状態を保っている。世界を揺るがすような大戦がそうそう起こりそうにない今、魔装機の存在意義にまで話が及ぶのは避けられないだろう。
 だからこそ昨年のマサキは、セニアの勧めに従ってグランゾンを利用した。とはいえ、その前の年はサイバスターを利用してしまっている。マサキにリューネと、二年連続で同時期に地上人が地上に出ているとなっては、如何に愚鈍と民衆に称される議会であろうと、その関連性を疑ってこない筈がない。かくて議会で相応に詰められたセニアは、どうにか口八丁でその場を収めたものの、こうした状況が続けば、魔装機操者たちを庇い切れなくなると危機感を強めたようだ。
 結果、彼女は「地上に出ること自体は止めないけれども、自機を使うのは止めて頂戴」と、云い含めてきたのみならず、既にクリスマスの予定を立てていたマサキたちに、「地上に出るなら、せめてどちらか片方にして」と泣き付いてきたのだ。
「怒らせるより酷いじゃないの。あのセニアが弱るなってよっぽどよ」
「だから今年はラングランで年越しにしたんだよ。幸い、丁度いい場所も見付かったし」
「ふーん。でもそれだとリューネはどうするの? ウエンディと一緒でしょ。どうやって地上に?」
「そこはウエンディが何とか上手い口実を付けるだろ。何せ練金学士協会《アカデミー》の次期会長候補様だ。神殿だって門戸を開くさ」
 何だかなあ。ミオは呆れた様子で、けれども自分には関係ない話だからか。手付かずになっていた目の前のパスタにフォークを潜り込ませた。
「その内ヤンロンまでもってことになったらどうするの? 今になって春節が恋しくて仕方ないみたいよ。それもこれもマサキたちが気軽に地上に出て行くからでしょ」
「そしたら順番にすればいいんじゃないか。それだったら公平だろ。つっても、俺はもうそんなに出る気はないけどな」
「あら、何で?」
「いや、流石に今年で四回目のシュウとのクリスマスだろ。やりたいことはやり尽くしたっていうか、後はラングランでも出来ることのような気もするしなあ」
 ちゅるちゅるとミオがパスタを啜っている。生野菜と香草がたっぷりと入ったサラダパスタ。彼女はそれを咀嚼すると、それだったらと言葉を継いだ。
「来なよ、パーティ。ラングランにはいるんでしょ」
「今年は無理だ。雪山だぞ。来年以降だったら考えるが」
「来年かあ」
 フォークを掴んでいる手の甲に頬を預けながら、ミオが宙を睨む。その表情がどことなく寂し気に映るのは、今年のクリスマスパーティが、マサキとリューネの二者を欠いたものとなるからなのだろう。
 当たり前のように彼らと過ごしてきたクリスマスシーズンを、シュウの為に使うようになって四年目。マサキがいなくなったクリスマスシーズンを、仲間たちはどう受け止め、どう過ごしてきたのだろう。もしかすると、マサキに対して矢鱈と彼らが今年のクリスマスの予定を尋ねてくるのは、その気持ちの表れであるのかも知れない。
 そもそも多少の期待の気持ちが無ければ、わざわざ尋ねてきたりもしないものだ。
 今年の彼らのニューイヤーパーティは、例年と比べて一週間近くも長かった。それはニューイヤー過ぎまで休暇を取っているマサキでも、パーティに参加が出来てしまったほどだ。それが仲間の気遣いなどとマサキは思わない。けれどもこうは思う。彼らはマサキがパーティに顔を出さないことに、少なからず寂しさを感じてしまっているのだ――と。
 ある時突然に、それまであった存在を欠く。
 マサキからすれば慣れを感じてしまっていた彼らとの付き合いも、彼らにとってはマサキとの絆を確認する行為である。マサキは昨年のリューネとのしこりが残る関係を思い出した。覚悟をしていても寂しさを感じずにいられなかった一年間。きっと彼らは昨年のマサキと同じ気持ちを、クリスマスシーズンになると不在になるマサキに対して抱いているのだ。
 そう、それは目の前で宙を睨んでいるミオも同様に。
 俺の参加・不参加がそんなに大事なことかね。マサキは料理を食べ進めながら、上目遣いにミオの様子を窺った。
「そりゃあね。シュウのことは別としても、もう四年経つもんね。マサキがこの時期のパーティに参加しなくなって」
「お前ら日頃、海だ山だ酒だって煩い割には、クリスマスシーズンは別なのな」
「そりゃあニューイヤー目前だもの。大晦日に向かって気持ちが盛り上がっていくのは日本人も一緒。元々クリスマスを大事な日と捉えている人たちにとっては元より、あたしにとっても大事な時期よ」
 そう云ってのけた彼女は、そうしてまた黙り込んだ。
 様々に思いを巡らせている表情。シュウが入り込んだことで、変わりゆく自分たちとマサキとの関係。彼女はそれを前向きに捉えてくれていたけれども、だからといって何も思わずにはいられないようだ。
 けれども彼女ももういい年齢だ。ラ・ギアスに召喚されたばかりの少女でもない。
 少しの間考え込んでいた彼女は、自らの気持ちに整理を付けたようだ。ま、いいのかもね。ひとり、納得がいった様子を見せると、にっこりと。柔らかくマサキに微笑みかけてきた。
「きっと来年はリューネもいるだろうしね。いっそサフィーネたちも連れて来ちゃえばいいじゃない。ね、マサキ。来年は皆で盛大にパーティと行こうよ」


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