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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

2022X'mas「White Christmas.(6)」
長くなりましたが、来年のクリスマスの約束を二人が交わしたところで、前置きも終了。
ようやく次回からハイド・パークでのクリスマス本番です。

明日、明後日は仕事、明々後日は通院の為、思うように更新作業が出来ません。
もしかすると二日に一度の更新ペースになるかも知れませんがご了承ください。

感想をお待ちしております。
些細なものでも結構ですので、良ければお寄せ下さいませ!

では、本文へどうぞ!
<White Christmas.>

 はあはあと荒い息が口を衝いて出る。足を下ろされたマサキは、今度こそ抗い切れない倦怠感に支配された身体を、シュウの身体へと凭れ込ませた。シュウも更にマサキに行為を求める気はないようだ。恐らくマサキが達した表情を二度見たことで満足したのだろう。宙を仰いで荒ぶった息を整えている。
 マサキは頭を忙しなく上下させているシュウの胸に預けた。そうして暫くの間、シュウの男性器《ペニス》を身体の中に感じながら、上がった息を落ち着かせる。ねえ、マサキ。やがてゆるりとマサキの菊座《アナル》から自らの男性器《ペニス》を引き抜いたシュウが、まだまだ動く気も起きずにいるマサキの肩越しに窓の外へと視線を遣りながら、ピロートークとばかりにマサキに意向を尋ねる言葉を吐いた。
「来年は雪を見に行きませんか」
「雪を見る?」
 不思議なことを口にすると思いながらも、倦怠感は限りない。きっと気を張る機会の多い一年間だったからだろう。リューネのこと、彼女同様の態度を取る他の魔装機操者たちのこと、そうした状況に口を挟んでくる魔装機操者たちのこと……再び巡ってきたクリスマスシーズン。時はうつろうとも状況は変わらない。けれども地上世界というラ・ギアスと隔たった世界にシュウとふたりきりでいると、これまでの日常生活での悩みが些細なことに思えてくるのだから不思議なものだ。
 マンダリン・オリエンタル・ハイドパーク・ロンドン。ヴィクトリア調の外観に、ハイエンドな内観を持つ、英国きっての高級ホテル。クリスマスシーズンに訪れたとびきりの非日常は、だからこそ日頃の人間関係の柵《しがらみ》からマサキを解放してくれた。この狭くも限りない世界、英国《イギリス》。そこでマサキを知るのはシュウだけだ。ようやく一息つける場所に身体を収めたマサキは、いつしか気力を削ぐまでになっていた緊張感からも解放されたようだ。
 重く激しい倦怠感に襲われながらも、軽い心。マサキは顔を傾けた。規則正しいシュウの胸の鼓動を聞きながら、彼の言葉の続きを待つ。
「ラングランは気候が温暖ですからね。四季が明瞭《はっき》りとしている日本と比べて、季節の移り変わりも曖昧でしょう。滅多に雪を見る機会にも恵まれない世界で生きてきたからこそ、私にとって雪は物珍しいものであるのですよ」
「そういうもんかな。俺は雪の日の面倒臭さを知ってるからか、雪に特別な思い入れもないんだ。降った。ああ、学校行くの面倒臭え。って、感じでさ」
「それは降雪が日常だからこその贅沢な悩みですね」
 ふふと可笑しそうに笑ったシュウが、窓からマサキへと視線を移してくる。
 やんわりと髪を撫でる手。骨ばった指が時折マサキの髪を抓む。彼はそうして少しの間、マサキの髪を弄んでいたかと思うと、自分ばかりが要求を口にすることに後ろめたさを感じでもしたのだろうか。やおらマサキの顔を自分へと向けさせると、
「あなたはクリスマス休暇に行きたい所はないのですか、マサキ」
 クリスマスシーズンといえば、行くべき所は決まっているようなものだ。マサキは地上にいた頃のテレビを思い返してみた。クリスマス特集を謳う番組が流すスポットはどれも一緒。イルミネーションの綺麗な街角、料理の美味しいレストラン、遊園地といったテーマパーク……まるでそれ以外のスポットはクリスマスにはそぐわないとでも云いたげに、彼らが与えてくる情報から、日常生活を支える場所は消去《デリート》されてしまっていた。
 クリスマスマーケット、アイスリンク、遊園地。ハイド・パークで過ごす今年のクリスマスで、そういった与えられたクリスマスのイメージは全てコンプリートしてしまう。マサキは考えた。雪を見たいとシュウが云うのであれば、自分は何を次のクリスマスシーズンに求めるのだろう。
「ゆっくり温泉に浸かりたいな」
「温泉、ですか」
 自らも相当にささやかな望みを口にしたものだったろうに、シュウはマサキの願いに虚を突かれた様子だった。疲れているの? 問われたマサキはまあなと答えて、でも――と言葉を続けた。
「外国もそうだけどさ、ラングランもシャワー文化だろ。バスに浸かるって文化は日本特有だって聞いてはいたけどさ、まさか地底世界もそんなだとは思わなくてさ。最初の頃は、これでバスタイムを終わりにしていいのかって、落ち着かなさを感じたもんだよ。やっぱり熱い湯にゆっくりと浸かる気持ち良さは、シャワーを頭から浴びる程度じゃ味わえないからさ」
「成程。そう云われると、確かに大衆文化には入浴の習慣はないですね。王族や貴族にしても、かつてはあまり入浴の習慣がなかったからこそ、香水文化が発展したと聞いていますし」
「体臭の問題はラ・ギアスも一緒なのかね。まあ、肉を良く食う人間は体臭がきつくなるとは良く云ったもんだけど」
 マサキはのそりと身体を動かした。そしてシュウの肌の匂いを嗅いだ。鼻腔を擽《くすぐ》る甘ったるい麝香《ムスク》の香り。けれどもいやらしさを感じないのは、その独特な香りがふわりと匂う程度に留まっているからだ。
「お前、香水を付けてる割には、そんなに強い匂いじゃないよな。サフィーネなんかは凄えきつい香りをさせてるけどさ」
「首周りや耳の後ろに付けるとああなるのですよ。それだと鼻に近い場所から匂ってくることになるでしょう。だから香水慣れしていない人間などにとっては、きつい匂いに感じられるようになるのです。彼女には常々改めるように云ってはいるのですがね。長くああいった匂いに晒されていたからか、鼻が慣れてしまったのでしょう。まだ匂いが抜けきらない内から化粧直しと称しては香水を振りかけるものですから」
「へえ。首回りとか耳の後ろじゃなきゃどこに付けるんだ?」
「手首ですよ。手首にほんの少量。大抵の香水はそれで用を足すように出来ています」
 その割には――。マサキはシュウの肌の匂いを再び嗅いだ。鎖骨近く。胸の辺りを嗅いでいるマサキに、シュウはその意味するところに気付いたようだった。私はバスに少量垂らして入浴しますからね。よくよく話を聞いてみれば、それが王室での習慣であったようだ。だからか。頷いたマサキは、シュウの肌に口付けを残して立ち上がった。
 汗の乾いた肌が寒気を感じ始めている。
 床に溜まった衣服を拾い上げて着替えを始めたマサキに、シュウはそれを契機《きっかけ》と捉えたようだ。私はシャワーを浴びますよと、洗面所に併設されているシャワールームへと向かってゆく。ちらとマサキが覗いてみれば、ガラス張りのせせこましいシャワールームがあるばかり。
 それもこれも入浴の習慣がない国であるからなのだろう。熱い湯を身体が欲しているマサキとしては、気落ちせざるを得ない設備であったけれども、これだけの高級感に溢れた部屋である。あれもこれもと望むこと自体が間違いであるのかも知れない。
「高いホテルの割には、風呂には金をかけてないのな」
 マサキは床に落ちたままのシュウの服を拾い上げて、洗面所の脱衣籠に収めてやった。コックを捻る音に続いてシャワーが流れ出る。そうですね、と頷いたシュウが、シャワーに頭を突っ込んでいるのが見えたものの、ガラス張りのシャワールームはあっという間に蒸気で曇っては、その姿を覆い隠してしまった。
「あなたがバスにそれだけの拘りを持つ人だとは知りませんでした。この穴埋めも兼ねて、来年のクリスマスは雪が見れる場所で温泉といきましょう。雪うさぎは作れますか、マサキ?」
「雪うさぎぐらい幾らでも作れるぜ。何だったら雪だるまやかまくらも作るけどな」
 それを聞いたシュウは少しばかり声を弾ませて、それはよかった。と口にした。雪を見たがったり、雪うさぎを欲したりと、随分子どもじみた振る舞いをするものだとマサキは思いもしたが、日本人の血を引いているとはいえラ・ギアスで生まれ育った男。
 きっと自らの出自《ルーツ》をそうしたシチュエーションやアイテムに求めているのだろう。
 そう自らを納得させると、今は特にすべきこともない場所。マサキは先にリビングに戻っている旨を告げて、洗面所を後にすると、言葉のわからないテレビでもないよりはマシだと、壁に設置されている巨大ビジョンのテレビのスイッチを入れた。


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